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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
第九章

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そして精霊は旅立った

はぁーあ、何だよ・・・。

つまり、ルーニーはハシオリトのジョナス達で、僕は何も知らないハクラみたいな感じか。

なんだかな。

「ていうか、何で未来から?」

顔を上げてきたものの、目を泳がせるとルーニーは先程の強気な殺気に満ちた眼差しが嘘かのような、まるで罪を追及されて縮こまった泥棒のように肩を落とす。

「それは身元がバレないためと、まだ英雄になってない氷牙からなら、簡単に力を奪えると思ったから」

んー。

「でもそのせいで、戦争が終わるはずの未来が変わったよ?」

「大丈夫。それほど大きな運命はそう簡単には変わらないって、世界龍が言ってた」

大きな運命・・・。

まぁ、いいか、確かに火爪や雷眼なら、僕の代わりに十分なれる。

「分かった。納得出来たし、いいよ」

そう言うとルーニーはゆっくりと両手を地面に着き、うなだれるように黙って小さく首だけ下げた。

わお、土下座。

「バクト」

落ち込みきったルーニーを心配するような眼差しで見ながらハクラが歩み寄るが、ふと見たジアンは全くと言っていいほど動揺がなく、落ち着き払っていた。

「あぁハクラ。まぁそういうことだから、一緒に行くよ」

「でも、良いの?恨みがあるんじゃ」

「確かに最初は力を取り戻したいって思ってた。でもそれはルーニーを恨んでとかじゃなくて、力が無いと困るからなんだ。だけど今、何かルーニーよりも僕の方が強いし、別に取り戻す必要ないかなって思ってさ。それに、ルーニーと会った後のことは何も考えて・・・」

その瞬間にある記憶が頭を過り、気が付けばふとジアンに顔を向けていた。

まさか・・・。

「言ったはずだ。注意すべきことは、巫女に会ってからのことだと」

「ジアン、私が、氷牙に敵わないことを知ってたの?何で言ってくれないの?」

「な、お前が黙らせたんだ。それに、俺が言うより実際に体験した方がいいと思ってな」

え、ジアンはここまでのこと、全部予想してたの?

これも霊能力なのかな?

立ち上がったルーニーは大して汚れてもいない白い花柄ワンピースとジーンズを叩き、小さくため息をつく。

「・・・じゃあ、これから根界に繋がる樹の芯の部分、樹芯に行くけど、準備は良い?」

「あぁ」

とりあえず言っとくか。

巨大なドームに向かっていく3人について行きながら、雷眼から借りている端末を耳に当てる。

「もしもし、雷眼?」

「大丈夫か?今ルーニーと会ってるんだろ?」

「うん、でももう大丈夫だよ。それでこれから、根界に行くんだ」

「何だってぇっ?」

声でかいな。

「こ、根界だと?何故だ?」

「世界龍を助けに行くルーニーを手伝うんだ」

「・・・確かにバクトは転生したからな。行けなくはないだろうが・・・ルナマリアは、まさか根界に行くために力を奪ったってことか」

「うん」

「・・・そうか・・・分かった、気を付けろよ?高次元の存在の力は、そのすべてがこちら側の力とは正に言葉通りに、次元が違う」

「うん」

行ったことあるような口ぶりだけど。

「いや、バクトなら大丈夫か、バクトも高次元の存在だからな」

あぁ、そっか。

僕が半分精霊だから、ウィリアムの魔法もルーニーの力も通じなったのか。

「何でそこまで知ってるの?」

「人は探求心に支配されてるからな、私の時代では、精霊の力を借りて高次元に降りる調査隊があるんだ」

「そっか。もう雷眼に会えないのかな」

「どうだろうな。その時代の私には会えるかも知れないが」

端末をポケットにしまったところで巨大なドームの扉のない大きな入口に差し掛かったので、ドーム内を見渡すがそこには特に何がある訳でもなく、ただ中央に地下への階段があるだけだった。

「何にも無いね」

「無いよ」

投げやりな口調でそう応えながらそそくさと階段を下りていくルーニー達に続いて階段に足をかけたとき、突如入口の方から呼び掛けてくる声が聞こえてきた。

ん?

