紛争の一角2
ガルガンに近づこうとしたが、こちらに気付いたガルガンは素早く遠くにユートピアの兵士が見える方とは別の方に指を差した。
えっと・・・。
大通りを曲がる道が見える位置まで進むと、その道にもすでにこちらの方に手を向けていたユートピアの兵士がいた。
・・・ガルガンはああ言ったけど。
直後にその兵士の手から飛び出した何かは瞬時にこちらの胸元に強く突きつけられる。
倒れながらとっさに胸元を触るが、鎧には特に目立った傷などはどこにもなかった。
ふぅ・・・やっぱりあっちが話す気ないなら、やるしかない。
翼に意識を向けて飛び上がるように立ち上がり、そして弓を構えるようにユートピアの兵士に左腕の発射口を向ける。
闇の光線を放ちながら兵士の視界から外れ、素早く目の前にある大きな建物の天辺に降り立ちながら、闇の光線に撃ち抜かれ倒れた兵士の姿を確認する。
ふぅ、矢を引く動作がない分素早く射てるのはちょっといいかも。
ふと煙を尾に引く弾が爆炎を上げながら兵士を吹き飛ばすのを見てから、また遠くに見えるユートピアの兵士を確認し、左腕を向ける。
感覚を研ぎ澄ませ、矢を射る意識をしたと同時に放たれた闇の光線は、瞬きをするよりも早く兵士の胸元を貫いていく。
矢よりも、断然速い。
天使と死神の力を合わせただけでこんなにも変わるものなのかな。
正気になってから使うのは初めてだし、もっと使いこなさないと。
機械の人間の胸元を赤い光線で貫くと、次に建物の陰から現れたのは機械を着けていない普通の人間だった。
ん、街の住人、ではなさそうだ。
その男が何やら腰に挿した白い筒のようなものを取り出したとき、その筒は瞬時に長い剣身を両側から飛び出させた。
何だ?剣になった、しかも両端の。
「貴様、エターナルの加担者か」
エターナル、あの者達の・・・。
「そういうことになるだろう」
「なら第三級罪に当たるとして、生死問わず拘束措置をとらせて貰う」
戦争の中で罪を問うなど、無意味に等しい。
「やってみるがいい」
男が走り出すと同時に男に向けて赤い光線を放つが、男はまるで何かを感じとるように素早くその身を反らし光線をかわす。
ほう・・・。
赤い光を伸ばして作った盾で男の剣を受け止めるが、男は素早くこちらの胸元を蹴りつけ、そのまま宙返りして離れていった。
どうやら新手といったところか。
ん・・・。
ふとその男の下に5人の人間達が駆けつけてくると、服装に統一感のある5人の人間達も素早く白い筒を取り出し、各々剣を手に持っていく。
ユリは街が壊れたら意味がないと言っていたが。
盾を消し、腕を交差させて自分の頭上に数十の赤い光の球を出現させる。
「隙を与えるなっ」
そして勢いよく手を広げながら、走り出した6人の人間に向けて全ての赤い光球から一斉に光線を放つ。
周囲の空気を赤くちらつかせながら光線が地面を突き上げ、赤い光と地面が吐き出す大量の瓦礫、そして轟音が人間達を呑み込んでいくと、やがて静寂を取り戻したその街の一角には、一様に倒れている6人の人間の姿があった。
しかし間もなくすると、遠くからまた数人の剣を持った人間達が向かってくるのが見えた。
数が増えようと無意味だがな。
走る足音が背後から聞こえてきたので振り返ると、そこにはこちらに白い曲がった筒を向ける小さな白いマントを着けた人間がいたが、すぐにその人間が撃ち出した何かはこちらの胸元に強く突きつけられた。
何だ、気配を感じなかった。
倒れることなく素早く白いマントの人間に体を向けるが、その人間は再び立て続けに何かを撃ち出してきたので、赤い光の盾で防ぎながら光線で応戦する。
しかしその人間はこちらの放つ光線を全て最小限の動きでかわしていく。
なるほど、新しい新手だな。
マントの人間は手に持つ白い曲がった筒をしまうと、すぐに白い筒を取り出し、そしてそこから剣身を飛び出させた。
そういえば街の住人がガーディアンズがどうとか言っていたが。
「お前はガーディアンズか?」
「は?・・・いや聞かなくても分かるだろ」
ん、つまりどういうことだ。
「知らないのか?このエンブレム」
エンブレム・・・。
