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事件の始まり

大丈夫かなエンジェラ。

支部が襲撃されたなんて。

「何をしている」

あっ。

クルマを降り、迷惑そうにこちらを一瞥する中年男性がクルマから降りるのを見てから扉を閉じる。

そのまま中年男性の斜め後ろにつきながら、大きなホテルに入り、きらびやかなシャンデリアが目を引くエントランスを進んでいく。

このスーツ、少し堅くて動きづらいな・・・。

護衛なら動きやすい服の方が良い気がするけど。

エレベーターの扉が開いたので入ろうとした瞬間、腕を引っ張られたのでふと我に返ると、中年男性は再び迷惑そうにこちらを一瞥しながらエレベーターに乗っていった。

今日は確か、ナオは山沿いの街に行くって言ってたな。

今度ナオに新しく魔法教えて貰おうかな。

「おい」

あ。

部屋の扉を開けて中年男性を部屋に入れ、閉じた扉の前に立つ。

「ふぅ」

「疲れたか?」

優しく声を掛けてきた、常に気を張るように表情を引き締めるユガに顔を向けるが、ユガはこちらに顔を向けずただ廊下を見渡している。

「うん。こういうの初めてだし」

「ハオンジュと言ったか、ディビエイトだからといって関係はない、私達の任務は要人警護、雑念は捨てろ」

「・・・うん」

ソウスケとセレナが基本的にAKの任務なんて、ちょっとずるいな。

私だってちょっと強くなったのに。

でもこの暇な時間は、リッショウの鍛練にはちょうどいいかな。

遠くの階段を上がるウェイターの息づかいまで感じていく中、ふとユガの目尻に染み付いた小さなシワに目が留まる。

「何だ」

「え・・・別に」

中年なのにこんな仕事が出来るってことは、け。

「雑念を捨てろ」

ふぅ。

「うん」

ん?・・・。

真っ白いタオルが大量に入れられた、タイヤの着いた大きな箱を押してくるウェイターの息づかいに妙な違和感を覚えたが、その直後、ウェイターが来る方とは逆の方から突如殺気が尖り出した。

えっ。

素早く顔を向けるとそこには1人の女性が居たが、直後に潰れた銃声は瞬時にユガを押し倒した。

ユガっ。

突如潰れた爆音と共に背中に凄まじい衝撃を受けて思わず廊下を転がると、目を向けたタオルの箱からはウェイターではない武装した男性が出てきていた。

そんな・・・。

「ちっ・・・最新式の衝撃爆弾だろ?立ち上がるって何だよ」

爆弾?最大限のリッショウなのに、こんなに吹き飛ばされるなんて。

「翼」

その瞬間に潰れた銃声が響き、額を撃たれた武装した男性がタオルの箱の中に倒れると、その一瞬、全ての目がユガに向けられた。

・・・あ。

手から放ったプラズマで女性を吹き飛ばしたとき、ウェイターが素早く銃を取り出すが、倒れたまますかさずユガが発砲し、ウェイターは力無く倒れ込む。

「ユガ」

「問題無い。防弾チョッキくらい着てる」

そう、なんだ、良かった。

「こちらユガ、処理要請」

同じようにスーツを着た人達が襲ってきた人達を運んで去っていき、しばらくして耳に入れた通信機から声が聞こえるとユガが部屋の扉を開けた。

ここであった惨劇など、全く知らないような顔で歩いていく中年男性の斜め後ろを歩きながら、ふと銃を取り出したときのウェイターを思い出す。

血の臭いもまだ少し残ってる。

なのに、まるで何事も無かったように歩いてる・・・。

ホテルを出ると、すぐ目の前に停められた2台のクルマの傍には、ユガと同じような佇まいのスーツの女性が居た。

「ハオンジュ、あなたは帰還命令が出てるからここからは私が引き継ぐ」

「うん」

達成感からなのか、解放感からなのか何となく清々しさを感じながらユガ達と要人がクルマに乗り込むのを見た後に、もう1台のクルマの扉を開け、運転席の隣に乗りながら扉を閉める。

その直後、前のクルマの窓から爆炎が吹き出し、扉と共に屋根の半分が吹き飛び、そしてクルマの中からもぎ取られた扉と共にユガが飛び出した。

・・・・・・ユガ。

「ユガぁっ」

扉を開けたときにユガが動き出したので、とりあえず引きずってユガをクルマから離す。

「ユガっ」

服は焼け、肩はあらわになり、顔の半面が血に濡れているユガはふと唇を動かした。

「要・・・請」

「こちらハオンジュっ救援要請っテエラホテルで爆発があって、ユガが」

「落ち着きなさい、すぐに救急車が向かう。ユガの容態は」

「今、意識を無くした」

一体、どうしてこんな・・・。

ふと先程の女性が脳裏に浮かぶと、無意識にもう1台のクルマに目を向けていて、何となくクルマに近づくと運転席に座る男性はまるで眠るようにうなだれていた。

最初から、死んでた?

