守護者の矛先2 ロイヤルガーディアンズ
「その盾、オレの弾何発受けた?」
・・・どういうことだ。
タマ?
「その、筒からの、ということか?」
「まぁ、いちいち覚えてないか」
そう言うとエルスは白い筒ではなく、掌をこちらにかざした。
ん?
その瞬間、赤い光の盾は突如連続的に爆発音を鳴らし、しかも少しの衝撃も伴いながら、まるでガラスが砕け散るように一瞬にしてその形を失い、消えていった。
くっ・・・。
「カムイか」
「カムイという言葉を知ってたか、なら少しは説明も省ける」
そう言うと今度は白い筒を向けてきて、2発のタマとやらを胸元に食らいながらとっさに盾を作り、頭上の光から細い光線を放っていく。
まだ貫通はしないか、だが・・・。
「くっ先程より鋭利になってるだと?」
肩と腹から血を流しても、それでもその表情はどこか余裕を見せていて、無意識に沸き立った恐怖感は更に光線を放たせ、エルスは痛みに顔を歪ませながら片膝を地面に着ける。
「くっ」
何だ、その眼差しは。
まるで敗北を感じていないような、真っ直ぐな眼は。
エルスが掌をこちらにかざしたので反射的に盾を構えるが、盾に何も起こらないその状況でも、エルスはただ断罪する決意に満ちた鋭い眼差しを貫いてきた。
その瞬間、胸元が突如2回の爆発音を鳴らし、全身に衝撃を響かせた。
は・・・。
まるでへし折れた幹のように体が倒れるのをただ自覚し、妙に意識がはっきりした中で痛みも感じながら、とっさに起き上がりエルスに顔を向ける。
「うおあぁっ」
爆発したような地響きに埋もれかかったガルガンの声にふと我に返ると、同時にエルスの向こうで立ち上った岩片、土埃の中から吹き飛んできたガルガンにただ目を奪われる。
「ガルガンっ」
それでも滑るような低空飛行の中で宙返りし、倒れ込むことなく地に足を着けたガルガンは素早く6つのミサイルで反撃に出る。
そんな中でエルスの動きに再び我に返り、こちらに向けられた白い筒を素早く光線で弾き飛ばし、そして飛び上がるように立ち上がる。
「筒が無ければ爆発は起こせないんだろ?」
「くそ・・・」
再び視界に飛び散ってきた岩片に気を取られたとき、先程よりも盛大な粉塵の中を吹き飛んできたガルガンは目の前にまで転がってきて、立ち上がりはするものの、その佇まいや痛みに歪む表情からすぐに劣勢が伺えた。
「くっそぉ」
「エルスっ、下がれっ」
デイラーがそう叫ぶとエルスは背を向けたが、追い討ちをかけて放った赤い光線は、その一瞬のうちにエルスが振り撒いた砂に何故か全て防がれてしまう。
何だ、撒いた砂が一瞬のうちに爆発した?
「気を付けろ、あいつの岩石の操り方、単純じゃない」
「2人でかかれば問題無いだろう」
すぐにそう応えてやると、焦りを伺わせるその表情を緩ませ、ガルガンはその一瞬で信頼と闘志をたぎらせるように笑ってみせた。
「だな」
光線を防いだ爆風の幕が消えると、離れていたエルスはすぐにまた砂を撒き散らして爆風を張り、そんな逃げ腰に優越感が沸き立つ中でふとバズールを見る。
するとそれはバズールがちょうど黄色づいた淡い光の矢を、弓ではなく、直接手から放ちドイルを突き飛ばしたところだった。
しかしその直後、貫くことなくドイルを真っ直ぐ突き飛ばすその黄色づいた矢は跳ね返り、しかもまるでドイルが放ったかのように勢いも劣らずにバズールを襲った。
あれも、カムイなのか?・・・。
交差した腕をも呑み込む、水が弾けるように散った光に倒れ込んだバズールの前に出ながら、掌の前に作り出した光の球から鋭く細めた光線を撃ち放つ。
「やめろっ」
な、何だと?
