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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
第一章

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そして魂は打ち放たれる2

「よぉ、ちょっと良いか?」

「どうかした?」

隣の椅子に腰掛けながら、ノブは更にその眼差しに若干の緊張感を宿らせた。

「まぁちょっと、お前に頼みがあんだよ」

「そうか、どんな?」

「アリサカの件なんだが、ネットに、あいつが今日の朝あるテロ組織を潰しにかかるって書いてあってさ、その、何つうかさ」

するとノブは何故か口ごもり始め、目を泳がせるその表情にも若干の戸惑いを見せていった。

「もしかしてアリサカに協力してって?」

「いやぁ」

「ちょっとノブ、アリサカ達だってテロリストなのよ?テロリストに協力だなんて」

「分かってるさ。けど何つうかさ、何でか気になるんだよなぁ。テロリストでも、何かあいつは違う気がしてさ」

悪を倒すための悪は、正義なのかな?

でも確かに出ていくときのアリサカは、正義とも悪とも違うような感じがしてた。

「それならノブが行けば良いじゃない、何も氷牙に頼まなくても」

「いやぁオレ、これからバイトだしよ、それにもしかしたら2つの勢力の間に挟まれることになるかも知れねぇからな。生半可な奴じゃ行けねぇと思うし」

確かに協力するって言っても素直に受け入れるかどうか分からないしな。

「それにあれだ、ただ遠くで様子を見るだけでも全然良いからよ」

「良いけど、場所は?」

「杉並区の和田堀公園の野球場。ネットに書かれてるからな、恐らくやじ馬も多いからすぐに分かると思うぜ?」

ノブが廊下に去っていくのを見ていたときに、ふと不安げにこちらの顔を伺うミサと目が合った。

「やじ馬に紛れて、あんまり目立たないようにしてよね?」

「あぁ。短い間でも仲間だったから、ノブは心配なのかな」

「そうね、その気持ちは分からなくもないけど」

ホテルの部屋に戻ろうと廊下へ向かう途中、ふと声をかけられると、そのテーブルにはテンジとミカナの姿があった。

「俺、あれからそれなりに修業して強くなったからさ、ちょっと相手してくれない?」

「悪いけど、これからテロ組織と戦うアリサカの様子を見に行くんだ」

するとテンジの表情が少し引き締まるが、それは恐怖で強張るというよりかは力強さを宿したような顔色だった。

「もしかしてそれ、和田堀公園ってとこ?」

「あぁ」

「そうかぁ、じゃあ俺も行って良いかな?」

「え?」

こちらよりも先に声を出したミカナにテンジが顔を向けると、ミカナの見せる驚きの表情にテンジはすぐに引き締まった表情を崩した。

「大丈夫だって、ヤバくなったらすぐ逃げるからさ。それより早く学校行った方が良いんじゃない?」

「ほんとだよ?無茶しないでよ?」

「分かってるよ」

やじ馬が居るなら、また人質とかにされないかな・・・。

いや、今回はお互いに相手がはっきりしてるしな、アリサカ達もテロ組織の人もやじ馬には気を回さないだろう。

「氷牙は鉱石使ったのか?」

「使ってないよ?」

「へぇ」

おもむろにポケットに手を入れたテンジに何となく目を向けると、テンジは妙にニヤついた表情でポケットから取り出したそれを見せてきた。

「新しく手に入れたい力のイメージもだいたい出来てきたから、貰うだけ貰っといたんだ」

「そうか」

テンジはシンジみたいに肉体強化系だからな、新しい力次第ではより個性的になれるかもな。

自分の部屋の壁にシールキーを貼り、出現させた扉を抜けた途端、何かの爆発音に紛れるパトカーのサイレンの音が、すぐに張り詰めるような緊張感を吹き抜けてくる風のように全身を駆け巡らせていった。

