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守護者の矛先5 静寂なる恐怖

こんな世界だし、きっと何か魔法とかにかけられちゃったのかな。

でも、どうなってるかすら分からないし、どうしたら良いのかな。

とりあえずルケイルに言わないと。

ユリに背を向け歩き出したが、風が吹くように押し寄せてくる寂しさに後ろ髪を引かれ、思わず振り返る。



しかし特に何かをする訳でもなく、そのまま山道を下りていったその背中を見ていたとき、何故か心の底から込み上げてくる悲しさは胸をきつく締め付けた。

「うぅっ」

どうして?

何故か溢れ出る涙を拭いながら、力が抜けるようにそのまま座り込む。

涙が止まらない。

どうして?

「うっ・・・うぅ」

どうしてこんなに悲しいんだろ。

・・・道場に帰りたいよ。

「ユリ」

静かに呼びかけられたその声に後ろを振り返ると、そこには残念そうにこちらを見下ろすドリームがいた。

・・・あ。

「あなたって、ほんとに純粋なのね」

「・・・やっぱり、ただ傷付けるなんて」

「まぁいいわ。じゃあ、行こっか」

え?・・・。

「私、帰るよ」

そう応えると、ドリームは再び少しだけ口角を上げ、目を見開き、黙って目を見つめてくる。

「どこに?」

えっと・・・。

「道場」

「あなたはあたしの部下でしょ?」

・・・え?

「でも、バクトとルケイルが」

「道場に居る2人だって、あなたを見送ったわよね?」

ふと道場の入口で手を挙げる2人を思い出すと、同時に2人に手を振りながらドリームの下へと向かう情景が脳裏に浮かび上がった。

「そっか」



「ルケイル」

道場の部屋に戻り、壁に寄りかかって座っていたルケイルと顔を合わせると、すぐにこちらの顔色に何かを勘づいたのか、その表情を少しだけ引き締めてみせる。

「ん、どうした」

「ユリがおかしくなった」

「どういう、ことだ?」

「僕の事が分からなくなって、僕の言葉も通じなくなってた」

するとルケイルは案の定言葉に詰まり、頭の中で必死に思い巡らせるような深刻さで表情を固める。

「近付いたら撃ってきて、とりあえず戻って来たんだけど」

「・・・私が様子を見に行こう」

「僕も行くよ」

なるべく物陰に隠れながら気配を追って街を行く中、ふと山道で向かい合った時の、寂しげな表情のユリを思い出す。

そんなユリの寂しさが同時に笑顔を思い出させたとき、ふと長屋のようなデパートの平たい屋上に目が留まる。

「・・・あの上から見てみよう」

「あぁ」

這いつくばり、屋上の縁から街を見下ろしながら、デパートから左手にある交差点を渡ってくる、ユリと知らない女性を見ていく。

ライフとかビリーヴとかと同じ、金の装飾が付いた黒い軍服ジャケット・・・まさか。

「行くぞ」

「いやちょっと待って、あの人ガーディアンズだよ」

「・・・下手に手を出しても、返り討ちに遭うってことか。ではどうする」

ガーディアンズに捕まったっていう感じの歩き方じゃないな。

「ユリの気配は分かるし、ちょっと様子見ようよ」

ガーディアンズが絡んでるなら、翼の解放くらいした方がいいかな。

花屋の角を曲がって2人が見えなくなった時に翼を解放し、道路を飛び越えて再び建物の屋上に飛び移りながら、2人の動きを見ていく。

しばらくして2人が何やら波打った鉄板の囲いをずらし、骨組みだけの建物がある工事現場に入ると、まるでその場で何かを待つように動きを止めた。

んー、明らかに待ち合わせだな。

全体的に錆びたような倉庫に乗って眺めていると、間もなくして2人の目の前に、突如としてどこからか光の球が降り立った。

うわ、まさか、ロイヤルガーディアンズ?

