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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
第十章

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戦士たち2

白い光に包まれた人影に近づくと、その人は天使でも死神でもない鎧を身に着けた若い女性だった。

こんな人、知らないし、名前も出てこない、誰だ?

「こいつは」

「ベイガス知ってるの?」

「確か、天使の中に居た・・・」

天使?でも白い鎧じゃないけど。

ん?・・・そういえば、イングランドで堕混と戦った。

その時、堕天使のこの人も殺したんだった。

でも名前は・・・。

その瞬間脳裏に浮かんだのは、堕混の男性が目の前で狙撃される直前の記憶だった。

あの堕混は、天使がどうのこうの・・・。

まさか。

「・・・・・・ユリ?」

するとその女性はゆっくりと目を開け、光の中から透明な姿を現した。

そうだったのか。

「あれ?私生きてる?」

あの堕混が心配した天使が、この人だったのか。

「いや、ユリは死んだんだよ。でも、転生して生まれ変わるんだ」

不安げに表情を曇らせたユリはこちらからベイガスに目線を移す。

「死神?」

「あぁ。覚えてるのか?」

「うっすらとしか分からない。私、どうなったの?」

「ユリは、堕混になった悪魔と、違う世界に行ったことは覚えてる?」

しかしユリは目線を落とすと小さく首を横に振った。

「そこで僕は、侵略してきた死神、堕混になった悪魔、そしてユリと戦ったんだ。その戦いの中で、ユリは死んだんだよ」

「そっか・・・でもどうしてここに」

「ここは前に居た世界とは次元の違う、根界っていう世界。今のユリはちょっとした手違いで魂だけの状態になって出てきたんだけど、僕が力を分け与えれば生まれ変われるんだ。早速始めていいかな?」

