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守護者の矛先4 夢にとらわれて

「え?何で?」

「方角と距離が分かれば、ワープ出来る」

「ほんとに?すごいね。ちょっと待って」

通信端末を取り出したユーフォリアを見つめながらも、それでも嬉しそうな表情ひとつ浮かべないジアンを見ていた時、ふとバクトの姿が脳裏を過る。

これからは、すぐに会えるようになるのかな。

ん、ロイヤルガーディアンズでも、ワープ出来る人が居ないのか。

それともあの光の球が代わりかな。

するとユーフォリアは通信端末を見ながらおもむろに指を差し始めた。

「えっと、こっちが北で、こっから西に12度で、距離は37キロ」

「そうか」

そう応えるとジアンは掌を前にかざし、体の所々から光を洩らした。

「六天繋角」

その直後、ジアンの目の前に明らかに周りとは違う景色を映す、銅製の柱で繋がれた正六角形の輪が現れる。

「へー、アンノウンの中にはこんな力があるのかぁ」

ジアンに続いて直径1メートル半ほどのその六角形をくぐると、そこはすでにハランガの潜伏場所のすぐ手前だった。

「アンノウン?」

「ユートピアが知らない土地だったり、その土地の人や技術をそう呼ぶの」

「そうか」

こっちにとってはユートピアがアンノウンだけど。

「じゃあまず、ハクラさんだけ入って、ハランガが出てきたら誘き寄せるように敷地を出るの」

え?・・・そんなことしたって。

「その後は?」

「私の力で、口説くの」

口説くって、まさか本当に色仕掛けでも?

確かに若くて可憐な顔立ちだけど・・・。

ふぅ、まぁやってみるか。

「エンド・オブ・ザ・ギャラクシー」

空気、風、景色、音、すべてに意識を集中しながら、やがて十字路の中央に差し掛かった時、まるで警備員が駆けつけるかのように、建物との間に空間の歪みが現れる。

少しは闘志を見せないと、逃げるだけじゃ怪しまれる。

「空殻」

現れたロボットが連射するミサイルを尽く防ぎながら光矢を放ち、ロボットから黒煙を立ち上らせると、すぐにロボットを庇うように小さな歪みが3つ現れる。

とりあえず・・・。

「第二界、爆月光」

掌から広範囲に光の衝撃波を解き放ち、ロボット共々激しく転がったハランガ達を見ながらすぐに走り出す。

しかしその直後、脇腹に強い衝撃が襲い、体は軽々と宙を舞う。

「旋空螺」

目の前に撃ち落とした空気の弾の風圧に乗り、自分の体を吹き飛ばしながら、目の前に現れたハランガとの間に空殻を張る。

ハランガの突き出した拳が空気の壁に阻まれると同時に、空気の壁に向けて空気の弾を撃ち放つ。

更に風圧で体を飛ばしながらそのまま走り出すが、直後に背中に衝撃が走り、思わず盛大に倒れ込んでしまう。

くっ・・・。

起き上がる前にハランガが目の前に現れると、すかさず包囲してきた2人に続いて目の前のハランガも素早くこちらに拳銃を突き下ろす。

速陣っ。

これくらいにしておくか。

すぐに立ち上がり、動きを止めた3人から離れて敷地との境界線の手前で陣圏を消す。

ハランガ達の一瞬の戸惑いの後、こちらに気付いたのを見計らって潜伏場所の敷地から1歩外に出る。

直後に3人共が一斉に目の前に瞬間移動してくるが、拳銃を向けながらもただ睨みつけてくる状況に、張り詰めた緊張感の中でも子供じみた無気力感を感じた。

「敷地外の人に手を出したら、反逆で第2級罪だよ?」

えっ。

そんなこと・・・。

からかうような笑みと声色で、完全に子供だましなユーフォリアのそんな態度にも、ハランガは各々怒りや苛立ちで表情を歪ませる。

「ふざけるな。そんな挑発乗るか、遊んでる暇はない」

本当に自分から攻撃して来ないのか、律儀だな。

1人のため息を皮切りに他の2人も怠そうに背を向けていったその直後、ユーフォリアの放った虹色の光が3人に優しく降りかかる。

すると光はすぐに消えたものの、3人は足を止め、何を思ったのか何故かこちらの方へと引き返してきた。

「3人共、武器はしまった方が良いんじゃない?」

「そうですね」

えっ。

速答し、素早く武器をしまった3人からはすでに闘志や殺気、怠ささえも消えていた。

「3人共、私の事好き?」

「もちろんです」

な・・・。

「じゃあ私の頼み聞いてくれる?」

「もちろんです」

ユーフォリアに微笑み返したりはしないものの、揃ってそう速答する3人から何となくジアンに目線を移すと、目を合わせてきたジアンは初めて気味悪がるようにうっすらと顔色をしかめた。

