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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
第九章

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ルック・イン・ザ・コンフュージョン

周りの塀が崩れ去ろうと、木々が薙ぎ倒されようと、気にする暇もなくただその中年男性が放つしなる赤い光の斬撃を捌き、そして中年男性に向けて大きなプラズマの剣を振り出していく。

しかし身長ほどの赤い大剣を片手で振り回す中年男性は、大きなプラズマの剣をたやすく受け止めると、同時に素早く掌の前に自身の上半身を隠すほど大きな火の玉を作り出す。

動きに無駄がない、しかもその上、今の私にすら互角に渡り合って・・・。

あ、そうだ、ナオに教えて貰った、リッショウ。

全身にほとばしられたプラズマを周囲に放ち、大きな火の玉もろとも中年男性を遠退かせたうちに、体を纏わせるプラズマの流れを背中に集中させる。

すると弾け消えた火の玉には目もくれずにこちらを見据える中年男性は、赤い大剣を軽く振り払いながらどこか興味を湧かせるような声を上げた。

「それは、第二気、か」

第二?って・・・。

「ううん、第一だよ」

「いや、それは第二気だ。だがまぁ、第二気などでは私達を止めることなど出来ないがな」

第二・・・そう、か、個性が付いたのかな。

「中途半端な力では勝てないということを、圧倒的な力で解らせてやろう。これが私達、ハシオリトが誇る特攻部隊ジャスティスの戦闘力向上術、ブレシングだ」

ん・・・何だ?

前触れもなく中年男性の着る革の鎧が赤い光に染まった直後、赤い大剣は瞬時に光と化し、そしてその赤い光はマントのようなものとなり男性の両肩に纏った。



「てかお前、何で俺を相手にしようと思ったんだよ・・・」

振り下ろした拳は空を切り、代わりに打ちつけられた地面は勢いよく土埃を吐き出す。

「元々ハオンジュ達の所に居たのに」

「ハオンジュっつうのか、あいつ」

そう応えたガンホールドと呼ばれた男は赤いレイピアを振り、凄まじく地面を舞い上がらせる衝撃波を放つ。

「その前に隊長とヒスイが先にやり合い出したしな・・・」

衝撃波をやり過ごすがすでにガンホールドは走り出していて、赤いレイピアの先端に人間の上半身を覆うほどの大きな火の玉を作り出しながら、そのまま赤いレイピアを真っ直ぐ突き出した。