矢の如く真っ直ぐドイルに突き刺さった瞬間、弾け消えることなく赤い光線は跳ね返る。
何っ。
とっさに盾を作り、赤い光線を受け流すとバズールは隣に立ち、無傷のドイルは毅然とした佇まいでこちらの方を見つめた。
「どうやらエネルギー系が効かないようだ。オレのクラゥファも通じない」
ク、クラウ?とは。
「だったらオレのミサイルでぶっ飛ばしてやるよ」
そう言い終わるや否やガルガンが6つのミサイルを撃ち出すと、ドイルはすぐにまるで逃げようとするように走り出した。
ミサイルは、エネルギー系ではないのか・・・。
「あいつはオレに任せろっ」
直後に再び6つのミサイルが煙を尾に引きながら撃ち出されたが、大空に撃ち出され、その狙いをユートピアの兵士に定めて獣のように向かっていったミサイルは、デイラーの撒き散らされた岩片によって虚しく消えていった。
デイラーは何とかしなければ。
だが俺の力は、ドイルに跳ね返されてしまう。
闇の光線でガーディアンズの男性が持つ剣、白い筒を撃ち飛ばすと、シマキチは別のガーディアンズの男性の肩を斬りつけ、ゲンコウは見かけによらない身のこなしでマントの男性を蹴り飛ばす。
そして更に振り上げたその反った剣から、砂利を蹴散らし、風を切る音を掻き鳴らす透明な気迫を飛ばした。
お爺ちゃん、すごい。
「去れっ小童どもっ」
コワッパっていうのか、あの班長さん。
気迫に切られ、肩から微かに血を流してもコワッパの表情には焦りや恐れは伺えず、後ずさりし始めると同時に何やら服の中から何かを取り出し、それを頬に当てた。
何だろ、何か話してるようだけど。
・・・あ、終わったみたい。
「ゲンコウ、言っただろ、お前は2級罪。重罪なんだ。今日で絶対に捕まえる」
「ふっコワッパには無理じゃ。そんな逃げ腰で拙者を捕まえられる訳がない」
それでもコワッパは少しの狂気が伝わるほどに口角を緩ませ、ゲンコウを睨み返した。
「捕まえるのはオレじゃない」
えっ?・・・。
「何じゃと?」
「逃げるなよ?まぁ、すぐに来るけどな」
すぐに?
ふとした沈黙と、ゲンコウの静かなる殺気とが混ざり合う中、そんな静寂を破るように突如どこからか飛んできた光の球がコワッパの隣に降り立った。
あっあれって。
しかし光の球から出てきたのは、ライフやアレグリアと同じ上着の、筋肉質で少しだけ体格の良さが分かる知らない男性だった。
その直後、街の人達は皆一目散にその場から離れていき、その中で聞こえた小さな悲鳴が誰か分からないその男性に若干の恐怖を根付かせた。
「ロ、ロイヤル、ガーディアンズじゃと?」
無意識に顔を見合わせたバクトのその緊張に満ちた真剣な表情に、また少し胸の底に根を張るような恐怖が芽吹く。
「ビリーヴ様」
「あぁ、お前ら下がってろ」
横目でガーディアンズを下がらせた後、ビリーヴと呼ばれた男性は怒りや殺意の無い、真っ直ぐな力強い眼差しをゲンコウに向けた。
「ゲンコウだな。俺はロイヤルガーディアンズ、ビリーヴ。お前をガーディアンズ殺害の第2級罪で拘束する」
「シマキチ、下がれ」
「えっ・・・でも。どうせオレも同罪なんで、いいです」
ロイヤルガーディアンズの人はみんな同じなのかな。
傷付いたエルスを庇うように立ちはだかるドイルとデイラーの向こうの、形や大きさから何まで常識を越えるその物体にふと目が留まる。
一か八か、やってみるか。
「ガルガン、俺はあの乗り物の所に行く、援護してくれ」
「あ?・・・あっ逃走手段を断つのか、分かった」
「いや」
ミサイルの発射音に言葉は掻き消されると、再び声をかける前にガルガンは飛び上がってしまった。
・・・仕方ない。
周囲に赤い光を浮かせながら飛び出した瞬間、まるでその突撃を阻むように無数の岩石が辺り一面に浮き上がる。
・・・はぁっ。
幾つかの岩石を砕き、吹き飛ばしながらミサイルが生み出した爆風を回り込んだとき、まるで風に吹かれるほど軽々と飛び交う岩石の中からドイルが姿を現す。
くっ。
「ベイガス」
振り向くとそこにはバズールがいて、飛び交う岩石をものともせずに岩石の1つを掴み上げると、その勇ましい体格で豪快且つ軽々とそれをドイルに投げ飛ばした。
「行け」
「あぁ」
その勇ましさに心と共に体も突き動かされるように飛び立ち、岩石の砕け散る音や地響き、ミサイルの爆発音が鳴り止まない中で遂にその巨大な物体を見上げたとき、ふと感じた視線に反射的に顔を向ける。
「何する気だ」