「じゃあちょっと、ハランガの最高責任者連れてきてよ」

「はい」

・・・何で、最初からこの力を使わなかった・・・。

「私、必要だった?」

「うん、もちろんだよ、政府の人間が入ったら大問題になっちゃうし、ミライに怒られるし」

「そうか」

まぁいいか。

少しして離れた位置に小さな歪みが幾つも現れ、ハランガ達が姿を現すと、表情の柔らかい3人以外は全員拳銃を取り敵意を静かにぶつけて来る。

そしてその中で1人だけ前に出た、深いシワを更に絞りユーフォリアを睨むリーダー格のハランガが放つ静寂なる敵意に、敷地外に満ちる安心感ですらまるで血の気が引くように消え去っていった。

「何の真似だ。同志を返せ」

「んー?何の話しかなー?」

拳銃を持たない3人のハランガがユーフォリアを庇うように敷地の境界線に立つと、リーダー格のハランガは怒りや殺気を見せることなく、ただ静かに嫌悪感を吐き出すようにため息をついた。

「その気なら、こちらもそれ相応の対処をするぞ」

「やだなぁ、この人達は、ただ私の事が好きなだけだよ、ね、みんな」

するとリーダー格のハランガの背後に立つすべてのハランガが、まるで先程の3人と同じように素早く反応し、拳銃をしまった。

「な、おいっ何してるっ」

「この前、あなたが1人先に消えた時からだよ。みんな、私の事好きだよね?」

「もちろんです」

すべてのハランガが野太く速答すると、リーダー格のハランガは目線を落とし、観念するというより、呆れ返るようなため息をつき、そして遂には正に頭を抱えるように指先を額に置いた。

確かにあの時、私達を逃がす時に虹色の光を出してた。

「何が、目的なんだ」

「取引しようよ」

「・・・・・・何だ」

「問題が解決するまで、私の指示に従うようにしてくれたら、ユートピアに対する要求、聞いてあげる」

要求という言葉になのか、リーダー格のハランガの目の色が甦るものの、ユーフォリアと目を合わせないその態度にどこか敗北を認めない反発心が伺えた。

「儂も、操ればいいだろ」

「それじゃあ私が悪いみたいじゃん。これはあなたの意思で決めること」

リーダー格のハランガは背を向けるが、その肩はただ諦めという名の重しが乗ったように落とされていた。

「儂にどうしろと。言っておくが、ここにはもう魂片は無いぞ。行方も知らん」

そんな・・・あの後で、すぐに持ち去られたのか。

「なら持ち去った人は?」

「ロイヤルガーディアンズ、ビリーヴ」

え?・・・。

「えっ、そ、それ、ほっ、ほんと?」

「間違いない」

顔を伺うと、ユーフォリアはただ呆気に取られたような表情でゆっくりと目線を落としていった。

「ビリーヴに悟られないように、ハランガの誰かを使えないかな」

「無理だろう、全員の顔は覚えられて・・・いや」

ん?

「アンノウンのハランガなら使えるかも知れない」

ユートピアの外にもハランガが居るのか。

するとリーダー格のハランガはユーフォリアに体を向けるが、その表情は敵意ではなく、どこか哀れみを伺わせた。

「だが、もう手遅れだろう」

え、手遅れ?

「どういう意味?」

「お前達が我々と対峙している間に、ミライが我々を手引きした黒幕を追う手筈なのだろうが、ビリーヴはそれを承知の上だ」

それは、どういう・・・。

「つまり、誘き寄せられてるのは、ミライの方ってこと?」



木々の葉の密度は低いものの、優しく吹き込む風に天界を思い出しながら、雑草から山菜まであらゆる種類の植物が書かれた本を片手に山道を登る中、ふと聞こえた足音に何となく振り返る。

