キングス・ウィズアウト・グリード2 エリート・エンジェルス
「まぁ慌てるな、天魔女王には私から話しておくから、まずはお前の力を見せなさい。これから傭兵として役に立てるだけの力があるかを試すための試練を与えよう」
「はい」
とりあえずは何とか上手くいきそうだな。
さっさと済ませて力貰って帰ろう。
「私を含めたそれぞれ三国の王から与えられた試練に耐えたら、傭兵として雇う。それで良いな?」
「分かりました」
そう応えると天王は小さく頷いた。
「よしじゃあ、戦闘能力に自信があると言うのなら、天使の兵士と戦ってもらおうか」
「はい」
執事を呼び寄せた天王が何やら指示を出すと、執事は階段を下りたすぐ脇の扉に入っていき、間もなくして床の下から何かの振動音が聞こえ始めるとエントランスにいる人達が壁の方に離れていった。
皆の避難が済むと、突如床から鉄の柱が天井に向かってゆっくりと飛び出し、振動音が止まる頃には幾つもの鉄柱はエントランスに巨大な円を描いていた。
まるで檻みたいだな。
もしかして、即席の闘技場といった感じか。
すると2階に続く階段の脇にある扉から、執事と共に3人の兵士と思われる人達が出て来た。
早速3対1か。
「この者達は我が天使軍の精鋭の三銃士だ」
銃を持っているようには見えないな。
「何だ、ほんとにただの人間みたいだな」
真ん中に立つスラッとした、佇まいから爽やかな気迫を醸し出す男性が最初に口を開いた。
3人とも体に巻いた白い布の上に白い鎧を着けているが、その鎧は最初に会った天使やエリカが着けていたものとは異なり、まるで体を守るためにあるような頑丈そうなものだった。
「天使は白が基調なんだね」
「あ、喋った」
すると左側に立つ、一見おっとりしているような雰囲気を感じさせる女性が何故か驚きの表情を浮かべながら口を開いた。
「そりゃ喋るだろうよ、悪いな、2人共変わり者なんだ」
右側の1番背が高くて体格も良く、いかにも力強い気迫を感じさせるような男性は穏やかな雰囲気を見せながら喋り出す。
「は?勝手に俺まで巻き込むなよ」
「2人共、始めるよ」
真ん中の男性が右の男性に向かって突っ掛かるが、そんな2人をよそにそう言い出した女性にふと目を向けると、女性の手にはすでに弓が握られていた。
おっと、また見逃した。
一体どこから武器なんて出したんだ?
「いや待て、まずは俺が行く」
見た感じ1番強そうだし、恐らく真ん中の人がリーダー的な存在なんだろう。
「おい、1人で行くのか?」
「様子見だよ。俺が押されたら、援護してくれ」
「ちょっとハルク、勝手に決めないでよ」
すると女性は真ん中に立つ男性をハルクと呼びながらその男性の腕を掴んだ。
「いきなり3人で行ったらフェアじゃないだろ?良いな?」
「オレは構わん」
「ちょっとヴィルっ」
右の男性の落ち着き払った態度に、左の女性は突っ掛かるように男性にそう呼びかけた。
「落ち着けミレイユ。隊長はハルクだ」
「・・・でも私達は3人でひとつなんだよ?」
それでもミレイユという女性は引き下がらないらしい。
「アルマーナ中尉、隊長の言うことは聞きなさい」
「はいっ」
優しく注意するような天王の一言に、ミレイユはすぐに黙り込んでヴィルの隣に並んだ。
「・・・ほんと天王様の言うことしか聞かないな、お前は」
ハルクの慣れ親しんだような呆れ顔に、ミレイユは軽くあしらうような笑みを黙ってハルクに返す。
「じゃ、そこら辺まで下がってくれ」
「あぁ」
異世界に来ても、やっぱりこうやって戦って道を切り開いていくしかないんだな。
そういえば、おじさんは誰かが異世界への道を繋げて欲しいと頼みに来ることは予測してたんだろうか。
「ルールは?三銃士を倒したら終わりなの?」
するとハルクは眉間にシワを寄せ、怒りと警戒心をあらわにするように睨みつけてきた。
「あぁ?倒すだと?ふざけるな。お前がやられる直前に天王様が止めて下さる。そこからお前を判断するんだ」
「そうか」
「そんなにも自信があるようだな」
頭上から天王の豪快な笑い声が聞こえてくる中、闘技場の中央でハルクと向かい合う。
「位置についたようだな。それでは・・・始めっ」
