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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
第九章

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正義

何だよ今の、一体何をしたんだ、バクトは。

それより今あいつ、さらっとハクラ隊長を呼び捨てにしたよな?

「何してんのは、こっちのセリフ。あなた、今何をしたの?」

「立昇」

いや、そんな訳ないだろ。

あれ、でも確かにバクトの体、ちゃんと光を淡く纏ってる。

「立昇を使うとき、今みたいな軽い天変地異みたいなことは、誰がやっても絶対に起こらない」

隊長・・・天変地異って。

「そう言われても、聞いた通りにやっただけだよ」

その時にマキアのサモンが地面を踏み締め、バクトに向かって走り出していったが、バクトがゆっくりと後ろに振り返った直後、すでにバクトは拳を前に突き出していて、マキアのサモンの上半身はまるで硝子のように砕かれて宙を舞っていた。

「あがぁっ」

下半身だけのマキアのサモンが地面に転がると同時に、離れた場所に立っていたマキアはまるで胸元を殴られたように吹き飛び、倒れ込んだ。

・・・な、今、バクトの、動きが、まったく見えなかった。

「マキアぁっくそてめぇっ」

バクトにそう叫びかけた獣を纏う男性は瞬時に振り上げた右手に大きな火の玉を作り出し、バクトに向けて投げつけるが、直撃したように見えた火の玉はまるで突風に吹かれるように呆気なくその形を崩した。

「おいっ」

火の玉の爆風を難無く駆け抜けていくバクトに向かってすぐさま獣を纏う男性は走っていくが、そこにハクラ隊長が男性の行く手を阻み、気が付くとバクトはすでにハシオリト軍の戦車の上に立っていた。

何だあいつ、ひょろっとしてる割にはロードよりも戦い慣れしてるじゃないか。



ふぅ、何とかここまで来たけど。

戦車の後ろに、戦車から距離を取るように停めてあるコンテナを見ていたとき、ふと頭の中が膨張するような感覚が治まっていくのを感じた。

あれ、コンテナの後ろにももう1台戦車がある。

それにしてもあのコンテナ、一体何があるのかな?

そんな時、ふとコンテナの後ろに停めてある戦車の搭乗口が開き、そこから1人の人間が姿を現した。



「まぁいいか、あいつが出りゃ、お前の仲間も一瞬であの世行きだ」

「どういう意味」

すると距離を取り構えを解いたその軍人は、まるで勝機を感じるかのような笑みを見せながら、強気に睨みつけてきた。

「敢えて言うことじゃないが、オレもマキアも、ブレシングを完全に扱えない失敗作だ」

・・・失敗作?

「もっと言えば、オレ達ジャスティスは隊長も含め、全員がブレシングを完全には扱えない」

「・・・ジャスティス?」

「特攻部隊ジャスティスは、ブレシングを主力として戦う為に結成された部隊。まぁ当初はな。けど今は隊長によって集められた傭兵や腕利きの人間達の隊になって、ブレシングは最後の切り札に使う程度になっちまった」

話の中、ふとその軍人はサクラバリスタの仲間が居る方に気をかけるような素振りを見せる。

「だけどあいつだけは違う。あいつは唯一、ブレシングに体が完全に適応してる」

その直後に戦車に立つサクラバリスタの仲間が三ツ又の光の矢に吹き飛ばされると、そのままこちらの横を通り過ぎて激しく地面を転がっていった。

トライデントか・・・見た限り従来のものよりも少し太さが増してるように見えるけど、ミキのよりかは断然小さい。

「バクトさんっ」



そんな、バクトさんまで、僕はまた仲間の力になれずに・・・。

「バクトさんっ」

「うー」

ただキレイに仰向けになっているバクトの鎧は全体にかけて今にも崩れ落ちそうなほど細かい亀裂だらけで、その表情もまるで魂が抜けたかのようなぴくりともしないものだった。

「バクトさん、バクトさん」

僕も戦わなきゃ、仲間のために。

「カイル」

「あ、ロード」

歩み寄ってくるロードの表情には疲労が伺えるものの、その足取りは力強く、そしてロードはふと真剣な眼差しを見せながらバクトの傍で静かに片膝を落とした。

「カイル、バクトをテリーゴのとこに連れてってやってくれ」

「うん・・・でもロード、僕も戦いたい。僕だけ何もせずにじっとしてるなんて出来ない」

「ルーべムーンはあるか?」

頷いて見せると、立ち上がったロードはすぐに何かに目を留めるようにその方を真っ直ぐ睨みつける。

ロードに続いてその方に顔を向けると、大砲の付いた大きな乗り物の方からまた1人革製の服を着た男性が姿を現し、そしてその男性は威圧感の無い足取りで透明な生物を纏う男性の隣に歩み寄った。



今まで戦っていた相手の力は不完全?

