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天使の眼差しは強く、悲しげで

これまでのあらすじ

ロードと共に気配を追ったが、何故かハクラが居る場所に辿り着いたバクト。そこでハクラが氷牙の力を持っている事を知るが、その中でハクラを手伝うことになり、皆と共にカンデナーデへ向かった。

殴り飛ばし、地面に倒れ込んだロードの足に小さな光球をぶつけたウィリアムは素早くその闘志の矛先をテリーゴに向けたので、テリーゴの足元からウィリアムに向けて黒氷の氷柱を発生させる。

腹に黒氷の氷柱が突き刺さってもウィリアムは素早く黒氷を回り込み、黒氷の向こうから緑色の光槍をこちらに撃ち放ってくる。

手に黒氷を纏わせ、緑色の光槍を受け流したものの、気が付けばすでにテリーゴは殴り飛ばされていた。

ウィリアムじゃなくて、テリーゴを隔離したら、いや、どっちみち意味無いか・・・。

ロードと同じように片足を固められたテリーゴからカイルに目線を変えたウィリアムだが、その毅然とした立ち姿を見せるカイルにウィリアムは小さく首を傾げる。

するとウィリアムから広がる陣圏が消え、途端にロードとテリーゴは激しくもがき出す。

「くそっ」

「オイラ達の速陣が通じないなんて、あれ?カイル」

カイルがただひとりウィリアムと対峙する中、構えを解いたカイルに向かってウィリアムがすかさず緑色の光槍を撃ち放つ。

しかしその直後にカイルはすでにウィリアムの後方に回り込んでいて、カイルの腕に着いているスピーカーらしきものから放たれた衝撃波にウィリアムは勢いよく吹き飛ばされる。

「行けカイル、さっきので一気に畳み掛けるんだ」

「うん」

さっきの・・・?

すると受け身を取りながら素早く立ち上がるウィリアムを見ながら、カイルは何やら大きく息を吸い始めた。

そしてまるで気を鎮めるように息を吐いた直後、腕に着いているスピーカーらしきものは消え、翼とフルフェイスヘルメットのようなアイガードを残したカイルの全身は陽炎のように揺らめく白い光と化した。

何だ何だ?カイル、いつの間にあんな力を持ったんだろ。

「あなたは一体何ですか」

「実は僕もよく分かってないんだ」

「そうですか」

それでも無表情を変えず、ウィリアムはただ逆手に持つ剣を引いて走り出すような姿勢を見せる。

「重速陣」

ウィリアムから陣圏が広がるとカイルを覆う揺らめく光も止まり、カイル自身もまるで時が止まったかのように動かなくなる。

「ブリューナク」

しかし放たれた緑色の光槍は先程と同じようにカイルに届くことはなかったが、それでもウィリアムは動揺することなく陣圏を消し、剣を逆手から持ち直しながら走り出した。

あの姿でも、スピーカー無しに超音波を出せるのかな?

それにしても、それでもウィリアムの動きには目を見張るものがある。

音速で駆け抜けるカイルを相手に、何か殺気とかを追うように直感だけで戦ってる。

どこか氷牙に似てるかも。

殴り掛かるカイルの腕を掴んだウィリアムは素早くカイルの腹に剣を突き刺すが、貫通しても抜かれても光に包まれたカイルの腹からは血が出ることはなく、緑色の光槍に吹き飛ばされ、こちらのすぐ隣に倒れ込んでもカイルはゆっくりと起き上がった。

