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見えない背中4

「重砲・雪崩星」

黒く澄んだ闇の圧力が球となりオレンジ色の壁に激突するが、空まで響き渡るほどの重たく鈍い衝撃音と共に闇が消えていっても、オレンジ色の壁は少しの歪みも見せない。

だめじゃん。

「俺がやる」

皆が下がり正義が一人オレンジ色の壁と対峙する中、正義はゆっくりと右肘を引くと同時に手刀の先を壁へと向ける。

「トライデントっ」

正義が勢いよく手刀を突き出したその直後、思わず押し倒されるほどの風圧が壁から跳ね返ってくると、視界が弾かれ目を向けさせられた大軍隊の、前線に立つサモンロイドも数体が衝撃波になびくとそのまま激しく砕け散った。

な、正義は危ないな・・・。



「おい、何だあの壁」

「あれはサモンウォール。複数人で重ねて施す第三空殻魔法に、更に別の複数人がサモンの魔力を重ねる、というものらしい」

「らしいって・・・」

「私も先程ヒロカから聞いたから詳しくは知らない。だが見たところ実験は成功らしい。そしてテロリストを収めたサモンウォールの中にガイアを撃ち込む手筈となっている。さすがはヒース、この短時間でこんな策を立てるとはな」

ヒースとヒロカ、あいつら相変わらず一心同体か。

「待てよ副大統領。あんたに、ガイアを撃つ資格はない」

「何だと?」

「あいつらはな、ハシオリトの関係者だ」

背筋を伸ばし目を見開いた副大統領の表情から、珍しくこちらまで言葉を詰まらせるほどの驚きが伺えた。

「何故、知ってる」

「テロリストの1人に直接聞いたからだ。やり方は少々度が過ぎてるが、元はと言えば、あいつらを動かしたのはあんたなんだよ副大統領。だからあんたに、あいつらを殺す資格はない」

「・・・馬鹿な」

「副大統領、ガイアの発射準備は済んでますが、どうしますか」

しかし副大統領は通信要員の方に振り返らず、ただ青ざめたような顔色で一点を見つめていた。

「自分で蒔いた種を、畑ごと焼き尽くすほど、あんたは腐ってないだろ?」

静まり返った廊下でエレベーターを待っている時、ふと手に温もりを感じたので手を繋いできたケイティーナに顔を向けると、その表情にはどこか不安感が伺えた。

「良かったの?何もしないで」

扉を開けたエレベーターに乗り込み、スイッチを押しながらふと副大統領の言葉と強く鋭い眼差しを思い出す。

「結局、あの新兵もテロリストも、副大統領でさえも、世界の渦の一部に過ぎないんだよな」

必ず、戦争が起こる、か。

確かにそれは否定出来ない、だが、俺は人間の良心を信じたい。

「ねぇダーリン」

「ん?」

「ダーリンの家に、引っ越していいかな?」

こいつには命を救われた、だが、それを理由にするほど、俺は浅はかに生きたくはない。

「・・・分かったよ」

そろそろ俺も、ケジメつけるか。



大軍隊の方にもオレンジ色の壁が張られ、遂には四方の壁に逃げ場を塞がれてしまったものの、その妙に長い沈黙はカイル達の不安げな表情を更に曇らせていく。

「空から逃げようよ」

そう言ってみるとカイルが頷いたので、何となく高く伸びる壁の向こうに意識を向けた直後、ふとその空の果てに幾つかの小さな何かが見えた。

「何か落ちてくるよ」

「え?」

再び沈黙が訪れるとそれらは次第に大きくなるが、素早くハクラが氷弾を撃ち始めるとそれらは幾つかの氷の弾に迎撃され、頭上には瞬間的にも焦りを募らせるほどの爆風が広がった。

何だ?一体どこから?

ようやく爆風が煙と消えたものの、間もなくして再び遥か頭上に幾つかの小さな何かが見え始める。

「まただ、何か落ちてくる」

これじゃ、逃げられない。

「じゃあ僕が音波で防ぐよ」

そう言ってカイルは平たいスピーカーと一体化した両腕から頭上に向けて空気を震わせていくと、間もなくして頭上にはまるでオレンジ色の壁に蓋をするように爆炎の膜が張られた。

「カイル、音波の壁をそのまま上げて、音波の壁とオレンジ色の壁の間に逃げるための隙間を作ろう」

「うん」

絶え間なく爆炎の膜を張らせる音波の壁の上昇と共に、カイルと2人で空高く飛んでいき始めると、間もなくして爆炎は消えたが空気の歪みの向こうはすでにオレンジ色の壁で覆われていた。

