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ヒーロー・オブ・アドヴァンス3 ウィリアム

「僕はウィリアム。援軍要請を受けて、エンテキーリャから来ました。あなたは、一体何ですか」

テロリスト相手に随分と礼儀正しい若者だな、恐怖心がない証拠か。

だけどエンテキーリャの人間とは戦う理由が無い。

「見た目通り、喋れないんですか。では問答無用であなたを抹殺します」

「エンテキーリャの人間とは戦う理由が無い。それにカンデナーデがエンテキーリャと繋がりを持ってるなんて、聞いたことがない」

何故エンテキーリャが、カンデナーデに援軍なんて。

するとウィリアムと名乗ったエンテキーリャの人間は表情に色という色を伺わせずに、ゆっくりと頭を掻き回し始めた。

「えーと、僕がここに来たのは、エンテキーリャとカンデナーデの関係を築く手始めってことのようなんで、まだ世界には知られてないんじゃないんですかね」

なるほど、これから築くのか。

「だからあなたに理由が無くても、僕はあなたを抹殺しなければなりませんです、はい」

ジョナスのことだ、きっともう王女を助けてるだろう。

けど、どうやってジョナスと連絡を取れば・・・確かバクトも無線機は着けてたはず。

戦いながら、バクトを捜すか。

「・・・もう喋らないようですね、じゃあ、行きます、速陣」

速陣・・・。

しかしウィリアムはすぐに走り出すことはせず、その場でゆっくりと走り出そうとする姿勢を取った。

「速陣」

な・・・。

すでに体は吹き飛んでいて、どこを殴られ、どう吹き飛んだのか分からないまま間髪入れずに衝撃が体を襲っていく。

・・・く、まさか、速陣の中で、速陣を?

仰向けになっているのに気が付くと、同時に視界に入ったのは自分の胸元から空に向かって伸びる1本の光槍だった。

「こちらウィリアム。テロリストの1人を抹殺しました」

心臓を、刺され・・・そうだった、今は心臓なんて無いんだった。

何も、出来なかった・・・今の力を持ってしても。

あのウィリアムという人間、一体何者なんだ。

気魔法を使っている人間から感じる、研ぎ澄まされた気迫は感じなかった。

ただひとつ感じたのは、まるでサモンを見ているような、圧迫感。

だけどあれは今まで感じたことのないほどの、気を抜くと息が詰まりそうなほどの、凄まじい圧迫感。

「ん?あなたは誰ですか」

ん?・・・。

ただ首だけ回し、ウィリアムの居る方に顔を向けると、ウィリアムが体を向ける先にはバクトが居た。

バクト・・・ダメだ、一瞬で殺される。

「僕はテロリストだけど」

「そうですか。僕はウィリアム。エンテキーリャから援軍としてここに来ました」

「あ、どうも」

素早く胸に刺さった光槍を抜き捨て、速陣を使いウィリアムの側方に回り込みながら、目の前に2枚の小盾を出現させる。

「バリスタ・オブ・アークエンジェル」

解き放った光矢は瞬時に視界いっぱいに肥大し、ウィリアムの居る方に向かっていったが、その直後、特大の光矢は滝が霧と化すが如くその光を失っていった。

「おかしいですね、心臓を貫いたはずなんですけど、何で動けてるんですか」

・・・打ち消した・・・一歩も動かずに。

片手で、空殻系魔法で、私の特大バリスタを・・・。

「ハクラ、紋章、全部使えばいいじゃん」

紋章を、全部・・・でも。

ウィリアムは素早くバクト、そしてこちらに顔を向けていく。

「街がめちゃめちゃになる」

「じゃあ空に向けてやれば?」

確かに、それなら・・・。

「ジョナスから連絡は?」

「来たよ、さっき来たときは順調に逃げてる途中みたいだったから、もうすぐ船に着くんじゃないかな」

なら、もうここに居る理由も無いな。

正義は、きっと大丈夫だろう。

「じゃあ私達もここから離れよう」

すると黙って話を聞いていたウィリアムはまるで恐怖感を抱いていないその表情を崩すこともなく、再びゆっくりと頭に手を乗せた。

「逃がしませんよ、あなた達は処罰されるべきです」

「君は何も分かってない。私達は、ただカンデナーデに囚われた人質を助ける手助けをしに来ただけ。悪いのはカンデナーデの方」

「人質、ですか。ですがあなた達はテロリストとして多大な被害をもたらした。たとえカンデナーデがきっかけだとしても、それであなた達がテロを起こしていい理由にはならない」