第三状態の私と互角に戦っていた相手の力は、不完全だと?

そしてそこに居る、鎧形状でもない革服を着た人間こそが、ブレシングを完全に扱う人間だと?

ハシオリトは今まで、陰でそんなにも力を蓄えていたなんて。

「その人は、ジャスティスではないの?」

「まあな、こいつは」

「俺に群れなど必要ない」

言葉を遮られても、その軍人はむしろその人間の態度に余裕を感じるような表情をこちらに見せつけてくる。

「・・・だとよ」

するとその人間は何やら拳をゆっくりとこちらに突き出して見せた。

「俺が正義だ」

・・・正義・・・ジャスティスじゃないのに正義か、ややこしいな。

「俺の正義で、貴様を叩き潰す。下がってろ、ここは俺1人で十分だ」

「んーまぁ、いいか」

仕方ない、ここではまだ使う予定はなかったけど。

右手の包帯を外し、そしてその手を胸元に乗せる。

「氷牙、氷結」



「うえっ」

うあっバクトさん起きたっ。

「ば、バクト、体は大丈夫なのか?」

素早くロードに向かって振り返ったバクトの顔から、音を立てて崩れ落ちた何かの欠片にふと目が留まるが、立ち上がったバクトの体全体からもその何かの欠片が大量に崩れ落ちる。

「バクトさん、鎧が、全部粉々になって落っこちちゃってるよ」

「え、ああほんとだ。でも今はそれどころじゃない」

そう言って足早にハクラ隊長に近づくバクトを見ていたとき、ふとバクトが歩み寄ったハクラ隊長の姿が先程とは違うものに変化を遂げていたのに気が付いた。

え、ハクラ隊長さんが・・・。

するとバクトはすぐさま、翼のような形をしたものと尻尾を携えた鉱石製の青白い鎧に全身を包むハクラ隊長の腕を掴む。



何故、どうして?

「ハクラ、どうして氷牙の力を持ってるの?」

しかし狼の顔のような鎧に包まれたハクラの顔色は伺えず、ただハクラはまるで考え込むように目線を落としただけだった。



何故、この人は氷牙の力を知っている?

「答えてよっ」

威圧感が凄い、だけど殺気は感じない。

ただ必死さが伝わるだけ。

「分けて、貰った」



分けて貰った?

分けて貰うということは、分け与える人が存在するということ。

そして分け与えることが出来るということは、氷牙の力を持っているということ。

僕以外に、氷牙の力を持っている人は、ルーニーだけ。

「ハクラ、ルーニーを知ってるの?」



・・・何故、この人はあの方のことを知っている?

「おい、お取り込み中悪いが」

「うるさい。答えてよ、ルーニーを知ってるんでしょ?」

「知ってる」

「うるさいじゃねぇよ、何だお前いきなり」

獣を纏う軍人が責め立てるが、バクトと呼ばれたサクラバリスタの仲間は鋭い形相でその軍人を睨みつける。

「うるさいな、ぼ」

「うるさくないっ」

革服の人間がバクトの言葉を遮ると、すぐにその人間はバクトにも拳を突き出して見せた。

「貴様の都合など知るか、俺は俺の正義でこいつらを叩き潰すためにここに居る。邪魔をするなら、貴様も叩き潰す」

「僕だって君達の都合なんか知らない、僕はこの人から絶対に聞き出さなきゃいけないことがあるんだ。ていうか、正義の意味分かってんの?」

「そんなことはどうでもいい。俺の正義が世界の正義だ。そして俺は正義だ。悪を叩き潰すためにここに居る」

何を言ってるんだ、この人間は。

正義という言葉の意味なんて、どうでもいいだなんて。

「どうでもいいってなんだよ。ていうか、僕は悪じゃない、ただ仲間の手助けをしてるだけだし」

「悪は貴様じゃない、その女だ。今は女じゃないが、それはともかく、その女は俺達の邪魔をしてる。だから悪だ。そして貴様も、その女を手助けするということは俺達の邪魔をするということ。だから貴様も悪だ」