さっきの女の人は、襲ってきた人達の仲間か・・・。

救急車というクルマが来ると後ろの扉へとユガが運び込まれていき、スーツの人達がもう1台のクルマや爆発したクルマから遺体を引き出していく中、ふと青い袋に入れられていく、丸焦げの女性の遺体を見ていく。

「ねぇ」

目も向けずに話しかけた人を見ることすらせず、何となく爆発したクルマを見つめる。

「何で私の名前知ってたのかな」

「誰が」

「あの青い袋に入れられた」

「カズラさんだ、同じ班の」

何だそっか。

「何で、こんなことになったのかな」

沈黙が訪れたのでふと顔を向けて見ると、その男性は張り詰めた表情のままゆっくりと遠くを見つめていく。

「相手がエネルゲイアなら、想定外のことが起きても不思議じゃない」

エネルゲイア・・・。

「マロウ、いい加減認めたらどう」

そう呼びながら男性に歩み寄った、短めの髪が特徴的な女性に、マロウと呼ばれた男性は素早く強気な眼差しを返す。

「ショウさん。カズラが、スパイだったってことですか」

「エネルゲイアなんかじゃない。もっとシンプル。最初から、カズラはスパイだったんだ。証拠だってあるじゃない」

「でも黒幕は・・・」

「これで正式に調べさせてくれるでしょ」

スパイか、さっきの部屋の襲撃は、気を緩ませる為のものかな。



「うわぁ・・・すごーい」

終始窓にへばりついているユリから、同じように窓に両手を着き、めまぐるしく流れる景色を眺める子供に顔を向ける。

「ほらちゃんと座りなさい」

小声でそう言いながら子供のズボンを引っ張る親から、その子供と同じような体勢で窓にへばりついているユリに目線を戻したとき、ふと別の車両からカートを押してくる売り子の女性が入って来たのが見えた。

駅弁あるかな。

「リーチ、駅弁食べたい」

「そうか」

「私も食べたいっルケイルは?」

「私はいい、少し眠る」



何だよ、くそ、この俺があの白い竜だけじゃなく、でかい竜にも敵わないなんて。

建物こそその戦いの被害はそれほど受けなかったが、そのキレイな街並みの敵地に見える死人や怪我人の多さに敗北感はより引き立たされた。

「おい火爪、こいつら運べよ」

「・・・あぁ」

手首から蔦を出し、気絶している数人を医療班人達の近くに並べていくと、すぐに医療班のストロベリーが怪我人達を赤い光で包んでいく。

しかし怪我人の中の1人を包んだ赤い光がすぐに蒸発するように消えると、その様を見た医療班は悲しみに暮れるように座り込んだ。

くそっ・・・。

「間に合わなかった・・・」

「よぉ・・・」

振り返ると、そこには足を引きずりながらも陽気に笑って見せているデレースラが居た。

「火爪・・・ふっ」

「お前も随分やられたな」

「死んだ奴、燃やしてやれよ」

「俺は火葬屋じゃねぇ」

「だってお前、カソウだろ?はは」

「良いからさっさと治して貰えよ」

デレースラと共にシールキーでホールに戻り、階段でエントランスに降りると、死体安置室へ続く廊下の前にはストロベリーが立ち尽くしていた。

「戻ってたのか」

「・・・火爪くん、あたし、もう嫌だよ、目の前で人が死ぬの」

戦える奴より、治療役の奴が戦場に行く方が残酷だよな・・・。

「けどなぁ、オレだって、お前の光が無かったら、こうしてここには居られないんだ、まぁこいつは不死身だから良いけどさ」

「不死身でも、勝てなきゃ意味ねぇ」

いよいよ、鉱石、もう1つくらい使わなきゃなんねぇか。

俺も氷牙も、犠牲払って力手に入れた分、覚醒がないし。

せめて氷牙が居れば・・・。

2人と共にホールに上がったとき、離れた位置でもすぐにそのアロハ柄の服が目についた。

何だあいつ。

「おぉ居た居た」

「シドウ、てかお前ここの所属じゃねぇだろ」

「まぁお前に用があんだよ」

「あ?その前に何でスーツの柄がアロハなんだ」

「ははっいやぁこの前、白い竜に焼き尽くされたからな、新調した」

白い竜・・・。

「戦ったのか?」

デレースラ達が椅子に座るのを見ながら、シドウはテーブルに寄りかかり、いつものような余裕に満ちた態度を見せる。

「お前が負けたっつうからな、けど俺もやられたよ」

負けたのにその態度、まったく相変わらずだよな。

「てか、裏地に柄入れるんなら分かるけど、スーツの全面にアロハって、目立つだろ」

「いや目立った方が良いだろ」

はっ何だそりゃ。

「んで?用って?」

「ディビエイトに対抗する術が分かった」

何っ・・・。

「まじかよ、何だそれ」

「あいつらの弱点は、胸の赤い宝石だ」

胸の赤い宝石?