空色のバリアで火の玉を受け止め、同時に掌から放つ空色の光線で火の玉を爆風ごと押し出すが、爆風が消えるとそこにはすでにガンホールドの姿はなかった。

「それにオイは、女を殺す趣味なんてねぇからな」

・・・オイ?どこの田舎もんだよ。

そんな時に楽しそうに戦っていたガンホールドがふと見せた、どことなく思い詰めたような表情に目が留まる。

「おめぇ、何でここで戦ってんだぁ?軍人っつう訳でもねんだろ?」

「俺は、ただ仲間の敵を取りに来ただけだ」

しかしガンホールドはどこか納得しきれていないような相槌を返す。

「だがあんたらからも、俺の見てる世界くらいは守らせて貰う」

「守るか。けんど、こっちも負けられねんだ。オイらが負けたら、この大陸が、世界がめちゃくちゃになる」

何だそれ・・・。

まったく、戦争をする奴らの考えることなんてまるで理解出来ねぇ。

「おめぇらは軍人じゃねぇみてぇだからな、邪魔するとしても殺さないで置いてやるか」

あ?くそ、ナメた言い方しやがって、今だって全然互角じゃねぇか。

「ま、他の奴はどうか分かんねぇけどな」

その直後、ガンホールドの革鎧全体が淡く光るような赤色に染まると共に、瞬時に泡の如く赤い光と消えたレイピアはガンホールドの兜と、右肩から生える片翼に姿を変えた。

何だよ・・・それ。

翼?だが何で片方だけなんだ・・・。

「何だよその翼」

その眼差しは何故か物悲しさを感じさせたが、その佇まいからはただ相手を屈服させることに尽きるかのような、純粋な殺気に満ちていた。

「これは翼じゃねぇ、これがオイらの、簡単に言やおめぇらの第三気みてぇなもん、ブレシングだ」

ブレシング・・・ブレス?俺達の世界の、英語で言えば、神の加護みてぇな意味もあるが。

「そうか・・・」

何となく、ヤバそうだ、あの目。

その時にガンホールドが素早くこちらに向けて左拳を突き出すと、その動きに体は無意識に身構え、意識もただその拳に向けさせられた。

「トライデントっ」



爆音の直後、晴れない視界の前方から何かが飛んできたと思った瞬間、それは勢いよく肩にぶつかり、気が付くと背中は激しく地面を擦っていた。

うおっと・・・えっ。

地面に横たわった体を少し起こしながら同じく目の前に滑り込んできたそれは、こちらとまったく同じ動きで起き上がろうとしていた、マキアと呼ばれた女性だった。

うわっ・・・。

そのまま素早く女性が目を向けた方を見ると、2人のちょうど間の距離で、かろうじて手が届くその場所には、マキアが持っていた一繋ぎの双短剣が落ちていた。

何となくとっさにマントに意識を向け、突発的に飛びながら双短剣を拾い上げる。

えっと、何で取っちゃったんだろ。

「ちょっとっ」

すぐに声を上げたマキアに素早く体を向けるが、立ち上がったマキアもただ戸惑うような表情を浮かべながら、こちらに手を差し出していた。

「返しなさい」

えっと、どうしたら。

「ほら早く」

まいっか。

双短剣を投げ上げるとマキアはそれを受け取るが、ふとマキアの後方から走り込んでくるロードに気が逸れる。

「おらぁっ」

つかみ掛かったロードの左手を華麗にターンしてかわしたマキアは、その一瞬で素早くロードの腹に一撃を叩き込む。

しかしロードは吹き飛ぶどころか、痛むような素振りも見せずにただマキアと向かい合った。

「バクト、下がってろ、体調悪いんだろ?」

そう声を掛けてきたロードの口角は何故か大きく上がっていたが、その笑顔の中にあるその眼差しはその一瞬でも恐怖を感じるほど狂気に満ちていた。

え?・・・。

「今は大丈夫だけど、ロード、何か・・・」

「言いたいことは分かる。どうやら俺は、戦いになると人格が変わるらしい」

え・・・。

「そうなん」

すでにロードは走り出していて、尾を引く2色の光を纏わせた5本の指でマキアの目の前の空を引っ掻いていた。

「おらおらぁっ避けてばっかりか?あぁ?」

えー・・・。

ハクラとロードがそれぞれ敵と戦っている間にカイルの下に向かうと、テリーゴの血は止まっていたものの、腹部分の漆黒の鎧は激しく砕かれていた。

「いくらオイラでも立昇じゃあいつらには敵わないんだな」

そう言うとテリーゴは静かに立ち上がり始める。

「テリーゴ・・・」

「もう大丈夫さ、まだちょっと痛いけどな。こうなったら、今ここで立昇を極めてやる」

今ここで?強引なんだな、テリーゴは。

「ふぅ・・・」

瞑想を始めたテリーゴに背中を向け、何となく気になる、敵軍の戦車の向こうへと目を向けてみる。

気が付くと足は戦車へと向かっていて、そんな時にハクラと戦っていた男性とふと目が合う。

するとすぐにその男性はハクラと距離を取り、ハクラとこちらの2人を見据えられる場所に立ちながらこちらに向けて、上半身を覆い隠すほどの大きな火の玉を放った。

ん?何かおかしいな。

頭痛は無い、だけど目眩のときと同じ感覚。

あの太陽みたいに鮮やかな火の玉、わざと?いや、まさか・・・。

歩いて火の玉を避けると男性は目の色を変え、赤い刀を握り直しながらこちらに向かって走り出してきたので、男性が赤い刀を振り上げたのと同じタイミングで男性の胸元に拳を叩き込む。

しかし上体を反らせることもしない男性からすかさず脇に蹴りの反撃を食らうと、まるで津波に呑まれるかのような衝撃が体中を駆け巡り、体を起こす頃には男性はすでにハクラとの戦いを再開させていた。

ふぅ、やられたか・・・あれ?



