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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
第二章

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キングス・ウィズアウト・グリード3 リバレーション・オブ・ザ・ウィング

「天使も悪魔もお互いの国に自由に入れるんだね」

「そうだよ、三国って言ってるけど、実際は隔たりとか何も無いの」

「そうか」

思った通り天魔は白と黒の2色使いなんだな。

「4つの国以外に国はあるの?」

小さく首を傾げたものの、こちらに顔を向けたアリシアはすぐに笑顔を見せてきた。

「私は見たことはないけど、すごい遠くにあるらしいよ」

「そうか、下には行ったことあるの?」

「私は無いよ。天使のある職業の人しか下には行けないの」

「そうか」

だいたいは想像がつく。

それよりこの世界の人間はどんなものなんだろう。

少し歩くと露店が並んでいる所に来たみたいだが、露店には見たことの無い物が並んでいた。

野菜なのか果物なのか分からないな。

「ちょっと待って」

アリシアが露店に走ったので足を止めると、間もなくしてアリシアは何やら赤くてでこぼこしたものを持って戻って来た。

この世界もお金があるのだろうか。

「これオススメだよ」

そう言ってアリシアは器用にそれを半分に割ると、笑顔でその半分を差し出してきた。

「貰っていいの?」

「うん、次の戦いのために何か食べないとね」

それもそうだな。

「ありがとう」

「うん」

軽く程よい柔らかさで、掌におさまる大きさだ。

中身はオレンジ色になっていて、外側から内側にかけて黄色くグラデーションに色づいている。

アリシアは大胆にもそれにかぶりついたので、見よう見真似でそれにかぶりついてみた。

少し厚い皮は弾力があるのに口に入れるとしっとりと溶けだして、中身は柔らかめな煎餅のような噛みごたえがあるのに気泡があるためか、まるで重さを感じない。

皮のしっとり感と中身のサクサク感が丁度良く混ざり合う食感の後、さほど果汁が出ないにも拘わらず、みずみずしい果物独特の甘さのようなものが口の中に広がった。

「これは、フルーツなの?」

「うーん・・・野菜とお菓子の間かな?」

アリシアは歩きながら悩むような顔色を見せて応えると、またすぐにそれにかぶりつく。

お菓子感覚の野菜と言ったところか。

「おいしい?」

「あぁおいしいよ」

「良かった」

アリシアは笑顔で前を向くと、再びそれにかぶりついた。

確かに見た目からは想像出来ないほど軽い食感だし、お菓子と言われてもそんなに違和感はない。

「農場もあるの?」

「うん、居住区の第3エリアにあるよ」

「そうか」

ん?ちょっと待てよ?

魂だけの存在なら、食事なんて必要ないんじゃ・・・。

「他に動物はいるの?」

「三国の周りの森に大きいのが沢山いるよ」

「どれくらい?」

「んーすごい大きいよ」

少し考えたアリシアは手振りを混ぜながら笑顔でそう応えた。

まるでヒントがない・・・。

「そうか」

動物が居るってことは、この階層にも肉体と同じようなものがあるのか。

下の階層の人間にとっては、この階層の人が聞こえない超音波のような領域のものだとすれば、何となく理解は出来るけど。

そんなことを考えながらアリシアに貰った食べ物にかぶりつく。

黄色い部分は蜜柑の味に似ていて、中心にある種はピーナッツのような食感だった。

「ここからが魔界でございます」

薄い塀に大きくアーチ状に開けた門をくぐったときに、執事の男性が口を開いたのでふと辺りを見渡す。

まるで別世界だ。

噴水のデザインからして黒が基調となっているが、だからといって陰湿さやダークな感じはしない。

そして行き交う人の格好は白よりも黒の割合が多くなっているように見えたが、中には鎧を着ずに布だけ巻いている人もいた。

「小さい子供は鎧は着ないの?」

「うん、鎧は15歳からだよ」

「そうなのか」

こっちにも露店がたくさん並んでいる。

なかなか面白い物だったな。

「そういえば、今食べたものは何て名前なの?」

「あ、ラフーナだよ」

「そうか、ここにもお金はあるの?」

「無いよ。今欲しい分だけの精神だから、お金なんて無くても問題無いの」

「そうか」

問題が無いのが不思議だな。

人間のように欲で支配されていないのか・・・。

ふと遠くの黒い城から悪魔の兵士達が行進して来るのが見えると、兵士達は落ち着いた談話を楽しみながらも列は崩さず、どこか緊張感の薄れた雰囲気を持ったまま郊外への門をくぐって行った。

