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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
第九章

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ヒーロー・オブ・アドヴァンス

「副大統領、シントン基地から。英雄ブラックが、倒されたようです」

何っ・・・ブラックが。

「テロリストは現在邸前基地第六区に向かってます」

馬鹿な、英雄が倒されただと?

テロリストごときに、我が国の英雄が、有り得ない。

「おやおや、英雄と慕われた者が倒されるとは、時代の流れは恐ろしいですな」

時代の流れ?馬鹿馬鹿しい、たった2年で英雄が衰えたりするものか。

「今すぐ遠征中の英雄をすべて帰還させろ」

「はい」

何としてもこの状況は、この無様な状況は打破しなくては。

国の、いや世界の命運がかかってるんだ。

焦りが募り始めたそんな自分に苛立ちながら、邸前第二区が映るモニターに目を向ける。

女は自身の足元から周囲に向けて、瞬時に地面を突き上げるほどの衝撃波を発生させながら、同時に炎を纏った拳で部隊員を殴り飛ばす。

大柄のドラゴンは身体中から放つプラズマで相手からの攻撃の隙をまったく与えずに、更にまるでエクスカリバーのようにプラズマを剣状に作り上げ部隊員に斬りかかるが、ふと白い龍の、まるで部隊員と2体のテロリストの戦いを眺めるような動きに目が留まる。

あの白い龍は、後方支援に回る訳でもなく、ただその場の戦いを眺めようとしているが。

もしあの3人に指揮官がいるなら、それは恐らくあの白い龍だろう。

だがあれは指揮官の姿勢でもなく、言うなればまるで傍観者のような態度だ。

まったく理解出来ない。

「副大統領、邸前第二区から、バリスタ増幅機関の使用許可要請が」

「許可する。それをテロリストが居る区画の邸前基地すべてにそう伝えろ」

「はい」

その直後、なんの前触れもなく音もなく大会議室の照明が落ち、同時にすべてのモニターから光が消える。

「どうした」

「すぐに予備電源に切り替えます」

テロリストの攻撃の衝撃が、ブレインハウスにまで及んだというのか?

「さすがですな、停電にはなりましたが、外の衝撃をこれほどまで感じないとは」

「こうでなくては、ブレインハウスにシェルターを作る意味が無いからな」

「そうですな。おっほっほ」

国際防衛大使の傍観者ぶりに少しイラつきを覚えながらも、再び戦場を映し出したモニターを見渡していく。

「副大統領、バリトン基地との回線が途絶えました」

くっ・・・バリトン基地までも。

「修復は」

「出来ないようです。今衛星からの映像に切り替えます」

切り替わった画面には、数え切れないほどの弓魔法に打ち砕かれたバリトン基地が映し出されていて、英雄フリージョは破壊された兵器の残骸の傍に集まる軍人の中で、戦意を失ったように座り込んでいた。

これは・・・酷い有り様だな。

軍事基地ほどの建物を、たった1人でこれほどまでに、一体どんな魔法を?

