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革命の渦

ランダムに立てられた弾除けのある、広大な演習場で整列している新兵達を、まるで未熟な子供を観るような態度で眺める人達の下へ向かうと、その中でただ1人、眩しいほどの存在感を醸し出す軍服ではないその人物の前には、すでにディーノの姿があった。

「そんなはずありません、確かにそのメモリに証拠が入ってるはずです」

「・・・これ以上は時間の無駄だな、何度見てもお前の言う国交部に関する証拠は見当たらない」

「そんなはずは・・・」

「しつこいぞヘイラー」

メモリを操作しながらヘイラーにそう告げるグリッド所長の下へ近づくと同時に、グリッド所長とヘイラー、並びにその2人の話を聞く周りの人達も皆こちらに顔を向ける。

「そのメモリには重要な証拠は入ってませんよ、所長」

ヘイラーの顔色が驚愕と若干の殺気に染まると同時に、所長はディーノに目を向けながら呆れたような表情を見せてくる。

「お前らも、訓練をサボりたいが為にこんな茶番を?まったく」

「いえ、聞いて下さい所長、国交部のケルバ大佐の話の裏付けとなる証拠は、ここにあります」

そう言って携帯端末を見せても所長の表情は変わらないが、ヘイラーだけはすぐさまその表情に強い怒りを感じさせた。

「何言ってんだよ、お前がターミナルにこのメモリを挿してんの、ちゃんと見てたんだ、デタラメ言ってんじゃねぇっ」

「デタラメ?でも現にそのメモリには証拠は入ってないよ。だってヘイラーが窓から落ちたメモリを拾う前に、遠隔操作で証拠をこっちに転送させたんだからね」

目を見開き、言葉を失ったヘイラーが膝を落とすのを見ながら、携帯端末を所長に手渡す。

「こ、これは・・・」

「そのデータはハシオリトの軍事力を簡単に分析したもの、ハシオリトの王族家系図、そしてハシオリトの弱みをどう握り、ハシオリトをどう操り、どうディアベルの赤眼を使うかの情報を共有するためのものみたいです」

所長達の表情から静かに平穏さが消えていく中、最後に携帯端末を見た英雄ジオラはただ1人落ち着いた態度を崩さず、こちらに携帯端末を差し出してきた。

「この情報、どうしたんだ?こんなもの一兵士が、ましてやターミナルから容易く得られるものじゃないだろ」

怒ってはないように見えるけど、この落ち着き払った表情が、逆に怖い。

「・・・ハッキング、しました」

「おいコール、お前」

「すいません所長、でも、話を聞いてしまって、ディーノ隊長にも忘れろと言われましたが・・・どうしても出来なくて」

血の気が引くように引き締まる所長のその表情を目の当たりにした直後、頭に過ったのは軍に入った日の記憶、そして何故か言い様の無い微かな達成感と爽快感だった。

「お前すごいな」

「えっ」

しかし口を開いたのは英雄ジオラで、その言葉は一瞬にして所長達の表情に纏う緊迫感と、その場を包む緊張感に亀裂を走らせた。

「だからって、国交部の重要機密だぞ?そんな簡単にハッキングしましたって、大したもんだろ」

「で、ですがジオラ様」

「革命には犠牲がつきもの。だが、どんな形にしろ自らを犠牲にする者は少ない。俺は、そういう奴こそ報われるべきだと思う。お前、名前は?」

す、す、スゴすぎるっ・・・ほんとに英雄の目に、留まっちゃった。

「はっ・・・コール・アースウッドでありますっ」

「よしアースウッド、ここから先は俺が引き継ぐ。悪いが、証拠のデータ、またこっちのメモリに戻してくれ」

「は、はいっただ今っ」



その直後、突如アースウッドの胸元から前方に向かって血が噴き出し、その場に居る誰もが状況を掴めないまま、アースウッドは膝を落とし、そのまま地面に突っ伏した。

「コールっ」

真っ先に動き、声をあげたアースウッドの傍の男がアースウッドの肩を掴んだとき、ふとアースウッドの手から離れ、地面に転がった携帯端末に目が留まる。

狙撃・・・まずいっ。

しかしその直後にその携帯端末は銃弾が空を切る音、小さく弾ける地面と共に激しく宙を舞い、その場に居る誰もが状況を掴めないまま、今の今まではきはきとしていた新兵は倒れ、重要機密を握った携帯端末は無惨にも撃ち砕かれた。

