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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
第一章

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嵐の前の静けさ

「ほんと?なら一緒に行ってくれるわよね?」

するとミサはその持ち前の気品も保ちつつも、まるではしゃぐような口調でそう言いながら笑顔で顔を近づけてくる。

「まぁ今度ね」

「皆さん、こんばんは」

あ、ユウジだ。

「この前話した、他の組織との軽い同盟の話ですが、無事に2つの組織と繋がりを持ちました」

「別の組織のやつと戦えるってことか」

「違うよシンジ、仲良くするんだよ」

シンジにとってはユウコの言ってることと同じ意味なんだろう。

「1つは神奈川県にある組織と、もう1つは大阪府にある組織です」

「大阪って遠いのかな」

ユウコがふと呟いたその言葉に反応するように、シンジは何かを企むようなニヤつきをユウコに向けた。

「おいミナミ、地理の授業寝てただろ?」

「え?・・・10分だけだよ?シンジの方が苦手のくせに」

「漢字はオレの方が出来るぜ」

「数学は私が上だもん」

組織に入ってから、少しずつ仲が良くなっているみたいだな、2人は。

「神奈川の方は独自に自警団を結成してまして、たまに援軍要請があるかも知れないので、その時は皆さんの力を貸して下さい。以上です」

自警団か・・・。

テロを起こす人だけじゃないってことか。

「援軍だって、シンジ、良かったね」

ユウコが少し嬉しそうな表情でシンジに顔を向けると、シンジも嬉しがるように小さくニヤつき出す。

「そうだな」

「今のうちに鉱石で強くなって置けば?」

「まだいいって」

2人は喋る量も増えたみたいだ。

鉱石か。

せっかくだし、使おうかな。

「氷牙、そろそろ行こうぜ?」

「そうか」

シンジに続いて席を立ったとき、ふとユウコがシンジの背中に期待を寄せるような表情を向けたのが目に入った。

「シンジ、頑張ってね」

「え?何、急に」

ユウコは再び目を輝かせながら小さく手を振るが、それを見たシンジは少し気味悪がるように小さく眉をすくめる。

「シンジが氷牙を追い詰めないと、尻尾が出ないでしょ?」

ユウコは問い詰めるようにそう言うが、シンジは更に理解に苦しむように首を傾げた。

「何の話?尻尾って」

話を聞いてないなら分からないのも無理ないよな。

「えっと・・・いいから頑張って」

「あ、あぁ」



「ミサちゃん、氷牙の尻尾、どこで見たの?」

「大阪の組織の人と戦った時に見たのよ」

「そうなんだぁ」

あの姿になったら、シンジは歯が立たないんじゃないかしら。

モニターに映り出した2人はそのまま闘技場の中央辺りまで行ってから向かい合う。

「合図は?」

「先攻をやるよ」

氷牙に応えながらシンジが構えると、間もなくして氷牙が飛んで行った。