揺らめく光が体に包まれてるから、傷付いてるのか分かりにくいな。

大丈夫なのかな。

しかしカイルが力尽きるように再び背中を地面に着けると、体を包む光は風に吹かれるように弱まり、光の中からカイルの体があらわになり始める。

あら・・・。

カイルの体から光が消えると同時にウィリアムが小さな光球を放ち、そしてその場の空気はウィリアムへの畏怖と敗北感に満たされた。

「カイル」

「あは、ごめんバクトさん、まだ全然・・・っ使い慣れて、なくて」

「まぁそれはしょうがないよ」

足裏を固定され動かない右足を気にしながらも起き上がったカイルは、ふと心配するような眼差しを服が焼け、血が滲み出るこちらの胸元に向けてくる。

「バクトさんこそ、血だらけで、大丈夫?」

「あぁ、傷は浅いから」

氷牙の力があれば自己再生出来るのにな。

「さて、皆さんはこれからカンデナーデに引き渡します、拘束魔法は皆さんを眠らせたら解きますので、安心して下さい」



「副大統領、ガイアの発射準備間もなくです」

「あぁ。内心は見くびっていたが、そちらの切り札には本当に恐れ入った。並びに心から感謝しよう」

「そんな感謝など、スタックは所詮、モラルに反する禁術です。では貴国のガイアの発射準備が整い次第、直ちに彼を非難させましょう」

「副大統領、例のドラゴンを連れたテロリストですが。生存が確認されました」

何だと?衛星からのミサイルでも死なないとは。

「間もなく邸前第一区に到着します」

テロリストが第一区に集まっていく、何故だか分からないが、好都合だな。



「カンデナーデの皆さん、お願いします」

ウィリアムの呼び掛けにカンデナーデの軍人達がこちらの方に向かい始めたとき、ふと遠くから飛んでくる何かに気が付いた。

すると目まぐるしい速さで飛んできたその人影らしきものは、拘束されたハクラやカイル達の近くに降り立つと同時に、まるで爆風のように激しい土埃を辺り一面に撒き散らした。

何だ?

向かってくる砂煙に思わず顔を背けたとき、体を伝うその砂煙には何故か少しの痛みを伴うほどの電気を纏っていた。

いっ何だよこれ。

新たな敵襲か?

ただの風圧に、何で電気が・・・。

砂煙が収まってきたのでその人影に目を向けると、真っ先に目に留まったのはその人物の背中から生える羽毛の無い翼だった。

え、だ、堕混?電気を操る堕混って、まさか・・・。

ハオンジュ。

「ん、あなたは誰ですか」

「あれれ?」

ん?・・・。

「すごいの纏ってるね、私そんな分厚いの見たことないよ、うふ」

しかしそこに居たのは誘うような目付きにあどけなさのある笑みが印象的な見知らぬ女性だった。

誰だよ・・・。

「あなたも、このテロリスト達の仲間ですか」

「あはは、知らないよこんな人達ぃ」

ハオンジュ以外にも電気を使う堕混が居たのか。

「そうですか、じゃああなたは誰ですか」

しかしその女性はウィリアムに背を向けるとすぐに何やらどこかに向かって大きく手を振り始めた。

何となく女性が手を振る方に顔を向けると、その向こうからはすぐにある人物の顔を思い出させる1体のドラゴンが飛んできていた。

お、ハオンジュだ、久しぶりだな。

でも何でハオンジュ?

ん、あの小さな白い龍は何だろ、ドラゴン友達かな。

「バクトさん、あれは、アテナさんにそっくりだけど」

アテナ?ああ、そう言えば雷眼の奥さんもディビエイトだったっけ。

ていうかカイル・・・。

「ディビエイトでしょ、あれ」

しかしカイルはまるで言葉に詰まるように黙りこむと、小さく眉をすくめ首を傾げる。

「知らないの?」

「うん、ディビエイトって堕混でしょ?」

おかしいな、堕混はあの龍になる途中の段階のはずだけど。

「堕混の姿はまだ発展途上で、堕混になる人は皆あの龍になれるはずなんだけど、そう言えばカイル達、ディビエイトを作った人が居ないって言ってたよね?何でなの?」

ハオンジュと白い龍が降り立つとウィリアムはその姿に釘付けになるが、その右手は剣を素早く逆手に持ち変えた。

「それは・・・」

「あなた達は、一体何ですか」

何故か曇った表情を見せるカイルを見ていると、顔を上げたカイルの眼差しはロードとテリーゴに向けられた。

「僕達が、殺したから」

・・・え。

「私は、テロリスト、かな。あなたはカンデナーデの人?」

「いえ、僕はウィリアム。エンテキーリャから来ました。じゃあやっぱりあなた達もこの人達と同じなんですね、それならあなた達も拘束してカンデナーデに引き渡します」

ハオンジュがテロリスト?しかも何でここに?

「へー、君エンテキーリャから来たのかぁ、何で?」

いやでも、カイルみたいな天使がどうして人殺しなんて・・・。

まるで傍観者のようにただその場を見渡す白い龍を見たとき、ふとこちらに顔を向けた日本風の白い龍は何やらそのまま二本足で歩み寄ってきた。

「援軍です、あなた達を排除するための」



援軍?じゃあ、この人もヒース達の仲間なのかな。

「ハオンジュ、ちゃちゃっと倒してささっとブレインハウスに行こう、もうすぐそこだから」

「うん」

「重速陣」

ウィリアムと名乗った男性がそう言ったと同時に、何の前触れもなく目の前にプラズマに遮られて消えゆく小さな光の球が出現したが、ウィリアムはまるで無表情を変えず、ただゆっくりと走り出す姿勢を見せた。