すごい、ロードも、ハクラ隊長さんも、テリーゴが敵わなかった相手にまったく引けを取らない。

それにテリーゴも、あんなにやられたのに諦めないで、まだ挑もうとしてる。

それなのに僕は、何も出来ずに、ただ見てるだけなんて。

こんなんじゃ、クラスタシアを守れない。

それにアルマーナ大尉にも、ホルス大尉にも顔向け出来ない。

僕もやらなきゃ。



何かがおかしい。

こんなにも吹き飛ばされたのに、鎧もヒビだらけなのに。

何だろう、痛みも無いし、まるで自分の体じゃないみたいだ。

何かまだイケそうかも。

それにしてもあの戦車の裏、何が隠されてるんだろう。



こんなにも戦いを楽しんでいるような戦い方は初めて見た。

しかし右手に纏う青白い光の手刀で、無駄のない動きで振り出される赤い刀を捌く度、過ぎる時間は小さな苛立ちとなって胸の底に溜まっていく。

ミキは大丈夫だろうか、それにハシオリトに踏み込んだ第百も。

「ジャベリン」

足から放った槍魔法を引きずられながらも赤い刀で受け流したその直後、ふと満足げな表情で小さくため息を吐いたハシオリトの軍人との間に沈黙が流れる。

「なぜ本気を出さない」

すると目を丸くしたその軍人は、すぐにまるで我に返ったように半分だけ後ろを振り返り、遠くの戦車を気にするような素振りを見せた。

「やべ、そろそろ片付けないとな。マキアぁっ」

遠くの軍人と目を合わせ、小さく頷いたその軍人の鎧が突如うっすらと光るように赤く染まると、続けて空気に溶けるように消えた赤い刀はその軍人に背後に取り憑くように浮く、上半身だけの透明な赤い獣となった。

気迫が研ぎ澄まされていく、まるで第三気を使ったときのように。

これが、ハシオリト軍の戦闘力を向上させる魔法、か。

あの軍人は今まで、第三気状態の私と普通に戦っていた。

その軍人が更に、第三気のような魔法で戦闘力を上げた。

私も、本気を出さないと危ないか・・・。

「さてと、悪く思うなよ?こんなに退屈しない戦いは久しぶりだったから忘れてたが、本当はお前らとやり合ってる時間はないんだ。すぐに終わらせてやる」

「第三掌、バリスタ・オブ・アークエンジェル」

赤い獣の鋭い爪を携えた大きな両手と、大砲の如く破壊力を持つ光の矢とが激しく気迫をぶつけ、削り合っていく中、その軍人は腕を組んでただ悠然と立ち構えている。

第三は、その人間の気を元にして使う第二までの魔法に呪文魔法を取り込んで作られた、最先端にして最強の魔法。

その第三の弓魔法を・・・。

弾け消える光の矢の中を駆け抜けたその軍人の、背後から振り出された赤い獣の爪を右手の青白い光で受け止めるが、同時にその軍人はこちらに向けて火の玉を放つ。



何だ、あの姿は・・・。

あれが、ハクラ隊長が敵視していた、ハシオリトの魔法・・・。

今までに見たことのない形、ただの気の魔法でも無いし、かと言ってサモンって訳でもないようだが。

自身を襲った凄まじい爆風でさえも駆け抜け、透明な獣を纏う男性に果敢に立ち向かうハクラ隊長の、右手にだけ纏う青白い光にふと目が留まる。

それにハクラ隊長も、見ない間に何やら新しい魔法を作ったようだ。

テリーゴもカイルも、さすがにハシオリトの軍人には敵わないらしい、だが、カイル達の仲間の、あの翼を生やした方、いくらこの大陸出身だからって、第三が使えるなんて。

「なぁカイル、あいつの名前は?」

「ロードだよ」

「いやフルネームで」

「えっと、確かロード・ブランセットだったかな」

ブランセット?あの鉱山を丸ごと一つ所有する建設会社と同じ名前だが。

だとしても、いや尚更、何故大企業の息子が第三なんかを・・・。

だがそのロードでも、先程まではマキアって奴と対等にやり合っていたが。

マキアが赤い双短剣を自身と同じ体格の赤い鎧像に変化させてから、ロードは目に見えるほど力に差をつけられていく。

サモンは、要は自分の闘志を具現化させた器に自分の意識を移す魔法。

だからサモンを作ると自ずと自分の体は意識の無い抜け殻となる。

なのにあのマキアって奴は、自分で作ったサモンと一緒に戦っている。

「どうしようロザー、ロードが押されてく」

「あぁ」

俺にだって、どうしようも出来ない。

ん?・・・。

ロードとマキアの方にゆっくりと歩いていく、2枚の細長いマントを着けた方のカイル達の仲間にふと目を向けると、疲労が伺える姿勢のロードを見下すように見据えているマキアも、すぐにその人間に視線を移していく。

ロード・ブランセット(24)

カイルの仲間。スクファの中では一番有名と言える建設会社、ブランセット建設の現社長の次男。学生時代は我流で戦闘用の魔法を学び、地元に蔓延る不良達と対立している中で何度も警捜沙汰になる。それが原因で父親とは勘当同然の関係で、たまに連絡を取るのは姉だけ。戦いになると頭に血が上る性格を自覚したのは、クラスタシアに言われてから。


ありがとうございました。

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