「所長ぉっすぐに医務室へっ」

「いやディーノ、もう、コールは死んでる。的確に心臓が撃ち抜かれた。恐らく、上層部の仕業だろう」

守れなかった・・・。

「何故ですか所長、コールはオレの知るかぎり、1番のハッキング名人です、それに、こいつ自身もハッキング自体がバレても自分がやったことまでは分からないって」

俺が居ながら、英雄の1人と慕われた俺が居ながら・・・。

「ふっそれは、どうかな隊長」

「あ?何だよヘイラーお前」

「こいつが掴んだのは、ただの機密情報じゃない、正義感のカケラもない犯罪情報っすよ。もしオレなら、トラップでも仕掛けますよ」

俺は、未来ある新兵を目の前で・・・。

「トラップ?」

「こいつは狙撃されたんすよ。なら、もしかしたらわざとハッキングさせて、データの中に仕込ませてた位置情報を知らせるウィルスみたいなものを送ったとか」

「ウィルス・・・」

自らを犠牲にしてまで、悪を暴こうとした未来ある名もなき新兵の末路がこれかよ・・・。

「だが、殺されるということは、アースウッドが掴んだ情報は嘘じゃないということだ。だから俺は、アースウッドの思いを引き継ぐ。たった今、アースウッドにそう言ったからな」

絶対に、アースウッドの死を無駄にはしない。

データが真実なら、きっとそれがあれば黒幕を追い詰められるだろう。

だが肝心なのは、どうやってそのデータを手に入れるか。

訓練所を後にし、第九機動隊の人間達とも別れた後、時間も経たない内にどこからか殺気を感じると、突如目の前に、短剣をこちらの胸元に突き立てた姿勢の人間が姿を現す。

「くそ、剣が入っていかねぇ」

「この俺が気の魔法もせずに歩いてるとでも思ってたのか?」

英雄を暗殺など、同じように英雄と同等かそれ以上の力の持ち主でもなければ出来る訳がない。

「俺を嘗めるなよ」

その男は短剣を下げながら後退りするものの、その佇まいからは殺気の陰りは一切伺えず、その直後にその男は着ている薄手のコートを勢いよく脱ぎ捨てる。

「ベリス、頼む」

無線か、いやそれよりも気になるのはその白い魔導スーツ。

その男の頭上に風船のように膨らむ研ぎ澄まされた殺気が出現するが、その殺気は形作られることなく、すぐさま男の着る白い魔導スーツに吸い込まれていった。

「それは、サモンを作るときに圧縮する魔力を気の魔法のように人体に纏わせる、サモンアーマー。まだ完成してないと聞いてるが」

そして男の体に触れる大気が焼けるように、陽炎となって揺らめき始めると、光などを纏わない男の気迫はただ強い重厚さに満ちた。

「あぁ、確かにこれはプロトタイプだ。だが、英雄と囃し立てられる中年男の暗殺には充分だろ。魔法は科学のように日々進化する。英雄だろうが、所詮あんたは過去の人間だろ」

2年で、こうも変わり果てるのか、世界は。

魔法科学の成長スピードは、恐れるべきものなのかも知れないな。

「なら試してみろ、2年など人間にとっては大した時間じゃない」

「エクスカリバー」

男が短剣を振り上げると同時に、短剣は白く眩く身長ほどの大剣へと形を変える。

ほう・・・。

半身を下げてエクスカリバーをかわすと同時に男の腕を掴むが、その直後に脇腹に突き刺すような衝撃が襲う。

これはっ。

気が付くと何故か脇腹に刺さっていた極太の光矢を握り潰し、男から少し距離を取ると、男の隣に男と同じ格好の別の男が姿を現す。

「さすがですね英雄ジオラ、第三の弓魔法を、顔色ひとつ変えず素手で握り潰すとは」

その直後、その別の男の体にも頭上から現れた殺気が宿ると、その男の両腕はまるで獣のように太く、鋭い爪があるものへと形を変えた。

サモンの特徴が体に影響を及ぼすのは、サモンアーマーへのシンクロ率が高い証拠だ。

「だから、お前らは俺を過小評価し過ぎなんだよ、中年でも初老でも、現役で頑張ってる奴はいるだろ」

そう言って素早く姿勢を落とし、その場から離れると、背後には高身長でがたいのいい男が腕を振り回していて、更に逃げた先には分厚い唇が印象的な浅黒い肌の女が居た。

女が降り下ろした長剣をかわしながら素早く後ろに跳び、周りに目を向けたとき、ふと1人の英雄を囲む人間達にまた1人、色白で鋭い目付きが印象的な男が加わっているのに気が付いた。

