ソークアップ
これまでのあらすじ
遂にディビエイトの顔合わせの日を迎えた総助。そこで総助は管理者のリーダー、オスカーと出会う。
遂にルーニーの下に辿り着いたバクト。しかしルーニーには世界龍を助けるという目的があり、精霊になっていたバクトはルーニーに力を貸して欲しいと頼まれる。
「私達には、倒さなければならない敵がいる。それは、ブルーオーガという国だ。事の始まりはある1つの国の王が亡くなったことだ。そのプロティバーという国の国王は遺言で後継者を作らない意思を示していた。そのため、失われた王国を自国の領土にしようと真っ先にブルーオーガが動いた。しかしプロティバーと友好関係を結んでいた我が国はそれを阻止しようと軍隊を向かわせた。我が国に戦意は無かったものの、戦意のあるブルーオーガとの衝突はすぐに戦争を生んでしまった。当初の戦争の規模は小さかったが、ブルーオーガが同盟国を引き連れてくれば我が国も同じように対抗せざるを得なくなり、戦争の規模は次第に大きくなっていった。そしてある日、ブルーオーガは見たことのない軍隊を引き連れてきた。それがエネルゲイア計画によって作られた軍隊だった」
エネル、ゲイア?・・・。
まじか・・・。
「エネルゲイアとは、惑星の核の、簡単に言えば老廃物である鉱石を使って、魂が持つ具現能力を最大限まで引き出させた生物のことをいう。つまり人間で言えば、人工的にサイキッカー、シャーマン、超能力者などと呼ばれる人種に改良するということだ。エネルゲイアを解析するまでにも、その軍隊によって戦況は瞬く間に変えられてしまった。我が国とブルーオーガの同盟国はほぼ同数だった。しかしエネルゲイアの力の前に我が国の同盟国は裏切りや寝返りを余儀なくされ、今では我が国の同盟国は3、ブルーオーガの同盟国は17にまでその差が広がった」
何だそりゃ。
「おいおい、そんなんじゃいくら何でも勝てないだろ」
「だから、君達が必要なんだ」
え?・・・。
「君達はソークアップを知ってるか?」
・・・あ?ソーク、アップ?
「ソークアップこそ、君達の主力兵器というべき能力。君達の個性とも言うべき各々の力は、ソークアップによって生まれた副産物に過ぎない。ソークアップこそが君達が持つ唯一の能力なのだ」
ソークアップって訳せば吸い上げるってことだよな。
でもそんなの使ったことねぇよ。
「管理者から聞いているだろう。その胸元にある世界龍の血晶は、ありとあらゆるものを取り込むことが出来ると。それは血の結晶という解釈をしているが、正確には世界樹の一部から採れる結晶体だ。つまり君達が唯一持つ能力、ソークアップとは、敵の攻撃をすべて無力化出来る力のことだ」
な、何だってぇ?
「戦いを望まない者もいるかも知れない。だが、どうか君達の力を、戦争を止めるため、世界を救うために使ってはくれないだろうか」
なるほど物は使いようだな、確かにこの血晶なら、すべての攻撃を無効化出来るかも知れねぇ。
「俺は戦うよ」
真っ先に口を開いたハルクに皆の視線が注がれると、ハルクと顔を合わせた筋肉質な男と艶やかなストレートヘアが印象的な女も真剣な表情で頷き合う。
「オレも戦う」
「私も戦います」
するとハルクはすぐに狼男に顔を向け、どことなく不安げに耳を下げた狼男に頼りがいのある優しい眼差しを見せる。
「オレも、戦う」
「正直、胸の内ではお主らのことは信用していなかった。だが事情を聞いたからには、拙者がここを去る理由は無い」
「私も同感だ」
エイゲンとハリスに頷き返したオスカーはそのまま答えを聞こうとするように、次にエンジェラ達に目を向けていった。
「あたしもやるわ」
機械の腕の女が応えたときにふとエンジェラがこちらに顔を向けると、エンジェラは静かに微笑むとすぐにハオンジュに顔を向けていった。
「私も」
「あたしも、別に暇だし」
「私もやります」
ハオンジュ、エンジェラ、ナオが順に応えると頷いたオスカーは次にゆっくりとフレッドに顔を向けた。
「ボクも、や、やります」
すげぇな、ソークアップ。
それが出来るなら、マジで無敵だよな?
何かもう、今にも戦ってみてぇ。
「そうか、では君は?」
そしてオスカーはこちらに真っ直ぐ目線を移してきた。
「やってやるよ。ブルーオーガの連中、ぶっ殺してやるよ」
「皆、本当に感謝する。だが、ひとつ忘れないで欲しい。我々レッドワイバーンは、ブルーオーガを止めたいのだ。殺したい訳ではない」
・・・あ?