「それは君が自分中心に考えてるだけでしょ」

なんか、あんなに感情的になってるバクトさん初めてだな。

「第一、君達は何をしようとしてる訳?」

「だから、俺は、俺の正義で貴様らを叩き潰すためにここに居る」

「そうじゃなくてっそれじゃ堂々巡りじゃん。何?君はバカなのか」

「俺はバカではない、正義だ」

何だか、話が進んでないような。



何だこの会話。

「じゃあそっちの人、説明してよ。何しようとしてるの?」

「あぁ?何でいちいち律儀に説明しなきゃいけねぇんだよ。いいから、黙って消されろよ」

そう言うとその軍人は勢いよく地面を蹴って走り出し、バクトに向かっていったが、バクトはこちらの腕を掴んだまま片手で透明な獣の両手を受け止めると、そのまま獣もろともその軍人を軽々と投げ飛ばした。

地面を転がったその軍人はすぐに立て直すものの、すでにバクトは掌から闇の如く黒く染まった冷気の感じる弾を撃ち放っていて、黒い弾が透明な獣に当たると、その軍人もまるでダメージを受けたかのように黒い爆風と共に軽く吹き飛んだ。

「貴様ぁっ」

その人間が激昂して走り出すとバクトはこちらの腕を掴む手を放したが、殴りかかるその人間の動きを的確に捌きながらふと一瞬だけこちらと目を合わせる。

「何でルーニーを知ってるの?」

その質問は、私がしたいくらいだ。

どうしてこの人は、あの方を知ってるのか。

この人は、あの方の敵か、それとも、味方か。

その人間を蹴り飛ばすとまたすぐにバクトは必死さに満ちた眼差しをこちらに向けてくる。

「私は、あの方と契約を結んだから」

「契約?」

「あの方の護衛をする代わりに、力を分けて貰う」



ルーニーの、護衛?

「うおぉぉ」

雄叫びを上げた革服の人間の背中全体から、赤い光が陽炎のように立ち込め始めると同時に、その人はこちらに向けて素早く三ツ又の光の矢を放った。

うぐっさっきよりも、衝撃が。

吹き飛び、地面を転がった体を起こそうと手を突き立てたとき、ふと自分の手が鎧に纏われていないことに気が付いた。

天魔の鎧が、無い。

そういえばさっきカイルが鎧が落ちたって言ってたな。

「バクトさん大丈夫?」

「あぁ・・・」

あれ、あんなに衝撃を受けたのに、血も出てない・・・。

後ろを振り返り、極点氷牙の鎧の上に鷲などが持つような翼、そして胴体に毛皮のようなものを生やした姿のハクラを改めて見てみる。

ん、よく見ると手足には氷牙には無い大きな爪があるのか。

ルーニーは、氷王牙と聖帝の力を合わせてた。

ならハクラも、極点氷牙に別の何かを合わせてるのか。

空気を震わすような衝撃音を鳴らすほどのパンチを繰り出す革服の人に、何度も果敢に立ち向かうハクラを見ながら2人に近づく。



ゆっくりと近づいてきたにも拘わらず、的確に隙を突かれて容易く吹き飛ばされたその人間を見ていたとき、再びバクトは詰め寄るようにこちらを睨みつけてくる。

「ルーニーは今どこ?」

今、バクトの動きが見えなかった。

速陣か?

いや速陣を使うなら一瞬ずつより、完全に相手を倒すまでやった方が良いに決まってる。

「それは、知らない。だけど、この戦いが終わったら、あの方の使いが迎えに来る」

「・・・使い・・・」

「あなたは何故、そんなにも必死なの?」

バクトが考え込むように目線を落とした瞬間、突如視界の隅が熱を感じるほど強く光る。

そして考える間もなく体は激しく吹き飛ばされるが、起き上がりながら見た消えゆく大きな爆風のその先には、まるで衝撃を受けていないかのように立っているバクトが居た。

「邪魔しないでよ」

「邪魔をしているのは貴様らの方だ」

「だからハクラは君達の何を邪魔してる訳?」

「その女はジャスティスの邪魔をしている。だから俺は正義として、その女を叩き潰す」

「またそれか、やっぱり君はバカなんじゃないの?」

「俺はバカではない、正義だ」

やっぱり話が、進まない、ここは質問を変えないと。

「・・・もしかして、正義って君の名前?」

そう聞くとその人間はこちらを見ながら小さく頷いた。

「そうだ」

そうだったのか。

「・・・そうなんだ。ていうか」

「随分と喋る奴だな。戦いの時は私語を慎め」

正義はバカですが、純粋な奴なんです。笑

ありがとうございました。

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