説明していく間にもユリは眉をすくめ、不安と寂しさを伺わせていく。

「手違いって?」

「ほんとはひとつだけ魂を取り出すはずだったんだけど、失敗して沢山出てきちゃったんだって。僕は今その魂達を探してるんだ」

小さく頷いたユリからようやく不安げな顔色が消えたので、両手に力を出し、それを混ぜながらユリに注いでいく。

「ふぅ・・・あの、名前は?」

「バクトだよ」

そう応えると、すぐにユリは安心したような穏やかな微笑みを見せた。

「ありがとね、こんな形だけど、目を覚まさせてくれて」

真っ先にお礼が出るなんて、さすが天使だ。

「あぁ。とりあえず全部終わるまでついて来て貰っていいかな?」

「うん」

さてと次は・・・。

あっちかな。

「翼解放」

「あれ?バクトって天魔なの?」

「いや、僕はまた違う世界から三国の世界に来たんだけど、天魔女王から力を分けて貰った後も女王直属の兵士として、反乱軍を捜してたんだ」

「そうなんだぁ」

本格的に銃撃音が響く中、ファミレスほどの大きな飲食店の裏に立つ、白い光に包まれた人影に歩み寄る。

「あぁっルケイル」

えっ。

ユリがそう言うと堕混姿のその男性は目を開けて光から抜け出し、地面に足を着けた。

「お前っユリっ生きてたのか」

やっぱり、確かにこの人達はみんな僕の目の前で死んでいった人達だ。

なら、ハクラとジアンも転生させられるかも知れない。

「ううん、私、死んで生まれ変わったの」

「生まれ変わった?」

「ルケイルは、死ぬ前のこと覚えてる?僕に、ユリのことを聞いたこと」

「いや、私の前に居たのはお前ではなかった」

「姿が違うだけ、ルケイルの前に居た青白い人が転生して生まれ変わったのが僕なんだ。だから僕はちゃんとルケイルのこと覚えてる」

兵士らしい厳粛さが染み込んだような表情の堅さが印象的なルケイルは目線を落とした後、銃撃音の響く街を眺めながら、ゆっくりとベイガスやシエノに目線を変えていく。

「バクト、早くルケイルに力を分けてあげて」

「そうだね」

両手に力を出すと、それを見たルケイルはすぐに戸惑いを見せた。

「ちょっと待て、何をする気だ」

「落ち着いてルケイル。今からルケイルも生まれ変わるの」

「何だと・・・」

「ほらバクト」

黒氷と白炎をルケイルに注いでからも、ルケイルは少しだけ不服そうな表情をユリに見せていた。

「それで、これからどうするんだ」

気配は、まだあるな、よし。

「とりあえず今はバクトの探し物が見つかるまで待って欲しいんだって」

「そ、そうか」

説明の調子は狂うけど、まぁユリが居ればルケイルは大丈夫か。

「バクト、この街は、戦争中なの?」

街を進みながら、その気丈さにたくましく思えるほど、そう言ってユリはすでに若干楽しそうに笑みを見せてくる。

「そうみたいだけど、僕もここに来たばかりだから、よく分からないんだ」

大きなビルの手前に広がる、噴水のある小さな公園のような場所に立っていた、誰かを包む光の下に降り立つ。

お、この人は確か・・・ミアンナの世界で戦った・・・あれ?名前知らないや。

でも、確か死神だったはず。

「ベイガス、この人知ってる?」

「ん?おお、ガルガン」

目を開けたガルガンは光から出ると、すぐさま何かを警戒するように周りを見渡し始めた。

「あいつはどこだっ」

「落ち着けガルガン、俺達は死んだんだ」

「ベイガス・・・いや、けどこうやって意識がある」

何て言おうか、目の前に居るのが自分を殺した張本人だなんて言えないしな。

「よく見ろ、自分の体を」

素早く自分の手に目を向けたガルガンだが、途端にその動きは驚愕を伺わせるように固まった。

「・・・ほんとに、オレは、死んだのか」

「だがすぐに生まれ変わる。バクト、頼む」

「あぁ」

黒氷と白炎を吸い込み、転生を果たすと、ガルガンは自分の手を触ったりしながら、どこか緊張したような神妙な面持ちをベイガスに見せた。

「何でお前、ここに?」

「分からない。だが、こうやって生まれ変わることが出来たのには、何か意味がある。俺はそう思う」

ふぅ・・・意味か。

三国の兵士と死神が2人ずつ、ほんとに、何か意味があるのかな。

気配はまだあるよな、よし。

「ねぇ、バクト。もしかして、三国の兵士や死神を集めてるの?」

「違うよ、僕が探してるのは、僕の中から飛び出てきた魂の欠片なんだ。人はみんな死ぬとき、魂が弾けて周りのすべてに降り注ぐんだって。だから、ユリ達はみんな、これから転生する人も、僕の目の前で死んだっていう共通点があるってだけだよ」

「・・・おい、それってつまり何だ。オレを殺したのは、お前か?」

不安げな中にも、ガルガンは徐々にその眼差しに力を宿していく。

「いや、ガルガンを殺したのは転生する前の僕。だから正確には、ガルガンを殺した青白いやつも死んだってことになるんだ」

それでもガルガンはどこか不服そうな表情で目線を逸らす。

「さっきから気になってたんだけど、そいつは誰なんだよ」

「俺はシエノ。こいつを一時的に警護してる」

「あんたはここがどこか知ってるのか?」

ガルガンの不安をぶつけるような口調にも、シエノはその眼差しから冷静さを失わない。

「あぁ、だが今はこいつのやるべきことを優先させなければならない。その後でなら、お前らの質問、気の済むまで答えてやる」



真っ暗闇の中、突如名前を呼ばれたことに気が付くと自然と瞼は開き、まるで地面に足が着いたような感覚が意識を強く目覚めさせた。

目の前には数人の男と女が居たが、真っ先にある記憶を呼び覚まさせたのは一番近くに立つ、ヒョウガだった。

「ヒョウガ殿・・・奴は、千牙龍は」

「ここは、前に居た世界とは次元の違う、コンカイっていう世界だよ」

ヒョウガの背後に広がるまったく見覚えのない景色は、より聖帝となった千牙龍の姿を脳裏にはっきりと浮かび上がらせる。

コンカイ・・・それに、顔はヒョウガ殿で身形も同じだが、微かに違和感を感じる。

これは夢か?だが・・・。

「私は、死んだのか」

「あぁ、だけど聖帝はあの後、ハルクと一緒に倒したから、あの世界は無事だよ」

倒した・・・そうか、なら、安心だ。

ハルク?あの異国の者。

「ここは、黄泉の世界か?」

「違うよ。憑鷹はこれから転生するんだ」

転生だと?

ふと自分の手を見ると、透明ではあるもののその身形は人間の時のものだった。

禁術を使い、肉体は無くなったはず。

「とりあえず始めるよ?」

そう言うとヒョウガは右手に黒い宝石のように光るもの、左手に白い炎のように光るものを出し、そしてそれを混ぜ始めると、直ぐにその2色の光るものをこちらに注ぎ始めた。

するとまるで体の奥底にまで力が満たされるような感覚に支配され、やがて意識がはっきりすると真っ先に感じたのは体の軽さだった。

息が、先程よりも、抑えられていたような感覚が無くなった。

「お主は、本当にヒョウガなのか?」

「実は、ヒョウガが転生して生まれ変わったのが僕なんだ、だからヒョウガも、正確には死んだってことになる。でもヒョウガの記憶は全部受け継いでるから、ちゃんと憑鷹のこと覚えてるよ」

