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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
第九章

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イン・オーダー・トゥ・プロテクト・ハー2

空に溶けていく轟音と共に視界が晴れると、ソウスケと軍人達は皆崩れた塀の向こうに避難していたが、代わりにその場には真っ直ぐと立ち構える1体のドラゴンの姿があった。

4メートルを超える高さ、トカゲのような骨格をあわせ持った全身には鱗、そして昆虫類が持つような折りたためない、まるで放射状に発生した電気がそのまま固まったような形状の4枚の翼。

本当に、ドラゴン。

サモンのような魔法の類か、それとも遺伝子操作か、この際どちらでも良いけど。

包帯で包んだ右手を握り締めながら、ミキの姿、そして想いを馳せる革命家の姿を思い浮かべる。

「ハク」

ミキ、目が醒めた?

「大丈夫、作戦通り」

作戦?

ふとこちらを見下ろすドラゴンが目線を上げ、まるで何かに目を留めたような動きを見せた直後、遠くの背後から眩しい光を感じると同時に、ドラゴンは何やら反射的に身構えるように顔を背け腕を交差させる。

そして3本の光の槍がドラゴンを激しく押し飛ばした直後、ミキは素早くこちらの腕を掴んだ。

「さっきのは、バリスタ魔法増幅装置?」

「うん。あの女がドラゴンになったときに使おうと、あらかじめこの地帯に置いといたんだ」

地下の古い武器庫に入ったとき、ミキは緊張の糸が切れたかのように近くの木箱に座り込んだ。

「ミキ」

「大丈夫、ちょっと休めば。それより、アストラの方は?」

「第百がハシオリトに向かった。もしかしたら、第百の人間なら、使える奴が居るかも知れない」

「そっか。大分狂ったね、計画。まぁそっちはまだ平和的だから良いけど」

対要塞用に作られた、バリスタ魔法を増幅する大口径ビーム砲。

あれでドラゴンを殺せれば良いけど。

殺せないなら、私がやるしかない。

「ハク、また独りでやろうとしてる」

そう言って顔を上げたミキを見つめると、その表情はふと頭の隅にあの時の笑顔を思い出させた。

「あたしだって戦える。ねぇ、一緒にやろうよ」

「うん。実はこの前、ある人に会ったんだ。それでその人と、契約を結んだんだ」

「どんな?」

握り締める右手をゆっくりと胸元まで上げて見せると、ミキは右手を見つめながら小さく首を傾げる。

「怪我じゃなかったの?それ」

「うん。私には、第三気を超える力がある。ミキを、ミキの居る世界を守るために望んだ力」

「第三を超えるって、そもそも第三なんて出来るの世界で数えるほどしか居ないのに。でも契約って、何かいい響きじゃないよね。代わりにハクは何かするんでしょ?その人に」

ミキのその陰りのない、自信の付いたような眼差しは、幼い頃に見た満たされることのない空虚さを少しだけ甦らせた。

そうだ、ミキはもう、戦える。

「ちょっと様子、見に行こう」

「うん」

錆びた分厚い扉を開け、砲撃音が響く空を見上げながら階段を上がる。

塀から見下ろしたそこは、瓦礫に隠れながら魔法で作った火の玉や閃光を飛ばす人、そんなサラン軍に余裕を見せつけるように、鉄製の弾除けや戦車に隠れながら魔法と実弾で対応するマーブルとが作り上げる、小さな戦場となっていた。

翼の人間が居ない。

撤退したならそれで良いんだけど・・・。

人間自体の戦力じゃサラン軍がマーブルを上回ってるだろう。

だけどマーブルには各国から買い付けた兵器があるから、ここはもうミキに任せても良さそうだ。

「・・・ミ」

「リーダーっ」

何・・・ミキの、部下達か・・・。

インビジブルを使ってここまで・・・。

「ハク、ここは任せて」

そう言って歩き出したミキの横顔は、今まで見た中で1番大人びているように見えた。

「来ると思ってた」

「リーダー、何してんすか。クーデターなんて、何の意味があるんすか」

「リーダー、私、信じてます。リーダーは本当はこんなことする人間なんかじゃないってこと。本当は何か裏があるんでしょ?」

ふと第百番隊の人間達を思い出す中、部下と対峙するミキの背中から感じたものは、どこか胸の底に芽吹く空虚さをまた少し浮き彫りにさせた。

「ごめんマナ、ケイ、あんた達を巻き込みたくなかった。クーデターを企てる反逆者と呼ばれるのは、あたしだけで良かったから」

「リーダー、やっぱり、クーデターはフェイクなんですね。でも、何でこんなことを・・・」

「来たのは2人だけ?違うでしょ?ガラ」

マナとケイが周りを見渡そうとすると、すぐにもう1人、ミキの部下がゆっくりと姿を現した。

「バレたか。さすがだなリーダー、はは」

誰もミキを疑わないし、失望もしないのか。

そうかミキはもう、独りじゃないんだな。

ミキには、仲間が居る。

「これからここに、ハシオリトの軍隊が来る。だけど情報をおおっぴらにした所でハシオリトのことは誰も疑わない。だからサランの軍隊をここに向かわせる必要があったの。だからとりあえず今は傷を癒すことに専念しな」