エルス・・・。
眼差しは殺気に満ちているものの、血に濡れ、武器を持っていないその出で立ちはただ闘志を見せつけるだけの虚勢にしか見えなかった。
取り込める?・・・。
どうやって。
胴体部分の扉に触れたとき、ふと堕混になり、旧魔界の王座を見下ろしたときの風景を思い出した。
力を求めるのは、何よりも勝つ為だ・・・。
ヒョウガとレイに負け、ユートピアにも敵わない。
・・・それでは、力を持つ意味が無いっ。
胸の底から引き込まれるような熱さが吹き出した瞬間、視界にも収まらないその物体が瞬時に淡く光を纏うと、自分でも引き込まれそうなほどの熱さはまるで濁流を流し込むが如く物体を食らい始めた。
うおぉっ・・・衝撃が・・・全身が潰れるようだ。
ぐっ・・・。
「ぐおぉああ」
ふとつかの間、体の感覚が無い中で脳裏に飛び込んだのは、バクトのあどけない微笑み、ユリの真っ直ぐな決意に満ちた眼差し、そして静寂の街で目を伏せるガルガンの怒りを背負う背中だった。
ガルガン、俺は先に行くぞ。
「こいつ・・・」
驚愕と疑念、そして畏怖に凍ったエルスの眼差しに我に返り、晴れた視界を徐々に認識していく中、岩石の砕け散る鈍い音が遠ざかっていき、戦場はふと静かな荒野を取り戻した。
「・・・ティーガーを取り込んだ」
この力がどういうものかは分からない・・・だが。
翼に意識を集中し飛び上がりながら、甲高くとも体中を撫でるような振動を生む翼に光を集める。
何だ、体中が熱い。
「ふぅ・・・ぅうああっ」
どこかガルガンのミサイルが発射される時のものに似た音と共に、4枚の翼から雨のように赤い光線が荒野に降り注ぐ。
まずいっ。
ユートピアの兵士どころか、ガルガンとバズールにまで浴びせられた赤い雨を止めた時には、すでに荒野は槍が降ったかのように、平地という言葉を無くしたようだった。
制御は慣れるしかないか・・・。
「エルスっ・・・おいっ」
「くそ・・・聞こえてる」
真っ先に立ち上がったドイルですら所々から血を滲ませていて、起き上がるのもままならないエルスやデイラーに歩み寄りながら、何やら服から取り出したものを頬に当てた。
「覚えてろよアンノウン。すぐに潰してやる」
荒野に降り立った時にそう言って睨みつけてきたドイルの眼差しは、それが嘘ではないことを過らせるほど怒りに満ちていた。
すぐに?まさか援軍か。
「お、おいベイガス、逃げた方が良いんじゃねぇか?」
「先に行ってくれ、援軍が来るなら誰かが残らなければ」
2人がアンザーの下に向かい始め、そう時間も経たないうちにどこからか飛んできた光の球がエルス達の傍に降り立つ。
速い・・・。
ん?・・・また、あの乗り物の音か・・・。
「アレグリア様」
「おいおい、3人も居てその様かよ」
アレグリア・・・誰も、敵わない相手・・・。
こちらに顔を向けたものの、殺気の無い眼差しですぐに目を逸らしたアレグリアのその背中は、ただ怪我をした部下を心配する、頼もしいリーダーの風格に満ちていた。
「戻るぞ、ティーガーも来た」
「え、エターナルですよ?オレ達は平気ですから」
「良いんだよ、エターナルより、まずはお前らだ」
「あの、あなたもアレグリアと同じ考え方なの?」
「何が同じだ?」
「今困ってる人を、助けられないのはしょうがないって」
するとビリーヴは緊張感が張り巡ったこの場を静かに見渡し、まるで真剣に思い悩むような神妙さを伺わせた。
「なら、俺が指揮を取り、率先してテンホウの貧困を無くそう」
えっ。
「ホントに?」
「だがそうした場合、近隣諸国は何故テンホウを優先するのかと抗議に出るだろう。そうなったらどうする?」
え・・・。
抗議?・・・。
「そ、そしたら、そっちにも援助を」
それでもビリーヴは緊張感をも沈ませるような、無意識に恐怖を匂わせる神妙さをぶつけてくる。
「援助をする人間にも限りがある。無論、それは食糧にもだ」
限り・・・。
「限りがあるということは、分け合うことなど出来ない。どうする?」
「それは・・・あ、なら、1度に食べ物をいっぱい作れば」
「その為には土地と人間が必要だろ?」
そ、そっか・・・。
助ける為に・・・領土、人、つまり国を・・・でも、そしたらまた貧困が。
「そんなものは、綺麗事じゃ。生産と貿易の密度に、領土の広さは関係なかろう」
見事進化したベイガスですが、例によって「主人公目線」では自分の姿は見えないですね。人伝いでって事で。笑
ありがとうございました。