ベル・オブ・ザ・レボリューション
カンデナーデがハシオリトを脅してるとして、それは国ぐるみでやっていることなのか?
そうだとしたら今までカンデナーデがうわべだけの体裁を繕えていたことも納得はいく。
だけど、一国のすべての人間に口裏を合わさせるなんてこと・・・。
第一、カンデナーデはアイテーヌ大陸の半分を占め、人口は世界一だ。
そんな国の・・・。
「ハクラ?」
バクトに顔を向けようとしたとき、すぐに持っていたコップから流れたジュースがパスタにかかっていたことに気が付く。
あ、っと、まいいか、トマトソースにトマトジュースがかかっただけだ。
「いつもそんなに考え事してるの?」
「・・・うん」
よくミキにも叱られてたな。
「どうして、あなたは氷牙の力を知ってるの?」
そう聞くとバクトは常に興味というものを抱いた子供のような眼差しを、若干の怒りを抱いた真剣さに満ちたものへとその色を変えた。
「氷牙の力は、元々僕が持っていたものだから」
それは、どういうことか。
「ルーニーは僕から力を奪った。だから僕はルーニーに会わなくちゃならない」
まさか、その怒りは復讐心?
だとしたら・・・。
「この戦いが終わったらルーニーのところに行くんでしょ?それなら、力づくでもついていくからね」
護衛の契約を結んだのに、このままバクトをあの方に会わせる訳にはいかない。
この戦いが終わっても、まだ油断は出来ないか。
「おうあんたらここに居たか、なぁ正義見てないか?」
すでに真剣さのない表情に戻っていたバクトがジョナスに顔を向けるのを見ながら、ふと壁に掛けてある時計に目を向ける。
寝坊でもしてるなら、正義は置いてきぼりかな。
「見てないけど」
「しょうがねぇなぁ、あいつ。バカだけど時間に対してはきっちりしてんだけどなぁ。まぁとりあえずそろそろ潜水艦に向かうからな」
ロードはこの世界の人間だって言ってたし、カイル達なら空でも飛んでカンデナーデに一直線なんだろうな。
客船や貨物船、漁船や艦艇まで、複数の船が見える巨大な発着場に入り海風を感じながら、ふと携帯電話を耳に当てたジョナスに目を向ける。
潜水艦か、乗るのは初めてだな。
「・・・おい正義、今どこだよ、え?はぁ?お前・・・全然オレの話聞いてねぇじゃねぇか・・・」
正義、何かやったのかな?
「とりあえずそっちに着いても何もするなよ?・・・オレ達が着くのは深夜過ぎだ、まぁそれまで観光でもして、襲撃する場所でも決めてろ」
携帯電話をしまいながらため息をつくジョナスの表情は、すぐにある疑問を湧かせた。
「正義は?」
「あいつ、早朝に出る貨物船に乗って直接カンデナーデに行きやがった」
うわぁ・・・。
「はは」
「まぁ、笑うしかないわな」
「うわぁ、ホントだぁ、意識のし方が気の魔法とそっくり、ふふ」
ナオ、何だか嬉しそう。
よく見慣れたような羽毛に覆われた白い翼と、背中から浮き出るように体と融合したガウロエンジンが目を引く姿のナオを見ていたとき、ふと奥の部屋から空気を切るような音が聞こえてくる。
ドラゴンかな、ドッグかな?
「・・・よぉ、お、もうダコンになったのか」
「あーソウスケ」
何故かどこか大人しい表情のソウスケはナオに頷き返すと、ふとその場に何とも言えない雰囲気の沈黙が流れた。
「エンジェラは?」
「あぁ、もう傷は完治したよ」
良かった。
「あははソウスケ、これからハシオリトを脅してる黒幕のね、カンデナーデに行くから、一緒に行こ?」
「え、何でそんなに嬉しそうなんだよ、てか悪い、エンジェラ、まだ精神的に不安定だから、俺は残るわ」
精神的に、不安定?