んだよ。
「じゃあ何すんだよ」
「当面の目的は、奪われた同盟国を取り戻すことだ」
勢力抗争か。
「てか、ソークアップってどうやって使うんだ?俺は使ったことねぇけど」
「君達はディビエイトになる時、ソークアップを一度経験してるはずだ。私はディビエイトではないので詳しくは分からないが、感覚や思いの領域から発動するものと思っていいだろう」
感覚や思い?まぁ念じりゃいいのか。
「1つ聞いて良いか?」
そう言ってハルクが手を挙げると、オスカーはすぐに敬意を示すような上目遣いでハルクを差した。
「ブルーオーガの目的は、世界の支配なのか?」
「そうだ。だがブルーオーガにとってこの世界の支配はスタートでしかない。1つの世界を統治するだけならまだいい、統治された世界というものは少なくとも大きな争いのない平和な世界だ。だがブルーオーガはエネルゲイアを使って異世界にまで侵略の手を伸ばし、やがて全異世界を支配しようとしてる。例え目的が統治だとしても、侵略は必ず戦争を生む。全異世界で戦争が起これば、流れる血の量は想像も出来ないものとなるだろう。だからこそ我々はブルーオーガを止めたい」
なるほどな、あれ、てかエネルゲイアを作るために俺の世界に来た時点でそれってもう侵略だよな。
「もし今すぐにでも戦場に赴いてくれるのなら案内しよう。心の準備をしたい者は明日からでも構わない。だが安心してくれ。君達のことは全力でサポートする、戦うのは君達だけではない。我々は常に、1つのチームなのだ」
「ここって遺跡なのかな?」
「じゃないの?」
相変わらず素っ気ない返しだな。
でも仕方ないかな、皆ちょっと疲れてるみたいだし。
ふとハクラを見ると、その横顔は未だに抜けきらない疲労感と戦っているような表情を伺わせていた。
ようやく岩肌の遺跡のような場所に終わりが見えてきたとき、すぐにその遺跡の果てに数人の人影が確認出来た。
何だろ、武装してるけど。
「ルーニーあれ」
「え?・・・軍隊かな」
軍隊・・・。
もしルーニーの目的を、軍隊や警察の人が知らなかったら、僕達は何だろ。
あの白い人は、掟は僕達を許さないって言ってた。
なら僕達は、不審者?
「逃げた方がいいかもね」
「もう無理、囲まれてる」
ハクラが返したその言葉に胸騒ぎを感じ、ふと後ろを振り返ると、すぐにあらゆる方面の塀の上や角からこちらを眺める数人のスリムな甲冑姿をした人間が確認出来た。
ありゃ。
そして前方の軍人達がこちらに歩み寄ってくると、最後に1人の軍人がまた少しだけ前に出た。
「こちらはユートピア正規軍だ、お前達3人は、低次元の存在だろ?」
何で僕は違うって分かるんだろ。
「低次元の存在が許可なく根界に入ることは禁じられている、直ちに低次元へ戻りなさい」
「私は世界龍に呼ばれてここに来たの。世界龍に会うまでは帰らない」
武器は構えてないけど、相当警戒してるみたいだな。
すると前に出ている軍人男性は、まるで心当たりのあるキーワードを聞いたような驚きを見せ、更に一瞬だけ少し戸惑うような表情を見せる。
「世界龍?創造神が低次元にコンタクトを取ることなどあり得ない。創造神は常に我々が保護並びに監視している」
「今のじゃない。私は未来から来たの。私がいる時代の誰かが過去に行って歴史を脅かしてる。だからまず世界龍に何か起こってないか確かめたいの」
何だか妙な沈黙だな。
軍人達が顔を見合わせた後、ルーニーと話していたその軍人はおもむろに無線機を取り出した。
報告?通報?・・・上司に相談かな。
そして大して波風が立つこともなくしばらくした後、やがてその軍人の下に、甲冑ではなく各々動きやすそうな私服の上に、肩やらボタン、袖に金の装飾が施された黒いジャケットを着たという風貌の2人の軍人がやってきた。
服の装飾を見る限り明らかに偉そうだけど。
「お前達は全員通常任務に戻ってくれ」
「はい」
静かに波が引くように軍人達が去り、立ちはだかる者が2人だけになると、すぐに微かな敵意と余裕を伺わせるように微笑み、腕を組んだ、どこか獲物を見るような狂気を宿す眼差しの20代に見える男性は、その男性とは対照的な、態度から表情まで静寂に満ちた同年代と思われる立ち並ぶ男性に顔を向けた。
「ここは俺だけで十分だ。つか、俺にやらせろ。最近暇過ぎて腕鈍ってんだよ」