ヒョウガには無かった笑みを見せるその者は、その目尻のシワとは対照的にあどけなさを感じさせる。

「なら、お主は・・・」

「僕はバクト」

転生、か。

不思議な感覚だ。

「して、この者達は」

「ほんとはある人を転生させたくて、僕の中にある魂の欠片を取り出したみたいなんだけど、他の魂の欠片も一緒に連れ出しちゃったって言ってた」

「なら、バクト殿も、何故私やこの者達が居るのか、分からないのか?」

「まあね」

この者達は皆、千牙龍や狼男の身形に似ているが、一人だけ身形の違う者が居るな。

「お主が、私を呼び寄せたのか?」

「いや違う。こいつがすべての魂の欠片を見つけた後で呼び出すことになってるから、聞きたいことはその人に聞いてくれ」

状況が分からないが、今は待つしかないようだ、仕方ない。

木々がまったく見えず、妖怪の鳴き声も聞こえてこない、町ということだけは分かるその場所を、何かを探すように歩くバクトについていく、異国の鎧を着た者達をふと眺める。

その時に丁度こちらの方に振り返った女の異国人と目が合うと、女は用心深さの無い表情でおもむろに近付いてきた。

「私、ユリっていうの」

ん・・・。

「そうか、私は崎乃江理一、またの名を憑鷹という」

しかしその異国人は純粋さと親しみの感じる微笑みを見せながら、何故かどこか戸惑うような態度を伺わせた。

「2つも名前があるの?」

「そう、だな。だが憑鷹は力を認められて授かった名で、通り名なんだ」

「へぇー」

「ユリ殿は」

「殿?何それ?」

・・・何と、言われても。

「私の国では、敬う気持ちを込めて人の名に殿を付けるんだ」

感心するように頷くと共に、ユリはどこか嬉しそうにまた少し微笑みを深めていった。

「あ、ごめんね。質問の続き、どうぞ」

何だろうな、この感覚は。

「・・・あぁ。ユリ殿は、このコンカイなる世界に来て不安はないのか?」

「んー、私は大丈夫だよ、ルケイルも居るし、みんなも居るから」

このユリという異国人と話していると、どこか安らぎを感じる。



あった、次は誰かな。

誰かを包む光を背後から回り込むと、すぐにその光の中にいる人物が誰か確認出来た。

「ハクラっ」

目を開けたハクラが光から出てきたので、すぐさま両手に集めた黒氷と白炎をハクラに注ぐ。

「あれ、ここは」

「実は、低次元の存在から高次元の存在になるには、一度死ななくちゃいけなかったんだって」

「え?じゃあ・・・私達を殺したのは、高次元の存在にする為?」

あれ、でもライフはルーニーのことしか考えてなかったような。

「うん」

「じゃあ、あの人達は味方?」

「どうかな、それは後で本人に聞くしかないね」

表情の色こそ薄いものの、小さなため息から安堵を伺わせたハクラは案の定シエノやユリ達に目を向けていく。

「この人達は?」

「僕の中にあるルーニーの魂の欠片を取り出すとき、一緒になってハクラ達みんなも出てきたみたいなんだ。もしかしたら、あの人はルーニーのことしか考えてなかったかも知れない」

「・・・そう。それで、巫女やジアンは」

「これから捜すんだ」

再び機械音の足音が聞こえてきたので、何となく遠くに見える軍人が居る道とはひとつズレた細い道に入るが、その道から出た広い道路上にも別の軍人が遠くに見えた。

んーどうしようかな、あの軍人の方に行きたいんだけど。

でも別にいいのかな?

僕達を捜してる訳じゃないみたいだし。

機械を操縦する軍人が近づいてくるにつれ、胸の底に少しずつ緊張感が募っていく。

何かあったら、シエノに何とかして貰えばいいかな。

軍人から見てもこちらの顔が分かる距離にまで近づいたとき、2メートルほどの高さになっている軍人の男性はこちらを見ながら、静かに足を止めた。

「貴様らは何だ」

あーあ。

「ちょっと人を捜してて」

するとその軍人は鋭い眼差しで、こちらからゆっくりとハクラ達に目を向けていった。

「流れ弾に当たっても、我々は一切責任は取らないからな」

おや?

「あぁ」

ふぅ。

・・・あ、あれか。

エアコンの室外機の上に乗っかるなんて、ジアンらしいな。

「ジアン」

目を開けるとジアンはすぐに目線の違いに違和感を覚えたのか、室外機から軽く飛び降りた。

力を注ぎ、ジアンの色がはっきりした途端、銃撃音の鳴り出した街中に異様な喪失感を覚えた。

ユリ・カンナリー(22)

天使。困っている人を見たら助けずにはいられない。身長160cm


ルケイル・アンハード(25)

悪魔。後輩の兵士からは頼りがいのある良い兄貴的存在として慕われている。身長172cm


ガルガン・フリーゼ(26)

死神。明るく、物怖じしない性格。目的は特に無く興味本意で堕混となった。身長167cm


ありがとうございました。

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