ムーブメント
「まあな。カムイにはランクもあり、人それぞれ形も違う。知ったところで俺には勝てないが、気になるのか?」
「僕気になる」
「そうか・・・じゃあまあ教えてやるよ。俺のカムイは気迫だ」
気迫が、あの見えない何か?
「俺の気迫は剣であり槍であり、盾であり鎧でもある。呼吸するように軽く意識してやれば俺の気迫は何にでもなる、そんなとこだ。さて、これからお前らを連行する。抵抗出来ないって分かってんだ、それに殺そうってんじゃないんだから、大人しく来いよ、いいな?」
まあいいか。
その瞬間に空から光の球が地上に降り立つと、その光は一瞬にして消えライフとなった。
「お、何だよ」
間もなくして別の方から感じ慣れた気配が近づいてくるのが分かると、そちらからも光の球が飛んできてユーフォリアが姿を現す。
「アレグリア見っけ」
「え?何だよ」
続いてハクラとジアン、そしてシエノがユーフォリアの下に合流すると、ハクラ達を見たアレグリアの表情はすぐに驚きに染まった。
「おい、何でそいつら・・・おいライフまさかお前」
「あぁ、転生させた」
「いや意味分かんねぇよ、何でだよ」
アレグリアが詰め寄るものの、ライフはまったくもっていつもの落ち着きに満ちた態度でアレグリアを見つめてから、ゆっくりとこちらの方へと目を向けていった。
「それが定めなんだろう」
するとアレグリアはまるでその言葉にうんざりするように目を閉じ、脱力感を伺わせたその態度から殺気を消した。
「・・・まあいい。けどこれからこいつらを連行する。邪魔すんなよな」
「いや、それは無用だ」
「バカヤロウ、無用じゃねぇよ、ガーディアンズの連中を殺したんだ」
「それは何故だ」
「何故って、そりゃあエターナル絡みだろ」
「ガーディアンズには悪いが、その問題はこっちにだって非があるだろ。それに、さっき見えた。こいつらが今ユートピアに向かうのは、定めじゃない」
見えた?・・・。
「あーだりぃ、またそれかよ、くっそ、やってらんねー」
んー、単純に、アレグリアから見てライフは上司で、だから言うこと聞いてるのかな。
「アレグリア。お前の中のコンヘンを使いたい、俺はその為に来た」
2人だけで進められちゃ分からないや。
「誰だ?」
「巫女だ」
その間僕達はほったらかし?
「何の為に」
「創造神の意志だ」
「もういいよ、はいはい」
まるで銃を向けられ観念したときのように両手を挙げたアレグリアに、落ち着きながらもすかさずライフが手をかざす。
そしてアレグリアの胸元から抜け出した小さな光がライフの手の中に吸い込まれると、すぐにライフとアレグリアは揃って手を下ろした。
「ねぇ」
「精霊、アレグリアの中にある巫女の魂の欠片で、見失った巫女の魂を引き付ける。欠片同士は引き付け合うからな」
「今ので転生は出来ないの?」
「出来ない。欠片が2つ以上ある場合では、肉体が魂に定着出来ず具現化出来ないからな」
そうなのか・・・。
「シエノ、これからはその2人の案内役だ」
「はい」
「アレグリアは戻っていい」
「はいよ」
「・・・ライフ、あたしは?」
期待するようにそう聞いたユーフォリアにライフが顔を向けたとき、ふとした沈黙が流れた。
「居たのか」
「おいっ」
するとすぐにユーフォリアが歩み寄り、黙ってライフの目の前で立ち止まる。
「何だ」
「そんなこと言っちゃうと、ライフの盆栽にピンク色の植物植え付けちゃうから」
え・・・。
するとライフはその言葉を真剣に考えるように目線を落とす。
「それは、困る」
困るのか。
賑やかになりそうだけど。
「戻るぞユーフォリア」
「うん」
「ちょっと待ってくれ、オレ達故郷のある世界に行きたいんだ」
「え、でも誰にも見えないんだよ?」
ユーフォリアがそう応えるも、ガルガンとベイガスは真っ直ぐな眼差しを見せながら歩み寄っていく。
「分かってる、けど見たいんだ」
ガルガンの言葉にユーフォリアは仕方なさそうな表情で小さく頷く。
「・・・じゃあ案内するから」
「バクト、用が済んだら追いかける」
「うん」
「ユーフォリア殿」
ベイガスに頷いて見せた時にリーチが声をかけると、呼び方なのかユーフォリアは驚くようにリーチに振り向く。
「は、はい」
