キングス・ウィズアウト・グリード
「あの、ここに来る前はどこにいました?」
「郊外の、森みたいなところですかね」
すると受付嬢はすぐに目を見開いて驚くような表情を浮かべた。
「森?あそこは無理ですよ。人間が入ったら、即食べられますよ、死神に」
じゃああれは死神なのか、見たまんまだな。
「もしかしてあなた、死神ですか?」
怪しむように目を細くするものの、受付嬢は警戒心というよりかはただ困惑しているような顔色を見せている。
「いや、人間です」
「でもあそこに入った人間は絶対に戻れません。天使や悪魔でないのなら、死神ということになりますけど・・・」
受付嬢は自分でも有り得ないことを言ってると思っているかのように小さく首を傾げていく。
「1つ聞いていいですか?」
「あ、はい」
問いかけるとすぐに受付嬢は困惑を感じさせる表情から、相手に気を許すかのような微笑みへと顔色を変えた。
「今の、何の行列だったんですか?」
「はい、下の階層の人間の死後の整理です」
受付嬢は笑顔を浮かべながら淡々とそう応えた。
下の階層?死後?
まさかここは・・・。
「じゃあここって人間の死後の世界なの?」
「そうです」
またも受付嬢は何の躊躇もなく笑顔でそう応える。
天使がいるってことはやはりここは、天国かな。
いやでも・・・。
よく見ればこの人もさっきの天使と同じような服装だ。
「あなただって、命を落としたからここに来たんですよ?」
・・・え。
「僕は命は落としてないですよ?」
しかし受付嬢は黙ってこちらを見つめると、まるでごまかそうとするような苦笑いを見せてきた。
「た、たまぁに死を受け入れられない人も・・・いるんですよ・・・ほら、よく思い出して下さい」
「だから死んではないって」
もし異世界から来たと言ったらどうなるだろう。
しばらく考え込んでいた受付嬢は、何かひらめいたように顔を上げてこちらに目を向ける。
「もしかして・・・異世界から来ました?」
「え・・・」
法律違反とかだったらどうしよう。
「・・・そうなんですか?」
受付嬢は微笑みこそ浮かべているものの、その口調はまるで問い詰めるようなものだった。
「・・・はい」
いざとなったら戻ればいいか。
「そうですか、それではちょっとお待ち下さい」
受付嬢はすっきりしたような笑顔でそう言うと、奥の扉へと去って行った。
まさか、今のうちに通報でもされてたりして。
間もなくすると先程の受付嬢が左手にある扉から出て来た。
「ようこそ、天界へ」
そして丁寧に小さく頭を下げた受付嬢は、少し嬉しそうな笑顔を浮かべながらそう言った。
「天界?」
天使の世界と言うことだからかな。
でも天国には変わりないだろう。
「はい、ここは天王様の治めるエリアなんです。だから天界です」
・・・なるほど、天王・・・。
「じゃあ悪魔は?」
「魔王様の治めるエリア、魔界でしたらあちらの門から行けますよ」
受付嬢は遠くに見えるアーチ状に開けられた塀の方に手を差し出しながら笑顔でそう応える。
魔界?・・・悪魔はやっぱり魔界にいるものなんだろうけど。
でも天界とやらとは繋がってるみたいだし、魔界は地獄とは違うのかな。
もしさっきのエリカが悪魔だとしたら。
「天使と悪魔って、仲が良いの?」
「はい、200年ほど前に永久停戦して、完全同盟を結びました」
その話をしているときの受付嬢の笑顔に込められた嬉しさは、先程のものよりも強くなっているように見えた。
前までは想像通り、相反するものだったんだな。
「あっちは?」
「あっちは居住区です。学校とか病院とかです」
「そうか」
学校?病院って言ったって、どっちも死後の世界には必要なさそうだけど。
「あの、異世界から来た人はお客様なので、一度天王様に会って下さい」
お客様?
