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目を見開いたその表情に期待を覚えると同時に、男は血の気が引いたように顔色を驚きで染めてみせる。

「魂降ろし・・・」

「知っているか」

「見たことはねぇ。昔、まだ見ぬ地の業を知るために旅をしていた奴から聞いたことはある。自らの魂を分け、刀に魂を吹き込むっつう、神業があると」

「如何にも。その魂降ろしだ。出来れば玉鋼を売って貰えると尚良いが」

話を聞いているのかいないのか、男が唸り出したときに奥から女が出てくるが、女に目を向けても男はその深刻さで歪ませるシワを緩めない。

「その神業、手伝わせてくれるなら、玉鋼もくれてやる」

おおっ。

「そうか、かたじけない。だが良いのか?玉鋼は七本分頂きたいのだが」

「七本?そんなに、打つのか」

「太刀を四本、小太刀を二本、大太刀を一本」

「全部を、あんちゃん1人が?」

「勿論」



「まぁ神業をこの目で見れるんだ。良いだろう。んでそっちは」

「旅仲間だ」

初老の男性とリーチの話が終わるのを待つようにカウンターの向こうで立ち尽くす若い女性の、退屈そうでも、苛立ってそうでもない、少し呆れているような立ち姿に、何故か自分まで若干の焦りを感じた。

「あんちゃんらも打ちに来たんか?」

「ううん。住み込みで修業出来る場所、知らない?」

「修業?・・・下宿ってんならサトザんとこの道場にでもいったらいい」

道場かぁ。

ガイドブックの写真と、お寺を思わせる外見の、里座道場という看板が立てられた建物を見比べながら、小さくとも風格のある門を抜けてみる。

「バクト、修業するの?」

「うん。アレグリアとまともに戦えるくらいにならないと、きっとルーニーの所には行けないと思うし」

「ルーニーって人には関わらないようにしなくちゃいけないんじゃないの?」

「でも、やっぱりちゃんと転生してるのを見ないと、気になっちゃうし」

「そっか」

門から真っ直ぐ伸びたキレイな石畳の道を経て、引き戸ではあるが高級感すらある玄関扉を開けると、真っ先に目に入ったのは玄関に敷かれた真っ白な小石だった。

「いらっしゃいませ」

玄関とキレイな木目の床をまたぐように作られたカウンターに立つ着物の若そうな女性と目が合いながら、ふと左手に見える広々とした待合スペースを視界に入れる。

見た目はお寺なのに、スパって言えるくらい都会的だな。

「とりあえず一月居たいんだけど」

「宿泊コースはこちらです」

へぇ、結構メニューがあるんだな。

剣道に柔道、武術コースに、ヨガに禅、精神コース、おや、エクササイズコースも・・・。

「1日1食の方が安いよ?」

「そうだねぇ」



ミキどうしてるかな。

ちゃんとご飯食べてるかな。

ユーフォリアって人、低次元に行ってもあっちからは見えないって言ってたし、もう会えないのかな。

・・・でも、見に行くだけなら・・・。

「おい」

あっ。

サラダにミルクが掛かったけど、まぁいっか。

「何もコップを持ってから考え事しなくてもいいと思うが」

よくミキに叱られてたな。

朝食を終えてホテルのレストランを出たときにシエノが通信端末を耳に当てる中、エントランスに佇むカップル、サラリーマン、掃除をする職員、そして受付の人間に目を向けていく。

いつどこから襲ってくるか分からないなんて、一体敵はどんなものなんだろう。

「これからライフ様と会う」

「うん」

エレベーターに入るとシエノは最上階のボタンを押し、閉まるボタンを押したが、扉が閉まる直前、突如慌てて1人の若いスーツの男が掛け入ってくる。

5階のボタンを押した男は扉の前に立ち背を向けているが、密室を支配するその静寂は拭いきれない疑心を芽吹かせる。

そんな時にシエノがジアンの顔を伺うが、シエノとこちらに顔を向けたジアンはただ片眉を上げただけだった。

どういう意味?・・・。

頷けば敵だと分かるのに、片眉を上げるサインは、何を意味してる?