「何だこりゃ、めちゃくちゃじゃん」

野球場の塀とフェンスが無惨にも破壊されているのが目に入ると共に、やじ馬の中に止まる救急車がすぐにある疑問を掻き立てた。

アリサカ達が・・・いや、まさか。

「とりあえずアリサカ達を見つけよう」

「そうだな・・・なぁ、見つけたらどうすんの?」

「まずは様子見かな」

人混みを抜けていく途中にふと皆が向ける目線の先に向かうと、そこには苦しそうにもがきながら倒れ伏す、黒い体毛に全身を覆われた人型の何かが居た。

「氷牙、こいつ・・・」

その生物の腕には手から肩にかけて翼のようなものがあり、口元には黒光りする大きな嘴もあった。

「多分カラスが鉱石で巨大化したんだ」

ここにも、鉱石があるってことか。

それにしてもこの生物、まるで体のあちこちを痛がるようにもがいてるのに、全く外傷が見当たらない。

「氷牙あれ」

テンジが指を差した方に目を向けると同時に爆発が起こると、すぐにその爆発を見ている1人の男性とアリサカが確認出来た。

あの隣に居るのは、確かテンジの地元でカサオカとテロをしてた人だ。

どうやら正式に仲間に入ったみたいだけど、カサオカは・・・。

「こいつが、例の未確認生物か」

騒がしいやじ馬の中でふと耳に入った声がした方に目を向けると、そこには巨大なカラスを見下ろす制服警官と須藤が居た。

「はい、全長はざっと見ても2メートル半はあるかと。君達、下がりなさいっ写真も駄目だっ」

確かテロリストの戦いはネットに書かれてたって言ってた。

それなら須藤刑事達は最初からここに居たはず。

数人の制服警官がやじ馬を押さえ、巨大なカラスがやじ馬の円に囲まれていく中、再び爆発音が響き渡ると、巨大なカラスに携帯電話を向けているやじ馬の数人は爆発が起きた方へとレンズを向けていった。

「怪我人は?」

「何名かはすでに救急車に」

どうやらこの生物はアリサカ達とは関係なさそうだな。

アリサカ達に目を向けると、アリサカ達と対峙している1人の男性の近くには倒れている3人のテロリストと思われる人達が見えた。

どうやら残ったのはあいつだけみたいだけど。

そのテロリストは悠然と立ちアリサカ達を見据えているものの、アリサカ達は2人共が片膝を地面につき、そのテロリストに警戒心を向けるように距離を取っている。

2人掛かりでも劣勢なのか。

ノブ、本当はアリサカに加勢して欲しいって言いたかったんだよな。

「氷牙、アリサカ達劣勢みたいだけど、どうする?加勢する?」

「・・・加勢しよっか」

「よし行こう」

3人に近づき、アリサカがこちらに気づくとすぐにアリサカの隣に居る男性も、アリサカ達と対峙するテロリストも揃ってこちらに顔を向ける。

「お前・・・氷牙か、何で・・・」

片膝を地面に着くアリサカを見たとき、その表情こそ疲労感を感じさせるものだが、服の乱れはおろか外傷の見受けられないその様子にふと違和感を感じた。

「何だ、てめぇらの仲間か?」

狂気を宿した眼差しでアリサカを見つめながら、余裕が伺えるような笑みを浮かべたテロリストの男性はその場から動かず、依然として悠々とした佇まいで立ち尽くしている。

あいつも、アリサカみたいに何かを操って飛ばしたりする力なのか・・・。

その直後にうめき声のような叫び声が巨大なカラスの居る方から聞こえたので、反射的に振り返った瞬間、巨大なカラスを囲む数人のやじ馬が別のやじ馬の悲鳴と共に勢いよく吹き飛ばされていった。

何だ?

そして形の崩れたやじ馬の中から巨大なカラスが飛び出してきたが、その巨大なカラスには先程には無かった羽毛が刺々しく逆立った尻尾や鹿のような角があった。

すぐさま警官達が巨大なカラスに向けて拳銃を発砲するものの、肩を撃たれても全く怯まない巨大なカラスは、威嚇するような叫び声を上げながら須藤の下へと飛び出していった。

まずいっ・・・。

すると巨大なカラスの行く手を阻むように、突如炎を細く束ねた矢のようなものが巨大なカラスの肩を掠める。

巨大なカラスが足を止め、見据えるように目線を向けたその先には、須藤達を庇うように立つ1人の男性の姿があった。

やじ馬の中に、能力者が居たのか・・・。

それにしてもあの生物、何でいきなり立ち上がったんだ?

しかも姿も少し変わってるし。

・・・まさか。

男性が突き出した両手から連続的に細く束ねられた炎を飛ばしていくと、すべての炎の直撃を受けた巨大なカラスはまるで恐れをなしたように後ずさりし、辺りを見渡し始める。

すると直後に巨大なカラスはこちらの方に向かって走り出してきた。

「うわ来たっ」


絶氷牙、氷結!