・・・え。

すると一瞬のうちに消え去ったその光の跡には、ビリーヴが立っていた。

「精霊は排除したか」

「・・・それはまだよ。でも」

「何してるんだっ」

怒鳴るような感じでもないただ強めの口調にも拘わらず、その女性はまるで落雷に怯える子供のように肩をびくつかせ、そしてすぐにすがるようにビリーヴに歩み寄った。

「ごめんなさい許して?必ずやり遂げるから」

「お前の力があれば難しくとも何ともないだろうが」

そう言うとビリーヴは腰が引けているにも拘らず、その女性の頬に勢いよく平手打ちした。

え、何だよあれ。

「ごめんなさい、ごめんなさい・・・」

膝を落とし、涙声で謝るそんな態度にも、ビリーヴはただ静寂なる恐怖をぶつけるように女性を見下ろす。

精霊の排除って、まさか僕のことかな。

「ゲンコウの抹殺もあるんだ、アンノウンごときに手間取ってる暇はない」

「うん」

そんな時にビリーヴが携帯電話を取り出し、誰かと話し始める。

「・・・分かった。俺はハランガの件で出向くが、お前・・・」

ふと屋根の縁に手を乗せたとき、まるで小さく悲鳴を上げるように錆びた屋根が軋んだ。

あ・・・目、合っちゃった。

しかしビリーヴはすぐに女性に目線を落とし、こちらまで焦ってしまうほどに尖らせた気迫を女性に落とした。

「おいっ」

どうしよう、女の人、助けた方がいいかな。

「え?」

女性が顔を上げたその瞬間、ビリーヴは女性の喉とジャケットの襟を掴み、そのまま女性を持ち上げるように立たせ、そして喉を掴んだまま女性の体を勢いよく振り向かせた。

「尾行されてるぞ」

あちゃ、出るか。

「ビリーヴさんっ」

ユリが女性の喉を掴むビリーヴの手を掴むと、ビリーヴの気迫は瞬時にユリへと向けられる。

「乱暴はだめだよ」

ビリーヴが女性からゆっくりと手を離すその一瞬に緊張感が尖った直後、素早く振り出されたビリーヴの手は音を鳴らしユリの頬を揺らした。

あっ。

思わず工事現場に降り立つが、その間にもユリは腹を蹴られ、女性は再び頬を叩かれる。

「ごめんなさいっ」

「どこまで間抜けなんだお前はっ」



何でこんなに乱暴なの?この人。

「ユリっ」

あ、バクトとルケイル、言い忘れたことでもあるのかな。

「どうしたの?」

そう問いかけると同時にビリーヴが前に出るが、その背中からでも発するこちらまで視野が狭くなるほどの静寂なる恐怖に、声をかけることすら躊躇してしまう。

「丁度良い、俺が直接抹殺する」

「それって、僕達がユートピアと戦うから?」

「当然だ、邪魔者は排除する」

どうしよう、軍隊に入ったからには、ビリーヴさんの方につかなきゃいけないんだろうけど。

バクトとルケイルとは戦えない。

どうしよう・・・。

ルケイルがまるで燃え盛る炎がそのまま固まったような形の、暗い金色をしたいびつな剣を作ると、同時にバクトが白黒の鎧で全身を固め、威圧的な気迫を纏う。

そんな2人に怖じ気付くこともせず走り出したビリーヴは、瞬時に長い柄の片方に葉っぱのような形をした刃が付いた槍を出現させ、バクトに斬りかかった。

バクトが掌から生やした黒い氷で受け止めた直後、ルケイルがいびつな金剣を振り上げてビリーヴの槍を弾き上げ、そしてその直後にバクトが掌から噴き出した白い炎でビリーヴを吹き飛ばす。

しかしそのままビリーヴに追い討ちをかけることをしない2人から目を逸らせずにいると、突如2人は何故か何もない自分達の周囲に敵意を逸らしていった。

な、何してるの?



いきなり地面から何十もの木が生えてきた・・・。

しかも足にも根っこが絡まって、動けない。

「ルケイルどうしよう」

うわ、手にも絡まってきた。

「縛られてしまっては、どうしようもない」

んー、ビリーヴも見えないし・・・。



2人共、何もないのに、何で動かないのかな。

「反応が遅かった」

そう言うとビリーヴはドリームが言葉を返す前にドリームの頬を強く叩く。

「ごめんなさい」

「ビリーヴさん、乱暴はだめだよ」

歩み寄ろうとしたものの、素早くこちらに顔を向けてきたビリーヴの、睨みつけてもいないその表情に何故か自然と足がすくむ。

「ドリーム、まずはこいつを処分する。眠らせろ」

処分?え?・・・。

「あ、あのねビリーヴ」

するとビリーヴはドリームの言葉を遮るように、素早くドリームの喉を掴んだ。

「従わないのか?」

「違う違うっ絶対にそんなことないわ。でも、あたし考えた事があって」

怯えながらも、まるで甘えるような眼差しで見つめるドリームに、ビリーヴはただ静寂なる気迫を威圧という態度で返していく。

「言ってみろ」

「スナイパーとして、使えるかなって」

「間抜けでノロマで、詰めが甘いお前に出来るのか?ライフの使いの抹殺も出来なかっただろ」

「大丈夫よ。だってもうすぐ、達成出来るんでしょ?それまでなら、やれるわ」

「・・・分かった。やるなら失敗するなよ?」

「うん」

ようやくドリームの喉から手を放したビリーヴはすぐにバクト達に体を向け、その場で槍を振りかぶる。

そして勢いよく槍を水平に振り出すと、同時に空を切った跡から発せられた爆発音を響かせる衝撃波は、2人共々鉄の囲いや背後の倉庫のような建物まで激しく呑み込んでいった。

