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テレパシー

目を覚ますと真っ先に頭に小さな痛みが走り、ふと白い天井を認識した時、薬品を思わせる臭いが鼻をつくが、体を動かす前にユリの顔が脳裏に飛び込んだ。

あ、ユリは・・・。

あれ、ここは。

ベッドに寝かされていた体を起こすと胸にも痛みが走ったが、そんな小さな痛みよりもそこが病室だということに意識が向いた。

枯れ木に囲まれて・・・いきなり吹き飛ばされて・・・。

その四角い病室の左隅には、1人分のデスクと椅子があり、正面の右隅には小さな窓があった。

ルケイル・・・。

見渡そうとした時にすぐに視界の左側にもう1つベッドが見えると、そのベッドにはルケイルが横たわっていた。

「ルケイル」

しかしルケイルは目を開けることはなく、その眠っているかのような様は抑えようのない不安を募らせた。

そんな時、何やら血液の入ったパックがぶら下がった、その一瞬で点滴を思わせる支柱を引きずりながら、1人のナースが病室に入ってきた。

「あの」

目が合うと、すぐにそのナースは人を安心させるような穏やかな笑みを見せる。

「大丈夫ですよ、ここは病院です」

・・・まぁ助かったのか。

ナースがルケイルの傍に立った時に、明らかに女医を思わせる30代後半くらいの女性が入ってくると、こちらに顔を向けた女医はすぐに安心したようなため息をついた。

「やぁ精霊くん。気分は?」

「・・・悪くないよ」

ユリ、どこだろ・・・。

セミロングの暗い赤髪を七三で分け、出されたおでこが清潔感と明るさを印象付ける女医は、デスク前の椅子を持って来て、ルケイルに点滴を施しているナースとの間に座った。

「そっちの人は出血が酷かったけど、今その人の血を培養したものを入れてるから、もう大丈夫」

輸血じゃなく、その人の血を培養か・・・。

頷いて応えた後に女医がルケイルに顔を向けたが、その直後になんと女医はナースのお尻を撫でた。

「やだっもう・・・先生ったら」

小さく叩く音と共にナースが女医の手を振り払うが、女医はまるでからかうように、ワイシャツにタイトスカート、その上の白衣という姿には似合わない女っ気のない笑い声を上げた。

えー・・・。

そっちの人?・・・。

ナースが去っていったが、女医は何故か立ち上がらず、リラックスするように足を組んだ。

「誰にやられた?」

え?

その表情は妙に真剣さを帯びていて、どこか女医らしからぬ正義感さえ伺えた。

言っていいのかな?

「精霊を殺すのは第1級罪だ。けど君はあたしが居なけりゃ死んでた。こりゃ、結構な事件だ」

「通報するの?」

ユリ、捕まっちゃうのかな。

「いや、そんな軍が扱うようなものよりももっと奥深い問題だ。だから直接あたしが調べる」

・・・へ?

どういうこと?

化粧はしていないように見えるが、シワもくすみも見えない、少し大きな口としっかりとした眉毛が特徴的なその女医は、そんな戸惑いを慣れたように理解し、そしてそれを楽しむように笑ってみせた。

「あたしは医者だが。副業もやってんだよ」

副業・・・。

「探偵?」

「まぁ遠からずだな。あたしはロイヤルガーディアンズだ」

「・・・・・・ぬぇっ」

すると女医は再び反応を楽しむように笑い声を上げる。

「あたしはキズナ。まぁ傷を治すキズナと覚えてくれりゃいい」

ロイヤルガーディアンズって、副業扱いなものなの?