若いのに随分としっかりしてるんだな。

だけど、他に手は無かったのも事実なんだ。

「だからあなた達は、テロリストとして処罰されるべきです」

しかし、ウィリアムの言うことも、正しくない訳じゃない。

仕方ない、戦うしかない。

「ですが先程言ったことは撤回します、抹殺はしません、拘束してカンデナーデに引き渡します」

「ハクラ、とりあえず今はハクラだけ逃げてよ」

バクトがそう言うと、ウィリアムは再び交互にバクトとこちらに顔を向けていく。

・・・確かに私じゃウィリアムに歯が立たない、でも。

「それは出来ない。あなたは、私が巻き込んでここに居るだけだから」

「・・・行きますよ、重速陣」

とっさに腕を交差させたものの衝撃は一向に襲ってくることはなく、直後に少し離れた場所で向かい合うウィリアムとバクトが姿を現した。

え・・・。



「あなたは一体何ですか。どうして僕の重速陣の中で普通にしてられるんですか」

そう言われてもな・・・。

「さっきもこの国の英雄ってのと戦ったけど、なんか僕には速陣が通じないんだって」

「そうですか、雷光天貫」

それでもその表情からまったく焦りや驚き、恐怖心を伺わせないウィリアムは、素早く広げた右手に縁だけが淡く光る鉄製の長剣を出現させる。

見た感じ普通の剣だな。

「行きます」

いちいち行きますとかいうのは・・・。

剣を下に振り引きながら走り出したウィリアムに向けてすかさず白炎を振りかけるが、ウィリアムは軽く吹き飛びながらも剣を振り上げ、素早く白炎を払い除けるとまた素早く地面を蹴り、まるで獣の如く瞬発力を見せつける。

・・・自信に満ちてるからかな?

一振りの瞬間にも脳裏に焼き付くほどの鋭い眼差しを見せるウィリアムのその姿勢は、ふと何度かわされても果敢に立ち向かうような純粋な正義感を感じた。

しかしその表情は至って無に等しく、それはまるで心を閉ざしているようにも見えた。

両肘を引くと同時に両拳から黒氷を吹き出し、細く纏めた黒氷をウィリアムに浴びせると同時に、その風圧で体を浮かし、ウィリアムから距離を取る。

それでも倒れることなく立ち留まり、強く息を吐いたウィリアムは自身の胸元に張り付いた黒氷を気合いの一声で弾き飛ばすと、素早く逆手に持ち替えた剣をゆっくりと後ろに引く。

「ブリューナク」

言葉と共にその場で振りだされた剣から緑色の光槍が飛び出したので、素早く地面から黒氷の氷柱を作り上げるが、緑色の光槍は黒氷を真正面から通り抜けると瞬く間にこちらの胸元に突き刺さった。

えっ・・・。

状況を掴めないことに思考は止まり、痛みを噛み締めることも忘れ、素早く立ち上がるが、目の前に立つ黒氷の氷柱には何かが突き抜けたような穴が無いどころか、その物体のどこにもまったく傷が無かった。

ぐっ・・・何だ今の。

「ムダですよ、僕のブリューナクは僕が決めた目標以外の物質を感知しませんから」

無感情の声で淡々と話すウィリアムの表情は見えず、その黒氷越しの黒い影は胸の底を這う小さな恐怖そのものだった。

感知しない・・・。

だったら・・・。

「ブリューナク」

再び剣から放たれた緑色の光槍に意識を集中し、そしてこちらの胸元に手を伸ばす直前に白炎を纏わせた拳で光槍を殴りつける。

「メデューサアイズ」

緑色の光槍を何とか打ち消した瞬間にまた別の何かが片足を襲うが、その光はまるで衝撃を感じさせることはなく、そのまま呆気なく消えていった。

何だ・・・あれ。

足が、動かない。

「今のは拘束魔法の進化系です。人間から発せられる微弱な電磁波と地面から発せられる電磁波を固めて繋げます。するとまるで地面と一体化したように動けなくなります」

あちゃぁ、やられた。

「さてと、次はあっちの人ですね」

まずいな、ハクラはウィリアムの重速陣とか言うのにはついていけないみたいだし。

「重速陣」

ウィリアムの周囲を覆うほどの白炎を浴びせかけて押し倒し、そしてウィリアムが立ち上がる前にその白炎で壁を作りウィリアムを包囲する。

更に白炎の壁の周囲に黒氷の壁を作り二重の包囲網を引いてみるがその直後、二重の包囲網の中から眩い光が空に向かって激しく漏れだした。

このまま閉じ込めちゃおうか。

突如二重の包囲網を通り抜けて誰もいない方へと1本の緑色の光槍が飛んでいったが、その緑色の光槍はまるで目が付いているかのように素早くカーブすると、そのまま真っ直ぐこちらの胸元に突き刺さった。