そう言ってその人間が持って見せてくるマントの左胸部分には、何やら円の中央に何かの文字がある紋章が刻まれていた。
「ほんとに知らないのかよ。まさかお前、アンノウンから来たのか」
「アンノウン・・・とは」
「ユートピアが解析出来てるエリアより外のことを、ユートピアはそう呼んでる」
「お前が俺達のことを知らないなら、そういうことになるんじゃないのか?」
すると純粋に同意するような態度を見せたその人間は、先程までの殺気に満ちた表情が嘘かのような落ち着きを見せた。
「・・・確かにな」
「イーチェ班長っ」
マントのない、ただ剣を持った人間達が距離を保ちながらこちらを取り囲むように近づき、そう声を発すると、マントの人間はすぐにその表情から闘志を甦らせていった。
囲まれたか。
「とりあえず殺さない程度にしろ。こいつはきっとアンノウンから来てる」
遠くの兵士達を撃ち倒していく中、ふとベイガスの周りに兵士達が集まっているのが見えた。
あっ・・・。
「お嬢さん」
反射的に声がした方に顔を向けると、いつの間にか建物の天辺の端っこには1人の白いマントを着けた男性が上がって来ていた。
あれ、気付かなかったのかな。
後ろで手を組みながら、刺々しい闘志や敵意も見せずただそこに立つその男性はゆっくりと遠くを見つめる。
「君は狙撃兵ですか、なるほど」
「あなたも、ユートピアの人?」
「ええ、僕はガーディアンズ第9班班長、アン・スタッドウェイ」
「あ、私、ユリ・カンナリーだよ」
依然として遠くを見つめたまま小さく頷くと、アンはゆっくりと歩きだし、そして建物の天辺から地上を見下ろす。
「空を飛んだんですか、なるほど」
敵、だよね、襲ってこないのかな。
「戦わないの?」
「戦いますよ?」
・・・んー、何で来ないのかな。
ようやくこちらに顔を向けたにも拘わらず、アンはそこから動かずにまるで何かを待つようにこちらを見つめてくる。
「いいんですか?こちらにばっかり目を向けていて」
えっ・・・。
すぐに後ろを振り返るが道の向こうの建物の天辺には人は居なく、他の建物の天辺にも兵士らしい人は見えない。
ふと見たアンが白い曲がった筒を持っているのに気が付くと、アンはゆっくりとその白い曲がった筒をこちらに向けたので、素早く左腕の発射口をアンに向ける。
「例えばですよ。我々は組織で動きますから、常に周りを警戒した方がいい、そういう意味で言ったんです」
そ、そっか。
「弓道ですか、なるほど」
撃たれる前に・・・。
アンの持つ白い曲がった筒に向けて闇の光線を放ったが、まるでこちらの考えを見抜いていたかのようにアンは光線をかわし、そして同時に白い曲がった筒から破裂音を鳴らした。
うっ・・・。
脇腹を突いた強い衝撃に体はそのまま建物の天辺から宙へ投げ出され、直後に再び鳴り響いた破裂音と共に片翼に大きな穴が空く。
この一瞬で翼を撃ち抜いた?
とっさに地面に顔を向けるとそこには数人の剣を持った兵士が待ち構えていて、翼に意識を向けるが体はそのまま地面へと落ちていく。
どうしよ、1人ずつじゃ間に合わない。
前方の数人に意識を向けながら、発射口の突起部分の2つに力を込める。
そして発射口から闇の光線を放つと、数え切れないほどに分散して放たれた光線は1度にすべての兵士達を貫いた。
やった。
地面に降り立ちながら走り込み、とっさに建物の中に逃げ込む。
ふぅ・・・うっ。
座り込みながらふと脇腹を触ると滲みるように小さな痛みが走り、手を見ると指全体にはうっすらと血が移っていた。
翼も撃たれちゃっ・・・あれ、穴がない。
翼は治るのか。
でも、これからどうしよう。
突如甲高い破裂音が建物内に響いたので、カウンターに隠れながら覗くと、建物の入口には透明な扉を激しく砕いていたアンが立っていた。
うわぁ。
・・・こうなったら。
発射口の突起部分のすべてに力を込めながら、ゆっくりと進んでくるアンを見る。
そして何故か広いエントランスの真ん中で立ち止まったアンの前に飛び出し、発射口をアンに向ける。
その瞬間に破裂音が響き胸元に衝撃を受け、思わず床に倒れ込むものの、同時にアンに向けて分散する光線を放つと先程よりも広範囲に、更に細かく分散して放たれた光線は瞬時にアンとアンの周囲の床、壁、天井に注がれた。