「クォエェェ」

しかし巨大なカラスはすぐ横を通り過ぎると、そのままテロリストの方へと向かっていった。

あれ・・・。

「はぁっ」

掌に拳を当てながら、両手を胸元まで上げた状態のテロリストの発した気合いのこもった声の直後、巨大なカラスは一瞬だけ声を小さく漏らしながら、まるで糸が切れた人形のように力無くテロリストの目の前に倒れ伏した。

何だ?一体、どうやってカラスを・・・。

「どう、なったんだ?」

静かに口を開いたテンジに顔を向けたテロリストは、手を下ろしながら堪えるような笑い声を漏らした。

「・・・オレはな、オレのキルゾーンに入った奴の骨を一瞬で折れるんだよ」

骨を一瞬で?・・・。

するとテロリストはおもむろに両手を上げ、再び胸元で左手の掌に右手の拳を押し当てた。

「ああぁっ」

その直後、突如テンジは痛みに顔を歪ませながら地面に手と膝を着くと、まるで片足を庇うように地面に片膝を着きながらテロリストを見上げた。

「まぁ、この距離じゃ捻挫くらいにしかならないが、少しでもオレに近づいてみろ。こいつみてぇに一瞬で首の骨を折ってやるよ」

なるほど、このカラスは首の骨を折られたのか。

でも、それならただ近づかなきゃいいだけだな。

「絶氷弾」

掌の前に出した紋章から氷の弾を発射するが、氷の弾はテロリストの目の前で破裂し、しかも爆風も何かに押しやられるように歪みながら消えていった。

な・・・。

「てめぇも遠距離系か、だがな、そんなもんはオレには届かない」

まさか、こいつも鉱石で別の力でも手に入れてるのか?

「何で?相手の骨を遠距離から折る力のはずじゃ・・・」

「はっはっは、良いねぇその戸惑い。だがオレは相手の骨を折る力だとは言ってない。オレの力はな、念動力だ」

念動力・・・。

「オレのキルゾーンに入ったすべてのものを一瞬で捩じ伏せる」

遠距離でも近距離でも攻撃が通じない相手、か。

だけど、今みたいに掌に拳を当ててる状態じゃないと力は使えないみたいだ。

「さぁ、てめぇもこいつらみてぇにひざまづかせてやるよ」

テロリストが力むように眉間にシワを寄せるが、沈黙が流れるとテロリストはすぐさまその違和感に気づくように表情を歪ませた。

チャンスか。

とっさにブースターを噴き出し、テロリストの懐に突っ込む。

「はぁっ・・・がっ」

腹に拳を突き付けられたテロリストは痛みに身を屈ませながら、こちらを睨みつけるように見上げた。

「何故だ・・・」

「簡単な話、あんたの念動力じゃ僕の鎧は壊せなかった」

「くそ・・・」

テロリストの脳天に拳を叩きつけるとテロリストはその場に勢いよく倒れ込み、まるで気を失ったかのように動かなくなった。

「テンジ、歩ける?」

「いやぁ、まだちょっと無理だよ。ていうか不意打ちなんて酷いよ」

鎧を解いてアリサカに顔を向けたとき、ふと遠くからこちらの方に携帯電話を向けるやじ馬が見えた。

「アリサカ達も、マナミのとこ行く?」

「いや、こいつの知り合いにも医療班のような奴が居るから」

「そうか、それよりカサオカは?」

するとアリサカはゆっくりと救急車を囲むやじ馬の方へと目を向ける。

「あいつはもう病院にでも連れて行かれたかな、あいつ、やじ馬を庇ってこのバケモノにやられたんだ」

カサオカも、結局は人助けのために動いてるんだな・・・。

「立てるか?」

「何とか」

男性と共にアリサカが立ち上がっているとき、こちらの方に歩み寄ってくる須藤達がふと視界に入った。

「アリサカソウマ、だな?インターネットの書き込みからIDを調べさせて貰った」

そしてアリサカ達を前に須藤は冷静且つ堂々とした佇まいで口を開いた。

「あ?」

「建造物損壊、自分達のやったことぐらい理解出来てるだろ?もっとも、テロリストとして活動してる時点で大罪だがな」

「だから何だ?」

「お前達を拘束する」

すると冷静沈着で突き刺すような眼差しの須藤に、アリサカは馬鹿にするような反抗的な笑みを見せた。

そういえばテンジは何をしに来たんでしょう。笑

ありがとうございました。

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