いっ、だめだ、ここで負けたら、ハクラも捕まっちゃう。

しかし息つく暇もなく、二重の包囲網から立て続けに6本の光槍が飛び出した。

え、そんな。

絶望を引き連れるように矛先を定め、そしてその連続的な衝撃が全身を襲うと、薄れた意識の中で気が付けば背中は力無く地面に着いていた。

うぅ・・・ふぅ。

「さてと、本当なら人間の体なんて紙みたいに貫くはずなんですけど、まぁいいでしょう」

ゆっくりと起き上がり胸元全体から滲み出る血を見てから、依然として無表情で見下ろしてくるウィリアムに目線を変えたとき、ふとその向こうに片足の動きを封じられたハクラが見えた。

やられたか・・・ん?

「バクトさん」

・・・カイル達だ。

「ん、あなた達は誰ですか」

ハクラと並ぶように立ち止まった3人がウィリアムと対峙するが、カイルだけは一際警戒心を感じさせない表情をウィリアムに返した。

「えっと、僕はカイルで、こっちがテリーゴでこっちがロード」

「そうですか、僕はウィリアム。もしかしてあなた達もテロリストですか」

するとこちらに目を向けたカイルはハッとしたような表情を見せてから警戒心を伺わせ始めた。

「気を付けて、あいつは動きを封じる魔法を使う。しかもあいつの速陣は、普通じゃない」

「大丈夫ですよハクラ隊長さん、僕達も速陣が出来るようになりましたから」

へぇ、カイルも速陣ってのが出来るのか。

「翼解放」

そう言って瞬時に光に包まれたカイルだが、現れたその姿は堕混という見慣れたものではなくなっていた。

翼が、変わってる。

まるでトンボみたいだ、それに両腕を覆った平たいの、何だろあれ。

スピーカー、かな。

しかも鎧だって、溶岩が固まったようなものから光沢のある鉱石みたいなものになってる。

「翼解放」

もう、3人共堕混からかけ離れちゃったんだな・・・。

「いや、だから君達が思ってる速陣とは違う」

「行きますよ」

ウィリアムがそう言って地面を踏み締めるとテリーゴとロードも同じような体勢を見せるが、2人の前に立つカイルだけは背筋を伸ばしたまま胸元の前で拳を付き合わせ、腕を覆うスピーカーを見せつけた。

「重速陣」

しかしウィリアムは走り出すことはせず、その場で素早く剣先をカイル達に向ける。

「メデューサアイズ」

そして小さな光球を3発カイル達の足元に撃ち放つものの、小さな光球達は止まって見えるカイルの目の前でゆっくりと霧状に分散し始めた。

うわ、何だ何だ・・・。

空気が、凄まじく細かく震えてる。

ウィリアムから広がる陣圏とやらが消えると同時に、小さな光球達はスローモーションから通常再生に切り替わるかのように一瞬にして消滅していってた。

「それは何ですか。どうして時間の流れが違うのに、僕の魔法を消滅させられたんですか」

「おいカイル、いちいち手の内を話す必要はないぞ?」

「う、うん」

「ブリューナク」

振りだされた剣から緑色の光槍が放たれてもカイルは体勢を変えず、光槍も同じく霧と化してもカイルは悠然と立ち続けウィリアムを見つめている。

確かカイルはト音記号みたいな剣を出してたし、きっと超音波も出せるんだろう。

重速陣とやらでも、さすがに音速は超えられないのかな?

いや、あれはただのバリア扱いなのかな。

「おかしいですね、なら肉弾戦といきましょうか」

ウィリアムが走り出してもカイルは体勢を崩さず、代わりにロードが走り出し、そして同時にテリーゴが姿を消した。

テリーゴが背後からウィリアムを蹴り飛ばすと、すかさずロードは体勢を崩したウィリアムに向けて2色の尖った光を飛ばす。

2色の光が胸元で弾けようとも、地面を踏み締めただけで吹き飛ぶことのないウィリアムに向かって、背中に2色の光輪を浮かせたロードが殴り掛かるが、ウィリアムから広がった陣圏が瞬時にロードの動きを止めてしまう。

ロードっ・・・。

英雄か、テロリストか、ウィリアムか。

ヒーローは誰なんでしょうか。

ありがとうございました。

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