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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
第九章

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ハンドレッツ・ナンバー

そう言うとバクトは小さな歪みを掌に引き寄せ、まるで腕を包み込むようにその歪みを伸ばしていった。

その直後、バクトの右腕を包み込むその歪みは黒く色づき、更にまるで凍りついていくような光沢を見せていった。

な、何・・・。

「おーやっぱりそうかぁ」

「それは?」

「さっきウィリアムと戦ってるとき、自分の力だけでこれを作ったけどどうも維持しづらかったんだ」

何気なく話しながらもバクトはロードを担ぎ直し、左手の掌の上にも歪みを作り出すと、同様に左腕も歪みで覆っていく。

しかし左腕を包み込むその歪みは白く色づくと、その質感は氷とは対照的にまるで燃え上がる炎のように揺らめいていった。

これは、魔法なのか?

「おーこれ良いなぁ。ハクラが落ちるカイル達を包んだやつを見てピンと来たんだよね」

最初から、空殻を纏うために覚えようとしてたのか。

そういえばさっきの英雄も、エクスカリバーを体に纏ってた。

まだまだ、既存の魔法も見直す余地があるのかも知れない。

テリーゴを担ぐ正義の下に降り立つと、待機していたサモンロイドの軍隊がまるで待ち兼ねていたかのように展開し始める。

ミキ・・・。

「ハクっ」

声がした方に振り向くと、そこには駆け寄ってくるミキとサクラバリスタの姿があった。

「ミキっ」

良かった・・・。

「助けに来たよ」

大爆発が嘘だったかのように笑顔を浮かべるミキと無意識に手を取り合う。

「うん、大丈夫?」

その温もりはあの頃のミキを思い出させ、同時にその笑顔は今までにないほどの愛しさを募らせる。

「とっさに速陣して逃げたからね」

良かった・・・。

ミキの弓魔法でサモンロイドを牽制しながら、豪快に崩れ落ちたビルを過ぎた辺りでふと第百の1人が視界に入ると、その直後に目の前を花火のように弾けていく、刺々しい形をした一筋の光槍が通り過ぎた。

しかしその弾けた一部の光は周囲の地面を小さくえぐっていき、過ぎた後もその存在感は焦りと畏怖を募らせた。

「ハクラ隊長、カンデナーデはもういいんですか?」

「うん、もうカンデナーデと戦う理由は無いから、後は逃げるだけ」

「そうですか」



何だよ、もう出番はないのか。

それより、何でカイル達は気絶してんだ?

ていうかこのライオン顔の奴は一体何だ?

大きな傷も負わず、英雄と互角の戦いを続けている第百の下に近づいたとき、英雄ヒロカは自身の周囲に数本の光槍を浮かせた。

「マリー、隊長達は撤退中だった。援護しながら俺達もこのまま逃げよう」

「そ。分かった」

「スパークジャベリン」

英雄ヒロカが光槍の1本を隊長達の居る方に放つと、速度を落としてゆっくりと進む光槍は苛立ちを覚えるほどの散り広がる光で隊長達の行く手を阻んでいく。

その時にふと英雄ヒロカに目線を戻すが、そこにはすでに英雄ヒロカの姿はなかった。

何・・・。

直後に刺々しい光槍が突如速度を上げたのに目を捕らわれたとき、光槍が通り過ぎたその向こうにはすでにこちらの方に4本の光槍を放った英雄ヒロカが居た。

まず・・・うぁあっ。

光槍の直撃は免れたものの、同時に撒き散らされる小さな光はただ身を屈まずにはいられないほどの衝撃、風圧、そして砂埃を辺り一面に轟かせていく。

その中でライフル銃に撃たれるような衝撃が全身を襲い、すぐ後に轟音は止んだもののすでに意識は少し遠く、体には立ち上がれないほどの痛みが響いていた。

「おいサクラバリスタっ」

「レ、グ、か」

ダメ、だ・・・。

「その出血じゃまともに歩けねぇな、仕方ねぇ」

「ぐ・・・わ、るい」

「喋るな・・・お・・・ぃ」

く・・・そ・・・。



ん?カイル達の知り合いがやられたのか・・・。

ウエットスーツの上に、拳銃やナイフなどを装備させたきつめのミリタリージャケットと関節部を覆う鉄製の軽装甲、そして鉄製の籠手を装着した人達の内の1人が気を失ったカイルの知り合いを担ぐのを見てから、すぐに放電するように光を散らす光槍を放った可愛らしい服装の女性に目を向ける。