「あれ、雷眼」

「バクト、これを持っていけ。いざという時に使うといい」

そう言って差し出してきた小さな赤い宝石を受け取ると、雷眼はすぐにポケットから小さな銀色の筒を取り出しながら軽く手を挙げた。

黙って手を振り返しながら、雷眼が光の球体に包まれたのを確認してから階段に目線を戻す。

もうちょっと見送ってくれても良かった気がするけども。

あれ?ハクラもジアンも、手の甲に堕混みたいな感じでこの血晶とやらを埋め込んでるのか。

「ルーニー、この血晶って、あらゆる力を吸収出来るんだっけ」

「あー・・・まあね。何?君も体に埋め込みたいの?それならすぐにやってあげるけど」

何か、さっきの懇願してた態度がまるで嘘みたいだな。

元々こういう人なのかな。

「んー、いや、いいや」

「あそ」

んー、やっぱり手伝うのやめちゃおうかな・・・。

しばらくして土で出来た洞窟に照明が飾られただけの空間になり、そしてやがて随分と開けた場所に辿り着くと、真っ先に目に留まったのは奥にある明らかに土ではない素材の巨大な壁だった。

「何あれ」

「壁」

ていうかこんな地下でも照明だけはしっかりしてるんだな、影が見当たらないほど明るい。

それが木の表面だと分かるところまで近づいたとき、ふとルーニーは足を止めこちらに顔を向けてきた。

「高次元の存在が触れたときにだけ扉が開かれるから」

「ふーん」

ほんのりと赤く色づきながら、岩石のように固まったきれいな地面を一歩一歩進み、緊張感と好奇心が拮抗する中でゆっくりと、枝も根も見えないただの壁一面の木の表面に向けて手を伸ばす。

木の周りに苔が生えてるからかな、空気がきれいで、落ち着く。

木の表面に掌が着いた直後、まるで滝が流れるような音が木の表面の向こうから聞こえてきて、何となく手を放すと水流の音は一切聞こえなくなった。

しかしその直後にまるで草木が風になびかれていくかのように木の表面の中央から穴が空き始めた。

おおっ。

「私達が先、君が入った途端に閉まったら意味ないし、どいて?」

ていうか、木の中って真っ暗なんだけど。

3人の後に続いて木の中に入ってみると、そこは暗闇と渦巻くような水流の音だけに支配されていた。

えー、何も見えな・・・ん?

見下ろすとそこは洞窟から入ってくる僅かな光に辛うじて反射して見える、巨大な渦潮があった。

「溺れるんじゃないかな、これ」

「これは水じゃなくて、次元を繋ぐ時空の渦みたいなもの。じゃあ、せーので飛び込むからね、行くよ?」

ふぅ・・・よし。

「せーのっ」

落ちていく静寂の後、瞬時に押し寄せる衝撃に視界が潰されると共に方向感覚が掻き消えたが、間もなくしてまるで緩やかな川に入ったような軽さに見舞われる。

ん、動けないけど、息は出来るみたいだ。

しかし直後にウォータースライダーに乗ってるような速さで体が持っていかれ始め、その中でふと頬を膨らせたルーニーと目が合う。

まさか息止めてるのかな。

肺に酸素を入れるようにゆっくりと深呼吸して見せると、目を丸くしたルーニーは目を閉じてから勢いよく息を吐き出した。

うわぁ、何だろ、これまでに感じたことのない、まるで全身の細胞という細胞が活性化する感じ。

こんなに体中が暖かく、リラックス出来る感覚は初めてだ。

このままずっと、こ。

その瞬間に水流を感じなくなると、我に返ったように重力を感じるような感覚に見舞われたので、すぐに周りを見渡すと砂浜に打ち上げられたように横たわるそこは、まるで神殿を連想させた。

ここは・・・。

奥に誰か居る・・・。

「ルーニー」

「ん・・・」

「ハクラ、ジアン」

最初に動き出したのはジアンだったが、何故かジアンは重たそうに頭を上げ、そしてまるで何か重たいものを背負っているかのようにゆっくりと腕を白い床に立てた。

「く・・・」

木の中で感じていたような気持ちよさと軽さの感覚のまま立ち上がり、真っ白い石で建てられた広くはないこの場所をゆっくりと見渡し、そして唯一の出口とその出口の前で立ち尽くす1つの人影を見てからジアンに目線を戻す。

