イン・オーダー・トゥ・プロテクト・ハー
これまでのあらすじ
北の中立国ハシオリトの不穏な動きに対抗する為、スクファ、サラン、無法組織マーブルを巻き込んで古代兵器を手に入れようとしていたハクラ。古代兵器は諦めたが、代わりに手にした力でいよいよハシオリトへの抵抗を開始する。
そして一瞬にして身長よりも長く肥大した光の剣を、第百の者が素早く振り払った直後、視界はまるで落雷でも落ちたかのような眩しさに支配された。
一瞬にして視界が晴れた直後、各々顔を背けたり身を屈ませたりしながらも3人のマーブルの人間がまったくの無傷の状況に、第百の者はすぐさま掌を第百の者の方に向けているこちらを睨みつける。
「な、てめぇ。おかしいだろ、空殻系の魔法ごときで、エクスカリバーを防ぐだ?有り得ない」
第百が知らないだけだ、私が私の魔力の質そのものを飛躍的に向上させたことを。
けど、私がここを離れれば、エクスカリバーを防ぐ者が居なくなる。
エクスカリバーは魔力の消費が激しいから、あの男はあと数時間は使えないだろうけど、もし、第百の全員がエクスカリバーを使えるとしたら。
「くそぉ、見下すような笑顔も見せない、この状況の説明もしない。やりづらいな、お前」
「マーブルの人間をもっと駆り出して」
「あ、はい」
「お?今小声で喋ったよな?何つった?」
第百の者に背中を向けたその瞬間、突如目の前に第百の女が、こちらにダガーを突き刺そうとする姿勢で出現する。
インビジブル・・・。
「はっ」
まるで強風に煽られたように動きを鈍らせる女の、ダガーを握る手を掴み、素早く女の腹に拳を叩きつけ、そして力が抜けた女の腕を持って女を第百の居る方へと投げ飛ばす。
しかし第百の男を通り過ぎようとした直前、第百の女はまるで何かにぶつかったように速度を落とし、そのままその場で軽く地面を転がった。
空殻か。
「チッ気迫なんかにビビりやがって、おいマリー」
「は?じゃあ今度はレグが行ってよ。あの人、何かおかしいんだから」
「何かってなんだよ」
マーブルの人間が数人集まってくると共に第百の者達も4人になり、静寂が訪れたその場で気迫がぶつかり合う中、ふとマリーと呼ばれた第百の者の眼差しに目を捕われる。
「ハクラ・ディアゲート。貴女は、何をしようとしているの?」
「止めとけマリー、あいつ、どうせ何も喋んない。心なき虎の如く、その名の通り、あいつには常人の言葉なんて通じねぇよ」
心なき虎の如く、か。
いつからそんな風に呼ばれるようになったのかな。
私はただ、ミキの父親を殺したときに感じたものを追いかけてるだけ。
「ハクラ・ディアゲート。本当に、ただ戦争を起こしたいだけ?」
「おいマリー」
「もしかして、ハシオリトが関係してるの?」
何・・・ハシオリトが極秘で古代兵器を復元した情報は、マーブルしか知らないはず。
「何を知ってるの?」
「おおっ喋った。美人だけど声は低めだな」
「レグ、うるさい」
レグに顔も向けずにマリーがそう言い捨てると、緊張感のない表情は変わらないものの、レグは静かに口を閉じ、ただマリー達を見つめるこちらに顔を向けた。
「やっぱり、ハシオリトが関係してるんだ。第百は、ただ遊撃するだけの部隊じゃない。自由であるが故に、出来ることがある」
密偵・・・か。
「ハシオリトはこの大陸じゃ特に注目を浴びるほど技術が発展してる国じゃない。未開拓の森林地帯があり、自然が溢れる中立国。と、誰もがそう思ってる。だけど、最近になって少しずつ政府や軍の動きがよそよそしくなってる。まるで、何かを隠してるように」
そこに気が付いたなら、何故もっと早く手を、いや、打てないか、ハシオリトは本当に警戒心が強いし、細かい所を見逃さない。
外部から調査をさせないように完璧に中立国を繕っている。
だからこそ、同じ中立的な立場で活動する無法組織、マーブルという仲介役が必要だった。
「隠すって、何をだ?へそくりか?」
へそくり・・・。
「レグ・・・」
「悪ぃ、続けてくれ」
「ううん。それが、遠からずだよ」
「え?・・・マジかよ」
何も考えず、疑わず、ただ目の前の敵を討つことしかしない警捜や国安じゃ、何も出来ないことは分かってた。
だけど・・・。
「いくらだ?それとも黄金か?」