まるで何十人もの人間が一斉に弓魔法を放ったようだ。

「テロリストは」

「確認出来ません」

くそ、何故こんな時に。

ハシオリトにはディアベルの赤眼の試運転を待機させてるが、このままでは・・・。

そういえば、停電があったな。

王女のいる臨時生活シェルターのロックが一時的に解除されたはず。

「下の様子を見に行く」

「はい」

大会議室を囲む円廊下を左手に進み、エレベーターで最下層に下り、そして長期間生活出来るだけの食料を貯えた生活シェルターのロックを解除し扉を開ける。

しかしそこには王女、並びに執務担当の2人の女の姿すらなかった。

まさか・・・。

「おい、警備室と連絡して侵入者がいないか確認をしてくれ」

「え、はい・・・」

しかし通信要員は目線を落としたまま固まると、次第にその表情から疑心と焦りが伺え始めた。

「・・・どうした」

「警備室と連絡が取れません」

・・・ハシオリトめ、やってくれたな。

「どうかしましたか?」

「生活シェルターから王女が逃げ出した」

「えっ」

「恐らくハシオリトだろう。迂闊だった。ディアベルの赤眼の試運転をしているときにはそういう行動を起こさないと思い込んでいた」

刺さるような目線を感じ後ろを振り返った時、国際防衛大使のその眼差しに一瞬だけ冷ややかさが宿った。

「副大統領、人質が居なければディアベルの赤眼は手に入らないのでは?そうなれば我々も取引を破棄せざるを得ませんぞ」

「心配は無用だ。ディアベルの赤眼が手に入らなかった時の事は考えてある」

そう言ってポケットから取り出したメモリを見せると、国際防衛大使とその関係者達は皆一様に理解に苦しむような表情を浮かべた。

「ハシオリトがディアベルの赤眼を作る際に、忍び込ませていたんだよ、こちらの人間を。そしてこれは、ディアベルの赤眼の、設計図だ」

「ですが、ディアベルの赤眼のコア部分には、ハシオリトの領土にしかないベリリアット鉱石が不可欠だと」

「科学は日々進歩する。たとえ最高強度を誇る天然鉱石でも、それを越える超合金が作られる日が必ず来る。それにむしろ、実物より設計図の方が価値があると私は思うがね」

感心するような声も洩らさず、かと言って安心するような笑みも見せず、国際防衛大使は傍観を貫くようにただ納得するように頷いた。

「そうですな。では我が国エンテキーリャとカンデナーデの関係を築く手始めとして、我が国の兵士を1人、ここに向かわせましょう」

たった1人、か。

「この状況でたった1人の援軍など、とても有意義なものとは思えないが」

椅子に座り、メモリを渡しながらそう聞くが、すぐに隣の人間にメモリを渡した国際防衛大使は、依然としてその落ち着きと余裕に満ちた態度を変えようとはしない。

「貴国がサモンアーマーを極秘開発したように、我が国にも秘密兵器というものがありましてな。その名はスタック。遺伝子操作で作られた特殊な人間に、サモン形成の際に生じる魔力を限界まで注ぎ込む、というものです」

人間に魔力を注ぎ込む、か。

「サモンアーマーと違う点は、どういった所かな」

「器ですな。貴国のそれは人間にサモン1体分の魔力を注ぎ、人体に悪影響を及ぼさないギリギリのバランスを保ちながら身体能力の向上を図るもの、でしたかな」

「あぁ」

「ですが我が国は、遺伝子の段階からどれだけ外部の魔力を受け入れても影響が出ないように作られた人間を用いて、結果的に複数のサモンの魔力を取り込むことを可能にしたもの、ですな」

するとまるでこちらの考えていることを見透かしたように、国際防衛大使は若干の同情と後ろめたさを感じる眼差しを見せる。

「確かに非人道的だと言われても返す言葉はありません。なので、彼には今の話をしていませんし、計画の存在もデータとして残さないように徹底してあります。そして今後、彼のような人間を作ることはありません」

「どんなことをしても、自国の軍、延いては自国を守りたいという気持ちは理解出来る。それで、複数というのはどれくらいかな」

「今現在で問題なく成功しているのは、120、ですな」

ひゃ、120?

それほどのサモンを、1人の人間に・・・。

「副大統領、英雄ディエテレ、並びに英雄カナノアが邸前基地各区に、そして英雄ハイディア、英雄シュハカ、英雄ヒロカ、英雄ヒース、英雄フリトクス、全英雄が邸前基地に到着しました」

「あぁ。そちらの援軍はどれくらい掛かるかな?」

「サモンを取り込んだ後で速陣を使えば、我が国からここまで1分も掛からないかと」

「では頼む」

・・・ふぅ。

さぁテロリスト共、覚悟しろ。



ん、また軍服じゃない人達が来たな。

ブラックとかいう人と同じ英雄かな?

「ハイディア様とフリトクス様だ、全機動隊員は援護に回れっすぐにバリスタ増幅機関をっ」

「はっ」

ジオラはああ言ってたけど、事情を知らないブラックは本気で来たしな、あの2人にも手加減出来ないか。

「あいつがブラックをやった奴か、まったく薄気味悪いぜ。どうする?一緒にやるか?」

「そうだね。まだ仕事あるし、さっさと終わらせよ」

「速陣っ」

編み込んだオールバックの男性が走り込むと同時に、桜色に髪を染めた長髪の女性が素早く弓を引く体勢を取りながら、1本の桜色に光る矢を手中に出現させる。

念のために立昇やっとこ。

「・・・ふあぁっ」

すると直後に砂埃と共に男性は勢いよく尻もちをつき、強風に煽られるように顔を背けた女性の手にあった桜色の光が消し飛び、そして視界に収まるすべての軍人は皆一様に地面に押し倒された。