「体が重たい」

んー、ジアンが低次元の存在だからなのかな。

真っ直ぐ立ち、ゆっくり深呼吸するジアンからようやく起き上がり始めたハクラとルーニーに目線を移すと、やはりその2人もまるで全身を重たく感じているように表情を曇らせていた。

「何、これ」

「多分みんなが低次元の存在だからじゃないの?僕、全然体軽いし、ていうかむしろ、ここの方が何か気分が良いんだ。深呼吸でもすれば?」

何かすごい居心地良いなぁ。

変にテンション上がってきた。

ふと目を向けたルーニーは爬虫類の姿に変わっていて、天井を見上げながら大きく息を吐くとまるでリラックス出来た安心感が伺えるような態度でこちらに顔を向けてきた。

「その姿だと、マシになれる?」

「うん。ハクラも変身したら?」

「ふぅーー。大丈夫、第三気を使ったら凄く楽になった」

「そ。ジアンは?」

「大丈夫だ。血晶を通して高次元の酸素に体を順応させた」

ふふっ面白過ぎる、みんな強引だな。

唯一の出口に向かい、剣を真っ直ぐ床に突き立て、まるで門番のように扉の無い出口を塞ぐ、スキンヘッドに真っ白い肌と、2メートルくらいの身長に鍛え上げられた筋肉が際立つきつめの白いウエットスーツ、そして足首の位置で裾を縛った白い袴に金の刺繍が施された垂れ布が1枚、腰の中心に付けられたスタイルが特徴の男性の前に立つ。

「お主らは何者だ」

見た目とは違って声はちょっと高いな。

「私は世界樹の巫女。後は付き添い。そういう君は何?番人?」

「如何にも。私は低次元からの訪問者を通さないためにここに居る」

えー、低次元の人って、ほんとは来ちゃいけないものなのかな。

「だがそこの精霊は通っても良いと判断する」

あら、やった。

「私達も通してよ。私は世界龍の命を守るために来たの。世界龍に何かあったらどうなるかくらい、分かってるでしょ?」

しかし強気な口調でそう言い放つルーニーを、番人は姿勢も変えずただため息混じりに見下ろしている。

「確かにお主の気からは創造神の気の断片を感じるし、付き添いの者からも創造神の血の気を感じる。個人的には、お主らを通しても問題は無いと判断する」

「じゃあ良いじゃん」

「しかし根界には、低次元の存在を入れてはならないという掟がある」

法律的にだめなのか・・・。

でも雷眼が調査隊があるとか言ってたけど。

「じゃあ世界龍が、世界樹が崩壊するのを黙って見過ごすの?」

「逆に問う、どうすればお主らを通せる?」

・・・は?

「は?私に聞くなよ」

どういうこと?

「困ったものだ。そう易々とお主らを通せば、掟を創る意味が無くなってしまう」

んー。

「簡単だよ。私達のことには気付かなかったって言えばいい。うっかり寝てて覚えてないとか」

すると番人は黙り込み、その場にただ気の抜けた静寂が流れだした。

いや無理やり過ぎるでしょ。

「・・・その手があったな」

「いやだめでしょ。通して欲しいけど、そんな言い訳、絶対通らないって」

思わずそう言うとルーニーは余計な事を言うなと言わんばかりの眼差しを向けてくるが、番人に至ってはそんなルーニーをまるで警戒心のない眼差しで見下ろしている。

何だよこの人、やる気あるのか?

「例外の無い掟は存在しない。それに番人の役目とは、何者も通さないことではなく、通すかどうかを判断することだ」

そう言うと番人はその姿勢を軽々と崩し、その厳粛さに似合わず軽い足取りで一歩ズレた。

んー、まあいいや。

「気をつけたまえ。番人が許しても、掟はお主らを許さない」

え・・・それは、どういうことだろ。

再び出口を塞いだ番人の背中を見ながら、白に支配された広くはない通路を進む3人の先に目線を移すと、そこにはまるで霧で出来たような壁があった。

あぁっあれ、氷牙の世界の能力者の組織で使ってるやつだ。

おじさん達はどうにかしてあれを真似てたのかな。

第九章、ここで終わります。と言ってもほぼプロローグですけど。笑

ありがとうございました。

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