「遠からずだってば。隠してるものまでは分からない。けど、未開拓の森林にはこの星で唯一そこにしかない、ベリリアットっていう天然の鉱石がある。そして、どんな鉱石よりも硬いらしいその鉱石が採れるその森林地帯の下には、どんな衝撃も漏らさない秘密の地下施設がある。私が知ってるのはそこまでだけど」
そこまで情報を掴むとは、第百は侮れないな。
スクファも、まだ捨てたものじゃなかったのかな。
「その地下施設には、頻繁に大量の何かが輸送されてた。いや、マーブルが、秘密裏に頻繁にその施設に運んでたものがある。それは世界中から取引して手に入れた鋼鉄やエンジン」
「おいそれって、まさか軍隊でも作る気か?」
「軍隊じゃない。作るのは、いや、ハシオリトが隠れて作り、今正に地下施設に保管してるものは、ウラノスの眼と同時期に存在したとされる古代兵器、ディアベルの赤眼」
きっとこうしてる今も、ハシオリトはこの大陸を破壊しようと・・・。
「・・・だから貴女は、ハシオリトに対抗するために、ウラノスの眼を?」
「そう。スクファを守って貰うためにも、ここであなた達を壊滅させたくないんだけど」
肩の力を抜くように大きく息を吐いたマリーはダガーをしまうが、そんなマリーを他の3人の第百の人間は戸惑うような眼差しで見つめていた。
「おいマリー」
「ハクラ・ディアゲートの言ってることはまだ信用出来ない。けど、私達4人でもハクラとの実力に差があることは確か」
足を止めただけでも良しとするか。
すぐにミキの所に。
「くそ、なんてこった。なら、今からでも俺達でハシオリトに行くか」
「いや。あなた達一国の一軍人が行っても・・・」
「おいおいハクラ・ディアゲート。俺達が何のために軍籍記録を残してないと思ってんだよ」
どんな場合でも、すぐに行動を起こせる体制。
なるほど、それが第百の存在意義か。
「お前を信じる訳じゃない。俺達は自分達で確かめに行く、ただそれだけだ」
「そう、分かった。だけど気をつけて。ハシオリトの戦力は把握し切れてないから」
「心配は無用だ。なんせ、俺達は第百だからな」
そう言って親指を立てて見せたレグに背を向け、待機している軍用機に向かうが、その途中でふと教科書で見た革命家の言葉が微かに胸に差し込んだ。
一人で起こすものは革命とは呼べない。
志を同じくする者と共に信念を貫き、立ち向かうことこそが革命だと。
ミキ、もしかしたら、私達に同調出来る人がまだいるのかも知れない・・・。
プロペラの音だけが響く中、城壁を思わせる塀が入り組むように連なる地帯に入ると、やがて軍用機は停めるために作られた印のある塀に降り立った。
プロペラが完全に止まる前からすでに聞こえてきていた騒音のする方を見下ろすと、そこにはマーブルの人間達が居て、マーブル所有の兵器を唸らせながらサランの軍人達と戦いを繰り広げていた。
ミキは・・・。
塀の縁に足を掛け、着地点を見定めながら強く塀を蹴り宙へと飛び出す。
「空螺」
落ちる速度の中で程よく湿った地面に降り立ちながら、こちらに顔を向けた翼を持つ2人の人間に体を向ける。
「お?何か来たな。マーブルとかいう奴らとは違う奴みてぇだが」
マーブルの人間の背後で武器を構えていないミキに顔を向けると、すぐにミキは安堵したような陰りのない微笑みを見せた。
まだドラゴンには変身してないのか。
ミキに歩み寄りながら翼を持つ人間達に顔を向けると、女の方は見定めるような鋭い表情を崩さないものの、表情に緊張感のない男の方は何かに納得したようにただ小さく頷いた。
「何だ、敵かよ」
「ハク、どうしたの?」
「ドラゴンになる人間の戦力を見定めに来た」
腰に手を当てながら頷いたミキが翼を持つ人間達に顔を向けたのでそれに続くと、ふとサランの軍人の1人が佇まいに闘志を満たしたのに気が付いた。
「ナオ、あいつは確か西の、スクファの軍人だ」
「そっか、じゃああの人が協力者のリーダーかな」
「かもな。ソウスケとか言ったな。女相手にアレだが、ここはオレ達がやってやろう」
「あぁ。じゃあ、立昇っ」
確か、ヒィスタにはこの大陸の魔法は伝わりきってないはず。
しかも立昇の段階で、個性が付いてる?
本当にあれは、立昇なのか?
