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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
第九章

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正義の鉄槌

「くっそ、あいつ」

あいつ?・・・。

収まっていく砂埃の中で見えた、小さく身を屈めるドラゴンの目線を追ってみると、そこには見知らぬ女性が居たがすぐにその女性の翼に違和感を覚えた。

あの翼、さっき見たときは羽毛なんて無かったような。

気のせいかな。

「バクトさん、動けるよ」

ん・・・あ、足の束縛が解けてる。

何でだろ。

「マグナムっ」

目線を戻すとドラゴンはすでに白龍に変身していたので、カイルと共に素早く立ち上がるが、その時にはすでにドラゴンの足元にテリーゴの闇のナイフが突き立てられていた。

3本の闇のナイフから放たれる闇が蔦のようにドラゴンに絡みついたとき、ふとプラズマから離れるように後退する遠くのウィリアムと目が合った。

地面と人体の電磁波を繋げるとか言ってたし、きっと地震で地面の電磁波の波長が崩れたとかで、束縛も解けたんだろう。

「オイラ達を見くびるなよ?今のオイラ達はあいつを殺したときよりももっと強くなってんだ」

そう言って歩み寄ったテリーゴを見るも、ドラゴンは拘束されているにも拘わらずまるでバカにするような笑い声を洩らす。

「お前らこそナメるな。何でオレがディビエイトの管理者として居られるか、次元の違いを見せてやるよ」

その直後、絡みつく闇を弾き飛ばしながらドラゴンの体は瞬時に巨大化し、そしてドラゴンは炎を纏うその巨体でも素早くテリーゴに殴りかかった。



「ブリューナク」

大きなプラズマの剣で緑色の光槍を受け止めるとその隙を狙うようにウィリアムが走り出すが、立ちはだかったナオから生じる地震にウィリアムは少しよろめく。

それでもウィリアムはまるで表情を変えずに素早く緑色の光槍を放ち、ナオを吹き飛ばしたので、プラズマの球を撃ち放ちながら飛び出し、大きなプラズマの剣を振り下ろす。

まるで、あの人みたいだ。

動揺を知らず、常に的確な動きで剣を捌く。

それにこのウィリアムって人の剣、見た目は普通なのに、当たる度私の剣を壊れそうになるくらい歪ませる。

この剣でも、だめなのかな。

無駄の無い動きで振り出されていく剣を受け止めていくが、何度目かで遂に大きなプラズマの剣は砕けるように弾け消える。

あっ・・・。

とっさにプラズマの球を作り出したものの、すでにウィリアムはこちらの懐に飛び込んでいて、そして考える間もなくその剣先はこちらの腹を突き抜けていった。

うっ・・・。

リッショウでも、だめなんて。

このまま負けていくなんて・・・。

無意識にウィリアムの腕を掴んでいて、その中でふと目を合わせたウィリアムの眼差しはどこか小さな恐怖を感じさせた。

ただじゃ、死なないんだから。

「はぁっ」

全身から全力を込めてプラズマを放出させるとウィリアムは初めて表情を歪ませ、ほとばしるプラズマに視界が覆われる中、そしてその表情は次第に恐怖を伺わせ始めた。

「うぁあぁああっ」

ウィリアムの剣から吹き出した緑色の光槍が腹を突き抜けていくと同時にウィリアムが離れ、そしてまるで怯えたように表情を歪ませながら剣先を向けてくる全身の所々が焼き切れたウィリアムを見ながら、思わず膝を落とす。

「はぁ・・・はぁ」

ぐ、うぅ・・・やられた。

「ハオンジュっ」



ありゃ?ハオンジュがやられたのか。

ちょっと行ってみるか。

「ウラノスバスターっ」

巨大化したドラゴンでさえも呑み込むほどの2色の爆風を横目にしながら、ハオンジュに駆け寄った見知らぬ女性の後ろに立つ。

ふと目に留まったハオンジュの背中の穴がみるみる塞がっていくのを見ながら、そんなハオンジュを怯えたような眼差しで見つめるウィリアムに目線を移す。

「う、あ、うあっ」

ん?どうしたウィリアム。

「うぁ、ああっ」

ひきつりきった表情で、無駄に大きく剣を振り引いた直後、ウィリアムの剣は瞬時に何倍にも巨大化し、同時にその剣身は不気味なほどに黒く染まった。

うわ、なんかヤバそうだ。



う、動けない。

「うあああぁっ」

ウィリアムが巨大な剣を振り出した瞬間、突如そこに現れたその人間はすでにウィリアムの顔を殴りつけていて、その一瞬の出来事に理解出来ないまま、すでにウィリアムは吹き飛び、そして巨大な黒い剣は宙を舞っていた。

白髪のその人間の背中から、地面を転がるウィリアムに目が留まっていった後、巨大な黒い剣がウィリアムの背後の地面に突き刺さる。

引き込まれそうなほどに黒く染まった剣が天高く突き上がる土埃と轟音を生んだのが分かった頃には、すでに音はすべて掻き消され、視界は激しい砂風に覆われていた。

うぅ、あんな威力の、剣だったの?

