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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
第十章

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戦士たち

右手の甲から長く伸びた、1本の白く輝く鉤爪から無数の棘が生え、そしてその棘にもまた小さな棘が生えていく。

「お前、力3つ持ってたりすんのか?」

あ?随分と余裕こいてるなこいつ。

まぁまだ無ぇけど。

「あると言ったら?」

「別に?それでも俺は負ける気がしねぇってだけだ」

ちっどこまでもいけ好かない奴だな。

1本の鉤爪に生えた無数の棘と、その棘に生えた棘すべてを瞬時に伸ばしながら、まるで1本の木のようになった鉤爪を蔦のようにしなやかに振り上げる。

発生した青いバリアに向けて、高熱を帯びたすべての棘と蔦が激しく打ち付けられたが、広範囲の道路や看板に無数の筋状の焼け跡を残しても、青いバリアは砕けることはなかった。

「そんなもんかよ」

何だとくそっ。

さっきよりバリアが硬いだと?

白い竜が青いバリアの向こうからこちらに手をかざしたのが見えた途端、掌から放たれた青い光は視界を覆い、意識がはっきりしたときには目線は空を向いていて、起き上がって見てみると体の所々は激しく焼かれていた。

こいつ・・・。

この俺が、ここまでやられるなんて・・・。

「おい火爪、何してんだよっ」

センタロウか。

「悪ぃ、今すぐ俺とあいつを囲んでくれ。本気出さねぇと勝てないみたいだ」

「分かった」

センタロウが透明な空気の球を出現させ、それを白い竜の背後にまで広げていっても、白い竜は特に警戒する様子もなく、ただ静かに周りを見渡した。

これが効かなかったら、退くしかない。

全身に力を入れ、全身の至るところから小さな棘を出現させる。

そして素早く翼のジェットで飛び出すが、白い竜は青いバリアを出現させず、まるで迎え撃とうとするように組んだ腕を解いた。

「皇輪ノ棘」

その瞬間、白い竜がこちらに向けた人差し指から青い光線が撃ち出されると同時に、全身の棘から前面に向けて無数の白く輝く棘が噴射される。

青い光線に肩は貫かれたものの、全身から噴射される棘は途切れることなく白い竜に降り注がれていく。

いけぇぇえ。

身体を背けている白い竜の全身の鱗が弾け飛び、微かではあるが少しずつあらわになった白い肌に傷が見えてきたとき、突如白い竜の全身にほんのりと纏う青い光が濃くなった。

すると途端に白い竜に降り注がれていた無数の棘は、まるで何かにぶつかっていくかのようにその勢いを緩めていった。

な、何だって?何だよあの青い光。

そして白い竜は無数の棘をものともせずに、再びこちらに体を向け始めた。

しかも、何だ、何もしてないのに、さっきとまるで威圧感が違う。

一体、何をした。

棘の噴射を止めると、白い竜の全身についた切り傷は見る見る消えていった。

はぁ?自己再生・・・くっそ、どんだけ速いんだよ。

ダメだ、こいつ、倒せねぇ。

「火爪、ど、どうするよ」

「退くしかねぇ」

くそ、この俺が、圧倒的に負けた・・・。



車の扉を閉め、何故か人気が全く感じられない、小さいオフィスビルや飲食店らしきものが見える都会の街を見渡してみる。

「人、居ないの?」

「ここは紛争地帯だからな。出歩く者は居ない」

建物の中には人が居るってことか。

とりあえずは、人気が無いところを指定したかったってことなのかな。

そそくさと歩き出したシエノについていき、ふと看板に電気のついていない小さな飲食店の角を曲がったとき、そこから見た街並みは数分前に見た街並みとは全く違う装いを見せていた。

窪んだ地面に、ガラスの割れたビルに、半焼したままの飲食店。

こ、こっちでいいのかな。

「今も紛争やってるのかな」

「だろうな」

「原因は?政治関係かな」

「ほとんどは反政府テロだ。だが郊外では山賊とも争っていると聞く」

山賊かぁ、そういうのって、貧困層の人達がやってるんだろうな。

ん?誰か居る。

静寂に満ちた男性の隣には、何やら平安時代を思わせるような服装の上に、まるで西洋の戦士のように所々を軽く武装した格好の、おおよそ20代後半ぐらいに見える黒いセミロングヘアの女性が居た。

「シエノ、ご苦労」

会釈したシエノを見た男性はすぐに何かを促すように女性に顔を向ける。

すると女性は静かに歩き出し、こちらの背後に回った。

何だ?

女性に体を向けようとしたがすぐに女性はこちらの肩を掴むと、男性に体を向けるように促した。

何だよ・・・何するのかな。

「動いちゃダメだからね?」

結構明るい声だな。

「何するの?」

「いいから、ちょっと座って」

座る?こんな街中に?