まさか・・・。

オレンジ色の壁に手を伝わせるとその壁の先は次第にすぼんでいき、そして遂にはその感覚はまるで円錐のてっぺんを内側から触れているようなものになった。

やられた・・・完全に、閉じ込められた。

「バクトさん、僕達、閉じ込められたの?」

「あぁ、とりあえず戻ろう」

「俺がやる」

「いや、この空間で正義の力が反響し合ったら私達が自滅するだけ」

「だが、このままじっとしてる訳にもいかない」

ふとオレンジ色の壁の向こうに立ち並ぶ大軍隊の前に立つが、魔力で動くロボットと言われるその大軍隊は正にロボットの如く微動だにせず、まるで傍観するようにこちらの方に向かって列を成している。

僕達を閉じ込めて、一体何をしようとしてるのか。

あ、穴掘ったらどうかな。

「バクトさん」

ん、何だ?

何やらカイルは指を差しているので、何となくカイルに歩み寄りながらその方を見るが、そこには特に何がある訳でもなかった。

「え?」

「壁が」

あ・・・。

「迫ってきてる」

ゆっくりだが確実に狭くなっていくオレンジ色のピラミッドの向こうに、ふとロボットではない人影が見えると、その人影達は迫ってくる壁と共に少しずつこちらの方に向かってきた。

「きっと、あの人達がこの魔法の術者だ」

ロードの言葉にハクラもこちらに顔を向けるが、何も出来ない事を悟っているからか、ただ残念そうに目を逸らしていく。

あの人達を倒したらここから抜け出せるんだろうけど、でも、この中にいたら・・・。

「あ、バクトさんっ」

ん?

何やら足元を見ているカイルから自分の足元に目線を移すと、すぐにオレンジ色の壁が地面から上がり、宙に浮いている状態になっていることが分かった。

このままじゃ、潰されちゃうな、どうしよう。

「ハクラ隊長さん、どうにか出来ないんですか?」

「・・・サモンなら。この空間の外にサモンを作り出して、術者達を襲えば・・・」

しかしハクラは目線を落とすと、そのまままるで落胆するような態度を見せた。

「ハクラ、出来ないの?」

そう聞くと、ハクラは小さく頷いた。

「この姿になれるようになってから、出来なくなった。この力は、私のサモンと氷牙の力が融合されてるものだから」

なるほど、氷牙の力には似合わないこの鷲や鷹みたいな翼は、ハクラの力か。

「じゃあ正義は?」

「俺は自分の全細胞と自分のサモンを融合させることしか出来ない。この力のためだけに努力してきたからな」

この2人が出来ないのなら、もう、打つ手は・・・。

「だったらオイラがやる」

え?

「出来るの?テリーゴ」

「いや、ハクラさんやり方教えてくれよ」

「サモンは、魔力があれば出来るというものじゃない。感覚に慣れるまでには相当な時間が必要なもの。教えるのはいいけど、きっと今すぐには出来ない」

しかしそんな言葉にも、テリーゴはむしろやる気と自信を伺わせるような笑みをハクラに返す。

「大丈夫だって、オイラ技を習得する修業は一番得意なんだ」

すごい自信だな。

「分かった。サモンは、自分の闘志を空間に具現化し、その器に自意識を移す魔法。やり方は、簡単に言えば気魔法とは逆の感覚を意識すること。思い浮かべた空間を自分の魂に置き換え、そしてその空間の中心から魔力が流れ出すように意識をする」

「オッケー」

テリーゴが目を閉じてから少し時間が経つ中、徐々に景色が高くなっていくのを見ながら、何となく一緒にえぐり取られた土を掬ったり、依然として微動だにしない大軍隊を見下ろしていく。