しかしその人間ほどの体格を有する白い龍はこちらではなくカイルの目の前で立ち止まった。

「お前、ディビエイトだよな?」

え?・・・。

呆気に取られるように固まったカイルに見兼ねたように白い龍が小さなため息をつくと、突如その白い龍は形を変え、1人の人間になった。

あれ・・・ありゃっ。

あそっか、ハオンジュが居るならドラゴンも居るか。

「えっと・・・」

「管理者は誰だ?」

カイルがロードとテリーゴに顔を向けていくと、どことなく緊張感のある表情のドラゴンも何気なく真似するように2人に目を向けていく。

そんな時にハオンジュのプラズマと見知らぬ女性からほとばしる電気が辺りに放出されると、2つの電気はカイルとドラゴンの間をも通り過ぎ、その電撃音は何故か心臓の鼓動を刺激し、瞬間的に緊迫感を尖らせた。

「お前ら、まさか」

その瞬間、ハオンジュ達とウィリアムが起こす衝撃音ですら遠く感じるほど、ドラゴンの殺気に満ちた眼差しに目を奪われる。

「スネークを、殺った奴らか?」

その言葉に反応するようにカイルがドラゴンに顔を向けると、ドラゴンは更に目を見開き、まるで何かを確信したような力強い表情でカイルを見下ろした。

「お前ら、お前らかっスネーク殺ったのはっ」

「しょうがないじゃないかっ」

お、カイルが、怒鳴った・・・。

「あ?」

「君は何も分かってないんだ。あいつが、僕達に、クラスタシアに何をしたか」

「カイル」

憎しみではなく、悲しさが伝わってくるような声色で涙を溜め、ドラゴンを睨みつけるカイルがロードに顔を向けると、同じようにロードに顔を向けたドラゴンの横顔には殺気の中にもどこか落ち着きが見られていた。

「お前はあいつの仲間なのか?」

「あぁそうだ」

「だったらあいつがどんな人間か知ってるだろ?あいつは、俺達を蔑み、クラスタシアを奴隷のように扱い、身を汚し、心に傷を負わせた。だから俺達は、クラスタシアを守るために、あいつを殺した」

ふと嫌悪感に満ちた表情を見せたときのクラスタシアを思い出しながら、冷静なロードに睨みつけられるドラゴンの顔を伺うと、その表情はまるで責められていることを受け入れるかのような大人しさを見せていた。

「お前らは何なんだよ、俺達を道具みたいに扱いやがって」

「・・・そうか。そう、だったのか」

電撃音と衝撃音が止まない戦場でそう呟いたドラゴンの表情は戸惑いに満ちていて、頭を掻きながらカイルに目線を戻したドラゴンは、まるで罪悪感を伺わせるように目尻をすぼませ目線をうつむかせた。

「・・・それは、悪かったな」

「え?」

「確かにスネークは、周りの人間を常に自分より下に見ていた。スネークを、単独行動にさせた責任はオレ達にもある」



そっか・・・。

「は?ふざけるなよ。もう、謝って済むような問題じゃないんだ」

堕混を作る人達も、みんなが悪い人達って訳じゃないのか。

「俺達は決めたんだ、お前らに復讐するって、そうだろ、カイル」

まさか、素直に謝ってくるなんて。

「あいつだけが悪いっていうなら、僕は」

「おいカイル、こいつらは、そもそも逃げ場を失わせて強制的に力を望ませて堕混を作ってるってことを忘れるな。それに、クラスタシアの心の傷は、一生消えない。もうクラスタシアのような人を増やしてはならない、そうだろ?」

ふと目を閉じればクラスタシアの笑顔が脳裏に浮かび、同時にいつかの夜に1人で静かに泣いていたクラスタシアを思い出す。

そうだ、もうクラスタシアのように悲しむ人達は見たくない。



静かに頷いたカイルにロードが力強く頷き返すと、どこか残念そうにため息をついたドラゴンは再びその眼差しに殺気を甦らせていった。

天使のカイルには、ロードの言葉はまるで暗示のように深く心に入り込むんだろうな。

「大人しくしてんなら、お前らを管理対象から外してもいいが、あくまでそのまま力を蓄え続けるってんなら、お前らを管理対象から調査及び討伐対象に替えることになる」

討伐・・・。

でも、発端はドラゴン達だしな、ていうか戦争なんだし、仕方ないよな。

「挑むところだ。俺達は元からお前らを潰すつもりなんだ」

「オレ達を潰すだ?はっ調子にのるなよ?たかが発展途上が」

「ファイヤービーートっ」

どこからかそんな叫び声が聞こえた直後、突如強い地震が響き渡ると同時に視界は瞬く間に突き上がる土埃に覆われていった。

うわぁっ何だ何だぁっ。

どうやら次はウィリアム対ハオンジュみたいですね。

ありがとうございました。

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