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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
第十章

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ア・リトル・ウェディング

パソコンが置かれたデスクの前に座る女医というその光景は何の違和感もないが、その見慣れた光景がより鮮明な緊張感を湧かせていく中、女医は何やら黒板消しほどの長方形の物を、まるでライトを当てるようにエンジェラの腹にかざし始めた。

「はい、もう起き上がって大丈夫ですよ」

え?それだけ?

エコーとかいうやつか。

するとパソコンを卓上ホルダーから取り外した女医は、そのままタブレット端末を扱うようにパソコンを触っていき、そしてそれをエンジェラに見せていった。

「ではこれが子宮の内部ですね。そしてこれが胎のうと呼ばれる、赤ちゃんが入っている袋ですね。この中に居るのが赤ちゃんですが、現在の大きさですと胎児の芽、胎芽と呼ばれる状態で、経過は8週といったところでしょう。おめでとうございます」

まじか・・・。

ニヤついたエンジェラがこちらに顔を向けてくると、すぐに女医も笑顔の中にもどこか医者らしさのある、落ち着いた眼差しをこちらに向けてくる。

「ご覧になってあげて下さい」

「あ、はい」

とりあえず、オスカーのおっさんには言わないとな。

「では受付で母子手帳をお渡し致しますので。お大事に」

ふぅ・・・。

「総助」

「ん?」

「名前、どうしようか」

「ああ、とりあえずは男でも女でも使えるのを考えるか」

ん?電話か。

おや、ドッグか。

「悪ぃ電話だ。・・・もしもし」

「調子はどうだ」

「ああ、それなんだが・・・とりあえずドッグもオスカーのおっさんとこに来てくれ、これから向かう」

「・・・分かった」

受付から戻ってきたエンジェラは笑顔と一緒に母子手帳を見せつけてきて、ふと感じていた緊張感を忘れていたことに気が付きながら、体を寄せてくるエンジェラの頭に手を乗せる。

「あっ」

「え?」

「お腹大きくなる前にはウエディングドレス着たい」

ああ・・・結婚式か。

「・・・分かったよ」

本部の屋上にジェットヘリで降り立ち、司令部に入ると、オスカーのデスクにはすでにドッグの姿があった。

てか、こっちの世界じゃ管理者って何やってんだ?

「おお来たか、病院って、一体何があったんだ?」

エンジェラと顔を見合わせると、すぐにエンジェラはポケットから母子手帳を取り出し、2人に見せた。

「・・・は?・・・え?」

「さっき支部の病院で診て貰った、8週だとよ」

「え?お前ら、そういう関係だったのかよ」

え、そこかよ。

「いつからだよ。2ヶ月前なんて、お前らがこの世界に来たくらいだろ」

一緒に居て気付かなかったのかよ。

「まぁ、ナオをスカウトしたくらいの時、からだな」

「な、な、何だよ。・・・部長、どうしますか」

しかしそれでもオスカーは慌てることはせず、ただいつものように眉間にシワを寄せ、小さくため息をついた。

「ディビエイト同士の、子供・・・か。分かってるだろうが、君らはディビエイトだ。君らは常に戦地へと赴き、戦闘をする」

そして雰囲気や自分自身が慌てないようにする為か、わざと低く落ち着き払った口調でそんな話をし始めた。

「あぁ、だからエンジェラは産休だろ?」

「君らは大事な戦力だ。出来れば失いたくない」

は?何だよそりゃ。

さすがにおめでとうは期待してなかったけど。

「・・・まさか下ろせなんて言わねぇよな?」

「君らの人生まで縛るつもりはない。だが、これは不測の事態だ。どうしたらいいか」

「心配すんなって、俺が2人分くらい軽く活躍すっから」

しかしオスカーは唸りだすと背中を向け、ドッグも腕を組むとその場の沈黙に戸惑いと賛同し兼ねるような空気を乗せていった。

おいおい・・・。

何だよ・・・。

「何とか言えよおっさん」

「・・・・・・なら、その子供を、研究対象にさせてくれないか」

「えっ」

「おい、何言ってんだよ、ふざけんなよ」

再び体を向けてくるものの、そのゆっくりな動作や相変わらずの厳粛さに、怒りと共に呆れさえ募る。

「研究対象といっても、こちらがやるのはただの保護観察だ」

「犯罪者じゃねぇよ」

「そういう意味じゃない、落ち着け。それに、君らは最初からすでに研究対象なんだ。子供だけ無関係とはいかない。しかも君らは生物兵器として研究され、細胞レベルで生物学的に進化している。もしかしたら、君らの子供は人間ではない可能性の方が高い」

ちっ何なんだよくそ。

「今、ディビエイトを増やす計画がある。ディビエイト同士の子供なら、その子供も戦わずにいられなくなってしまうかも知れない」

ちっ・・・子供が人間じゃない可能性?

確かに、エンジェラは元は人間だが、俺は・・・元々人間ですらない。

「研究対象にするって、ほんとにただ観察するだけ?」

エンジェラの問いにオスカーは研究という言葉に酔う人種が見せるような表情ではなく、ただどこか申し訳なさそうに頷いた。

「・・・その中で、1つ条件を満たして欲しい」

条件?

「それは?」

「・・・今から出産まで、龍形態でいることだ」

龍形態で・・・。

「龍形態で出産だって?」

「私の管理の下で、絶対に悪いようにはしない」

どっちみち、産まれてくるのは最初から人間じゃねぇだろうが。

だが・・・研究対象だと?

「あたしは良いよ」

は?