「カイル、力をつけられたなら、この後はどうするの?堕混を作った国の世界にでも行くの?」

「えっと、うん。きっとそうなると思うよ」

つまり、堕混を作った国に行ったらカイル達はディビエイト軍とエネルゲイア軍に挟まれてレジスタンス活動をしていく訳か。

「でも、たった4人じゃ軍隊相手にはきついんじゃない?」

「おいおい2人共、何呑気に話してんだ。このままじゃ、俺達は潰されて死ぬかも知れない」

不安感を募らせた顔色を浮かべながら歩み寄るロードを見ながらふとオレンジ色のピラミッドの外を眺めるが、その周辺のどこにも何かが出現していく形跡は見当たらない。

可能性はゼロじゃないとは思うけど、期待は出来ないな。

どうしたもんか。



エンジン音と水面を滑る音が雑音として耳を突く中、ふと水しぶきを引きながら流れていく景色にカイル達の姿を思い出す。

人を助けるのに、理由なんていらない、か。

「なぁマリー、知ってるか?ユスティ遺伝子研究所がテリオプルとの共同開発で作った、ハイスピーシーズの第一号、アデムが大学模試の問題を解いたんだと」

「へー」

「おいおいマリー、リアクション家に忘れて来たのかよ」

「ふふ何でよ、ハイスピーシーズ、そんな興味ないし。所詮男の好きそうな話でしょ」

第一号、確かゴリラの遺伝子をベースに作られたんだよな。

「いやいや、世界からは物理的な身体能力が警戒視されてるが、すでにハイスピーシーズ規定は完成してる、もう単なる男のロマン話じゃないぜ?」

「規定ねぇ、労働基準法の一部と非投票権の定められた準人権だっけ?」

「あぁ、最初からすでに家畜として扱われない権利があるからな、どっかの政治家達が言う戦争なんて起きないと思うぜ?」

「レグ、なんだありゃ」

操縦者のバルトの言葉にすべての目線が前方の岸に向けられるが、すぐにその砂浜の奥の森越しに、見慣れないオレンジ色の四角錐が浮いている情景に目を奪われる。

何だよあれ、あんな魔法、見たことない。

「2人共、先客がいるみたいだ」

ん?・・・。

砂浜に乗り出して止まった軍用船から降りながら、ふと同じように砂浜に打ち上げられた軍用と思われる小型船に目を向ける。

あれは、サランの国旗。

「サランの奴らが、何でここに」

こちらの呟きに反応し小型船に目を向けるレグだが、小型船に背を向けるとすぐに何かを見上げるその眼差しを緊張感で染めていった。

「気にすることもないだろ、それよりあれだろ?あの四角錐。ここに来てから気付いたが、あれサモンの魔力だ」

・・・確かに、あれは一体。

「おい置いてくぞ?」

「ああ。なぁ、ところで、それ何なんだ?」

第百の3人がこちらに顔を向けると、すぐに3人は自分達が着けている、革地に鉄製の光沢を放つ素材が組み込まれたガントレットに目線を落とす。

「これは、まぁ魔導器かな。詳しくは言えないの。私達第百しか扱わないものだから」

「思ったんだが、そういう特殊な兵器もこっちに回してくれりゃ、少しはスクファもマシな戦力になるんじゃないか?」

「そいつは無理だな、俺達は第百だぜ?あんたらやRiTIPよりも常に上じゃなきゃならないんだよ」

まぁ分かるけど。

「でも相手は、カンデナーデだろ?そいつらにとっちゃ俺だけ田舎者だぜ?」

砂浜を抜けた辺りで、前面を木々で遮られたその場所のどこからか衝撃音が響きだし、この場の空気に一瞬にして緊張感が走った。

「レグ、バルト、じゃあ、いつも通りのテンションで」

「あぁ」

止むことのない衝撃音の方へと木々を進むと、間もなくして目の前に1人の魔導スーツの女が逃げ込んできて、すぐにレグ達の存在に気付いたその女の、肩に付けられたサランの国旗に目が留まる。

「あ?何だよあんたら」

「俺達はスクファの人間だ、あんたサランの人間だろ?」

するとその女は一瞬だけ目を泳がせると、その態度から警戒と共にどこか期待のようなものを伺わせた。

「何でスクファの人間がここに」

「今この国で、俺の隊長が無茶してる。だから俺は、隊長を迎えに来たんだ。ただ隊長の帰りを待つだけなんて出来ないから」

他人にこんなこと言ったって仕方ないが。

「その隊長って、もしかしてハクラ・ディアゲート?」

え・・・。

「何で、知ってんだよ」

「あたしも、ハクと一緒に、カンデナーデを叩きに来た。じゃああんたらも知ってるんでしょ?カンデナーデがハシオリトを脅してたこと」

「あぁ」

木々を抜けるとすぐに複数のサモンロイド、そしてそのサモンロイドと戦闘している3人のサランの人間が確認出来た。

このサモンロイド達は何だ?まさか俺達を待ち伏せしてた訳じゃないし。

それにそもそも隊長はどこに居るんだ?

ジオラ目線は、ここで完結です。

ロザーとミキ、マリー達の見せ場・・・ですかね。

ありがとうございました。

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