天王の声の直後に走り出したハルクは素早く拳を振り上げながら飛び掛かって来たので、氷牙を纏った直後にブースターを使ってハルクの懐に先制のパンチを打ち込んだ。
「ハルクっ」
ハルクが勢いよく鉄の柱に背中を打ちつけると、身を乗り出す勢いでミレイユが声を上げた。
「チッ・・・油断しただけだ」
もう不意打ちは出来ないな。
するとハルクの手元に突如どこからともなく剣が現れると同時に、ハルクがその剣を振り上げながら再び飛び掛かって来たので、氷槍を出し剣を受け止める。
これも、この世界じゃ普通なのか?・・・。
「あまり調子に乗るな」
ハルクが剣を氷槍に押しつけながらそう言ってこちらに睨みつける。
剣を弾くとハルクは回転して胴を狙って来たので、上に飛んでかわしながら胸元を蹴りつけると、少し後ずさりしたもののハルクは怯むことなく再び剣を振り下ろしてきた。
ブースターで回転してそれをかわしながら氷槍を脇腹に向けて振り回すが、ハルクはとっさに腰を落としながら肘を曲げ、氷槍を受け止めた。
そしてすぐさま振り回された剣がこちらの脇腹に当たると、まるで何か大きな力によって押し出されるようにそのまま体は飛ばされた。
「チッ・・・硬いな」
腕力だけでこんなに衝撃があるものなのか?
ブースターで反動を相殺して体勢を立て直しながら、そのままブースターを噴き出し一気に距離を詰め、氷槍を突き出す。
しかしハルクに間一髪でそれをかわされると直後に膝でみぞおちを蹴り上げられ、体は勢いよく真上に打ち上げられた。
なるほどこれが天使の力かな。
こちらを見据えるハルクは素早く手に光を集めると、その光を球状にして飛ばしてきたので、紋章を出し難無く防ぐが、紋章に激突した光の球は視界の大部分を覆うほどの光の爆風を生んだ。
こんなことも出来るのか、突っ込むだけじゃないんだな。
落ちながら氷槍を振り下ろすとハルクは剣で受け止めたので、ブースターを噴き出して縦に回転し、ハルクの背中に思いっきりかかとを叩き落とした。
しかしハルクは前に飛ばされたものの受け身をとって素早く立ち上がると、まるでダメージを感じさせないような力強い眼差しをこちらに向けた。
結構鎧硬いな。
「しぶといな」
そう呟いたハルクは再び走り出してきたので、剣を振り上げたその瞬間を狙って、ブースターで勢いをつけながら氷槍を横から剣に叩きつけた。
「くそっ」
思わずハルクが剣を手放した隙に紋章を重ねた氷弾を撃ち、吹き飛んだ瞬間にもう1発ハルクの胸元に氷弾を撃ち込む。
すると我慢出来なくなったのか、ミレイユが前に出て来て光で作った矢を放って来たので、ブースターで素早くそれを避けながら氷弾で応戦していく。
弓を使うならミレイユは遠距離攻撃が主体なのか。
軽い身のこなしで氷の弾をかわしていくミレイユに再び氷弾を撃ったとき、ヴィルが氷の弾を叩き落としながらこちらに向かって走り出してきた。
次はヴィルが相手みたいだな。
ヴィルは大きく拳を振り回してきたので紋章で受け止めるものの反動が強く、思わず少し飛ばされてしまう。
さすが、見た目からして豪快だな。
ヴィルは反撃の隙を与えないように間髪入れずに殴り掛かってきたので、拳をかわすと共にブースター全開で回転して勢いをつけた拳をヴィルのみぞおちに突きつけ、すぐさま突き出した拳からヴィルに向けて氷弾砲を撃ち放った。
ヴィルが飛んで行った方を見ると同時に、ミレイユが大きな光の矢を放つ姿がちょうど視界に入る。
避ける間もなく直撃を受けると、先程よりも太い光の矢はまるでガラスが一瞬にして砕け散るように光を瞬かせながら、強く重たい風圧を感じさせた。
矢を爆発させることも出来るのか・・・。
ブースターで反動を相殺していき、倒れることなく体制を立て直していると、ハルクが起き上がり、床に落ちていた剣を拾い上げながら走り出してきた。
まだ動けたか。
ハルクに氷弾砲を撃つが、すぐさまミレイユが光の矢を放つと、光の矢はハルクのすぐ目の前で氷の弾を破裂させた。
すると光が飛び散る氷の破片で乱反射を起こし、辺り一面が一瞬だけ眩しくなった。