「速くぅ」

「ど、どうやって」

「えっと、両膝を立てて」

そう言って女性は肩を下に押してくる。

いてて・・・。

「こう、祈るような」

祈る?・・・。

「何で?」

「おいユーフォリア、説明ぐらいすればいいだろ、まったくトロい女だ」

するとユーフォリアと呼ばれた女性はまるで怒ったように黙り込みながら、男性の目の前まで歩み寄り、その顔を見上げるように覗いた。

「何だ」

「そんなこと言っちゃうと、ライフの家のトイレの扉、外しちゃうから」

・・・え。

するとライフと呼ばれた男性はそんな言葉を真剣に考えるようにただ目線を落とす。

「それは、困る」

ふとトイレを横切る時、扉の無いトイレの便器に座るライフと目が合う情景が目に浮かんだ。

確かに困るな。

「ねぇ、何するの?」

「お前こそ、低次元の巫女を転生させる為に来たんじゃないのか?」

あぁ、やっぱそうだよな。

「両膝をついて目を閉じろ」

「うん」

ふう・・・。

「こっちも集中しなきゃならないから、動くなよ?」

「うん」

どっちがやるのかな、わざわざ連れて来たんなら、女の人かな。

目を閉じると高い足音が再び背後に回り、とても小さな低い足音が目の前に近づいてきた。

何だろうな、この沈黙。

始まってるのかな?

「雑念を捨てろ」

あ、僕も集中しなきゃいけないのか。

その時に遠くから微かに破裂音のようなものが聞こえた。

あら、紛争、近くでやってるのかな。

「落ち着け」

えー、無理だよ。

何でわざわざこんな街中でやるのかな。

「掴んだ」

え?

思わず目を開けてしまうと、ちょうどこちらの胸元から何かを引っ張るように手を引くライフと目が合った。

「おいっ・・・くそ」

そしてライフが何かを引っ張った瞬間、自分の胸元から数珠状の何かが勢いよく飛び出した。

おおぉっ何か出たぁっ。

しかしすぐに消えたその数珠状の何かを見たライフは、とても不服そうに重たいため息を吐いた。

「雑念が多すぎた。失敗した」

・・・えっ。

「えっ・・・え、失敗って・・・」

「目を閉じてろと言ったのに」

僕のせいなの?

悪いのは場所じゃないかな。

「転生、しないの?転生させるっていうからここまで来たのにっ」

「落ち着け。巫女が転生しないと誰が言った」

え・・・。

「巫女の魂の欠片だけを取り出すつもりだった。だが、お前の雑念がうるさいから、余計な魂の欠片まで引き連れてしまったんだ」

余計な魂の欠片・・・。

「そんなに問題なの?」

目を逸らしたライフは何かを考えるように黙り込むと、そのまま黙ってユーフォリアと顔を合わせた。

「仕方ない、始めよう」

無視かよ。

立ち上がるとユーフォリアはライフに歩み寄ったが、ライフはまるで考え込んでいるように固まっている。

「・・・ライフ」

「ん、何でもない。説明してやれ」

考え事ね。

まぁいいか。

「今から、君から取り出した魂の欠片を回収しに行くからね。君から出た魂の欠片だから、君の力でしか転生させられないの。見つけたら教えてくれればいいからね」

この人優しいな。

「うん。その魂の欠片はどんな風に見えるの?」

「魂は肉体から離れるときのことを記憶する。見えるとすれば、恐らくは離れる直前の姿だ。分かったらさっさと行け」

えー。

・・・離れる直前の姿、つまり死んだときの姿ってことかな。

どこからか機械音と足音が混ざったような音が聞こえてくると、ライフとユーフォリアは素早くその方へと顔を向ける。

「あれ?何で?」

「精霊、俺達はここを離れる」

「え」

「転生させるにはそいつの名前を呼び、目覚めさせ、高次元の存在であるお前の力を分け与えればいい。シエノ、終わったら連絡してくれ」

「はい」

そして話しかける間もなく、ライフとユーフォリアは何かから逃げるように路地裏へと去っていった。

「何で行っちゃったの?」

シエノが顔を向けた方に目を向けると、遠くには人型の機械がこちらの方にゆっくりと向かってきているのが見えた。

「あれは現時点で最も強く、大きな王国、ユートピアの正規軍だ。ライフ様はお前と関わっていることを隠してる。だから自分と同じ軍に目撃されるのを回避した、ということだろう」

「何で隠すの?」

「同じ軍だからって、信頼出来るとは限らないだろ?」

んー・・・スパイ対策みたいなものかな?