あ、誰かいる。

女の子だ・・・。

私と同じ山菜採りかな。

花柄のキモノという服を着た少女の、籠を持っていない出で立ちが何となく気になっていると、少女はどことなくそわそわと辺りを見渡し始めた。

迷子かな。

足元に目をやりながら坂を下り、ふと少女に目線を戻したとき、その場に居たはずの少女の姿はなくなっていた。

あれ、まさか滑って転んじゃったのかな。

足早に下りていき少女の居た場所に着いたものの、森の中では目立つ服を着た少女の姿はまるで見えなくなっていた。

「おーーい」

居たのは確かなはずなのに。

「ねぇ」

わっ。

後ろに振り向くとそこには20代くらいの女性が居て、真っ先に目に留まったのは、前髪をすべて上げて後ろに留めた綺麗なクリーム色の長い髪だった。

びっくり・・・。

「あなた、白髪の精霊のお友達?」

え。

吸い込まれそうなほど透き通った淡い薄水色の瞳を見ながら、白髪のバクトの顔をふと思い出す。

「うん」

流れるようなつり目を見開き、光沢を見せる厚めの唇の両端を上げて微笑むその人の、大きくあらわになっている大きな胸にふと目を留める。

「あたしはドリームよ」

「あ、私、ユリだよ」

うわぁ、胸だけ隠す下着の上にビリーヴと同じような黒い上着着てる・・・。

おへそも出てるし、風邪引いちゃいそう。

「あのね、ちょっとあなたに頼みがあるのよ」

「頼みって?」

するとドリームはまた少し目を見開き、少し緊張してしまうほどに美しい瞳でただ目を見つめてきた。

な、何だろう・・・。

「ユートピアを守る為に、退治して欲しい生き物が居るのよ」

え、ユートピアを守る為に・・・。

でも・・・。

「私、ユートピアと、戦うって約束したの」

「約束?誰と?」

えっと・・・。

紛争中の街で、男の子・・・あれ?

誰と、約束したんだっけ。

「約束、してないでしょ?」

「・・・うん。してなかった」

「あのね、全身真っ黒けの、理解出来ない言葉を喋る生き物なんだけど。もしこれから、あなたが家に帰る途中で見かけたら、森に誘き寄せながらやっつけて欲しいのよ」

全身真っ黒け?理解出来ない言葉?

「分かった、やってみる」



ユリ遅いな・・・。

今度こそ、山菜採りの途中で寄り道パターンかな。

「ちょっと、見てくるよ」

「あぁ」

道場を出た先の道ではユリの姿は見えないので、4車線ほどはあるような商店街に出て、遠くに見える木に覆われた山へ向かっていく。

まぁ気配で分かるから良いけど。

高くはないが幅の広い山脈になっているその山を眺めていると、やがて山へ続く一本道の先、通行人や馬車の向こうにユリの姿が見えた。

いたいた。

そのままユリに向かっていくと、こちらに気が付いたように足を止めたユリは何故かその場で翼を解放した。

ん?ガーディアンズでも見つけたのかな。

そのままユリに向かっていくと、ユリは何故かこちらに背を向け、山に向かっていった。

えっ。

何で?

敵でも追いかけてるのかな?

あれ、今、山菜入れる籠背負ってなかった・・・。

何してんだろ、ユリ。

街並みが林道になった辺りで再びユリを見つけたとき、ユリはこちらを真っ直ぐ見下ろしながら、ゆっくりと左腕の銃口をこちらに向けてきた。

「ユリ」

小さく首を傾げるものの、ユリはどこか思い悩むように顔色を曇らせたまま、ただ黙ってこちらに銃口を向けている。

何で、こんなこと。

「何してるの?」



ドリームは倒して欲しいって言ったけど、こんな真っ黒けな生き物でも、やっぱりただ傷付けることなんて出来ない。

真っ黒い毛並みで、ただ尖った耳と眼と、ちょっと尖った口しか分からないけど、本当に危険なのかな。

「ゴニョ?ゴニョゴニョーニョ?」

何言ってるかは確かに分からないけど、でも、何となく、殺気は感じないし・・・。

どうしよう。

歩き出したのでとっさに足元に光線を撃つと、真っ黒けな生き物は下がったものの、依然として敵意や殺気を伺わせない。



「どうして?何でよ。どうしたの?」

それでもユリはただ思い悩むような寂しい表情でこちらを見下ろし、依然として距離を置こうとする態度を見せている。

「あなたが何なのか分からないけど、やっぱり無意味に生き物は殺せないから。このままいなくなってくれないかな」

どういう、意味だろ・・・何なのか分からない?

何言ってんだろ。

でも、表情は操られてた時のハルクみたいな感じじゃない、至って普通だし。

「ほんとに、僕の事分からないの?」

「もしかしたら私の言葉も通じてないかも知れないけど、お願いだから近付かないで」

・・・言葉すら、通じてない?

一体、どうなって・・・。

ここら辺から、クライマックスに片足突っ込んでる感じですかね。

ありがとうございました。

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