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その横顔はすべてを見ていて

「何故ここに」

「あの建物の地下にハランガが潜伏してるので」

え、ミライって人、最初から敵の真ん前に降り立たせようと?

ロイヤルガーディアンズの人って、そういう人達ばかりなのか。

恐らく花畑があったであろうその囲いには雑草が生い茂っていて、囲いが十字の歩道を浮き彫りにさせる、ジアンの言葉そのままを思い出させる場所に差し掛かったとき、幅広の建物の手前に突如として空間の歪みが発生する。

すると直後にそれは足元から消えていくと同時に、3メートルほどはあるような人型のロボットを出現させた。

そしてそのまた直後、行動する時間を与えないかのように、ロボットは両腕に付いたランチャーからミサイルを連射し始めた。

速陣。

瞬時にミサイルが止まった中、弓を引くように光矢を構えた瞬間、ほとばしるような歪みと共に瞬時に1人の人間がロボットを背後に姿を現す。

何っ陣圏の中に入ってきた。

ロボットを庇うように立つ、筋肉質で光沢のある、いかにも戦闘用を思わせる緑のスーツを着た人間に光矢を向けたとき、人間はほとばしる歪みと共に瞬時に姿を消す。

どことなくガラスが砕けるようなものに似た音が背後からした直後、背中に衝撃を受けて思わず地面を転がる。

考える間もなく仰向けになった瞬間に目の前にその人間が現れ、とっさに降り下ろされた右手を掴むと、その右手にはナイフが握られていた。

「お前の異次元移動は解析済みだ」

速陣を、解析?

「旋空螺」

真上に吹き飛んだ人間にすかさず光矢を撃ち放つが、光矢はほとばしる歪みを抜けていき、地面に向けて放った空気の弾の風圧で立ち上がるが、その直後に目の前にその人間が姿を現す。

突き出された足を振り払い、突き出した拳から光槍を放つが人間はほとばしる歪みと化し、背後から音がした後にこめかみに衝撃を受け再び地面を転がる。

「ふぅ」

瞬間移動に、神器では防ぎ切れない衝撃・・・。

ゆっくりと立ち上がると、少し離れていたその人間は表情を引き締め、逆手に持ったナイフを構えていく。

「エンド・オブ・ザ・ギャラクシー」

人間が姿を消し、音がしたその一瞬に手を伸ばし、人間の足を掴む。

「天星」

そしてそのまま至近距離から無数の光の弾を撃ち出すが、頭の中に小さくほとばしるような音が響いた後、ふと見えたのは少し離れた場所で地面に爪を立てる無数の光の弾だった。

・・・え?

私自身が、ワープした?

胸元を蹴られて思わず手を放すと、人間はナイフを脇に戻し、代わりに異様に銃口の広い拳銃を取り出した。

あれは・・・。

そして人間は姿を消したが、近付く訳でもなく、側方に出現したのが分かった瞬間、重低音の爆音と共に体は激しく吹き飛ばされる。

っ・・・衝撃波?

あっ。

目の前に浮き留まるミサイルがあるのが分かったときにはすでにミサイルという名の機雷にぶつかり、爆発に巻き込まれていて、再び全身を襲う衝撃に体は地面を転がり、やがて仰向けになったとき、目の前に拳銃を突き出す人間が出現した。

「違法女が」

空殻っ。

爆音と共に数十センチ先の人間が見えなくなるほどの歪みが視界を覆った瞬間、腕を真っ直ぐ上げ、伸ばした人差し指と中指の先に光を集める。

「バリスタ・オブ・アークエンジェル」

歪みを激しく散らし、その人間の胸元を貫いた光矢が空に消えていくと、吹き飛ばされて倒れ込んだ人間はそのまま動かなくなった。

違法、か。

確かに私の力は、この根界でも違法なものなんだろう。

「天星」

浮き留まるミサイルとロボットを破壊してから陣圏を消したとき、黒煙を上らせるロボットの向こうに歪みが発生する。

・・・今度は何だ。

ロボットほどの大きさは無いその歪みから再び緑のスーツを着た人間が出てきたので、握り締める右手に力を入れたとき、その歪みの近くに幾つもの歪みが現れ、そしてその幾つもの歪みから数人の緑のスーツの人間が出てきた。

多い・・・。

「ハランガか」

あの人達がハランガだったのか。

「ジアン、2人を守って」

「無理だろう」

そんな・・・。

倒れたロボットを通り過ぎた辺りで緑のスーツの人間達が立ち止まると、見るからにリーダーの風格を見せる緑のマントを着けた白髭と白髪の人間が前に出た。

「我らハランガに戦いを挑むか」

「違う、襲ってきたのはあなた達」

「我らは領地に勝手に入ってきた者を自衛の為に攻撃しただけだ」

自衛?