「あはは、いやぁ、危なかったね・・・」

安堵感のある笑い声が聞こえると同時に砂風は弱まり、その人間の顔が見え始める。

「・・・ハオンジュ」

少しの死の恐怖を感じながら、血の気が引くように消えていく砂風の中で見たのは、あの人だった。

助けて、くれたの?

「うえーん、何今のぉ」

周りの景色が見えないほど、十数メートルも綺麗にえぐれた地面の片隅で起き上がり始めるナオを見てから、すぐにまたヒョウガの顔を伺うが、ふとその表情には以前見たことのなかったあどけなさがあった。

何で、ここに。

でも何でかな、何で今、ヒョウガを見て、安心感を抱いているんだろう。

「ああぅ・・・うぅ」

元の大きさに戻った剣も拾わず、ゆっくりと、力の抜けたように立ち上がったウィリアムの全身が次第に先程の剣のように黒ずみ始めると、先程とはまるで別人かのように虚ろな表情のウィリアムはただ真っ直ぐヒョウガを見つめた。

「うぅ・・・ふぅ」

「ボロボロじゃんウィリアム」

傷も塞がったし、剣を拾われる前にウィリアムを・・・殺す。

そうじゃなきゃ、私達が殺されちゃう。

ヒョウガが一歩踏み出したその瞬間、その足音に獣の如く反応したウィリアムはまるで獲物を見定めたかの如く素早く走り出す。

「お?」

右腕を氷のように反射する黒いもので覆ったヒョウガも軽く走り出し拳を振り上げるが、その一瞬に突如加速したウィリアムは目にも留まらぬ早さでヒョウガを殴り飛ばした。

あっ・・・。

何かが小さく砕けるような音を残して飛んでいったヒョウガを目で追うが、勢いよく斜面に打ち付けられたヒョウガはそのまま意識を失い、力無くもたれ込んだ。

「ヒョウガ」

「ハオンジュっ」

振り返ったときにはすでにナオがウィリアムに殴り飛ばされていて、ヒョウガと同じように斜面に激突したナオの体が激しく波打つと、ぐったりしたナオはすぐに勢いよく血を吐き出した。

「ナオっ」

「き、消えろ」

こちらを見上げるウィリアムの表情は恐怖に満ちているが、その佇まいはこちらの方が恐怖するほどの狂気と殺気に満ちていた。

「拘束なんて、どうでもいい。全部、全部消えろっ」

く、殺される・・・。

そしてその直後、全身の所々が黒ずむウィリアムの右手に突如として巨大な黒い剣が現れた。

っ・・・。

「おいっ」

・・・ん?