「ひとつ聞きたいんだが、侍の国にはどう行けばいい」
「あー、と、さっきあたし達が向かおうとしてた北の街から、リニアで第8グランドターミナルに行って、そこからディメンションライナーっていうものに乗れば行けるよ」
・・・うん、分からないな。
「相分かった。有り難う」
わ、分かったのか・・・。
僕、どうしようかな。
アレグリアが軍用トラックの方へ向かい、ライフが光の球に包まれ、ユーフォリアがガルガン達を連れていく中、ふと歩み寄ってきたハクラに顔を向ける。
「じゃあ、ルーニーのこと、頼むよ」
「うん」
「バクト殿はこれからどうするんだ?」
「決めてないよ」
「なら共に行かないか?」
旅は道連れね・・・。
「あぁ、2人も行こうよ」
お互いに顔を見合わせたルケイルとユリが沈黙の中で頷き合うのを見てから、携帯電話をしまったシエノに期待感を湧かせる。
「シエノ、北の街まで案内してくれない?」
「あぁ。ちょうど俺達もそこへ行く」
あー超腹へった。
周りの人間がすべて軍服なのも、ライフルやマシンガン、手榴弾がまるで片付けていない雑誌や新聞のように置いてある状況にも何の緊張感も感じない中、セルフ方式で配膳する給食を持ち、空いてる席に適当に座る。
初っぱな3ヶ所連続かよ。
さすがに手加減しながらの1対6はキツかった。
「よっ総助」
ん、さっきの、トマスか。
「ディビエイトでも腹減るのか」
「そらそうだよ、普通に生きてんだから」
「ははっそうかそうだよな」
ふと向かいに座ったトマスの金髪に目が留まりながら、ビーフシチューの中から掬った大きな肉片を口に運ぶ。
「なぁ、戦争って金かかるよな?なのに何でこの国の街はどこもキレイなんだよ」
「そりゃ金持ちだからだろ」
あ?・・・んー。
「大きな声じゃ言えないが、こことブルーの戦争は、金持ち同士の喧嘩みたいなもんだよ。エネルギーなんざ永久機関やら何やらで売るほどあるし、鉄屑だって宇宙で流星物質拾ってるからこれまた売るほどあるしなぁ」
宇宙で拾う・・・まじか、そらすげぇな。
「それ、要は無限にあるってことだよな?」
「あぁ、幸い兵隊用のアンドロイドはないが、人間の傷なんて死んでなければどんな傷や病気も完全回復するし」
確か、前にナオが死にかけたときに、当てるだけで傷が無くなるライトがあったな。
「そういや知ってるか?あんたらディビエイトの戦いは、常に撮られてるんだ」
え・・・。
「どっから?」
「詳しくは知らない。まぁ普通に考えりゃ人工衛星だろうな。そんであんたらの存在を同盟国や寝返った奴ら、後はまだどっちにもついてない国やらに見せつけんだと」
なるほどな。
なら余計負けられねぇな。
ふとトマスの背後に誰かが立ったのに気が付いたので顔を上げる。
司令官か。
「30分後に5番テントのジェットヘリだからね」
「あぁ」
またかよ。
そそくさと立ち去る30代の女司令官から時計に目線を変え、劣勢か優勢かも分からない賑やかさが広がる食堂テントの中を何となく見渡す。
「賑やかそうに見えるけどな、オレだって好きでここに居るわけじゃねんだぜ?どんだけ医療技術が発展しようが、やっぱり死ぬのはごめんだからな」
「あぁ、俺だってそうだ、望んで人間捨てた訳じゃねぇよ」
そんな話をしながらもビーフシチューに目を置き、スプーンを動かす自分に、ふと人間味が薄れたように感じた。
「・・・でも、あんたらは死なないんだろ?」
「・・・多分な。まぁ人間の姿で撃たれりゃさすがにまずいかも知れないけど」
俺らにも拳銃くらい持たせてくれてもいいんじゃねぇかな。
食器を返却口に返し、テントを出ながら物資を運ぶ行き交う牽引車や、遠くで徐行運転している戦車など眺める中、ふとエイゲンやハオンジュのことを思い出す。
あいつらの活躍とか聞いたり出来ないのかな。
急加速するヘリコプターの中から幾つものテントや街並みを見下ろしていき、そしてやがて再び同じような前線基地のヘリポートに降り立つ。
あーまた名前覚えなきゃなんねぇのか、それはそれでめんどくさいな。
ヘリコプターから降りるとすでにヘリポートで待っていた40代の男性と真っ先に握手する。
「私がここの司令官になる、サルマンだ」
「俺は総助」
「早速だが、君にはAMに参加して欲しい」
あ?AM?