戦う気か、仕方ない。
「分かった。だが精霊には手を出すな」
「お、良いねぇ」
こちらを真っ直ぐ見つめる静寂に満ちた男性にふと小さな恐怖を感じたが、すぐに嬉しそうに狂気を尖らせながら近づき始めた男性に意識を向ける。
「ここはお前らが来る場所じゃないって聞いただろ。帰る気がないなら肉体を滅ぼして魂を上に強制送還させてやることになってる。簡単に言や死刑だ」
死刑?来ただけで?そんな横暴な。
「横暴じゃない?」
「あ?精霊は黙ってろ、そうゆう法律なんだよ。つか、限定解離処置はここで肉体が滅ぶだけだ、どうせ上がった瞬間にまた同じ肉体で生まれ変わるんだからいいだろ」
「限定・・・何?」
「だから、一時的に肉体から魂を離れさせるってこった」
「ハクラ、ジアン、ここはやるしかないみたい」
「はは、無理だ。低次元の奴らがここの奴に勝てる訳がない。ましてや、相手がこの俺じゃな」
気さくに話してるようにしか見えないのに、気迫っていうか、全く隙が感じられない。
「でも私はここで死ぬ訳にはいかないの。世界龍を守らなきゃいけない」
「は?創造神は常時俺達が保護してる。いくら巫女だろうと、こっちの世界に首突っ込むな。何があろうと、創造神には傷ひとつ付けねぇ。だからさっさと帰れ。これが、最終勧告だ」
何で巫女だって分かったのかな。
それより帰れって言っても、どうすればいいのかな、またあそこに入ればいいのかな。
・・・ん?何だこの間、動かないのかな?
「いくぞ?勧告はしたからな?」
え、何だそれ。
そう言った狂気を見せる男性は笑みを消し、更に殺気を尖らせると、素早く片手を振り上げた。
その一瞬に見えた空気の歪みに思わず自分の周囲に黒氷の膜を広げたが、直後にその黒氷の膜は音を立てながら瞬く間に砕け散った。
っと、あぶなっ。
直後に脇腹を刺した強い衝撃を理解したときにはすでに体は吹き飛ばされていて、地面に倒れ込んだのが分かったときにふと男性を見ると、その眼差しは怒りに満ちていた。
「邪魔だ寝てろ」
痛い、く・・・。
「バクトっ・・・雷光天貫」
エクスカリバーを、全身に・・・。
走り出しながら掌から溢れる光を腕に這わせるものの、雷光のように輝く白い光はまるでこちらの意思を拒むように肘の辺りで凍るように固まった。
く、難しいっ。
仕方ない、手刀として使えないこともないし、このまま。
「最初はお前か」
狂気を見せる人間がゆっくりと右手を引いたのを見ながら、いびつに固まった光の手刀をその人間に向けて真っ直ぐ突き出す。
しかしこちらの手刀がその人間の胸元に届く直前、強く鋭い衝撃が左胸を襲った。
あ・・・。
ハクラ・・・。
「ハクラぁっ」
ルーニーの声も虚しく、ハクラは見えない何かに貫かれて呆気なく膝を落とし、そして倒れ伏した。
何を、した?
「はい1人目」
心臓を貫いたのは分かる。
だけどただ軽く突き上げただけで、右手からは何も出てない。
いやそれより、あの人、全く迷いがない。
ジアン、あの人は危ない。
「次はお前か」
「五天縛角」
その直後、狂気を見せる男性の足元から鈍く反射する銅製の円柱が立て続けに飛び出し始めた。
角度もバラバラで曲がることなく飛び出した5本の銅柱がその男性の下半身をきつく拘束するものの、狂気を見せる男性は全く焦りや不安を伺わせない。
「動けなければ殺せないとでも思ってんのか?」
そう言って狂気を見せる男性が右手を挙げると、ジアンは素早く左手の甲を男性に向けるように身構えた。
男性が手を振り下ろすとジアンの周りの地面は強風を受けるようになびき、軋むような音を上げたものの、ジアンは特に衝撃を受けるような素振りを見せなかった。
「あ?お前、何した」
「得体は知れないが、お前の力は吸い取らせて貰った」
「吸い取るだ?生意気な奴だ、いいだろう少しは動いてやるよ」
狂気を見せる男性がそう言った途端、男性にしがみつく5本の銅柱はまるで糸が切れたかのように力無く地面に倒れていった。
「何だって?」
「動けなくなったと誰が言った?」
冒頭の長い台詞、1番最初と同じですね。
氷牙というエネルゲイア側の視点から、総助、ハオンジュ、ハルクというディビエイト側の視点に代わる、そんな感じです。
ありがとうございました。