領地って。

「それなら最初からあのロボットを立たせて置けば良いのに」

「我らは力を誇示する為に存在している訳ではない」

でも・・・。

「政府の人間でもないのに、勝手に我らの領地に入るのが悪い。そして貴様は、我らの同志を1人殺した」

政府の人間?

「もし、最初からロイヤルガーディアンズの人が居たら、攻撃しなかったとでも?」

「あぁ」

・・・もしかして、ミライが来ないことで命が消えるって。

あの人のこと?

「俺は、ミライ様の代理で来ました。エフです」

「代理、か・・・だがもう遅い。我らは貴様らに攻撃する理由がある」

「話だけでも聞いて下さい。最近、魂片を持ち出してませんか?」

「応える義務は無い」

そんな、ここに魂片があるって聞いただけなのに。

「私達はハランガが居る場所に魂片があると聞いて来ただけ。元より戦うつもりは無かった」

一瞬後ろを振り返ったリーダー格の人間だが、真っ直ぐ立ち静かな威圧感をぶつけてくるその表情は依然として殺気に引き締まっている。

「政府が、我らが魂片を持ち去ったという根拠を示したのか?」

「いえ、それは・・・」

「さしずめ、政府が適当な理由をつけて我らを潰そうとしたんだろう」

「ミライ様が、そんな」

「いや、ミライの使いなら尚更分かるだろ?ロイヤルガーディアンズのミライという人間が、どんな人間か」

するとエフは言葉に詰まり、敵であるその人間の言葉でもまるで受け入れるかのように黙り込む。

でも、ミライはライフの情報で動いてるはずじゃ。

「それなら尚更、我らは戦う」

「待って。私達は魂片が欲しいだけ。持っていないならすぐに去る」

「持っていると言ったら?」

好戦的なだけか。

それとも本当に持っているとしたら。

「あなた達に魂片を狙う理由があるの?持ち去ったなら、少なくとも私達の目的を知ってて、魂片が誰の者か知ってて持ち去ったってことになる。分かってるなら、言えるはず」

そんな言葉にもまるで劣勢を自覚するような態度は見せず、リーダー格の人間はただ馬鹿にするような笑い声をふてぶてしく洩らした。

「・・・単純な女だ。死ぬ前に教えてやる。貴様らがここに来たのは、必然だ」

死ぬ前に?

必然?・・・。

ここで殺される?まさか、ジアンの予知が外れるなんて。

リーダー格の人間が背中を向けて瞬時に姿を消し、数人の緑のスーツの人間が動き出したとき、突如上空から光の球が地上に降り立った。

ロイヤルガーディアンズ・・・。

やはりミライが助けに?

しかし光の球から現れたのは、ユーフォリアだった。

「みんな逃げてっ」

真っ先に走り出したエフとシエノを背に、虹色の光を周囲に生み出したユーフォリアを見たとき、ふとジアンのいつもの落ち着き払った横顔が目に留まった。

ユーフォリアが来ることを、知ってた?・・・。

ティーガーの下に戻ってきたときに光の球がやってくると、現れたユーフォリアはどこか怒ったような真剣な眼差しをしていた。

「みんな、ライフとミライの言いなりになりすぎ。2人は、みんなを利用したんだよ?」

利用・・・。

「どんな風に」

「ハランガの裏に誰が繋がってるか、それを調べるために、襲われると分かってて向かわせたの」

「でも、私達じゃ、巫女の魂片の場所が分からないし」

「だからって、あんまりだよ。囮にするなんて」

そんな時に2つの光の球がやってくると、ユーフォリアはすぐに姿を現した2人に歩み寄った。

「私がたまたま電話しなかったら、みんなやられてたんだよ?」

「お前がここに来たのは、定めだからだ。私がお前に電話する前にたまたまお前が先に電話してきただけだ」

定め、か。

「もうっ・・・でも、最初から私が居ても良かったじゃん」

「おいおい、相手は反政府組織だ、お前が居たらどうせ自衛組織を取り繕うだけだ、まともに話なんか出来ないだろ」

「ミライまで・・・」

「それにライフの計画だ。俺はただハランガを潰すきっかけが出来ると思ったから協力しただけ」

ここまで、全て計画通り?