「ふふ、何かそんな優しい口調のリーダー、リーダーらしくないですね」

そう言ってマナが笑顔を見せると、ケイとガラも信頼を寄せるような笑みを浮かべ、そしてそんな3人を前にしたミキの横顔も、どこか嬉しそうだった。

「マナ、あんたは他の奴らを呼べ。ケイ、ガラ、どこですっ転んだか知らないけど血なんか流してる場合じゃないよ。これから敵と派手にやり合う、それまでは待機だ。いいなっ」

「はいっ」

ミキのことはミキの部下が守ってくれるから、ここはもう大丈夫だろう。

これで西と東、それぞれの守りは固められた。

だけど守りは所詮守り。

戦争を制するのは、いつだって攻撃力が高い方だ。

どんなに地形を利用した鉄壁の軍隊でも、攻める人間の魔力が高ければ壁なんて関係ない。

「ハク」

後ろを振り返るとミキが居たが、どこか恥ずかしそうに微笑んで見せるその表情は、先程見た勝ち気なリーダーからは決して想像出来ないものだった。

「初めて見られちゃったね、何か恥ずかしい」

「慕われてるんだね」

「ねぇ、ハシオリトを倒したら、どうするの?もう軍には戻れないでしょ?」

その笑顔を見ると、一緒に住んでたときのことを思い出す。

だけど私は、ただ契約って訳じゃなく、あの頃抱いた空虚さを埋める旅がしたいって思ったんだ。



どういう事なんだ?

まさか、本当にハクラ隊長はウラノスの眼を手にしたのか?

「リコッタ」

開けられた玄関の前に居たリコッタの表情は、今にも泣き出しそうなほど安堵感に満ちていた。

「昨日の夜ね、コンスタンが連れて来たの」

リコッタのお母さんと会釈し合うが、その表情はまるで腑に落ちない表情そのものだった。

「怪我は無いんですか」

「うんまぁ、ただ調査内容を聞かれただけよ。上がる?」

「いえ、すぐに戻らないといけないんで」

確かにハクラ隊長はあんなだけど、無関係な人を殺すような人じゃない、と思う。

「いやでも、それだけなら何で今になって帰したんですかね。他に何かハクラ隊長と話しましたか?」

「ウラノスの眼と同時期に存在したとされる、ディアベルの赤眼、かな」

ディアベルの赤眼?確か、故意に地震を発生させるようなものだったよな。

「他には」

「無いけど、でも結局ハクラさんはウラノスの眼を手にしてないのよ」

何だって?

「だけど代わりの力が手に入ったからって、私は帰されたけど」

代わりの力・・・。

古代兵器に匹敵する、代わりの兵器?

それならそれで、やっぱりすぐにでもハルトバニアに行かないと。

双弓隊の執務室に入るとデスクに寄りかかっていたタイガと真っ先に目が合い、こちらに気付いた皆もタイガ同様、戦いを前にした緊張感に引き締まっていた。

「お、来たか。どうだった?彼女の母親は」

「ただ情報を聞かれただけで、無傷だった。でも気になるのは、話をしただけなのに、どうして今日まで帰さなかったのか」

いつものことだけど、ハクラ隊長の思惑が全然掴めない・・・。

「良いじゃねぇか、無傷なら。何か帰したくない理由でもあったんだろ?それよりすぐにハルトバニアに向かうぞ、双弓隊はこの通り準備万端だ」

「・・・あぁ」

帰したくない理由?

リコッタのお母さんの誘拐が、他の何かに関係してるっていうのか?

「カイル達は?」

「もうすぐ来るはずだけど、外で待つか」

双弓隊と共に外に出たときに、ちょうどバイクの前で何やら立ち話をしているカイルとテリーゴと目が合うが、ふとカイルの若干疲労したような顔色が気にかかった。

「おおロザー」

「どうかしたのか?」

「ああいや、ちょっと入る前に立昇ってのを練習してたんだ」

「そうだったのか、それで、出来たのか?」

立昇は難しいものじゃないから、時間は掛からないと思うが。

「あぁ、カイルも出来るようになったよ」

「そうか。それならもっと戦いを有利に運ぶことが出来るな。これから、いよいよハクラ隊長の所に」

「ロザーっ」

コンスタン?