「そっかぁ、何か体が火照って気分が良いの、私」
「酔ってんのかよ」
「違うよぉ、ふふ」
全身を映す鏡を見ながら笑みを溢しているナオを見ていたソウスケが、ふとこちらに顔を向けたとき、そのそわそわとした表情にエンジェラへの不安がまた少し増した。
「エンジェラ、ほんとに大丈夫?」
「あぁ、ちょっと戦いに疲れただけなんじゃないか?」
「そっか」
「んで、どうやって、そのカンデ何とかに行くんだ?」
「ドラゴンが先に行って、転送筒に座標を記憶させるって」
小さく頷いたソウスケは背中を向けようとしたが、すぐに何かを思い出したような顔色を見せてくる。
「ドッグは?」
「ナオの進化薬作ってる」
「・・・じゃ俺、戻るから、ドッグにそう言っといてくれ」
「うん」
「バイバーイ」
大きな地図を広げたロードはすぐさま地図のある場所に静かに指を差す。
「ここが今俺達が居るところ、そしてカンデナーデはここから約4000キロ離れたこの大陸にある」
「距離に関してはカイルの剣に乗ってけばいいとして、カンデナーデってでかいんだな、その大陸の半分がカンデナーデなのか」
「あぁ国土も軍事力も世界一だ」
しかしそんなロードの言葉にもテリーゴは表情を曇らせず、むしろ嬉しそうに余裕のある顔色を見せた。
「楽しみだなオイラ。新しい力を早く試したいよ」
この世界の魔法も覚えたし、クラスタシアが作ってくれた進化薬も使った、そしてあっちで必ず、ルーべムーンも使って見せる。
もう、僕の目の前で誰にも傷付けさせない。
昨日の夜、聞いてしまった。
倉庫の裏で話されていた、ケルバ大佐の話。
電話の相手は分からないけど、きっと、いや多分ヤバイ話だ。
あ、いたいた。
「ディーノ隊長、ちょっと昨日の夜大佐の変な話を聞いたんですけど」
「その前にお前、倉庫の鍵掛けてなかったぞ」
うわ・・・。
「すいません」
「んで?まぁお偉いさんの話なんざ、どうせろくなもんじゃねぇけど、どんな儲け話なんだ?」
「儲け話じゃないと思いますよ?何か、今、カンデナーデがハシオリトを使ってハラスティア大陸を壊滅させようとしてるみたいです」
すると素早く周りを見渡したディーノに腕を掴まれると、すぐにそのまま慌ただしく物陰へと連れ込まれた。
「お前それ、ヤバイだろ。その話今すぐ忘れろって」
「え、何でですか、しかもカンデナーデはハシオリトの弱みを握って脅してるんすよ、そんなの、おかしいっすよすぐに暴かないと」
「バカ、余計な真似すると国に消されるぞ。それにオレ達下っ端に何が出来んだよ」
そんなこと・・・いや、言い返す言葉がない。
「オレ達は所詮、革命の渦に呑まれるだけの一兵士だ」
・・・いや、それでも僕は、渦に呑まれるだけなんて嫌だ。
「分かったらさっさと訓練所に行け、今日は我が国の英雄が新世代の兵士を観覧する日だろ、余計なことに首突っ込んでないで訓練に徹し、それで万一英雄の目に留まれば出世の道も約束される」
出世か、まったくどいつもこいつも、父さんも、そればっかり。
「それにオレだって、もうすぐ25だしな、そろそろお堅く出世道を掴まないと、彼女に逃げられ兼ねないしなぁ」
出世道か・・・。
「あれ?いや隊長、もしかしたら、儲け話かも知れないですよ?」
「あ?」
「もし軍に潜む悪を浮き彫りにさせれば、それこそ確実に上の目に留まりますよ。訓練所じゃ競争率半端ないですけど、この情報は僕しか知らないですから、チャンスですよ」
眼に力を宿したものの、同時にディーノは苦笑いを見せ、まるで信用出来ないと言わんばかりの態度を示す。
「い、いやぁ・・・はは、リスク高すぎるだろ、はは」
先ずやることは、証拠を掴む、だな。
ケルバ大佐は国交部の人間だから、ターミナルからアクセスすれば国交部の情報は見れるはず。
図書室に入るとすぐに人気の無さが目に入り、そして同時に退屈そうに受付を構えるシオカと目が合う。
「あれ?コール、訓練は?」
「ちょっと早急に調べなきゃいけないことがあるんだけど、あそこ、開けて貰えないかな」
「うん、あ、はい分かりました」
カウンターの下から鍵を取って裏に回り、親しげな照れ笑いを見せながら出てきたシオカについて行き、そしてターミナルへの鍵を開けてから去っていくシオカを見届けてからディーノに顔を向ける。
「隊長、別に僕ひとりでも良かったんですけどね」
「な、いやぁ、ほら、人手はあった方が良いだろ?」