「そっか。僕、バクト。そっちはルケイルだよ」

「ん。で?誰にやられた」

「多分、ロイヤルガーディアンズのビリーヴ」

するとキズナはまるでその事を予想していたかのように重々しく表情をしかめ、ため息を吐いた。

「ビリーヴに狙われた原因は?」

「ゲンコウって侍に仲間が加勢して、僕も少し、戦った」

「何でテンホウに、住んでたの?」

「仲間の侍についてきたんだ。僕は低次元から転生してきて、行くとこ無かったし」

小さく片眉をしぼめた素振りに少し緊張を感じたが、キズナは遠くに目線を流していきながら髪をゆっくりと掻き上げた。

「仲間の侍って、転生した後の?」

「ううん。元々、1人だけの魂片を取り出すつもりだったみたいだけど、ライフが失敗して、低次元で会った人達も出てきたんだ」

「えっと・・・ライフは何故君に接触したの?」

「僕は低次元の世界樹の巫女と一緒に根界に来て、ライフは世界龍の指示で低次元の巫女を迎えに・・・」

あ、ライフと関わってること、言っちゃだめだったんだ・・・。

「・・・ライフか。で?」

「ライフに、ライフと関わってること、言わないように言われてた」

でも、もう・・・。

「いやもう言ってんじゃん」

だよね・・・もういいか。

「でも巫女の魂片が、誰かに持ち去られて、追いかけてる途中で、ユートピアの軍人と戦っちゃった仲間に加勢して、それから僕はライフに迷惑かけないように、関わってない」

「で、行くとこ無くて、ここに来たと」

「うん」

小さく頷いたキズナは再び髪を掻き上げたが、表情は先程の緊張感のあるものとは違う、すっきりとしたようなものだった。

「オーケー、よく分かったよ。じゃあとりあえず、これから君は今まで通りここで暮らすのね」

「ううん、仲間が、ビリーヴの仲間にさらわれて、追いかけなきゃ」

「ビリーヴにさらわれたの?」

「多分、ビリーヴと一緒に居た、女の人。でもビリーヴと同じジャケットだったから」

「その人、水着の上にジャケット着た巨乳の女?」

水着・・・。

「そうそう」

するとすぐにキズナは頷き、その表情から明らかな心当たりを伺わせた。

「知ってるの?」

「そいつも、ロイヤルガーディアンズだ。名前はドリーム。てことは、君の仲間は、ドリームに動かされてるね」

え。

「ドリームのカムイは人に幻覚を見せるもの。そしてそのランクはユートピアで1番」

「操られてるの?」

「間違ってないけど、そんな単純じゃないよ。記憶の中でも幻覚を起こせるから、当の本人はまったくの正気なんだ」

でも、操られてるんだ・・・。

良かった、原因が分かって。

「多分、ビリーヴは君を殺した後、ドリームのカムイで君の仲間を犯人にするつもりだろうね。ロイヤルガーディアンズでも、精霊を殺したら罪に問われるから」

「幻覚を解くには、どうすれば良いの?」

「そりゃあドリームしか分からないよ。でもまぁ幻覚って言っても脳に問題が起きてるだけだから、手っ取り早いのは気絶かな。気を失ってりゃ幻覚を見ることもないし」

ユリを、気絶させるのか・・・。

ちょっと可哀想だけど、仕方ないか。



鋼が擦り当てられていく音に支配された工房に突如壁を叩くような異音が2回響き、思わず振り返ってしまうと、店先への出口に立っていたアイが何食わぬ顔で手を挙げた。

「やあ」

まったく驚かせおって。

「ちょっと、もっといいリアクションしてよ」

リ、リア?・・・。

「異国の言葉は分からない」

「えぇーーーっ」

目と口を大きく開けてそんな声を上げると、アイは再び何食わぬ顔でこちらを見つめてくる。

まったく騒がしい女だ。

「それで、バクト殿達は」

「居なかったよ」

「そうか」

「2日前から戻ってないって」

・・・何?

「どういうことだ」

「いやアイに分かる訳ないじゃん」

戻ってない?

何かあったのか?

気になってしまうと、集中に差し障りがあるな。

「済まないが、居場所を調べては貰えぬか」

しかしアイは不機嫌そうに小さく口を尖らせる。

「ぶー」

・・・ぶー、か。

黒桜も、よく口を尖らせていた。

ふと沈黙が訪れると、すぐにアイは力を抜くように肩を落とした。

「・・・はぁ、もう分かったよ。でも明日までだからね」

これが終われば先ずはバクト殿達を捜すか。

「かたじけない」



通信端末を耳から放す時点でその表情から苛立ちが伺えるが、何も言わずにユーフォリアは再び通信端末を耳に当てていく。

「ライフ、どうしようミライが電話出ないよ・・・うん」

やっぱり、ビリーヴって人の何らかの罠に嵌まったのか。

すると直後、通信端末からの声でなのか、ユーフォリアは深刻さに凍りついたように顔色を強張らせる。

「何それ、それじゃあミライ、やられたの?・・・うん分かった。ふぅ、ジアン、すぐにハランガの潜伏場所に。ライフが来るの」

「方角と距離は」

「えっと・・・あっちに23キロ」

「六天繋角」

えっ・・・あっちで分かるの?