男がエレベーターから出ていき、疑心の芽が萎んでいく中、すぐにシエノは不満げな眼差しをジアンに向けた。

「今のサインは何だ。分かりづらい」

「サインなど、した覚えはないが」

「おい、お前は危機を察知出来るんだ。今の状況は危ないかどうかを知らせる必要があるだろ」

「そう躍起にやるな。もしさっきの奴が敵なら、そもそもエレベーターに乗る前に言う」

あ、確かに。

「もう3日だ。あれから常に警戒して、気が休まらない」

「文句なら上司に言ってくれ」

「ねぇ、狙われるとしたら私達だし、シエノ、誰かに案内役代わって貰えば?」

しかしシエノはただため息をつき、それはまるでライフへの信頼と畏れに葛藤しているようだった。

エレベーターを出て非常階段を上り屋上に出ると、見通しのいい屋上にはライフが1人で立っていた。

「巫女の魂片の動きが感知出来なくなった」

そんな・・・。

「もしかしたら、何かしらの妨害工作かも知れない。そこでミライに協力を募る」

未来?・・・。

「人の名前?」

「あぁ。ロイヤルガーディアンズの1人、ミライだ。君達にはミライの手伝いをして欲しい」

手伝い・・・。

「ミライが巫女の魂片を持つ者を追い、それを君達に手伝って貰うことで、そいつの目をそっちに向けさせる。その間に私はそいつの素性を調べる」

なるほど。

「シエノ、ミライに会ったら引き続きミライの使いと行動を共にし、私からミライに伝える情報を仲介してくれ」

「はい」

あれ、何も言わないのか。

守るのは難しくないから別に良いけど。

ライフが光の玉となって去った後、ふと見たシエノの表情には若干の疲労が伺えた。

「大丈夫、人を守るくらい難しくない」

「済まないな」

エレベーターでそのまま地下駐車場まで降りてシエノの車に乗り込み、街を走っていくと、やがて車は木々のあまり見えない、広大な草原が印象的な公園に入った。

「ここがさっき言ってた待ち合わせの場所?」

「あぁ。見通しの良い方がいいからな」

ジアンは特に何も言わないみたいだし、大丈夫そうだな。

それにしても、都会の真ん中にこんな公園があると日頃の疲れも癒えそうだけど。

でも・・・人が多い・・・。

「逆に危なそうだけど」

「いや、さすがにロイヤルガーディアンズが居る場所では襲われないだろう」

・・・でも、黒幕はロイヤルガーディアンズの使いだと分かってて襲ってるはず。

草原にまばらに隆起した岩があるエリアに立つ、剣を腰に挿し、ライフと同じジャケットを着た男とスーツの男に近付いていくと、ふと剣を挿した男が向けてくる、力強くとも疑心や敵意の無い眼差しが気にかかった。

「ミライ様、こちらがハクラ、そちらがジアンです」

「ん。俺はロイヤルガーディアンズ、ミライだ。こっちはエフ、これからエフを加えて行動してくれ。まず向かって欲しいのは、第1アークだ」

「アーク?」

「ユートピア首都圏は12の大都市で構成されている。その大都市をアークという」

なるほど。

「ミライ様、第1ということは、ハランガが絡んでるんでしょうか」

「そのようだ。ライフによればハランガの潜伏地の近くで魂片の動きが分からなくなったということだからな」

「はら」

「ハランガというのは第1アークに潜伏している反政府組織だ」

「あ、うん」

「ユートピアが統治していないエリア、アンノウンとの繋がりを持っているとの情報がある、ユートピアにとっては無視出来ない存在だ」

反政府組織・・・。

「何故そのハランガが巫女を狙うの?」

「それは分からない。巫女の魂片だと知ってか知らないか、まずはそれを知るために第1アークへ向かって欲しい」



「皆に新しい仲間を紹介する。ベイガスにガルガンだ。テレビで観た者もいるだろうが、先日モノカイでユートピアと戦い、チュウドウの解放に尽力してくれた。だがまだチュウドウ政府はユートピア同盟参加を取り下げる声明を出していない。ここからが正念場だ」

死神界と三国の戦争を止めるために力を望んだが、あっちでも、この世界でも力が及ばないとは。

窓は無いが、壁から何から全てが鉄で出来ていて何故か風通しもある、その潜伏基地と呼ばれる広大な部屋から人が出ていき始めると、セディアフと呼ばれるエターナルの長は小さな階段を上がり、どこか風格のある奥の椅子に腰掛けた。

「飯も食えるしさ、とりあえずここにいるのも良いよな」

「あぁ。だが、俺らの力でも、カムイという力には勝てない」

「そうだなぁ。そういやさ、死神界に来たあの人間達、赤い宝石のことで妙なこと言ってたよな?」

妙なこと?