「人間は駒じゃないんだよ?」

「私は仕事をしてるだけだ。創造神の指示に従い巫女の魂片を導く。その中で言えば私も駒のようなものだ」

仕事、か。

「私は大丈夫。ジアンも居るし。それにむしろ、守らなきゃいけないものが無い方が動きやすい」

心配するような優しい眼差しをユーフォリアが向けてくるが、ミライはそんなユーフォリアをただ見つめ、ライフは何かを思い巡らすようにどこかを見ながら固まった。

「ライフ様、何か分かりましたか」

シエノの問いに、ライフはただ目線を上げ遠くを見つめる。

「・・・ハランガは表向きには自衛組織として動き、俺らの介入を許さない。だが、そのハランガが自発的に行動し魂片を持ち去ったなら、それはライフの目的を知ってる者と繋がってることを示す。だが、政府に反感を持つだけで、自発的に攻撃してこない組織をこちらから攻撃することは出来ないのが掟だ」

掟か・・・。

「なら私が1人でハランガを潰す」

きっとバクトならこの力をそう使うだろう。

「そしたら俺は政府として、テロリストのお前を拘束し、死刑に処さなけらばならない。それが掟だ」

また掟・・・。

「ミライ、少し時間を置く」

「ならその間、仏具を作る為の銅と施設を貸してくれ。銅は純度100のものを10キロ」

えっ。

本当に作るのか。

なら私は・・・あ、エクスカリバーを体に纏う練習を。



「一枚鋼じゃ、刀としては使えんだろ」

「いや、複雑に重ねては魂は入らない。それに元より理屈で計れるものではない」

「まぁ確かにな」

体中に吹き付ける熱をも忘れるほどに気を尖らせながら、赤々と燃え盛る火の中から、赤白く輝く鋼の塊を素早く引き抜く。

水に潜らせた鎚を握り締め、その一瞬に力を込める。

はぁっ。

一つきする度に火花を吐き出す鋼を何度も何度も叩き、息をするのを忘れるほどに、少しずつ変わっていくその形と向き合っていく。

「どこまで折り返すんだ?」

「刃金程度だ、研がなければならないからな」

「んん・・・つまり汚れの無い刃だけの一枚鋼か。確かにそう聞くと分からんでもないが」

やがて一つきの間に一息置けるほどに形を成し、小太刀ほどの長さにはなったその鋼を再び火に投ずる。

「梶山殿、玉鋼で出来た砥石はあるか」

「いや、無い。まさか、玉鋼を玉鋼で研ぐとでも言うのか?」

「純潔な玉鋼を純潔な玉鋼で刃付けし、仕上げるということに意味がある。玉鋼が足りなければ金は払う、どうか作っては貰えぬだろうか」

すると梶山は悩むような唸りを下ろすより先に、どこか嬉しそうで感心するような笑い声を吹き出した。

「分かったよ。とことん付き合ってやる」

「かたじけない」

刀を成す鋼を火中から引き抜き、水を潜らせた鎚で再び鋼を打ち叩いていく。



「いらっしゃい。お、来たね。今日はメイローか」

「うん」

メイローと呼ばれるウサギに似た生き物を3匹店員のおじさんに渡し、ルケイルと共にカウンターの向かいの長椅子に腰掛ける。

「私の力は三国のものではないが、昨日の瞑想でより深さを増し、天魔の力とも強く結びついた」

「そっかぁ。ルケイルは堕混だし、きっとその赤い宝石が効果を発揮したのかな?」

3日でもう変わったか、僕は1週間だったのに。

「この赤い宝石が関係してるのか?」

「何かね、それが力を結びつける役割をするみたいなことだと思うよ?色んな力を持てる堕混になる為のものだし」

「そうなのか」

店員のおじさんが奥から戻ってきてカウンターの上に生肉が入ったビニール袋を置くと、おじさんはいつものようにカウンターの中から切り分けられ並べられた生肉の一部を抜き取り、ビニール袋に入れた。

「ほれ、出来たぞ?」

「うん、ありがとう」

小さな精肉店を後にして、砂のように細かい砂利が踏み固められた道を進む中、ふと軍服を着た2人の男性と、ガーディアンズと呼ばれる軍服に白いマントを着けた1人の男性が遠くに見える。

うわ。

とりあえず静かに走り、3人が見えなくなる建物の陰に入る。

「どうかしたか?」

「えっだってユートピアの軍人だよ?見つかったら捕まっちゃうよ」

「確かにそうか。なら急ごう」

ユリ大丈夫かな。

「お帰りなさいませー」

「はーい」

道場に戻り部屋に入るが、そこにはまだユリの姿はなかった。

ありゃ、まだか。

とりあえず冷蔵庫にお肉入れて、と。

「ちょっと様子見に行く?」

「そうだな」

刃金はのがねは刀の部位の名前ですね。詳しくはウィキで、って事で。笑

ありがとうございました。

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