「第二気、神器」
あのサランの軍人は神器でも個性が付いてない、取るに足らない戦力だ。
すると目の前に立つ数人のマーブルの人間は一斉に殺気立ち、皆各々武器を構えていく。
「ハクラさん、ここはオレ達が」
「いや、あの翼の人間は私が相手をするから、サランの軍人をお願い」
「はい」
「ハク」
「ミキはまだ待機してていいよ、下がってて」
「うん」
サランの軍人とマーブルの人間達がお互いに向かって走り出すが、ソウスケと呼ばれた人間が静かに見せつける強気な態度は、どこか軍人にはない青々しさを感じさせた。
前に出ないのか?
その直後、ソウスケと呼ばれた男が突き出した掌の周りに青い光がちらつく。
なるほど。
「空殻」
その瞬間、青く輝くレーザービームは辺りに光を弾け散らしながらもこちらの掌を通り過ぎ、一瞬にして左肩に鋭い衝撃を覚えさせた。
第一で防げないほどの力・・・。
足を踏ん張り素早く掌をソウスケに向け直すが、それでもソウスケは依然としてその場に悠然と立ち、こちらを見つめていた。
「第二掌、天星」
前方に降り注ぐ無数の光の弾が一斉にソウスケを襲うが、ソウスケを包むその青い光の柱は、尽くすべての光の弾を弾け飛ばしていく。
私の魔力での第二でも、完全に無力化される、か。
このまま魔力だけ投げ合っても埒が明かない。
地面を強く一蹴りし、その勢いだけで瞬く間に距離を詰める間で、ようやくソウスケは拳を作り、構えて見せる。
地面に片足を着けると同時に蹴りを繰り出すが、両腕で受け止めたソウスケは倒れることはなく、ただ足を引きずった2本線を地面に残しただけだった。
その直後に振り出した足は下ろさずに、すぐさまその足をソウスケに向けて突き出す。
「ジャベリン」
鋭く集束された光の槍が足の底から放たれるが、その光の槍はソウスケを貫かずにそのままソウスケごと押し飛ばしていった。
無呪文魔法の中でも、ジャベリンは分厚い鋼鉄をもたやすく貫く中級魔法。
「くそ・・・結構やるじゃねぇか、はは」
例え立昇の状態でも、傷も付かないなんてことはおかしい。
ましてや、私は神器の状態だ。
魔力もそれだけ増幅されてる。
あの鎧は、一体・・・。
いやそれとも、あの状態が立昇ではないということなのか・・・。
「ぐぁっ」
3人のマーブルの人間を倒したサランの軍人に体を向けると、同じくこちらに顔を向けたその軍人は直後に素早くこちらに向かって飛び掛かった。
振り下ろされた剣を直接掴み、直後にその軍人の腹に拳を叩き込む。
「第二掌、旋空螺」
サランの軍人がソウスケの足元まで転がっていくのを見ていたとき、ふと頭上の辺り一面が青く色づいた霧に覆われていることに気が付いた。
これは・・・。
その直後、強い熱を帯びた凄まじい重圧が全身にのしかかり、まるで身動きが取れなくなる。
何だ・・・これはっ。
思わず片膝を地面に着いたときに重圧が消えたので、すぐにある疑問を感じながらソウスケに顔を向けると、やはり遠く離れた場所に立つソウスケはまるで何かを念じたかのように掌をこちらに向けていた。
完全に、私の理解を超えた魔法・・・。
「ああっ」
ミキの声に反射的に後ろを振り返ると、ミキは天に向かって伸びる青く輝く光の柱に包まれていた。
すぐに青い光の柱は消えたものの、所々が焦げたように黒ずんだミキはゆっくりとその場に倒れ込む。
あの人間の魔法には、距離という概念がないのか。
なら、本当に時間を掛けられない。
「・・・ふぅ。第三気」
ミキは絶対に守る。
「エンド・オブ・ザ・ギャラクシー」
・・・感覚が、遠退く。
まるで、サモンの中に居るみたいに・・・。
だけど逆に意識は、まるで体中に目があるみたいに、すべてを感じるように鮮明だ。
ゆっくりとソウスケに体を向けたとき、ふと翼を持つ女の眼差しに殺気が満ちるのを感じた。
「天星」
両手から無数に弾ける光の弾を連続的に放ち、視界を一瞬にして光と化す。
掌魔法は、掌から発動する魔法の総称。
界魔法は、広範囲に向けて発動する魔法の総称。
気魔法は、魔力、身体能力を向上する魔法の総称。
という感じですかね。
ありがとうございました。




