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インシデント・イン・ザ・ミーティングルーム

しかし若い男の警備兵は顔面蒼白のまま、ふと地下への通路を気に掛けるような素振りを見せる。

「それが副大統領が避難は必要ないと、だから大変なんです」

何?副大統領が?・・・。

人気もなく、ひしひしと感じるその奇妙な空気が言うようのない緊張感を醸し出す中、地下に下り、中央部分に作られた臨時大会議室に入る。

白く開放的な照明の明るさとは裏腹に、主要幹部そのものが発する分厚く、重々しい緊張感に支配されたその場所の、中央に置かれた四角いテーブルの一角には副大統領と幹部の人間の姿があったが、副大統領達の周りには何故か数人の機動隊員が居た。

「英雄ジオラ、何故ここに」

鋭く、警戒心に満ちてはいるがまったく気負いする素振りを見せない眼差しを突き刺してくる副大統領のその一声に、その場の静寂さは更に緊張感を尖らせた。

「外を見てないのか?副大統領。大統領は・・・もう避難したか。なら早く副大統領もここから離れた方がいい」

「私なら問題ない。それに、たった1人の英雄などより、対核爆発用のシェルターにもなっているこの空間に居た方がよっぽど安心だ。そんな事より、さっさと上空に居る未確認飛行物体とやらを何とかしたまえ。貴様らにはそれがお似合いだろ」

いつ話してもムカつくな、こいつは。

軍人を駒としか見てない、典型的な傲慢幹部。

テーブルを囲むように4つある内の1つの巨大モニターが点いているのに気が付くと同時に、ふとその下に座る通信用員の1人が副大統領に顔を向けたのが見えた。

「副大統領、シントン、バリトン各基地に英雄ブラックと英雄フリージョが到着しました」

「あぁ、引き続き戦況を逐一報告しろと伝えろ」

「はい」

「まだ居たのかジオラ、私はこの通りテロ迎撃の指揮を取っている、私がここを離れる訳にはいかないのだよ。分かったら貴様も上空のテロリストの下へ行きたまえ」

テロ迎撃の指揮か・・・。

「指揮・・・それは副大統領ほどの人間がやることじゃないはずだ。それに、そっちがテロ迎撃の為の通信用員なら、あんたの後ろ側の通信用員は何だ」

「貴様には関係のないことだ」

戦況把握の為の通信なら、すべての基地からの通信が聞けるように回線を1つにまとめた方が効率的だ。

それにモニターが点いてないなら、あっちはどこと通信してるんだ?

あっちの回線と、副大統領が避難しない理由は関係あるのか?・・・。

「副大統領、あんたに聞きたいことがある。今、ハシオリトがどういう状況にあるか知ってるか?」

戦況の報告を待ちながら遠くを見つめる副大統領は目線すら変えずにいたが、副大統領の後ろ側に居る通信用員がこちらに顔を向けたのは見えた。

「これ以上貴様と話すことはない、さっさと出ていきたまえ」

否定はしないんだな。

「なら話題を変えよう。テロリストの国籍は分かってるのか?」

「知らないな」

「ガイアは使ったのか?」

副大統領がただ迷惑そうにこちらに顔を向けるのを見ながら、副大統領の後ろ側の通信用員を気に掛けるが、その通信用員は通信を傍受した素振りは見せない。

「あれには私と大統領の許可が必要だが、そもそもあれは対戦艦並びに軍隊用だ、たった1体の敵に使うようなものじゃない」

「だけど英雄にも空を飛べるような人間など居ないだろ、上空の敵への対処はブレインハウスのバリスタ魔法増幅装置しか無いんじゃないのか?あ、いや無理か。今ブレインハウスの外壁の大部分は凍りついてる。どうするんだ?副大統領」

「人間じゃなく、サモン部隊を向かわせれば問題ないだろ。そんなことも思い付かないのか」

「副大統領、第三海岸基地にテロリストと思われる3人の人間が現れました」

3人組か、あの白髪男の仲間だな。

「さぁジオラ、仕事だ。行きたまえ」

「いや、そこにはディエテレを向かわせてくれ」

これで一応は、今首都に居る英雄は皆戦場に出たことになる。

もしあっちの回線がハシオリトに繋がっているんだとしたら・・・。

「副大統領、邸前基地第二区に正体不明の人間が突如出現したとの通信が入りました」

何・・・。

「おい、そいつらの人数は」

「あ、はい、3人だそうです」

あいつは、テロは4箇所だと言っていた。

だが今のは、5つ目・・・。

「ジオラ、あと出ていないのは、貴様だけだと思うが」

どうなってる?