その隙にハルクとミレイユが居た方に氷弾砲を撃ち、直撃した2人が吹き飛ばされていった後、ヴィルが辛そうに立ち上がったが、その時に天王の終了の掛け声がエントランスに響き渡った。
「くそぉっ」
しかし怒りを力にしてか素早く立ち上がったハルクはそう声を上げながら走り出す。
「止まれっ」
天王の重たい声がエントランスに響くと、ハルクは我に返ったのかすぐに足を止めた。
「もう良いと言った」
「ミレイユ、大丈夫か」
「・・・うん」
ヴィルがミレイユに歩み寄ると、ミレイユはヴィルの手を借り立ち上がるが、ふとかいま見えた2人の表情からはさほど疲労感が伺えなかった。
「人間よ」
鎧を解き天王の下に歩み寄る。
「はい」
「そういえば、お前、名前は?」
「氷牙です」
顎ひげを触りながら、天王は何やら険しい表情でこちらを見下ろしている。
「そうか・・・まさかこれほどの者とは・・・良いだろう、私はお前の力を認めよう」
「ありがとうございます」
「三銃士の諸君、良くやった。心からお前達を労おう」
「ありがたきお言葉」
ハルクが怒りを押し殺すように呟き頭を下げると、床の底から振動音が鳴り出すと共に、円を描いていた鉄の柱が次々と床に引っ込み始めた。
「氷牙よ、魔王に連絡したら使いの者に魔界へ案内させるから、それまで待っていなさい」
「はい」
最初の試練はクリアしたみたいだけど、何か呆気なかったかな。
天王が王座の後ろにある扉に去って行くと、ハルクが睨みつけるような眼差しをこちらに向けながら近づいて来た。
「お前・・・」
「何?」
「俺らの力はこんなものじゃない、覚えておけ」
そう言い捨ててハルクが歩き出すと2人は後に続き、3人は階段脇の扉へと去っていった。
手加減してるようには見えなかったけど、氷弾砲を直に食らってもハルクはすぐに立ち上がってたよな。
天王が止めたタイミングが腑に落ちないのかな。
何かの視線を感じる気がするので後ろを振り向くと、そこには最初に会った天使がいた。
「あの時の天使さんか」
「見てたけど、強いんだね」
「まぁね」
「異世界から来てたんだね、死神と戦ってたから不思議に思ってたの」
天使はまるで警戒心のない笑顔を浮かべながら話しながらも、やはりどこか物珍しそうにこちらを見ている。
この世界じゃ、異世界というものに抵抗はないのか・・・。
「そうなんだ。この階層には人間はいないの?」
「うん、人間は下にいるから。人間は命を落とした時だけ上に来るの」
「そうか」
人間にとってはここは死後の世界だなんて・・・ちゃんと帰れるかな?
いや、階層は違っても同じ次元だから、ゲートを使えば死ななくても来れるということなら、心配は要らないんだろうけど。
「見た目は人間と変わらないんだね」
「うん、魂は同じだからね」
「そうか」
魂は同じ?・・・死んだ人間が魂だけになってここに来るなら、この世界の住人も魂だけの存在なのか?
「お待たせ致しました」
声の方に振り向くと、そこにはいかにも執事を思わせるような物腰の、薄手の黒い鎧を着たの中年の男性が立っていた。
「これはお姫様、ごきげんよう」
その中年男性はそう言いながらかかとを揃えると、その天使に向かって丁寧に軽く頭を下げた。
「あ、うん、もしかして迎えに来たの?」
「そうでございます」
お姫様?
「天使さんってお姫様なの?」
「うん、今の天王は私のパパなの。恥ずかしいからあんまり言わないでね」
やっぱり身分が高かったんだな。
「そうか」
通りで門番がかしこまっていた訳だ。
「私のことはアリシアでいいよ」
そう言ってアリシアと名乗った天使は満面の笑みを浮かべる。
「分かった」
「それでは参りましょうか」
「あぁ」
「執事さん、私もついて行って良い?」
歩き出した時にアリシアが口を開くと、すぐに執事の男性はアリシアに体を向け微笑みを向ける。
「はい、勿論構いませんよ」
アリシアと共に執事について歩き出し、城から出て街を見渡すと、天使の他にも悪魔や天魔と思われる格好の人達がちらほらと見えた。
エントランスの床から出てくる柱はボタンひとつで動く電動式。機械的な雰囲気を見せない内装は王の趣味でもあり、伝統でもある。
ありがとうございました。




