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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
第十章

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イン・ウィンドビレッジ2

「総助あれ」

レストランの内装の一部が分かる写真と料理のジャンルが書かれた案内図の前に立つと、すぐにエンジェラはあるレストランを指差した。

「いかにも高級そうだな」

「もう予約してるけど」

まじかよ。

「やだ?」

「いやいや全然、まぁ緊張はするけど」

案内された席に座りながら、すべてが漆塗りされたような色の椅子とテーブルを眺めていく。

ジャンル見ても分かんねぇしな、コースか、それとも単品系か、いやコースしかねぇだろうな。

「すごいね」

「あぁ」

それにしても、こいつ。

「なぁ、服とか、この世界で買ったのか?」

自分の体に目線を落とすと、エンジェラはそれがまた可愛く見えるほど照れるように表情を綻ばせながら小さく頷く。

「変?」

「いや、びっくりした。すげぇ可愛いよ」

「あは」

水が入った大きなポットとコップを置いたウェイトレスと、入れ替わるように来たウェイターに渡されたメニューを開く。

写真はねぇのか・・・。

じゃあオススメ作戦だな。

「なぁ、まさかメニューも決めてるのか?」

「うん。コースで予約したけど、内容は決まってないよ」

そこは決まってた方が良かったな。

「そうか。俺、この国の言葉はよく読めないんだ。好き嫌いはないから、オススメでコースを組んで貰っていいか?」

「はい、かしこまりました。ではメインはお肉とお魚、どちらに致しますか」

「肉で」

「ではお肉料理に合わせる前菜と致しましては・・・」

注文を終え、ウェイターが去っていくと、すぐにエンジェラはまるで感心するような微笑みを見せてきた。

「総助、そんな良い頼み方知ってるなんてすごいね」

「前に、ハオンジュと飯食ったときにも同じようなことがあったからな」

するとコップとポットに手を伸ばしたまま固まったエンジェラは、すぐにその眼差しにいつもの若干の鋭さを見せた。

「デートしたんだ?ハオンジュと」

「何でだよ。チーム合同作戦のときに飯食っただけだ」

「あー」

斜め上に目線を向けたエンジェラを見ながらハオンジュを思い出していたとき、ふと遠くのテーブルに座るカップルがこちらを見ていたのに気が付いた。

人間に戻ったときに見られてたりするんだろうか。

もしその時に週刊誌に撮られてたりしたら、ちょっとまずいよな。

しばらくすると長いメニュー名ということしか分からない前菜が運ばれたので、フォークとナイフを取り、何やら綺麗な緑色のソースを被った丸いものにフォークを刺していった。

「・・・んんー美味しい、総助、これすごい美味しいよ」

「うん」

緑色のソースはやっぱりほうれん草っぽいが、すげぇコクがあって、何か野菜の味とデミグラスソースのコクが上手く混ざったような感じだ。

「ねぇ、総助、あれ使った?」

「あれって何だよ」

「ソークアップ」

・・・無敵の裏技か。

「いや、使うほど強い奴がいなかった」

「そっか」

「使ったのか?エンジェラ」

「ううん、テレビでハオンジュが使ってたのを見た。そしたら、ハオンジュの翼が変わったの」

翼が、変わった・・・。

進化?・・・。

「まぁ、吸収するって言うくらいだからじゃねぇかな」

変わるのか・・・つまりやればやるほど強くなんのか?

「ハオンジュと連絡取ってるのか?」

「そりゃ取るよ。さっきも電話したし」

そうなのか。

しばらくして部屋の前に立ったエンジェラが取り出した鍵を改めて見ると、丸い持ち手の先にあるそれは凹凸の無い、正にただ真っ直ぐな棒状をしたものだった。

鍵じゃねぇだろ、それ。

しかしエンジェラがただの棒を鍵穴に挿し込むと、鍵穴の隣にあるランプは鍵を開けるような音と共に緑色に光ったので、平べったい縦長のドアノブを引くと、扉は静かに難無く開かれた。

内蔵型のセンサー的なもんか?