建物が崩れる轟音の中、仰向けに横たわり、深呼吸する。
ベイガス達、どうしてるかな。
窓を撃ち壊し、外に出た途端にすぐに大きな爆発音が聞こえたので飛んでいくと、先程の広い道で発煙弾を撃ち出すガルガンが見えた。
爆発音と爆炎は建物の一部を激しく砕き、地面を窪ませ、そしてユートピアの兵士達を軽々と吹き飛ばしていく。
もう、こんなに街を壊しちゃって。
「ガルガン」
「おう、おいおい、そんなんじゃ足手まといになるぜ?どっかに隠れてろよ」
確かにそうかも。
「あまり街を壊さないでよね」
「んな全部やる訳じゃねぇって、心配すんなよ」
その時に少し離れた建物の陰から、まるでガルガンの背後を狙うように現れたマントの兵士に目が留まる。
あっ。
とっさに闇の光線を放つが、その兵士は素早く光線をかわし、こちらに白い曲がった筒を向けた。
翼で体を覆うが衝撃は強く、思わず倒れ込んでしまうが、発煙弾の音にふと顔を上げると兵士は発煙弾から逃げるように離れていた。
「こっちはいいから、ベイガスのとこ行けよ」
「・・・うん」
立ち上がり、ベイガスを捜そうと街を見渡したとき、大通りの先のまた別の方からマントの兵士が向かって来ているのが見えた。
「ガルガンあっち」
「あ?ちっ・・・お前、援護出来るか?」
「うん」
1人だけになったマントの人間が向かってくる中、盾で剣を防ぐと同時に周囲に作り出した光球から同時に光線を放っても、マントの人間は倒れることなくその場に立ち堪える。
しぶとい、だが、倒れない理由はそれだけではない気がする。
「なぁ、それが本気なのか?」
闘志に満ちた眼差しの中、マントの人間は期待を込めるような口調でふと口を開いた。
ん・・・やはり、俺の力は差ほど通じていないのか。
「街を壊さないようにしなくてはならないからな」
「おいおい、人のせいにすんなよ。そんなんじゃ勝てないよ?ユートピアに。解放するんだろ?この街を」
こいつ、勝てることを確信してるからか、張りつめた態度まで緩ませている。
「アンノウンだから期待したが、ガッカリだな」
「まるでまだ見ぬ強敵を捜しているようだな」
「いや捜すだろ、こんだけ世界が広いんだからな。さて、そろそろ戦闘不能にさせてやるか」
来るか、仕方ない。
手に作り出した光球に力を込めて倍ほどに肥大させると、イーチェと呼ばれた男は感心するように表情をまた少し嬉しさで緩ませる。
そして光球からイーチェの上半身を覆うほどの太い光線を放つが、直後に光線はまるで何かに払われるように掻き消えた。
何だと・・・。
「ユートピアのことを教えてやるよ。ユートピア上級兵の兵法、その名は、カムイ」
カムイ・・・。
片手で、振り払っただと?
「何も、変わってないが」
「ははっ・・・まぁカムイってのは人それぞれの形があるからな。オレのカムイはまぁ、フィジカル系だな」
つまり、どういうことだ。
走り込んできたので盾を作り、剣を受け止めるが、その直後に振りだされた拳がこちらの胸元に叩きつけられると、爆音すら起こすその衝撃は石ころのように体を飛ばし、意識を遠のかせた。
・・・はぁ・・・はぁ。
今更敵というものに恐怖などしない、だが、この圧倒的な差・・・。
ヒョウガを思い出すな、これほどの痛みは。
「ベイガス」
旧魔界を思い出していたとき、突如そう声をかけてきながら見慣れた顔が視界に入った。
ん?・・・ヒョウガ、いや。
バクト。
「どうしたの?目が虚ろ」
「・・・少し、休ませてくれ」
胸元の鎧が完全に砕けてる。
「うん」
まぁ大丈夫そうだけど。
「お前は?そいつらの仲間?」
振り返ると、そこには両端から鍔のない直剣を着けた武器を持った、制服警官のような服装の上に小さな白いマントを着けた20代の男性がいた。
「まぁ同じような鎧だし仲間だろ。お前も第三級罪で拘束措置だ、ま、生死は問わないがな」
第三級罪?ユートピアに歯向かってるからかな。
ユリが始めた小さな戦いがこれからにどう影響するか、ですね。
ありがとうございました。