「AMって?」
「アクティブ・ムーブメント、つまり攻防でいう攻撃だ。ディビエイトは基本的にはパッシブ・ムーブメント、通称PMでの作戦に従事することになってるが・・・」
喋りながら歩き出したサルマンはふとこちらに顔を向けながら、何やら何かに期待するように小さくニヤついた。
「守ってばかりじゃ、退屈だろ?」
おほ・・・。
「まあな」
「まぁそれに、AMでの実積もあった方が役に立つだろう」
サルマンに連れられて1つのテントの中に入ると、大きなテーブルと幾つもの通信機と通信要員が居るそこは、いかにも指令室を思わせる場所だった。
「このヴィンテルランドという国を奪還する。だが君が行くのはヴィンテルランドを越えた先にある、サローランドだ」
そう言ってサルマンは海に面したその国に指を差した。
「何でだよ」
「サローランドにも、少数だが隊を送る。君がサローランドに居れば、サローランドからヴィンテルランドへの援軍はまず絶たれるし、むしろヴィンテルランドからエネルゲイア部隊を離すことも出来る。そして君がサローランドを落とせればヴィンテルランドは孤立し、こっちの同盟に戻らざるを得なくなるだろう。上手く行けば一気に2ヶ国を取り戻せる」
へぇ、すげぇなそりゃ。
「俺は、ほぼ1人か?」
「無理なのか?」
「本気を出せば楽勝だ。けど、いいのかよ、本気出したら、エネルゲイアの奴らは死ぬかも知れないし、街だって」
素早く背を向けたサルマンは山積みの資料の中から1つのファイルを取り出すと、すぐにそれをこちらに差し出してきた。
「甘いんだよ、オスカーは。見てみろ」
ファイルを開くと、その中には壊滅的な状況を撮った街の写真が何十枚もファイリングされていた。
「一部だが、エネルゲイア部隊に攻略されたときのサローランドとヴィンテルランドの写真だ。殺さずに、傷付けずに勝つなんてことは不可能だ、戦争だからな。勝つには先手を打たなければならない。それに、現に普通の、何の特殊能力も無い兵隊はバンバン死んでる。それは向こうも同じだ」
そりゃ、そうだよな。
トマスのような他の奴らは、普通に死んでんだよな。
「オスカーには私が言っておく。行けるな?」
「・・・あぁ」
「ここからヴィンテルランドへは6キロ、サローランドへは約500キロ」
結構あるな、ヨーロッパくらいの間隔か。
ヘリポートに立ち、龍形態となって最大限のリッショウを行う。
「君の居場所は常に衛星から確認しているから、全力で向かってくれて構わない。出来る限りエネルゲイアを引き付けてくれ」
「分かった。俺がどこにいるかを知るにはどうすればいいんだ?」
「喋れるのか」
「おいおい」
「ふっ・・・ディビエイト計画が終盤に入ってからは色々と考えていたが、そうでなくとも用意は周到な方が良い。サローランドには工作員を送っている。君がサローランドに入ったのが確認出来たら、照明弾を打ち上げさせる」
すげぇな、さすがに司令官ぐらいになると違うんだな。
「分かった」
背中のジェットエンジンから光を軽く吹き出してゆっくりと上昇してから、ジェットヘリと呼ばれるヘリコプターのように一気に出力を上げ、教えられた方角へと加速していった。
我ながら速ぇな、ふふっ。
ていうか・・・。
すぐにジェットエンジンを止めて滞空すると、すでに目の前には青空の下でも眩さを感じるほどの光の球があった。
5分も経ってねぇけど。
照明弾が淡く消えていくのを見ながら降下していくと、すぐに地上に居る人達はこちらの存在に気付きざわめき始めたので、適当に低いビルの屋上に降り立ち、街を眺める。
あー、所々やられてんだな、で、エネルゲイアは・・・。
てか、俺が敵だって分かるのか?
いや、さっきあれほど荒らし回ったしな、あっちにも俺の背格好くらい出回ってるだろ。
あ、ブルーの前線基地に出向いたほうが効率的だよな。
あ、そういや、シールキーってのがあるんだっけか。
なら表立った基地とか軍施設はないのか?
バクト達は目的から離れ、ほのぼのと旅する感じになりますが、理一が刀達と再会するところだけは注目ですかね。
ありがとうございました。