「美味しかったねーあのお肉、さすが一流ホテルだよ」

「あぁ、あんな旨いもん食ったの初めてだ」

ベージュを基調とした、パッと見て学校の教室を思わせるほどの広さを有し、大きなテレビ、L字の黒いソファー、カウンターで仕切られた書斎、パソコン、そしてクイーンサイズくらいのベッドが1つだけある部屋を見渡す。

「また豪勢な部屋取ったなぁ」

「だってお金は全部国が払ってくれるんだし、せっかくならとことん使いたいじゃん」

生物兵器であるディビエイトへの特別待遇ってやつだよな。

バスルームの扉を開け、トイレの無いバスルームを軽く見渡す。

「でもね、この国以外の土地とか家は買えないんだって」

「それって、ドッグから聞いたのか?」

「ううん、試しにオスカーさんに聞いたら、詳しく教えてくれたよ」

何だよあのおっさん、結構大事な情報だろそれ。

「あ、まだニュースでやってるかな」

テレビの隣にあるリモコンを取ったエンジェラを見ながらソファーに座ると、テレビを点けて戻ってきたエンジェラはこちらの片膝の上に座り、そしてそのまま頭を肩に乗せてきた。

「でも元々ドッグとかそれぞれの管理者に聞けば教えてくれるんだって」

え、てことはドッグが言い忘れたってことだよな。

エンジェラがドラマやバラエティーにチャンネルを変えていくと、何回目かにちょうどニュースの画面に切り替わる。

しかし画面の中に映っているのは、右腕を機械で覆った姿をした龍形態のディビエイトだった。

「あ、セレナ」

セレナ?あの女だよな?

あいつは確か右腕の怪力が武器なんだよな。

どこからか発射された巨大なミサイルを直に受け、大爆発に巻き込まれるセレナだが、その瞬間に画面いっぱいに広がった爆風を胸の血晶に吸収したセレナの右腕は突如巨大な砲身となった。

お?拳が大砲に・・・。

そして右腕を突き出したセレナはその砲身からミサイルではなく、瞬間的に広範囲を凄まじく破壊する爆風を吐き出した。

うわ、俺より派手に街壊してんじゃねぇか。

「以上がレッドワイバーンが新しく開発した生物兵器、ディビエイトの全貌ですが、このディビエイトがレッドワイバーンを救う救世主となるか破壊者となるか、今後の活躍が期待されます」

あーあ、あの女、派手にやり過ぎたな。

「セレナ大丈夫かな?ああ見えてほんとは傷付きやすいんだよね」

「そうなのか?」

全然そんな風には見えなかったが。

てか結構AM作戦やってる奴いるんだな。

「今度みんなで一緒に会いたいな」

「全員で?」

「んーそれも良いけど、女だけで」

えーと、エンジェラと、セレナと、ハオンジュとナオと・・・。

あれ、ハルクと一緒に居た奴、何ていったっけ。

「なぁ、ハルクと一緒に居た女の名前も知ってんのか?」

「うん。リリーっていう子だよ」

「よく知ってんな」

「女同士はねぇ、すぐ仲良くなるもんなの」

まぁ分からんでもねぇけど。

おもむろにエンジェラは体の向きを変え、向かい合うように膝の上に座り直してくると、少し見開いたその目でバスルームを差した。

「お風呂入ろ?」

「てか浴槽にお湯溜めねぇと」

浴槽にお湯を入れ始め、ソファーに戻るとすぐにエンジェラも再び膝の上に座ってくるが、その時に突如玄関扉からベルが鳴る音が聞こえてくる。

何だ、インターホン、だよな?

「えー」

再びベルが鳴ったので仕方なく立ち上がり、扉の中央の小さなレンズから廊下の覗く。

「はい?」

「ルームサービスでーす」

「いや頼んでないけど」

「無料サービスですので、お客様全員にお配りしております」

てかこの女、レストランで見た奴に似てるような・・・。

ふとバスルームから浴槽にお湯を入れる音が耳についたとき、何となく胸騒ぎが水音と共に小さく沸き立った。

「総助?」

「ちょっと待ってくれ」

扉から離れ、何も感じていないような表情のエンジェラを玄関から見えない場所まで下がらせる。

「レストランの客に居た奴が制服着てる」

「ほんとに?」

「エンジェラはここにいろ」

リッショウをしてから扉を開けるが、軽く頭を下げた女は特に目立つ動きは見せず、ただ何やら2枚のチケットを差し出した。

「朝食の際の、全レストランで使える割引券と、ルームサービス等で発生する料金の割引券でございます」

「あぁ、どうも」

本物っぽいな、これ。

「なおこちらの朝食割引券は明日限定のものですので、お使いの際はお気をつけ下さいませ。ルームサービス割引券はチェックアウト時にお渡して頂ければ対応致します。では失礼致します」

しかし女は1歩も動くことなく再び軽く頭を下げると、そのまま静かに扉を閉めた。

え、今渡す必要あったのか?