「とりあえず今は転生させることを優先しろ」

「あぁ」

でも、魂の欠片がどこにあるか・・・ん?何か、さっきは感じてなかった、気配を感じる。

何となく気配の感じる方へと向かっていく中、別の道からも同じような人型の機械が遠くに見え、そして同時にその反対方向には物陰に隠れる何かが見えた。

えー、ここで今始まるの?

こんなときに。

あ・・・。

「シエノ、あそこ、光ってる」

「あぁ」

始まる前に何とか・・・。

二車線ほどの道路を駆け抜け、ビルの隣にある小さい駐車場の中央で、何やら守られるようにすっぽりと白い光に包まれた人影に歩み寄る。

その瞬間、すぐに見慣れた鎧を着たその男性との記憶が、まるで呼び覚まされるように脳裏に浮かび上がった。

え・・・。

「・・・ベイガス?」

堕混の姿のベイガスが目を開けた瞬間、ベイガスを包む光が消えると、少しだけ透明なベイガスは地面に足を着けた。

「ここは・・・」

ベイガス?何でベイガス?

こちらの顔を見た途端、ベイガスは目を見開くものの、その表情は明らかに状況を理解出来ないと分かる不安感に染まっていた。

「お前らは・・・ラビット達の仲間か?」

「ラビット?違うよ」

「俺は、死んだんじゃないのか?」

「死んだよ。でも今、新しく転生するんだ」

何でベイガス?・・・。

これがライフの言ってた、失敗かな。

「転、生・・・生き返るのか?」

「ちょっと違うけど、同じようなものかな」

透明な自分の体を見下ろしながら小さく頷くものの、不安に染まった眼差しに疑念を加えながら、再びベイガスはこちらに顔を向けた。

「・・・お前は誰だ」

「レイのこと覚えてる?」

「レイ・・・あぁ」

「じゃあレイと一緒にベイガスと戦った人は?」

ベイガスが目線を落としたとき、遠くから銃撃音が聞こえてきた。

「・・・喋る、エニグマ」

「そうそう、そのエニグマが転生して生まれ変わったのが、僕」

ベイガスは小さく眉間にシワを寄せてこちらを見つめるが、特に警戒する様子もなくすぐにシエノに顔を向けた。

「じゃあお前は、レイか?」

あれ?

「いや、俺はまったく関係ない、ただの同行者」

やっと表情は落ち着いてきたけど・・・。

「・・・そうか。それで、ここはどこだ?何で俺はここにいる?旧魔界はどうなった」

まぁそうなるよね。

「旧魔界は三国の兵士に制圧されたよ」

「・・・そうか」

「ここは前に僕達が居た世界とは、次元が違う、根界っていう世界。ベイガスがここに居る理由なんだけど、それはちょっとした手違いってやつで、僕もイマイチ分からないんだ」

小さく頷いたベイガスが不思議そうに自分の体に目を向けたとき、再び連続的な銃撃音が街に響いた。

「俺は、何故透けてるんだ」

「それはまだ転生してないからじゃないかな、そこら辺は僕にもよく分からないけど。でも僕が力を分ければすぐに転生出来るよ。とりあえずちょっと急いでるから、始めていいでしょ?」

「あぁ」

どうすればいいのかな、とりあえず・・・。

右手に黒氷、左手に白炎を出し、そしてそれを混ぜながらやんわりとベイガスに注いでいく。

ベイガスを包んだ黒氷と白炎が、ベイガスに吸い込まれるように消えると、姿を現したベイガスははっきりと見えるようになっていた。

「これが、転生か、確かに先程よりも体が軽く、息苦しくない」

「とりあえず今は他の魂の欠片を探したいから、黙ってついてきて貰っていいかな?」

「・・・分かった」

ふぅ・・・すぐに一番近い気配のところに行かなきゃ。

小さいビルの角を曲がったときに見えた人型の機械はどうやら搭乗型で、その機械を操作している人に気付かれないように路地に入る。

「シエノって空飛べないよね?」

「飛べないが」

「これの屋上なんだよね、欠片」

「問題ない。飛べはしないが、跳躍ですぐに追いかけられる。先に行ってくれ」

へぇ、ただのスーツ姿でも、そこら辺はさすがに高次元の存在としての力はあるんだ。

「翼解放」

5階ほどのビルの屋上に降り立ち、翼を消しながら光に包まれた人影に歩み寄る。

「お前、それは天魔の力か?」

「あぁ、僕、ほんとは天魔女王直属の兵士としてベイガスの所に来てたんだよ」

「そう、だったのか」

ふと足音がした方に振り返ると、そこには何食わぬ顔で立つシエノが居た。

速い・・・。

ベイガス・ベアアウル(28)

死神。死神と三国の兵士の戦争を終わらせようと、異世界の人間と取引をして堕混の力を得た。死神の王の言葉「生きていればこそ」を信条にしている為、過去の事は振り返らない。


ありがとうございました。

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