演習でもやるのかな。

「ねぇそっちの世界の人間はみんな氷牙みたいなの?」

「いや、最近になって僕のような人間と普通の人間の2種類に分かれたんだ」

「へぇ、そうなんだ。そっちには天使とか悪魔はいないの?」

「それは分からないな。普通は感情を具現化させたもので、実際には存在しないとされてるんだ」

「へぇ、そうなんだぁ」

笑顔で話に聴き入るアリシアは不思議そうに首を傾げると、その眼差しに若干の寂しさのようなものが伺えた。

「でも僕ら人間が知らないだけで、僕の世界でも上の階層があるかも知れないね」

「そうだといいな」

しばらく歩き城を目前に立ち止まると、執事は門番に事情を説明をし始めた。

やはり大きい城だな。

城壁はすべて高級感のある黒で染められていると共に、その城の全体的なデザインも天使城のものとは少し異なっていた。

「分かった。じゃ入ってくれ。おっと姫様もご一緒でしたか」

「うん、エリカは帰ってるでしょ?」

「はい、いらっしゃいます。お入り下さい」

城に入ると、真っ先に視界に飛び込んだものは魔王の下へと続く青い絨毯だった。

天使城は赤だったよな。

「じゃあ、頑張ってね」

「あぁ」

小さく手を振りながら、アリシアはすぐ左手の階段を上って行った。

「参りましょう」

執事の後について青い絨毯を歩きながら、何となく辺りを見渡す。

ここも闘技場になるんだろうか。

天使城とは大した違いのない内装に気がついたりしながらしばらく歩き、そして天使城と同じく迫り出した2階の中央に置かれた王座の前に立つ、魔王と思われる人物の眼下に立つ。

「お待たせ致しました」

「うむ、ご苦労、戻りなさい」

「はい」

執事の男性が横の階段を上り始めると、魔王は一歩前に出てこちらを見下ろした。

「お前が氷牙だな?」

「はい」

立派な髭は王の象徴なのだろうか。

「天王から話は聞いている、三銃士に遅れを取らなかったようだな」

「いえ、まだまだです」

「本気では無かったと言うことか?」

そう言って魔王は何かを企むようなぎらつかせた眼差しでニヤつき出した。

「それはお互いにということです」

「そうかそうか。よほど自信があるんだな」

魔王が抑えた笑い声を漏らしながら、ぎらつかせた眼差しを更に鋭くして見せる。

「なら私からの試練は厳しくするぞ?」

「はい望むところです」

「うむ、その意気だ。話し込むのも何だから、早速力を見せてもらおうか」

魔王が執事に合図を送ると、エントランスはさきほどと同じように即席の闘技場となった。

次も悪魔の三銃士かな?