ウィリアムがゆっくりと目を逸らしていくと、その深く窪んだ地面の縁にはウィリアムを見下ろす獣のような脚をした1人の男性が立っていた。

・・・だ、誰だろ。

「なん、ですか。あなたは」

すると腕を組んでいたその男性は素早く右手の拳をウィリアムに突き出して見せた。

「俺が正義だ」

何だあの人。

「正義・・・それは一体どう」

「それよりお前、今にも精神が潰れそうだな」

遠くに居るのに、まるで体の中にまで響くような声・・・。

威圧感?いや、まるですぐ近くに居るような・・・。

ウィリアムが黙ると、突如その場を満たした驚きの混ざる緊迫感はそのまま沈黙へと変わった。

正義?どういうことだろ。

「・・・もしかして、あなたも、テロリストですか」

「テロリスト?いや、俺は正義だ。カンデナーデを潰すためにここに来た」

「それは、テロリストってい」

「お前もカンデナーデの人間か?」

「ち、いえ、僕はエンテキーリャからテロリスト殲滅の援軍として来ました。あなたもカンデナーデを壊滅させるつもりならこ」

「ならお前も潰す」

「もうっまだ喋ってるだろっバカっ」

地面を踏みつけながら怒鳴るものの、そんなウィリアムをその男性はまるで表情を変えずに悠然と真っ直ぐ見下ろしている。

「俺はバカではない、正義だ」

何だ?あの人。

「めんどくさい、あなたもここで抹殺します」

「お前に俺は殺せない」

おや、今度はまともに返した。

再び黙り込んだウィリアムが巨大な黒い剣を握り直しながらその男性を睨み上げると、その沈黙はその2人だけを繋ぐ鍔ぜり合いのような緊張感を生み出した。

「そんなの分からない」

「気付かないのか?」

「え?」

「俺達は、同じだ。だが、俺と違うのは、お前のそれはただ積み重ねているだけだということだ」

何の話かな・・・。

しかしウィリアムはその話の主旨を理解したらしく、その殺気に満ちた佇まいから落ち着きを伺わせた。

「じゃああなたは、なんだっていうんだ」

ウィリアムがそう聞くとその男性は力むように腰を曲げながら両腕を引き寄せ、何やら全身に赤く色付いた光を蒸気のように立ち込ませ始めた。

その蒸気は一立ちで消えたものの、姿を現した男性の顔は人間のものから獣のようなものに変わっていた。

「俺はお前とは違い、自分のサモンと完全融合している。だからお前が何十、何百とサモンを詰めようと、皮だけ着ているお前と魂の髄まで染みている俺とは大違いだ」

さっぱり分からないや、サモンって、なんだっけ。

「だからなんだよ。それでもやってみなくちゃ分からない。魔法も、戦いも理屈じゃない」

「なら来い」

そう応えるとまるでこちらの存在を忘れたかのように男性を見上げるウィリアムは素早く構え、地面を踏み締めた。

「重速陣」

「だぁっ」

男性が喝を入れるように叫んだものの、ウィリアムは何をする訳でもなく、ただ男性を見上げながら驚きと恐怖で表情を歪ませた。

「陣圏を、掻き消した。そんなことが出来るなんて」

何もしてないように見えるけど・・・。

「俺に小細工など通用しない」

「そう、ですか・・・ふぅ」

再び眼差しに力強さを宿したウィリアムは素早く真上に高く跳び上がり、そして同時に巨大な黒い剣を大きく振りかぶった。

「でぃゃっ」

「とぁっ」

男性が右腕を強く振り払うと巨大な黒い剣は耳の奥を突くほどの衝撃音と共にウィリアムの手から離れ、そして同時に響き渡った風圧はそのままウィリアムをまた少し浮かせた。

「トライデントっ」

そう言いながら男性が手を突き出すが、その手からは何も出ず、ただ彼方まで消えゆくような衝撃音が鳴り響いただけだった。

え・・・。

しかしその一瞬の後、ウィリアムはすでに目にも留まらぬ早さで斜面へと激突していて、視界に映ったのは斜面から激しく吹き出す大量の土埃だけだった。

み、見えなかった。

「ぐふっ・・・ふっ」

「安心しろ。今のは7割しか力を出していない」

しかしやっと姿が見えたウィリアムの目は虚ろで、斜面にめり込んだその佇まいからは微塵の闘志も感じられなかった。



「・・・正義?」

ゆっくりとこちらに振り返った正義の顔はまるでライオンで、その存在から感じる気迫も、気魔法やサモンのそれとは全く別物だった。

「ああ・・・ハク、ル」

「ハクラ」

すると正義は気まずそうに目を逸らす。

言ってなかったっけ。

「・・・それで、ジョナスはもう王女を助けたのか?」

あれ、正義って、こんなまともに喋れたっけ。

まいいか、取り合えず人間に戻らないと。

無線機、大丈夫かな?ずっと凍ってたんだよな。

「こちらハクラ、ジョナス、今の状況は」

ノイズが・・・。

「ぃ・・・あ・・・」

やっぱり駄目かな。

「もしもし」

「・・・ぉ・・・おい聞こえてんのか?おいっ」

「聞こえる」

「そうか。・・・ふぅ」

相当焦ってたみたいだな。

「王女は無事潜水艦に乗せて、オレ達もハシオリトに向かってる。あんたらも戻っていいぞ」

良かった、作戦、うまくいったんだ。

「分かった」

「さっきからバクトが応答しないんだ。一緒じゃないのか?」

「近くに居る。正義も居るから、すぐに戻る」

「了解、帰ったらまた、旨いもん奢ってやるからな」

「うん」

大型ミサイルでも落ちたかと思わせるほどの、恐怖感を駆り立てる大穴を覗くと、そこには倒れているウィリアムとバクトの姿があった。

ドラゴンと、もう1人の人間が居ない・・・。

バクトに駆け寄ると、力無く倒れているバクトの表情はまるで人形のようだった。

息、してるのかな?まさか、目を見開いたまま死んでたりして。

でも体には大きな傷は無いな。

「バクト」

やっぱり、もう・・・。

「意識は無いようだが、死んではないようだ。生体反応がしっかりと感じとれる」

・・・そうか、それよりいつの間に。

「正義って、そんなにまともに喋れたっけ」

「・・・この姿になると、妙に頭がすっきりするんだ」

サモンとの融合が、人体にはどれほどの影響が・・・。

いやそんなことより、バクトを運ばないと。

1番強いのは正義でしたが、ウィリアムにとっては正義もただのテロリストなんでしょうね。

ありがとうございました。

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