あいつは嘘をついたのか?

それとも、最後だけ関係のない本当のテロ?

いやさすがにそれはないか。

仕方ない。

「分かった。そこには俺が向かう。だが副大統領、最後に聞かせてくれ。あんたの後ろ側の回線は、ハシオリトと繋がってるんじゃないのか?」

すると副大統領の後ろ側の通信用員は再びこちらに顔を向けたが、副大統領は目線を変えず、ただ小さく眉間にシワを寄せながら目を閉じた。

「何故私がハシオリトと回線を繋がなければならないのだ」

時間も無いし、賭けに出るか。

「俺は知ってるぞ?今ハシオリトがどういう状況にあるか。王女を誘拐されていて、そして古代兵器ディアベルの赤眼を復活させたんだろ?」

「それが何だ。ハシオリトが脅されていることと、私がどう関係している」

おっと・・・。

「何故ハシオリトが脅されていると知ってるんだ?俺はそんなこと言ってないが」

「それは、何故古代兵器を作る必要があるかを考えれば、容易に王女の誘拐が連想出来るだろ」

ふっ強引だろ、それ。

だがまるでボロを出したのを自覚するような表情の変化すら見せない・・・。

「だが、知ってることがもう1つある。カンデナーデがハシオリトの王女を誘拐し、それをネタにハシオリトを脅してるという情報が入ったデータが存在することを」

重々しいため息をついた副大統領はようやくこちらに顔を向けるが、その態度からはまるで焦りや怒りは伺えなかった。

「まさか、私がその首謀者だと?馬鹿馬鹿しい」

「違うのか?」

「違うな、ならそのデータとやらを見せて貰おうか」

仕方ない、首謀者を追い詰めるよりも優先させることがある。

「データは、持ってない」

「はっ何だ、話にならないじゃないか」

「まぁこの際首謀者は後回しだ、ハシオリトに王女を返せば、陰謀も何もなくなるからな。恐らく王女はブレインハウスの最下部だろう。重要な人質だ。下手な牢獄よりシェルターの方が安心だろうしな」