「お前」

「あたし、人間の醜い戦争が嫌いなの。だからディビエイトになった。あたしはもう人間じゃないし、赤ちゃんが醜い人間じゃなくなるのなら、そっちの方が良い」

くそ、何も、言い返せねぇ。

「総助、あたしは大丈夫だから」

・・・ったくしょうがねぇなぁ。

「・・・なら、俺からも条件を出す」

「何だ」

「産まれるまで、俺も龍形態でエンジェラの傍に居る」

「・・・分かった」

「でも部長、こいつの戦力こそ必要じゃないですか」

しかしオスカーはただ首を小さく振り、その厳粛そうに寄せたシワの中、まるで尊重を受け入れたような眼差しで黙って賛同を促した。

「あともう1つ」

「・・・何だ」

「龍形態になる前に、結婚式を挙げてぇ」

まるで想像してなかった答えに戸惑うように、オスカーはドッグと目を合わせる。

「そ、そうか、分かった」

龍形態で、出産か、10ヶ月も龍形態のままか・・・。

いや、龍形態の体格は人間の約3倍、それだけ妊娠期間も長くなるのか?

考えてみると、結構ヤバそうだな。

あ、龍形態で食って寝るってことか?

ホテルじゃ無理だな。



クルマが止まると同時に扉を開け、要人が出てくると素早く扉を閉めながら要人の斜め後ろにつく。

要人が建物に近付くと前に居たショウが入口の扉を開けたので、要人と共に扉を抜けるとすぐに要人の斜め前を歩く。

そして指定された部屋に入る要人を見届けたので、リッショウを解いて深呼吸する。

終わった・・・。

「もう十分様になってるわね」

「ほんと?」

ん?通信だ、エンジェラだ。

「もしもし」

「あたし。ちょっと今すぐ本部に来てくれない?結婚式やるから」

えっ、結婚・・・。



「いやぁ最近は戦争っぽい雰囲気が薄れてきたよなぁ」

「まぁ今じゃろくにディビエイトに挑んでくる奴がいないからな」

「この前なんて、ハルクが出ていった途端にグリーンの奴ら逃げていったからな」

タンクがそう言って余裕に浸っているような笑い声を上げ、シーティーにもそんな明るさに包まれていく中、ふと服の中から通信機の振動が伝わってきて、画面を見るとそこにはソウスケを示す文字が映し出されていた。

ソウスケ?

「ソウスケか」

「おうハルク。あのさ、ちょっと悪いんだが、あんたと仲の良いあの2人のディビエイトも連れて、本部に来てくれないか。今から俺、結婚式を挙げるんだ」

結婚式っ?・・・。

「おお、おめでとう。分かったすぐ行くよ。エイゲン達には言ったのか?」

「それは俺から言うから」

「分かった」

結婚か、少し急だが、まぁいいか。



全身鏡の前に立ちながら、ウエディングドレスの背中のチャックを閉めてやると、エンジェラは上げた前髪をティアラで留めた。

うおぉ・・・。

すげぇな。

おでこ出しても可愛い・・・。

「どうかな」

「すげぇ良いよ。やっぱレンタルして良かった、正に天使だな」

「あは。総助だって、タキシード、良い感じ」

「そうか?そりゃ良かった」

てか、何で本部に教会があんだ。

「2人共、結婚式が終わったら、戦線離脱のこと、ちゃんと言えよ?」

「分かってるよ。じゃ、行くか」

豪華さは無いが、何となく神秘的な雰囲気を出す模様の扉をドッグが開けたので、エンジェラと手を繋ぎながら、すぐに立ち上がってこちらに顔を向けた皆の下に歩き出す。

急だしな、音楽もねぇし歩幅だって普通だ。

だが、緊張がそのまま実感に変わっていく。

窓や照明にも豪華さは無いが、その規則正しい間隔と向きが鮮明な実感を湧かせる長椅子を抜け、そしてただ1つのステンドグラスに見下ろされた祭壇の前に立つ。

「エンジェラ、キレイよ」

「うん、ありがと」

声をかけたセレナを見ると、目を合わせたセレナは何よと言わんばかりに鬱陶しそうに目を細めた。

何だっつうの。

てか皆、普通の格好だしな、それに。

「さてと」

祭壇の向こうに着いたドッグは置いてある聖書をめくっていく。

ドッグが神父かよ、せめて軍服脱がねぇかな。

「えーっと?・・・これか、じゃ読むぞ?」

「あぁ」

「神々の御霊のお導きに。喜びと幸せをもってその聖声に尽し、捧がんことを。今、聖座に遣う総助、エンジェラに誓わさん。総助、いついかなる時も、エンジェラを生涯の妻とすることを誓いますか」

「誓います」

前置き、短ぇな。

「エンジェラ、いついかなる時も、総助を生涯の夫とすることを誓いますか」

「誓います」

「ん。じゃ、誓いの口づけを」

ん、って、まさかやっつけか?

聖書を閉じたその小さな音が妙に耳につく。

ふぅ。

エンジェラと向かい合ったとき、脳裏に浮かんだのは初めてエンジェラとキスをした光景だった。

あれが、まさかこうなるとは。

ん?こいつ、あの時から俺のこと好きだったのか?

脇腹に手を置いてきたエンジェラの肩を掴むと、目を閉じたその穏やかな表情が一瞬の覚悟を固めさせ、そしてその唇は唇と共に心の全てを引き寄せさせていった。

「じゃあいつでもどうぞ」

研究員の女性の一言にエンジェラが寝たまま龍形態になり、モニターにエコー検査の画像が映し出されると、その画像に目を向けた研究員の全員が安心感を噛み締めるような声を洩らした。

「問題は無いようですね」

やっぱりハルクは天使ですね。

あ、第十章終わりです。

次章はレッドブルー抗争が平行線の最中、根界では、という感じです。

ありがとうございました。

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