何だ?慌てて。

「情報部から緊急報告が下りた。ハクラ隊長は今、アストラに居る」

何だってっ?

「すぐに行ってくれっオレは引き続き報告を待つ。新しい報告が下りたらすぐに連絡するよ」

「あぁっ」

車じゃ小回りが利かないし、ここは俺だけでも先行しないと。

「皆悪い、俺は一足先にアストラに向かう」

「分かった。なるべく早く車で追い掛けはするが、気をつけろよ」

「分かってる」

アストラで紛争を起こしてるのはマーブルだ。

そしてハクラ隊長はマーブルと繋がってる。

ハクラ隊長、古代兵器の代わりとマーブルを使って、一体何をしようとしてるんですか。



「もしもし、状況は?」

「はい。ロザーと双弓隊、そして翼を持つ2人の人間はアストラに向かいました」

「了解」

さてと、仲間外れは可哀相だし、サクラバリスタにも真実を伝えるか。

サクラバリスタはバンデラほど有能ではないが、不器用ながらも、いつも私が背中を任せられるように支援に尽力していた。

RiTIPに双弓隊が加われば、さすがにアストラが落ちることはないだろうし、これで心置きなくハシオリトに向かえる。

ん、電話だ。

キンドウか。

「もしもし」

「大変ですハクラ隊長。ハシオリト首都から、軍隊が出撃しました」

何・・・マーブルの話じゃ、まだ軍隊は編成途中のはず。

まさかこちらの動きが勘づかれたのか?

「ディアベルの赤眼は」

「・・・森林地帯でも、同じく軍隊が動き出しました。軍隊は森林地帯から西に南下してます」

やっぱり、気付かれた。

仕方ない・・・。

「進路変更して」

ディアベルの赤眼で大地震を起こし、西と東を同時に叩くには西東を分ける中心道でやるのが一番だ。

もしハルトバニアを噴火させるつもりなら、更に南下してくるはずだし、どちらにしても中心道で待ってれば必ず迎え撃てる。

サクラバリスタは・・・RiTIPに任せればいいか。



「これで良いはずだ」

地面の隙間という隙間から溢れるように洩れるエネルギー体の中に手を伸ばし、見えなくなるほどに光に覆われたルーベムーンを取り出したロードは、特に嬉しそうな表情を浮かべることもなく、エネルギー体が溢れる地面に立ちながらルーベムーンを胸元に優しく押し当てた。

「翼解放」

・・・ん?

ロードから少し離れながら、天使が持つような白い光も、悪魔が持つような闇のような黒い光も纏わないロードに、ふと何となく小さな違和感を覚える。

「さてと、テリーゴが言ってたな、なりたい姿を想像すればいいと」

なりたい姿を想像、願うだけで良いなんて、まるで氷牙の世界のエネルゲイア鉱石みたいだな。

そしてロードが目を閉じて沈黙が流れるが、微かに吹き込む冷たい風を感じて過ごしても、手頃に出っ張った岩に寄り掛かるように膝を抱えてもなお、その沈黙は続いた。

まだかな・・・。

橙と黄緑が入り混じる溢れ上がる光の中に立つロードを見ながら目を閉じ、あぐらをかいたまま、翼を解放せずに力を体中に沸き上がらせていく。

「バクト」

呼び掛けてくる声に目を開け、ゆっくりとロードに顔を向ける。

あ・・・何か変わってる・・・。

「何か、変わったか?」

「あぁ。翼が4枚になったよ。しかもウラノスの眼のエネルギー体みたいに、橙と黄緑のツートンカラーになってね」

「他には?」

何か眠いな・・・。

「岩石性の鎧は全部鉄製みたいに、光沢もついて綺麗になってる。そして・・・はぁーあ」

「寝てたのか?」

瞑想してたつもりだったけど・・・。

「そうみたい。そして、胸の宝石が・・・」

「何だ?」

「・・・真っ白だ」

これが、カイル達が自分達で見つけた力の強化材料か。

いいなぁ、僕も鉱石じゃなくてルーベムーンにしようかな。

「ハラスティア大陸」

最北にある中立国のハシオリトから南は中心道を境に東西に分けられた構図となっている。特に争っている訳ではないが、東西の文化に大きな違いがある為、西側に住む人は東側に住む人を国名ではなく、東の人と言ったりする。


ありがとうございました。

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