「いや、テレビを見る限りじゃ」

「あぁ、オレらの攻撃はそれに吸い取られる。だったら、その宝石を壊しゃいい」

なるほど・・・。

「どうやって?」

デレースラがそう聞くと、シドウはその余裕に満ちた表情を更にニヤつかせた。

「実弾で、撃ち抜く」

んー・・・。

「VRSでな」

ブイアールエス・・・?

「何じゃそりゃ」

「バキューム・ライフリング・システム。要は真空の圧力を利用したライフルだ。魔法系はダメだからな。そんで武器ごと姿を消せる奴が居れば問題無いだろ」



小さく手を挙げたソウスケの下に降り立ち翼を消すと、すぐにその表情には、常に見せている凛々しさとは別に若干の神妙さが伺えた。

「よぉ」

「あぁ、ソウスケの所の被害はどんな感じなんだ?」

「まぁ無差別にやられたって感じだな。そっちもか?」

「あぁ、人数は」

「3人だったが、1人仕留めた」

「おおっそうか、どんな奴らか分かったのか?」

「いや、今調べてるみてぇだが、行ってみるか?」

支部に入ると建物の損傷は無いものの、所々には若干の血生臭さを纏う血で濡れたような場所があり、ふとモップで床を磨く人を見ながらエレベーターの前で立ち止まる。

ここでも、無差別に虐殺か。

戦争だからといって、許せるものじゃない。

戦争は、殺し合うためにあるんじゃない。

分かり合えることを知るために、戦争があるんだ。



広いガラスの壁の向こうで、機械に繋がれながら寝かされているユガを見ていたとき、静寂を小さく裂くように開いた自動ドアからは、マロウとショウが居た。

「ハオンジュ、あなたはその力を活かして引き続き要人警護を。スパイは私達が捜すから」

「うん。でも、もしエネルゲイアが絡んでたら?」

「最優先は要人警護よ。ディビエイトはこっちに回せない」

「なら仲間をもう1人手伝わせる。それなら私はあなた達を手伝えるでしょ?」

まるで癖になっているかのように、常に表情を引き締めている2人は顔を見合わせると、こちらに目線を戻したショウはふと気が緩んだような微笑みを見せた。

「もう仕事が嫌になった?」

えっ・・・えっと。

「ふふっ」

あ、初めて笑った。

「まぁ良いか。じゃあ、すぐに呼んでくれる?」

「うん」

えっと、ドラゴンに電話すればいいかな。

「・・・もしもしドラゴン?」

「何かあったのか?」

「ナオにこっちのこと手伝わせたいの」

無意識に広いガラスに触れながらユガに顔を向ける。

「要人警護にディビエイト2人も要らないだろ」

「ううん。私はスパイを捜すために動くから」

「・・・スパイ、か・・・」

「もしエネルゲイアが絡んでたら、みんなを守る人が必要でしょ?」

「・・・分かったよ。そっちの警護課には多分20分くらいで着くだろう」

「うん」

2人と共にクルマに乗り込み病院を出て支部の1階にある警護課に戻ると、すでにそこにはナオが居た。

「ナオ」

「うわぁ、ハオンジュ、スーツわりと似合うね」

わりと?・・・。

「それじゃ先ずはあなたも着替えて」

「はい」

ショウがナオを連れて奥のロッカー室に去っていくのを見届けたときには、すでにマロウは自分のデスクの前に座っていた。

そうだ、エンジェラに電話してみよう。

「・・・もしもしエンジェラ?」

「うん」

「そっち大丈夫?」

「まぁ、エネルゲイアにやられた訳じゃなかったし、そんなには被害は無かったよ」

良かった。

「そっか良かった」

「そうだ、ハオンジュ、今度女だけで集まろうよ」

「・・・うん」

こんな状況でもそこまで余裕が溢れてると、こっちもちょっと元気出るかも。

ナオがスーツ姿で戻ってくると、嬉しそうで照れ臭そうなその微笑みに、ふとヘイトを思い出した。

ハオンジュのスーツは勿論パンツスタイルです。ハオンジュのスーツ姿、個人的には期待大ですね。笑

ありがとうございました。

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