「大丈夫かな、シンジ」

あらユウコ、どっちの心配してるのかしら。

「やっぱり押されてるわね、シンジ」

シンジは自然に覚醒したけど、その上に鉱石を使ったらどうなるのかしら。

「尻尾、出なかったね、はい、水だよ」

ユウコは椅子に座ったシンジの前に水を置くが、疲労感が伺えるシンジはただ大きく肩を落としうなだれた。

「くそぉ、まだだめか」

「1時間も戦ってダメなら、そうかもね」

あの姿を出すまでもないのなら仕方ないわね。

「鉱石か・・・」

あらら、シンジが落ち込んじゃったみたいだわ。

「氷牙、何か言ってあげたら?」

「そう言われても」

「最初っから尻尾出せば良かったのよ」



追い詰められた人が覚醒するなら、強大な力を前にすればまた強くなるかも知れないな。

「そうかもね。次はそうしようかな」

ホットミルクを注ぎ直して椅子に戻っても、シンジは未だに落ち込むように肩を落としていた。

「やっぱり鉱石使うしかないのかなぁ」

「そう言えば、あれからショウタ君に勝ててないよね」

すると慰めようとしているユウコも、落ち込むシンジにつられるように肩を落とし始める。

やはり2つの力を持つ能力者には苦戦しているみたいだ。

「力じゃなくて、肉体を強くすれば?少しは防御力もないと辛いと思うよ?」

「・・・はぁ、やっぱそうなのかな」

「それじゃそろそろ私、帰るね」

「あぁ」

ユウコがホールから出て行くとすぐにシンジも席を立ち始める。

「オレも家でゆっくり考えるよ。じゃあ」

「あぁ」

人気も少し薄れてきたし、それなりに遅い時間なんだろうか。

「氷牙もいつかは鉱石を使うのよね?」

ミサが椅子を少し近づけるとそう言いながら微笑みかけてきた。

「そうだね」

「どんな風に?」

するとミサは何故か少し嬉しそうな表情を浮かべながらまたすぐに問いかけてくる。

「別の新しい力って気になるよね」

「そうね。貴方は氷でもちょっと変わってるから、難しいわね。あ、でも鎧が主体ならそこまで複雑じゃないかも知れないわね」

旅にでも出ようかな。

「なんかオリジナリティーが欲しいな」

きっとおじさんなら何とか出来るだろうし、ちょっと聞いてみようかな。

「それならもう十分あると思うわ?」

個性、か。

おじさん側から指定した力を与えた訳じゃないみたいだし。

「そうかもね。ミサだってあるよ」

それなら能力は個性が具現化されたものだと言えることになるよな。

「そう?」

ミサにふと目をを向けると、ミサは何故か照れるように口元を緩ませていた。

「もうこんな時間なのね。・・・帰らなきゃ」

腕時計を見ながらミサが寂しそうに言うと、ふと何かを訴えるような眼差しをこちらに向けた。

「そうか。僕も部屋に戻ろうかな」

「なら行きましょ?」

すると寂しげな表情をしていたミサに若干の笑顔が戻った。

「あぁ」

廊下に出てしばらく進むと、こちらが立ち止まると同時にミサも同じように立ち止まる。

まさか、ついて来たのかな?