あっ。

「バクトっルケイルっ」

「ユリ」

心の奥底まで響くような声に反射的に振り向くと、すぐ目の前にはいつの間にかドリームが立っていたが、ふとドリームの少し赤い頬に目が留まった。

「大丈夫?ほっぺ」

「え」

「冷やさないと」

その一瞬、ドリームの見開いた目が穏やかさで緩み、その微笑みから微かに寂しさが伺えた。

「大丈夫よ。それより、あなたはこれからあたしと任務に行くの」

「でも2人が」

「2人って?」

え。

2人の方に顔を向けると、まだ粉塵の収まりきっていない瓦礫の山の片隅で、血まみれになってもたれかかっているのは、見知らぬ男性達だった。

「バクト達は?」

「もう帰ったでしょ?」

帰った?・・・そっか。



7本の刀を成した鋼を改めて眺めながら、白火や黒桜の姿を思い出していると、そんな静寂を破るように梶山の娘が工房に入ってくる。

「理一さんに客だって」

私に客?バクト殿か?

しかし応える前にすでにその見知らぬ女は梶山の娘を通り過ぎ、工房に入って来ていた。

・・・誰だ?

「あーいたいた。あなたが例のお仲間かぁ」

桜色の薄い洋服の上に、ライフが着ていたものと同じ黒い洋服を着るその若い女は、そう言って神妙さを秘めたような穏やかな顔を見せる。

「お主は?」

「アイだよ。ロイヤルガーディアンズの」

・・・ライフという男と、同じなのだろうが。

「私に何か用なのか?」

「うん。アイ、ライフに頼まれてあなたを迎えに来たんだよ。あなた、巫女の魂片を探すハクラの知り合いのバクトの知り合いでしょ?」

ハクラ?私と共に、バクト殿から出てきた内の1人だろう。

「そうだが?」

「ハクラ達が少しピンチだから、ちょっとサポートして欲しいの。あなたならまだ顔が知られてないし」

サポート?ピンチ?異国の言葉は分からぬが・・・。

「何にしろ、私はまだここを離れる訳にはいかぬ」

「えー・・・それ、いつ終わるの?」

「よぉ理一、調子はどうだ」

そんな時に梶山が工房に入ってくると、すぐにアイという若い女と顔を合わせた梶山はアイの身形に顔をしかめた。

「ロイヤルガーディアンズなのか?」

「うん、ちょっとその人の仲間のことで」

「何だと?理一、国に追われるような仲間がいるのか?」

「違うよ。その人の力を借りたいの」

「だが、ハクラという者とは話したこともない。いくらバクト殿の知り合いでも、まだここを離れることは出来ない。これから、いよいよ魂降ろしの大詰めだ」

刀を成した鋼を1本持ち、椅子に座り、砥台に乗せた砥石を踏まえ木で押さえた時、顔を覗き込むようにアイが視界に入ってくる。

「だからいつ終わんのよ」

「斬れる鋼となればすぐに済む」

「だから、いつなの?」

まったく、せっかちな女だ。

「2日もあれば終わるだろう」

それでもアイは唸り声を上げるが、構わずに鋼を砥石に当てていく。

窓から滲み出てくるような日の光を視界の隅で感じながら、無心で鋼の擦れる音に身を委ねていた時、工房の奥の居間から聞こえてくる声にふと我に返る。

「理一さん、朝ごはんだよ」

「ありがとう」

ふぅ・・・。

もう朝飯か。

お盆を運んできた梶山の娘に顔を向けたとき、すぐに店先から工房を覗きながらこちらに向けて手を振るアイが見えた。

「やっほ」

何故居るのだ。

「今日来たところで、何もないが」

「だって暇じゃん」

そう言われてもな。

「暇なら、バクト殿の様子を見に行ってくれないか、しばらく会っていない」

握り飯にかぶりつくと、アイは困ったように眉をすくめ、不機嫌そうに小さく口を尖らせる。

「んー・・・まぁいっか。どこに居るの?」

「道場という所のはずだ」

「しょうがないなぁ」

迫力の無い迫力、そこら辺がビリーヴの目指してるところですかね。

ありがとうございました。

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