「ハクラ、ロードお願い。ここは僕が時間を稼ぐよ」

氷牙の鎧のせいで表情は分からないが、一瞬可愛らしい女性に目を向けただけでハクラはすぐにこちらに手を伸ばし、ロードを抱え始めた。

さてと、ちょっとこの世界の魔法とやらを試してみるか。

みんなの前に出て女性と対峙し、網目状に練り込んだ闇で全身を包んでみる。

ふと転生する前に扱っていた2色の槍を思い出しながら、漆黒に染まった両腕を見つめ、そして全身が重くなる感覚を噛み締めるように感じていく。

あの時の槍は白い方が鋭く、黒い方が槍としての鋭さが無い代わりに打撃力に長けてたんだったな。

「あなたは一体何ですの?」

おや、お嬢様キャラか、見た目通りに。

「まぁ君の味方じゃないよね」

「そうですのね」

その直後にその女性は右手に光で形作られた長槍を一瞬で出現させる。

「なら遠慮いたしません」

喋り終える前に素早く走り出したその女性は、数メートル離れた距離でもたった2歩でもうすでに目の前まで迫っていて、突き出された長槍を手刀で外側に弾くも女性は素早く体を振り、こちらの腹に回し蹴りを繰り出した。

おし、体は重いけどその分衝撃は感じない。

しかし女性は軽く跳び上がりながら華麗に回転し、すでにこちらのこめかみ目掛けて足を振り出していたが、ふと意識を研ぎ澄ませると女性はまるで時が止まったかのようにその動きを止めた。

これが何かは分からないけど、どうやら僕はみんなよりも次元の越えた速度で動けるみたいだな。

女性の腹に軽く拳を突き当てながら意識を鎮め、勢いよく吹き飛んでいくその流れをしっかりと認識する。

しかし女性はまるで大型車に突き飛ばされたように激しく地面を転がるも、素早く受け身を取り、まったくダメージを伺わせない動きで立ち上がって見せる。

あの人の背中にも小さな光の輪があるな、ならちょっとやそっとじゃ傷も付かないか。

脇道に向かっていくハクラ達に目を向けたその一瞬のうちにすかさず女性がハクラ達に光を散らす光槍を放ったので、素早く飛び出し、動きの止まった景色を感じながら光槍の前に立つ。

うおっと、衝撃が・・・。

動きだした光槍が胸元で砕けていくと、女性は小さく首を傾げながらもその眼差しに宿る闘志を一層強くして見せた。

ふぅ、かろうじて立ったまま耐えれたけど、ちょっと無茶したか。



バクトが見えなくなって少しすると海岸が見えてきたが、同時に砂浜に打ち上げられた2隻の小型船から煙が立ち上っているのが見えた。

「あっ・・・くそ、あたしらの船が」

「おいマリー」

「まさかこっちに回って来てるなんて」

焦りを伺わせるミキ達と第百の前には、煙を立たせる2隻の小型船を背後に皆の前に立ち塞がる、数体のサモンロイドと1人の人間がいた。

あの人間は・・・。

「英雄カナノア」

直後にカナノアは光の鞭を矢のように固め、そして弓を構えるような形で鞭先の円刃をこちらに向けた。

「第三掌、コクーン・オブ・アトモスフィア」

円刃から撃ち放たれていく湾曲する光矢が皆を覆う空気の壁を激しく叩いていくと、空気の壁は最後の光矢に叩かれると同時にその形をゆっくりと崩し、消えていった。

ミキ達の船もやられたみたいだし、これじゃ逃げられない。

「レグ、サクラバリスタに応急措置しといて。バルト、とりあえず目の前の敵を殲滅」

「あぁ」

「じゃあいつも通りのテンションで」

直後にマリーとバルトと呼ばれた第百隊員は、砂埃を突き立たせるほどの跳躍でカナノアに向かっていった。

「マナ、ケイ、ガラ、あたしらもいくよっ」

「はいっ」

大丈夫かな、今の私でも抑えきれない力を持つ英雄相手に。

ふとその瞬間、向かっていくミキ達に向けて弓のように光の鞭を構えながらも、こちらと目を合わせたカナノアが微笑んだように見えた。

しかしミキ達の前にはサモンロイドが立ちはだかり、その頭数と人間を超える機動力でミキ達の足を止めていく。

それでも流れてくる大木をただ切りさばいていくほど容易く、ミキ達が各々の拳や剣でサモンロイドを難なく撃破していった直後、サモンロイドから立ち上る炎と煙を突き抜けて数え切れないほどの湾曲する光矢が飛び出していくと、ミキ達は抵抗することも出来ずに瞬く間に倒れていった。

「ミキっ」

どうしよう、一旦2人を置かないと。

「正義、ミキ達を運ばなきゃ」

正義に顔を向けるとすでに正義は膝をついていて、体格や輪郭が人間に戻っているのに気付いたときにはすでに正義は地面に倒れ伏していた。

え・・・。

「正義」

「もう、限界、だ」

え?・・・どういうこと?