便利だな、これ、体も軽くなるし。

「こいつ、マジで薄気味悪い奴だな」



ブレインハウスのバリスタ増幅装置は止めたし、とりあえずは時間でも稼がないと。

まるでこの世のものとは思えないものを見るような眼差しでこちらを取り囲むだけの軍人達の前に、突如として1人の人間が姿を現す。

「おお、カナノア様」

北半球戦争での活躍でその名を世界に知らせめたカンデナーデ軍の中枢、英雄。

それを出すということは、カンデナーデも必死だということだ。

「ここはあたしに任せて、みんなは援護を」

「はっ」

英雄を知らない子供が見れば、軍関係者だとはまったく思わない格好のその人間は、小さく首を傾げながらも目を細め、正義感と闘志を見せつけるような態度を真っ直ぐぶつけてくる。

スクファでも知られてる話じゃ、カンデナーデの英雄は皆、独自に開発した魔法を使うとか。

「雷光天貫」

そう言うとカナノアの両手には光がほとばしり、そしてその光は瞬時に膨張しながら棒状へと変化を遂げていく。

エクスカリバー・・・じゃないっ。

しかしその光は剣ではなく、先端に円形の刃が付いた光の鞭となった。

「これがあたしの、エクスカリバー」

剣魔法で、剣じゃないものを作るなんて・・・。

カナノアが素早く鞭を振りかぶったので、掌の前に氷牙の小盾を出現させて振り出された先端の円刃を受け止めると、その瞬間、円刃と小盾の間から周囲の空気を震わすほどの音と衝撃波が生まれ、そしてその光を纏った衝撃波は周囲の土を激しく舞い上がらせた。

円刃が振り戻されていくと同時にカナノアの足元に氷弾を撃ち落とし、氷の爆風でその場に2メートル近くの氷柱を作り上げる。

「バリスタ・オブ・アークエンジェル」

振り出された円刃が氷柱を砕くのを見ながら、第三の弓魔法を目の前に浮かせた氷牙の小盾に向けて撃ち放つ。

すると小盾を潜り抜けた光矢は瞬時に2倍ほどに膨張しながら、氷柱の残骸の彼方へと消えていった。

バクトの言った通りだ、この紋章の入った盾、氷牙の力と融合した私の魔力も増幅させることが出来る。

氷柱の残骸は地面に引かれたえぐり跡を残して姿を消し、えぐり跡の線の先の基地も大穴という傷跡を残されたものの、えぐり跡の上に立っているカナノアはただ右腕全体を焦がしているだけだった。

「ふぅ、こんな派手な弓魔法、見たことない」



「あははっ」

終始高揚しているナオがひと度拳を突き出せば、ナオの足から唸る振動は地面に悲鳴をあげさせるような土埃を吐き出させ、ナオの拳から放たれる熱波は白いスーツを着た軍人達を数人同時に吹き飛ばす。

しかし白いスーツを着た軍人達はすぐに立ち上がり、そして終始動く度に地面を震わせるナオに警戒の眼差しを向けていく。

「くっそ、下手に近付けねぇ。1人に手こずってるようじゃ、このままじゃ不利だな、どうする?」

その直後にどこからか何かが撃ち込まれてきたのに気が付いたが、すでに連続的に撃ち込まれてくる何かは走るように土を突き上げながらも、その衝撃は一瞬にしてナオの体を突き飛ばしていった。

ナオっ・・・。

「いったぁ、うぅ」

白いスーツの軍人達にプラズマを撒き散らし牽制しながら、何かが撃ち込まれてきた方からナオを庇うように立ったとき、再び前方の地面からこちらに向けて何かが撃ち込まれてくる。

銃弾、かな。

腕を交差させながら、全身から放出させるプラズマですべての銃弾らしきものを弾き返したものの、その場に訪れた沈黙は見えない敵という名の恐怖心を小さく沸き立たせた。

一体、どこから・・・。

その直後にクルマのエンジン音のような音が聞こえてくると、続けて聞こえてきた地面を伝う振動音と共に、突如その場に見たことのない形のクルマが姿を現す。

えっ・・・。

すると考える間もなく、帯状の車輪を滑らせて止まったクルマの屋根の中央に付けられた大きな銃身から、音を立てて何かが噴き出した。

銃弾そのものはこちらに届かなかったものの、プラズマに弾かれた銃弾が一瞬にして視界を覆うほどの爆炎と衝撃波を吐き出すと、その重圧に思わず体勢は崩れ、そしてそのまま地面に倒れ込んでしまう。

副大統領なりの考えも勿論ある訳ですが、その考えが、果たして人によってどう見えるか、ですね。

ありがとうございました。

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