だいたい受付の時に渡すもんじゃねぇのか?こういうの。

何となく振り返ったとき、突如潰れた銃声と共に額に小さな衝撃が突き刺さるが、よろめくこともないその衝撃を感じながら目の前を見ると、そこには形こそ見えないが人型の気配を感じる何かがあった。

再び鳴り出した潰れた銃声の中、気配の腕辺りを掴むとやはりその感触は人間のものだった。

「くっ」

見えなくとも掴めているその腕を引っ張りながら、その気配の腹辺りに向けて拳を突き出す。

直後にまるで力が抜けたように倒れ込んだその気配は色づくと、それは気を失っている若い男になった。

「総助」

何だよこいつ。

「まぁ尾行、されたんだろうけど」

一体、どこから。

「ねぇ、早く部屋から出してよ」

「あぁ」

男を向かいの部屋の扉に寄りかからせ、部屋に戻って浴槽に入れているお湯を止める。

さすがにちょっとこのまま無警戒ではいられないよな、あいつも守らなきゃなんねぇし。

「お風呂のお湯入れた?」

「あぁ・・・けどあんまり無警戒なのもまずいだろ」

応えながらバスルームを出るが、すでにエンジェラはワンピースを脱ぎ、下着姿になっていた。

「分かってるよ。でもムード壊されるのだけはやだ」

そりゃあ・・・。

「あたしだって、最初からずっと無警戒でいる訳じゃないし。あたしだってちゃんと分かってるから」

そう言いながら歩み寄ったエンジェラはTシャツの中に手を入れてくる。

「・・・分かったよ」

「ほら、早く脱いでよ」

ソファーに座るときと同じように胸に寄りかかってくるエンジェラと浴槽のお湯に浸かりながら、ふと破壊されたビルの屋上から一瞬で姿を消した1人の女とアロハシャツの男を思い出す。

「総助、このままずっとホテル暮らししない?」

「それはいいけど、また襲われるんじゃねぇか?支部のホテルでもいいだろうよ」

「それじゃ雰囲気が出ないじゃん。家くらい、軍支給じゃないのがいい」

んーまぁそれもそうだなぁ。

バスローブを着てリビングに戻りながら、ふと携帯端末に届いていたメールを開く。

ドッグか・・・。

「明日の場所?」

「あぁ・・・サローランドだってよ」

って、AM作戦の時の場所か、防衛でもすんのかな。

すると同じくバスローブのエンジェラはパソコンの前に座り、キーボードを素早く打ち込み始めた。

「・・・あー海沿いだね。明日の晩ごはんは魚介かなぁ」

「たまには自分で作りてぇよ」

「ああうん、そうだね」

金持ち同士の喧嘩ねぇ、このままただ戦っていくだけなのかな・・・。

「・・・おーい」

ベッドの布団をめくりながらエンジェラと顔を合わせると、すぐに立ち上がったエンジェラは嬉しそうにベッドに飛び乗り、バスローブを脱いだ。

携帯端末の着信音でふと目が覚め、ベッドから出ずにサイドテーブルの上の携帯端末を取る。

ドッグか?・・・んだよ。

「・・・おい、今どこだっ」

「あー・・・ウィンド・・・ビレッジホテル」

「すぐにロンテリア支部へ行けっエネルゲイアに襲撃されてんだっ他にも襲撃されてる支部が幾つかある。あ、あと、エンジェラと連絡がつかない。あいつの配属支部もやられてる」

襲撃だと?やべぇなそりゃ。

「分かったすぐ行く」

何だよ一体。

「おいっエンジェラ」

「・・・んー?」

「支部が何ヶ所か同時に襲撃されてるらしい、俺のとこもお前のとこもだ。ドッグがすぐ行けってよ」

パンツを穿き、エンジェラの下着を未だ枕に頭を乗せているエンジェラに軽く投げ渡す。

「・・・朝ごはんは?」

「そんな暇ねぇよ。とりあえずはまだここチェックアウトしない方がいいかもな」

Tシャツを着ながら、下着を着けていくエンジェラの前にワンピースを置く。

「じゃあまた夜はここだよね?」

「あぁ」

ホテルで目覚めるシーンはちょっとアメリカンな感じにしたつもりです。笑

ありがとうございました。

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