「正義っ」

しかし正義はまるで眠るように目を閉じ、気を失っていた。

限界?・・・サモンとの完全融合のってこと?

爆発音で我に返ると、目の前には正義とテリーゴが倒れていて、砂浜の方にはサモンロイドの残骸と共に倒れ伏すミキ達、そしてその先にはちょうど最後のサモンロイドを破壊したマリーとバルト、カナノアが居た。

どう、すれば・・・。

ミキ達を運ばなきゃ、だけど船は壊された。

ミキ達を運んだとして、集めた怪我人のところにサモンロイドの援軍が来ないとも限らない。

カナノアが光の鞭を振り、円刃を砂浜に叩きつけると砂は爆発的に吹き広がりミキ達に振りかかっていく。

駄目だ運ばなきゃ。

カイルとロードを正義の傍に置いてミキに駆け寄ると、気を失っているミキの胸元には魔導スーツを焼き付くすほどの焦げ跡が広がっていた。

4人同時には運べないか・・・。

4人を囲むように空殻を張りながら、素早く2人を持ち上げて正義達の傍に置く。

残りのマナとミキを持ち往復してきたとき、正義の上で気絶していたテリーゴがゆっくりと動き出した。

やっと目が覚めたか。

「ここは、なん、だ」

「テリーゴ、あなた達のお陰で四角錐から出られた。だけどサモンを作るのに失敗したから気を失ってた」

「ふぅ・・・そうなのか。ん?」

「正義はあなたを担いでたけど、今さっき限界だって気絶した」

「へ?何だそりゃ、まいいか。とりあえず2人を起こさないと」

空殻で止血したミキ達からサクラバリスタ、そしてサモンロイドがすべて撃破されたその砂浜でも変わらず戦っているマリー達や、マリー達の向こうに横たわる無残にも破壊された小型船に目線を移していく。

そういえば、私達が乗ってきた船ってただの貿易船だった。

「もしもし、こちらハクラ」

「・・・お?どうした?何か問題でも起きたか?」

「ジョナス、今海なんだけど、どうやって戻ればいい?」

「悪ぃさっき言っときゃよかったな。潜水艦を待機させてんのは海岸の近くなんだが、今どこら辺だ?」

どこら辺・・・。

「砂浜・・・」

岬のようなものなら、ずっとあっちに見えるけど。

「あー、じゃあ、掌魔法でも打ち上げてくれ、そうすりゃ分かる」

「分かった」

ふぅ、ジョナスのこと忘れてた。

「第二掌、交炎」

打ち上げた2つの火の玉が上空で爆発し、少しの明かりを纏いながら白煙を撒き広げると、ふと動きを止めたマリー達やカナノアもその白煙を見上げた。

潜水艦が来る前に、カナノアを・・・。

「ハクラ・ディアゲート」

そう言って覚悟を思わせるような真剣な表情で歩み寄ってきたレグは、ゆっくりとこちらの前に立ち塞がりながらサクラバリスタを目で差した。

「あいつを見ててやってくれ、ここは俺に任せろ」

反論する気を失ってしまうほどの真っ直ぐな眼差しに頷くことも出来ずにいたが、すでにレグはこちらに背を向け、カナノアから少し距離を取ったマリー達に向かって歩み出していた。

「らしくねぇな2人共、たった1人に手間取って。下がってくれ、リミットブレイクする」

リミットブレイク?・・・。

入れ替わるようにカナノアと対峙したレグの両手から淡く光が漏れだすと、同時にレグの背中を覆う微かな歪みが、ぼんやりとした輪っかにまとまった。

何だろうあの輪っか。

言葉を発することもせず、カナノアと対峙してから数秒も経たずに跳び出したレグは本能に身を任せた獣の如く、振りだされた光の鞭を叩き返しそして素早くカナノアの腹に拳を叩き込む。

速い・・・。

更に吹き飛ぶカナノアを素早く追いかけたレグが間髪入れずに蹴りで光槍を撃ち放つと、肩を突かれたカナノアは衝撃と風圧に激しく宙を舞いながら回転していった。

マリー達と明らかに動きが違う・・・。

いよいよ第百番隊の見せ場ですね。

ありがとうございました。

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