確か・・・。

「あらゆるエネルギーを取り込む、か?」

「ああ?エネルギー・・・いや作れるとか言ってなかったか?」

作れる?・・・。

「そうか?だが堕混の力は、外部の力を取り込んだものと言ってた気がするが」

「あー取り込むか・・・あそうか。なら、この力、まだ強く出来るってことか?」

「あぁ」



「どれくらい掛かるの?」

「ティーガーに乗れば3時間ほどだ」

ティーガー・・・。

「ミライと言ったか」

口を開いたジアンに、シエノとエフが素早く驚いたような顔を向ける。

「何だ」

「俺達が第1アークに足を踏み入れたとき、お前もそこに居ろ」

命令口調に何かを感じたような表情の変化は見せず、ミライはただ言葉の意味に首を傾げるような戸惑いを見せる。

「な・・・どういう意味だ」

「ミライ様、実は、ジアンはライフ様と同じなんです」

すぐに理解したようにジアンに目を移したミライだが、その表情は理解したからこそ更に鮮明になったように戸惑いを深めていった。

「もし、居なかったら?」

「命がひとつ、消える」

え、誰かが、死ぬ?

「本当に、見えるのか?」

「あぁ」

「そうか・・・なら、第1アークのエリアライン手前で降りればいい。俺はやらなければならない事がある」

まばらに隆起した岩を少し過ぎた辺りで、その先にプロペラの代わりにタービンを尻尾と胴体に2つずつ付けた、胴体の平たいヘリコプターのような外見のものが見えてくる。

ティーガー、この世界のヘリコプターか。

もしかして、エフはこれを動かす為に連れて来られたのかな。

するとやはりエフは操縦席であろう前方のドアを開けたので、後ろのドアを開け、まるでレーシングカーに乗り込むように身を屈めて機体に乗り込む。

シートが、1人ずつに分けられてる・・・。

少しごつい、まるでファーストクラス。

こんなに体を固めるなんて、これは、相当Gがかかるってことか。

でもベルトは見たことある。

「ベルトはどれだ」

「これ。まず腰周り、それから肩の所から引っ張って真ん中に繋ぐ」

「まったく、仏具が無いとどうも不便だ」

仏具?

あのワープ出来るやつかな。

「じゃあ作れば?」

「そうだな、作ればいいのか」

「じゃあ、出ます」

分厚い壁の向こうから聞こえてくるようなタービンの稼働音が頭上と後方から聞こえてくると機体は真っ直ぐ浮き上がり、上昇が止まるとそのまま前方へと真っ直ぐ飛び出した。

おや、そんなにうるさくない。

あっ・・・でも、やっぱりGが・・・。

立昇。

「ふぅ」

あれ?まだ速度が上がる?

う・・・また。

神器。

「ふぅ」

えっまだ速くなるの?

こうなったら。

あれ?急に体が軽くなった。

神器を解きながら右を見ると、背筋を伸ばしていたジアンは深呼吸するように力を抜いていった。

「速度落としたの?」

「いえ、3000キロに達した時点でシートの対G装置が働くので」

対G装置?シートにそんな機能が。

「どんな原理?」

「シートの電磁波で人間の血流をコントロールするんです」

なるほど、少しキツイけど、そんな作用が。

音速の中でも、気魔法を使わずにこんなに体が軽いなんて。

「最高時速は?」

「12000です」

「タービンなのに?」

「あれはタービンじゃないですよ。バーニアジェットタービンです。バーニア内蔵の羽根がジェットエンジンに付いた感じです」

つまり、ティーガーには4つのジェットエンジンと無数のバーニアがあるのか。

しかも内部に騒音は無く、体調の変化も無い。

この機体、欲しいな。

フロントガラスのみから望める景色が止まったのが分かり、間もなくしてその場から真っ直ぐ降下していくと、機体は木々が多く見える平原でエンジンを止めていった。

ここは・・・森か、機体を隠す為か。

「ジアン、どこから危険なの?」

「公園のような大きな十字の歩道の中央にあるヘリポートと、ヘリポートの前方にある幅広の建物」

「旧ケノブリッジ議事堂ですね。当初の着陸地点です。ほんとに分かるんですね」

「ここからどれくらい?」

「約10キロでしょうか」

今の内に神器を。

先導するエフに注意しながら、ビルの建ち並ぶ奇襲しやすい場所を抜けると、やがて街の中に公園のように開けた場所が見えてきた。

あれ、ここは。

ジアンが言ってた場所?

何でわざわざ奇襲されると分かっていた場所に?

これまでの事を覚えてないという方は、まぁ本編をプレイバックして頂ければ。

あらすじを書くのが面倒になったのかという事はちょっと置いといて。笑

ありがとうございました。

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