「そうか」
王制なのか。
王なら力を分けて貰えるかもな。
「早速案内しても良いですか?」
「あぁ」
来たばっかりで何も分からないし、誰かに案内でもして貰えるなら好都合か。
しかもいきなり王様に会えるなんて、運が良いな。
王様か・・・信用を得るには、やっぱり力を見せるしかないかな。
「聞いて良いかな?」
「あっはい」
受付嬢は歩きながら振り返り笑顔でそう応える。
「死神とは仲良いの?」
「・・・いえ、今は死神の国と戦争しています」
「そうか」
なら売り込めば何とかなるかな。
じゃああの時、あの天使は敵対国の人に手を振ってたのか。
さすが天使だな。
「そういえば、どうして天使と悪魔は仲良くなったの?」
「えっとですね、一昔前は天使と悪魔と死神で三つ巴だったんです。でもある日、天王の王子と魔王の姫が駆け落ちしたんです」
大胆なことをしたね。
「そしたら、両国の王はお互いに自分の子を相手の国に誘拐されたと思って、戦争が激化したんです」
まぁそれは仕方ないか。
「そして確か・・・3年後かな?駆け落ちした2人が戻って来たんです。1人の子供を連れて」
なるほど。
見渡しても人以外の動物は見当たらない。
「それで?」
「両国の王は2人を許して、2人と子供のために新しい国を作ったんです。それが天魔の国です」
「天魔?」
「あ、言ってませんでしたっけ?天使と悪魔のハーフが天魔です」
「そうか」
そんなものがあったのか・・・そういえば黒と白の両方を使った服装の人も居たな。
「そして天使と悪魔と天魔の国が完全同盟して、今に至ります」
敵対国でも王様同士が親戚になっちゃったら、戦争を止めるしかないのかな。
「そうか。なら天魔の国は何て言うのかな?」
「天魔界ですね」
シンプルが1番だな。
貰うのは天魔の力にしようかな。
お得そうだし。
どちらにしても、1人でも王とのコネを作った方がいいな。
「ここが天使城ですよ」
近くに寄るとかなり大きな城だな、天辺まで10階くらいかな。
全体的に白く塗られたヨーロッパ風なデザインの城の、派手な装飾が施されている訳ではないのに高級感のある大きな扉の前には、紋様が刻まれた小さなマントを鎧に着けた2人の門番が居た。
「天使城に何か用か?」
受付嬢が門に近づくと、若い方の門番が立ちはだかるように胸を張りながら受付嬢に話しかける。
「お客様ですよ」
こちらに手を差し出しながら、受付嬢はまるで畏れるような態度も見せずに笑顔で応える。
「お客様?・・・異世界からのか?」
門番が驚いたようにこちらを見ると同時に受付嬢もこちらに顔を向ける。
「はいそうです」
異世界から来た人と言うのは有名人らしいな。
ということは以前にも異世界から来た人がいるということだ。
「分かったちょっと待ってくれ」
少し慌てた様子でそう言うと、門番は軽々しくその大きな扉を開けて城に入っていった。
「本当はただの人間じゃないのか?」
もう1人の門番が疑いの眼差しを見せて喋り出すと、受付嬢は微笑みながらその門番に近づいた。
「でも森から来たんだって」
先程の門番とは違い、受付嬢はこの門番とは親しげに話をしているようなに見える。
「何だって?もっと信用出来ないな」
「そういえば決定的な証拠が無いね」
すると門番につられるように受付嬢も疑うような目でこちらを見るようになった。
確かに証拠は無いな。
あの林だか森だかに入っても生きていられる証拠。
なら仮面でも出そうか。
「おい小僧」
高齢だががっちりとした体型の門番が受付嬢を押さえて前に出た。
「あ、はい」
「本当に異世界から来たのか?もし嘘なら罪になるぞ?」
嘘で罪?