一瞬にして副大統領の眼差しに鋭さが満ちたとき、突如腕に刺すような小さな痛みが走る。

ん?・・・。

見ると背後に居たのは副大統領の秘書の女で、ふとその女の手に握られた小さな注射器に目が留まるが、その時には既に体は急激な睡魔に襲われていた。

く・・・そ、油断したか。



「副大統領、ディアベルの赤眼がそちらの手元に無い限り、我々との取引は出来ないですぞ?」

「分かってる。見ての通り、もう邪魔者はいない、安心したまえ」

もうすぐ、もうすぐなのだ。

ディアベルの赤眼が手に入れば、そのエネルギーでガイアをより完全なものにすることが出来る。

しかしここで計画に綻びが出れば、すべてが水の泡。

倒れ込んだ英雄を前にしてその場に座り込んだ秘書に、そして英雄にもまた1人の機動隊員が歩み寄っていく。

「秘書を落ち着ける場所へ」

「はい。ジオラ様はどうしますか?」

「医務室に運んだら、そのまま薬でも毒でも使って殺してしまえ」

「ですが、英雄ですよ?」

「英雄など1人くらい消えようが問題ない」

生かしておけば、きっと必ず私の足をすくいに来る。

「副大統領、上空の敵と邸前基地の敵はどうしますか?」

「今こそ君達サモンアーマー部隊の出番だろう。二手に分かれて、一方は上空の敵、もう一方は邸前基地の敵を」

「はい」

「それとすべてのモニターに各基地の状況を映しなさい」

部隊員が大会議室から出ていくのを見てから、起動したモニターの1つに目を向ける。

英雄の中でも群を抜いて槍魔法に長け、閃王とも呼ばれるブラック・アスフォード。

ブラックが放つ槍魔法は正に神の鉄槌の如くすべてを貫くという。

首から下を見慣れない鎧に包んだテロリストはどうやら速陣を使うらしいが、それは英雄とて同じ、特に目を見張るような特異な戦術を持っている訳ではないようだ。

フリージョ・ダグティクスは自他共に認める面倒臭がり屋。

自分が行くと決めた任務でなければ絶対に動かない。

だがそれでもフリージョが英雄として居られるのは、英雄一の実力者だからだ。

だが、そのフリージョを相手にしているあのテロリスト。

赤い陽炎を纏い、下半身を獣の後ろ足のように形を変えている、まるでサモンアーマーのようだ。

サモンと魔導スーツを融合させたサモンロイドを一撃で粉砕し、最強の英雄フリージョを、あれほどまでに力で押しているとは・・・。

ディエテレは・・・。

「おい、海岸基地はどうなってる。テロリストが居ないぞ」

「はい、第三海岸基地を半壊させたテロリストは既に、音速と思われる速度で邸前基地第五区方面へ向かってます」

何だと、音速?

速陣を使わずに、現実時間で音速だと?

「ディエテレはどうした」

「英雄ディエテレにもそちらに向かうよう言いましたが、少し遅れると」

まったく、あの女は・・・。

「副大統領、そのディエテレというはもしや、写真家としても名を知らされたあのディエテレ・ベイティアーナですかな?」

「あぁ。任務中にも拘わらず、インスピレーションを感じたら平気で趣味を優先させる、少々困り者でな。だが彼女の憎めない点はその芸術肌気質が魔法にも活かされてるということだ」

「と言いますと?」

余裕に満ちた傍観者のような態度でこちらに注目する、エンテキーリャ国国際防衛大使の面々からふと何となく1つのモニターへと目線を移す。

「その創作的趣味が興じてか、彼女は世界で唯一彼女にしか使えない高度な魔法を多数所有している。その魔法の多彩性は、まるで一個大隊を相手にしているかの如くと言われている」

「誠に恐れ多いですな。ですが我が国の軍勢が敵になるか否かは、ディアベルの赤眼次第ですぞ」

「分かってる」

「副大統領、サモンアーマー部隊と、邸前第二区に現れたテロリストが交戦を始め、並びに上空の敵は邸前第一区に下りた模様です」

「第一区の状況を映したまえ」

未確認飛行物体とは一体・・・。

腕や脚、各々が体の一部を変化させた5人の部隊員が囲む1人のテロリストが映し出されたとき、エンテキーリャ国国際防衛大使の人間が興味を示すような声を洩らしたその傍観者ぶりが、また少し嫌に心をくすぐった。

人間と爬虫類を併せ持ったような体格、あのテロリストもサモンアーマーと似たような技術を?

だが鉱石性の鎧と猛禽類が持つような翼は、もはや私の理解を越えている。

一体何処の国の者なのだ。

異形のテロリストが放つ氷塊は霧のような爆風を生むと、建物や地面はおろか部隊員でさえも氷結させていき、テロリストの背中から噴き出す空気によって生まれる機動力は機械的なほど滑らかな動きを生み出していく。

魔力の強大さも、英雄と呼ばれる者達に匹敵すると言っていいだろう。

だが1番目を見張るのは、どんな攻撃を受けてもその鎧の傷が素早く再生するということ。

我が国カンデナーデの最先端兵器でも、ここまで差をつけられるとは。

まだまだ兵器が英雄を越える時代は来ないのか。

「すぐにペイシュヘルトに居る、英雄カナノアを呼び戻せ」

「はい」

もってくれよ、サモンアーマー。

「副大統領、第二区を見てください、ドラゴンです」

邸前基地第二区が映されたモニターを見ると、7人のサモンアーマー部隊の前には、首から下を白い翼の生えた岩石性の鎧で包んだ女に、翼が無く細長い胴と鳥のような脚が特徴的な、人間と同じ大きさの白い龍、そして関節の無い4枚の大翼と体から放出される緑色のプラズマが特徴的な、人間の2倍以上の体格を持った爬虫類体型のドラゴンが居た。

「ほう、副大統領、これもまた理解を越える異形のテロリストですな」

何なんだ、この者達は。

「あぁ」

「副大統領自らが考案したというサモンアーマーの実用性を、とくと拝見させて貰いますぞ」

統率されているにも拘わらず、3体の姿、攻撃手段にまったく共通点がない。

部隊なら尚更統率力にムラが出ないように、兵器、動き、攻撃手段を統一させるのが普通だ。

それがたとえテロリストでも、部隊なら統率をもってして動くのは同じこと。

なのに、何だあれは。

すべてにおいて、私の理解を越えている。

主人公の最年長記録、あっさり抜かれましたね。笑

ありがとうございました。

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