間もなくして階段脇の扉が開くと、そこからは1人の悪魔の男性が出て来た。

1人か。

なめられているのか、それとも3人分の力があるのか。

見た感じ怖面の悪魔の男はゆっくりと歩き出し、落ち着き払った表情を変えずに目の前で立ち止まる。

「私はガルーザス、お互いに良い戦いをしよう」

そう言って悪魔は手を差し出してきた。

礼儀正しいな。

「あぁ、僕は氷牙だ」

ガルーザスの手を取り、握手をした。

ヴィルよりも大柄だな、2メートルはありそうだ。

それに悪魔だからといって、性格が悪くなる訳ではないみたいだ。

「私は手加減しないからな」

「あぁ」

手を離すと闘技場の中心に行き、お互いに向かい合う。

「準備は良いな・・・始めっ」

魔王の声が闘技場にこだますると、ガルーザスはどこからともなく、柄が身長ほどある大きな斧を取り出した。

「どっから?」

氷牙を纏いながらとっさに聞いたみた。

「心だ」

それもこの世界の人の力なのかな。

走り出してきたガルーザスは斧を振り下ろしてきたので、紋章で受け止めてすかさず胸元目掛けて蹴りを繰り出した。

しかし1歩だけ下がって踏ん張り、蹴りを体で受け止めたガルーザスは、すぐさま回転しながら斧を豪快に振り回した。

「おらっ」

盾にした紋章では衝撃は受け切れず、振り抜かれた斧のかなりの反動により体は軽々と吹き飛ばされた。

油断したか。

体格に似合わずすぐに走り出したガルーザスが斧を振り上げたので後ろへ跳び、斧をかわした直後にブースターを使って懐に飛び込む。

そしてみぞおちに拳を突きつけ、ガルーザスが後ずさりした瞬間に紋章を重ねた氷弾を撃つと、さすがのガルーザスも床に勢いよく背中をつけた。

「がっはっは、面白い」

しかしガルーザスは戦いを楽しむように笑いながらゆっくりと立ち上がる。

見た目以上にタフだな、まるで効いてないみたいだ・・・。

柄を握り直して走り出し、斧を振り下ろしてきたガルーザスの背後にブースターで回り込み、そしてそのまま回し蹴りを繰り出す。

しかしガルーザスは柄の真ん中を持って柄の先で蹴りを受け止め、そのまま斧を水平に振ってきたのでとっさに紋章で受け止めるが、今度は立て続けに柄の先を突き出してきた。

後ろに跳び氷弾を撃つが、ガルーザスはすぐに柄を長く持ち直して回転し、氷弾を避けながら斧を振り回す。

こんなに大柄なのに、なんて身のこなしだ。

ブースターを噴き出しすぐさま上に飛び、ガルーザスの胸元に氷弾砲を撃ち込む。

「がはっ」

直撃を受けたガルーザスは勢いよく吹き飛び床を転がるが、すぐに立ち上がろうとし始める。

魔王はまだ合図を出さないみたいだな。

片膝を着いて深呼吸をするガルーザスからうっすらと笑みがこぼれるが、突き刺さるようなその眼差しには沸き上がる闘志のようなものを感じた。

「なかなかやるな」

「どうも」

「それじゃあそろそろ本気を出すとしようか」

そう言って立ち上がると、ガルーザスはおもむろに胸に斧を当てた。

本気?

ハッタリを言う人には見えないな。

「翼、解放」

突如ガルーザスの背中から黒い翼が広がると、同時にガルーザスが放つ気迫は更に強い威圧感を纏った。

空気を震わすような威圧感を醸し出す黒い翼がガルーザスを包み込むと、直後にガルーザスは体全体に黒いオーラを纏った。

これが本当の力ということか。

そして翼が広がると、部分的にあった熔岩が固まったような質感の鎧は首から下全てを覆っていて、ガルーザスが手に持つ斧も両刃になると共に反対の柄にも両刃の斧が着くという変化を遂げていた。

「さぁ行くぞ」

そう言うとガルーザスは翼を羽ばたかせて飛び上がり、大きく翼を広げながら突っ込んで来た。

あんな大柄なのに空を飛ぶ速さが落ちないなんて。

斧を突き上げきたので横にかわすが、ガルーザスは斧の重さを感じないかのように素早く柄を振り回し、すぐさま反対側の斧で突き刺してくる。

かろうじて紋章で防ぐものの、ガルーザスは滞空しながらその両刃の斧を連続的に突き出してきた。

そして止めと言わんばかりにガルーザスが思いっきり振り上げてきた斧を紋章で受け止めるが、凄まじい反動により、吹き飛ばされながら大きく体勢を崩されてしまう。

すると獲物に狙いを定める鷹のようにガルーザスはすぐさま追いかけて来て、再び素早く斧を振り下ろしてくる。

ちょっとまずいな。

紋章で斧を受け流すと同時に、もう片方の手で紋章を重ねた氷弾を撃つ。

そして少し動きが止まった隙を突き、ブースターを全開に噴き出しながらガルーザスの胸元に膝蹴りで突撃した。

吹き飛ばされていくガルーザスの掌にふと闇が集まるのが見えると、直後にその掌にまとまった闇がレーザーとなって吹き出した。

何っ・・・。

直撃を受け思いっきり吹き飛ばされたが、何とか滞空したまま体勢を立て直し、すぐにガルーザスに向かって飛んでいく。

変身するとこんなに強くなるのか・・・。

ハルクとやらも、この姿になるんだろうか。

ガルーザスが斧を水平に振り回してきたので、少し上昇して紋章を重ねた氷弾を撃ち、すぐにブースターを全開に噴き出しながら胸元を殴りつける。

更に間髪入れずにその勢いのまま前方に宙返りして、柄を持っている方の肩辺りに勢いよくかかとを落とした。

「ぐっ」

そして床に向かって落ちるガルーザスの背中に氷弾砲を撃ち込むと、ガルーザスは大きな音を立てて床に叩きつけられた。

三国の住人が着ける鎧は、職人が金槌で平べったい状態から叩いて曲げていく為、ものによって形が微妙に異なっている。

ありがとうございました。

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