さすが天使だな。
仕方ないか。
黙って仮面を被ると高齢の門番は眉間にシワを寄せ警戒心を感じさせた。
「お前・・・」
そしてブースターを噴き出して少し宙に浮きながら、ゆっくりターンして見せると、門番と受付嬢はその様子に釘付けになるように呆然としている。
地面に降り立ち門番に顔を向けると、門番は眉間にシワを寄せたままで、まるでこちらの出方を待つように黙っている。
「何か怖ーい」
どことなく恐れるような表情を見せながらも、受付嬢はまるで呑気さを感じさせるような口調で口走りながら門番の後ろに隠れる。
「これじゃ証拠になりませんか?」
「なるなる、だから取って」
受付嬢が門番の後ろから顔を出して応えたので仮面を外すと、城に入った門番がちょうど戻って来た。
「中へどうぞ、天王様がお待ちです」
「あぁ」
「メリミア、お前は持ち場に戻れ。どっちみち入れないんだから」
「もうっ分かってるよ。おじいちゃんも無理はしないでね」
ふとメリミアと呼ばれた受付嬢の門番に見せる親しげな笑顔が何となく気にかかると、受付嬢を見る門番の眼差しが、先程までの警戒心に満ちていたものではなく、威厳の纏った優しさに満ちているものになっていたことにも気がついた。
「分かってるよ」
どうやらこの門番はメリミアというこの受付嬢の祖父らしい。
間もなくして若い方の門番に連れられて城に入ると、真っ先に目に飛び込んだのは壁で仕切られたような場所のない、開放感のある景色だった。
見た目通りですごい広いな。
だだっ広いエントランスの1番奥には左右から上れるように作られた階段、その真ん中には2つの階段に挟まれる形で存在感を醸し出す迫り出した2階、そして迫り出した2階の中央に置かれた王座と思われるものに腰掛ける天王らしき人と、順番に目に焼き付けながら王の真下まで続いているまっすぐに敷かれた赤い絨毯を歩いていく。
異世界からの客とあってか、興味本位で見てくる人や警戒している人達にふと目を向けながら、迫り出した2階の下にたどり着くと、王座に座る人は席を立ちこちらを見下ろした。
王冠は無いが、立派な白い髭と装飾の着いた鎧が貫禄を醸し出している。
「天王様、連れて参りました」
「よし、下がって良い」
「はっ」
背筋を伸ばし、はきはきと返事をした門番は颯爽と持ち場に戻って行った。
「お前が異世界から来た人間か?」
門番を見送った天王はゆっくりとこちらを見下ろしながら口を開く。
「そうです」
優しい笑みを浮かべてはいるが声に威厳と包み込むような威圧感がある。
「迷い込んで来たのか?それとも自ら望んで来たのか?」
迷い込んだケースもあったのかな。
「自ら望んで来ました」
「そうか、なら目的を言いなさい」
まぁ隠すことも無いが、ストレートに言い過ぎるのもな。
「・・・ここにしか無いものを手に入れたくて来ました」
ただ見られてるだけなのに、天王の眼差しには貫かれそうなほどの強い何かを感じる。
「ふむ・・・嘘ではないようだな」
分かるのか?
これも天王の力か?
「何が欲しいんだ?正直に言わないことには始まらないぞ?」
それもそうだな。
「天魔の力が欲しいです」
「・・・力か」
警戒心を伺わせたり、疑心を抱くような表情を見せずに、天王はただ悩んだような顔を見せた。
「タダでとは言いません。僕は戦闘能力には自信があります。なので傭兵として雇って下さい」
何とも言えない緊張感がエントランス全体に漂っていると、天王はその緊張感を吹き飛ばすように突如豪快な笑い声を上げた。
「正直なのは良いことだ。それより、何故力を望むんだ?」
「ただ強くありたいからです」
すると天王は再び心の底までをも貫くような、鋭くも吹き込む風のように優しい眼差しを黙ってこちらに向けてきた。
「・・・ふむ・・・分かった、良いだろう」
え、良いの?
こんなにすっきりと話が進むなんて。
「天王様、信用出来るんでしょうか」
執事を思わせるような格好の中年男性が、天王より1歩下がった位置から静かに話しかける。
「あぁどうやら嘘は言ってないと思うぞ?」
「そうですか・・・」
そう言うと執事はすぐに身を引いた。
さすがに最初から信用する訳はないよな。
「じゃあお前の働き次第で望みの褒美を与える、ということで良いな?」
「はい、ありがとうございます」
だとしたら別に何か目的があるのか。
「ただな・・・」
すると天王は渋るように喋り出しながら顎ひげをさすり始めた。
まぁそうそうすんなりとは行かないか。
「私は天使の力を司る王なのでな、天魔の力は扱えんのだ」
そっちか。
「そうですか」
「直接お前に天魔の力を与えられるのは、天魔界の女王なのだ」
「なら女王様に会いに行きます」
メリミア・サーコナー(19)
人間の死後を整理する祠の受付嬢。
現在、天使城の門番を祖父に持つ。
仕事の熱心さは評価されているが、資料に目を通す時に考え事が多いのがたまにキズ。
ありがとうございました。