「5人か、お前、俺が何て呼び名で通ってるか知ってるか?」

「えぇ、速陣を使わせたら誰ひとりとして捉えることが出来ないことから、速神ジオラと呼ばれていますね」

速いだけじゃないけどな、未だ誰にも、英雄仲間にも言ってない、自主開発した魔法のお陰かな、そんな風に呼ばれるのは。

「あぁ」

速陣。

速陣の中で形の無い簡易的なサモンを作り出し、止まって見える世界の中、両腕を変化させた男を通り過ぎながら、同時に大柄の男と鋭い目付きの白人男の首筋に簡易的サモンで一撃を入れ、そして両腕を変化させた男の背後に立ちながら、気を失い倒れる2人を眺める。

倒れるのも止まって見えるほどだな、まったく、未熟な奴らだ。

「たとえ」

その声に気付いた2人の男は反射的にこちらに振り向くと、殺気を尖らせながらもその表情を恐怖心でひきつらせた。

「新兵器だろうと、使う奴らが未熟じゃ意味ないんじゃないか?」

速陣。

再び簡易的サモンで2人の首筋を叩きながら、2人を通り過ぎ速陣を解くが、倒れることなく太い両腕の男は素早くこちらに向けて縦に列なる3本の極太の光矢を放ち、もう1人の男は通常の2倍ほどの太さと長さを持つエクスカリバーを作り出した。

ほう・・・。

だが、遅いな。

その場から動かずに速陣を使い、再びスローモーションになった世界の中、簡易的サモンで放たれた3本の光矢を払い退けると同時に、降り下ろされた大きなエクスカリバーを受け止めながら、自らの手から第三の弓魔法を2人に向けて撃ち放った。

通常再生されるように吹き飛ぶ2人を見てから、最後の1人にゆっくりと体を向け歩み寄ると、武器をしまったケイティーナは殺気のない真っ直ぐな眼差しを見せてきた。

「頼むよ、お前も俺に協力してくれ」

「じゃあ結婚して」

「今はそんな冗談言ってる場合じゃないだろ」

しかしケイティーナは不思議そうにただ首を傾げる。

「2年も同じこと言ってるのに、どうして今だけ冗談だと思えるの?」

「だから、今はそんな話が出来る状況じゃないだろ」

「今更、状況なんてもの、あたしには関係ないもん」

まったくこいつは・・・。

「・・・それよりお前、さっき俺を殺そうとしたよな?」

するとケイティーナは気品さえ感じるほどの落ち着いた笑みを浮かべながら、小さく首を横に振って見せた。

「本気で殺そうとする訳ないじゃん」

何だかんだ言っても、こいつなら協力してくれるだろ。

「・・・国交部の機密情報をどうにかして手に入れてくれ。それがあれば、黒幕を追い詰められるだろう」

「黒幕って?」

「分からない、だがケルバという奴を問い詰めたら分かるかもな」

「ケルバって第九の大佐でしょ?なんでその大佐が関係してるって知ってるの?」

「ある新兵が掴んだ情報だ。だがそいつは情報を掴んだせいで上層部に、俺の目の前で殺された。お前も気を付けろよ?下手に動けば、お前も追われる側になる」

まぁこいつは新兵なんかとは違い、第一精鋭機動隊の暗殺部に居るし、密偵などお手のものか。

「・・・ごめんダーリン、あたし協力出来ない」

「止めないと、ハラスティア大陸が壊滅的被害を被る。そんなことになればまた大規模な戦争が起きる」

「でも、命懸けでなんて」

「精鋭の人間が何言ってんだ。国の一大事だぞ」

「国とか関係ないもん」

こんな奴だとは思わなかった、ここまで上り詰めた軍人が、命が狙われるのが嫌だからって・・・。

「俺の頼みでも聞けないのか?」

しかしケイティーナはその顔色をまったく変えず、まるで哀れむような眼差しでただこちらを見つめていた。

「あたし達の幸せのためだよ。あたしは、ダーリンの子供を産むまで絶対に死ねないの。ダーリンに、家族を作ってあげるためなら、国とか仕事とか関係ないもん」

・・・家族、か。

「だからごめんねダーリン」

そう言ってケイティーナはウインクして見せると、わざとらしく倒れ込み、そしてまるで気を失ったかのように動かなくなった。

・・・ウインクは、どういう意味なんだよ。

仕方ない、他に協力してくれる奴を探すか。

ジオラは主人公では最年長ですかね。第一線で活躍している軍人から時代遅れ呼ばわりされるくらいですから。

コールは、主人公では千牙龍に次ぐ最短記録ですかね。笑

ありがとうございました。

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