「結局は儲け話狙いってことですよね」
「それを言うなよ、コール君、大学からの仲じゃないかぁ」
まったく、調子のいい先輩だな。
「てかさ、そんな極秘の悪行、いくらターミナルでも閲覧出来ないだろ」
「とりあえずやってみますよ、国交部の幹部専用サーバーにハッキングすれば、きっと見られます」
「さすが元ハッケンだな、そういえば、そのハッキング研究部のサークル作った・・・クロ」
「クロマですか、確か懲役2年でしたっけ」
よし、このサーバーから国交部に入れば・・・。
「あぁ、お前だって、ほんとはヤバイんじゃね?」
「大丈夫ですよ、外国のサーバーを経由してるんで、ハッキング自体がばれてもこのターミナルからだとは分かりませんよ」
これだな、案外簡単に見れたな。
「やっぱすげぇなお前」
よし終わった・・・。
「・・・っと、じゃあこのメモリ、すぐに持って行きましょう」
「持ってく?どこに、てかこんなの、上に持ってったって潰されるだけだろ。こういうときはもっと人手を集めてだな」
「先輩、今第九訓練所に誰が来てるんでしたっけ?」
まったく、先輩はいつも気が抜けてるんだから。
「おいここじゃ隊長って、まぁいいか、誰って、第九機動隊の人間と、情報部の人間と、ああ、2年前の北半球戦争で活躍した、英雄ジオラ」
「そうですよ」
「まさかお前」
「軍に飼われてない英雄なら、きっとこの情報をちゃんと使ってくれますし」
するとディーノはすぐに何かを理解したかのようにふてぶてしい笑みを浮かべる。
「オレ達の行動力が、英雄の目に留まる」
まぁ、情報を手に入れたのは僕ですけど。
「何だよ、案外簡単に終わりそうだな、オレももっと活躍したかったぜ」
ターミナルの電源を落としたとき、ふとターミナル室に入ってきた人影が視界に映る。
何事も無かったように、怪しまれないように・・・。
「よう」
声を掛けてきたその人影に顔を向けようしたとき、すでにそこに居たヘイラーはディーノを殴り付けていたが、倒れ込んだディーノに目もくれずにすぐさまヘイラーは狂気に満ちた形相でこちらの胸ぐらに掴みかかった。
「面白そうなことしてんじゃねぇか」
まずいっ聞かれてたのか。
そして間髪入れずヘイラーはこちらの腹に向けて膝を突き上げる。
うぐっ・・・いってっ。
その瞬間、音を立て落ちたメモリはそのまま少しだけ滑り出し、そして虚しく手の届かない場所まで転がった。
あ、メモリ・・・。
ゆっくりと歩き出し、メモリを拾い上げたヘイラーは満足げな笑みを浮かべ、そしてまるで馬鹿にするような目付きで見下してきた。
「この出世へのチケットはオレが頂く、ご苦労さん」
く、くそ、出世とかどうでもいい、そのメモリは、僕のだ。
「どぉらっ」
「ぅあっ」
あぁっ・・・メモリっ。
「やべっ」
ディーノのタックルにヘイラーは勢いよく吹き飛ばされ、そして倒れ込んだヘイラーの腕を素早くディーノが取り上げる。
「おいお前メモリはっ」
「知るか」
あそこだっ。
滑り込むように飛び込んだ先に佇むメモリを掴んだと同時に、背後の方で何かがぶつかるような音が響く。
「返せオレのメモリっ」
ヘイラーの声と同時に後ろから襟が持ち上げられ、そして首を後ろに回したときにはすでにヘイラーの拳が目の前に迫っていた。
そして殴り飛ばされた直後、ヘイラーはすぐさまメモリを握った手を掴んで来る。
「返せよっ」
返せって何だよっ。
「これは僕のだ」
再びメモリがヘイラーの手に渡ってしまい、ヘイラーが扉の方へと走り出そうとしたとき、また再びヘイラーの前にディーノが立ちはだかり、そして取っ組み合った2人は椅子を投げ合い始めた。
「お前いくら何でも、手柄の横取りはおかしいだろっ」
そう言ったディーノに投げられた椅子がヘイラーの肩に当たったとき、すぐに目に留まったのは痛みに歪むヘイラーの表情でも、割れた窓ガラスでもなく、ガラスの砕けた窓を抜け視界から消えたメモリだった。
「あっ」
「くそっ」
誰よりも早く走り出しターミナル室を出ていったヘイラーを見たあとに、妙に落ち着いているこちらに顔を向けたディーノはすぐさま急かすような態度を見せてくる。
「おいっ」
「大丈夫です、考えがありますから」
クライマックスの始まりは名もなき新兵からですね。主人公として特別な点は、やっぱりハッキング技術ですかね。
ありがとうございました。