ホテルの部屋のベッドの上に現れた6角形をくぐり抜けると、すぐに目の前の空間に歪みが出来るが、その歪みと姿を現したハランガは、以前の緊迫感と焦りを募らせるものではなく、むしろ若干の安心感さえ感じさせた。

「ユーフォリア様、どうかしましたか」

「ここにライフが来るから」

若い男のハランガが頷いたのもつかの間、すぐに光の球が近くに降り立ち、ライフが姿を現す。

「速っ」

「ユーフォリア、キエーディアが動いた」

キエ?

「え・・・ミライは」

「私の部下を向かわせている」

何となく目を向けるようにジアンを見たユーフォリアに、ふとジアンの言葉を思い出す。

「ライフは、ミライの敵がビリーヴだけじゃないって分かってた?」

「あぁ、それで私の方で少し調べてたが、ビリーヴはキエーディアと繋がっている。そして、ビリーヴがミライを襲撃し、ミライがビリーヴを疑った時を見越して、キエーディアを動かしたということだろう」

「キエーディアって?」

「第11アーク先のアンノウンに存在する、ユートピアの戦争相手だ」

戦争相手?・・・その組織とユートピアの軍人が繋がってた、か。

「間もなく、ミライがビリーヴに対して、いや、ユートピアがビリーヴに対して動く暇も無くなるほどの、大規模な戦争が起こる」

大規模な戦争、か。

「それで巫女の魂片は」

そう聞くとユーフォリアも今それを思い出したような表情をライフに向ける。

「ビリーヴが持ち歩いているとは考えられない。そこで、ユーフォリアはネシンに向かってくれ。私が今持っている巫女の魂片を消滅させる」

えっ。

「そうすれば、ビリーヴが創造神に対して何らかの動きを見せるはずだ」

「ライフ」

ジアンの声にライフが顔を向けたその一瞬、まるで全てを理解し合ったかのような、妙な沈黙が流れた。

「分かってる。その前に、先ずは人手を集めなければ」

テレパシー?

まさか・・・。

「ユーフォリア、アイはテンホウに向かわせたんだよな?」

「うん」

「なら、後は、もう2人の方か」

もう2人?あの街でユートピアと戦ってた内の、か。

「全員、集めるの?」

「そうなるな。きっとこの時の為の、戦力なのだろう」

ということは、私もジアンもか。

「ネシンて?」

「1番太い根の末端にある場所、根界の芯で根芯。そこに、創造神が居る」

創造神・・・神、か。

「私達全員も、そこに?」

「あぁ。創造神と、巫女の魂片を守る為に」



「ほー、また大層な穴だな」

期待するように緩ませた表情ではあるが、整えられていないその岩穴に、どこかおののくような足取りで進むガルガンの後につく。

真っ暗だ、先も見えない。

確かにガルガンが怖じ気付くのも分かる。

数メートル進んだ辺りで明かりが見えるようになると、岩に埋め込まれたような明かりが照らす、狭くはない岩道の中で、突如綺麗に整えられた岩階段が見えてきた。

入口が真っ暗なのは、少なからず浸入を防止する為か。

「おお、いきなり綺麗になったな」

「洞窟くらいサジタルが集まればなんてことない」

人間ではない姿なら、確かに力も人間以上だろう。

「ん、なら、道を作るときも変身すりゃ良いのに」

「・・・いや、アンザーさんは、本当にいざって時しか許してくれない」

バズールがそう応えた時に階段が終わると、そこはやはり岩肌しかない、幅の広い一本道だったが、奥には何やら大きな箱のようなものが見えた。

「あれは?」

「エレベーターだ」

あれは、どういうものなんだ。

あれに、乗るのか?

網状に作られた腰ほどの高さの塀を開け、同じく網状の、前面に人が1人通る為の穴がある箱に入るバズールに続くと、バズールは穴の脇にあるスイッチを押した。

するとエレベーターとやらは重低の機械音を鳴らしながら、真っ直ぐに下へと降りていった。

なるほど、運搬用のものか。

しばらくエレベーターが通る為だけの空間を降りていると、突如流れていく岩壁は途切れ、目の前には日の光に照らされているかのように明るい、果ての見えない広大な空間が広がった。

「おえぇっ」

ガルガンの驚きも理解出来るほどに言葉を失っている自分に気が付きながら、岩壁ではない赤い家が、森に立つ木々のように建ち並ぶ景色をただ眺めていく。

前書きにあらすじを書かない代わりに、バクトに喋って貰いました。笑

ありがとうございました。

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