「あら、ご近所さんなのね」

何だ、向かいの部屋の左隣りがミサの部屋だったのか。

「おやすみ」

「あぁ」

ミサが笑顔で手を振りながら扉を開けるのを見てから部屋に入り、窓際のベッドに座り、夜景を眺めた。

これまでの事を振り返ると、可能性は高いな。

多分おじさんは・・・まぁ、みんなが学校に行ったら、それとなく聞いてみようか。

朝になり廊下を出ると同時に、ふと向かいの左隣りの部屋の扉が開かれたのが目に入る。

「おはよう」

こちらに気づいたミサはすぐに笑みを浮かべてそう言って扉を閉める。

「あぁ」

「今日はあたし午後から授業なの」

「そうか」

廊下を歩きながらミサが嬉しそうにする話を聞きながらホールに入り、料理の前に行くと、ヒカルコがミサに近づいてきた。

「おはよう」

「えぇ、あ、そうだヒカルコに頼みがあるのよ」

「うん、何?」

ヒカルコは料理を皿に取りながら何気なく話す口調でそう問いかける。

「妖精さんに会えないかしら?」

今日の朝食のバイキングメニューにはカレーとビーフシチューは無いみたいだな。

「レベッカだね、カズマに聞いてみないと」

料理をテーブルに運んで椅子に座り、ソーセージにフォークを突き刺す。

「なら一緒に頼んでもらえないかしら?」

「うん、いいよ」

あ、粒マスタード・・・はまた今度でいいや。

「ほんと?嬉しいわ」

「じゃあ今から行く?」

「いいの?迷惑じゃないかしら?」

「大丈夫だよ」

2人が席を立ち始めるとミサが何かを強く訴えるような眼差しを向けてきたので、2人の後についてカズマとマイがいるテーブルに向かった。

「カズマ」

「あ、氷牙」

ヒカルコに顔を向けた2人がこちらに気がつくと、すぐに2人は声を揃えながらそう口走った。

「あぁ」

そういえば2人と朝食を共にするのは初めてだな。

「カズマ、レベッカは部屋にいるの?」

ヒカルコが少し声を抑えながら聞くと、一瞬カズマは周りを気にするような素振りを見せた。

「ん?いや、いつもフードの中にいるよ」

そう言ってカズマはパーカーのフードに指を差す。

「そうなんだ」

「あんまり言いふらしちゃだめだよ」

マイが笑みを浮かべながら小声でそう告げると、カズマはマイを気にしながらも特に顔色を変えることなく、静かに箸で掴んだお肉を口に運び、ご飯の盛られたお茶碗を手に取る。

カズマはそんなに目立つのが嫌なんだな。

「一目でいいから見せてもらえないかしら?」

「確か、ミサさんだよね、ブレインの」

カズマは少しだけ困ったような表情を見せながらミサに応える。

「そうよ」

「・・・まぁちょっとならいいかな」

目線を落としたカズマは少し悩んだ後にそう言うと、フードに顔を向けた。

「レベッカ・・・ちょっと出て来て・・・うん」

するとフードからレベッカが出て来てテーブルに降り立つと、ミサは驚いたままの表情で固まった。

「あ、氷牙」

こちらに気がつくとすぐにレベッカがこちらの方に歩み寄ってきた。

「あぁ」

「今日はラザニアじゃないの?」

「そうだね」

「なんだ」

レベッカは寝起きみたいで、あくびしながらその場に座り込んだ。

「貴女がレベッカ?」

ミサがやっと口を開くと、レベッカはゆっくりとミサに顔を向ける。

「うん、あなたは氷牙のお友達?」

「え、えぇ、そうよ、あたしはミサよ」

驚きを隠せないのかミサの笑顔が少しだけ引きつっているのが分かるが、レベッカはそんなミサにも屈託の無い笑顔を見せる。

「そっか、よろしくね」

「えぇ、よろしくね」

「レベッカ」

カズマが呼ぶとレベッカが飛んで行き、カズマのフードに戻るとミサがこちらに顔を向けた。

まだ驚きを隠せない様子みたいだな。

「どう?」

「すっごい可愛かったわ」

「良かったね」

頷きながら小さくため息をついたミサに、ようやく純粋な笑顔が戻ったのが見てとれた。

「えぇ、カズマ、ありがとね」

「うん」

お皿に盛った最後のソーセージを口に入れた頃、ふと遠くから舞台に響く足音に気が付き、何となく目を向けると、マイクの前にはユウジが向かっていた。

「皆さんおはようございます。先日の組織の名前を投票で決める件で、勝手ながらこの組織の名前をエネルゲイアに決めました。意味は実現体だそうです」

この組織の人数、また少し減ったみたいだな。

皆が皆アリサカのように組織を出ていくなんてことは、さすがにあるはずはない。

だとしたら、ただホテルより自分の家に居た方が落ち着くってことか。

「最後に、野生の動物の凶暴性も高くなっているみたいなので、外を出歩く際は野生の動物に気をつけて下さい。以上です」

「そういえば、氷牙、野生の動物と戦ったんだって?」

まるで野生動物に恐れるような口ぶりではなく、カズマは何気なく世間話をするような口調でそんな話をし始める。

「そうだね」

「どうだった?やっぱり殺しちゃったの?」

「そうだね。やむを得なかったんだ。下手に追い詰めると本能で覚醒するかも知れないから、もしかしたら人間より危険かも知れないんじゃないかな?」

「そうなのか、気をつけないと」

驚く訳でもなく相槌を打ったカズマは、むしろ興味が無さそうに見える顔で飲み物に手を伸ばした。

「あら、それはちゃんと報告受けてないわよ?」

するとミサが首を傾げながら顔を寄せてきた。

「今そう思った」

「まあ」

目を丸くしたような表情で口を押さえるが、それ以上気にする素振りは見せずにミサはサラダをフォークでつついた。

「そういえば氷牙、前に騒ぎを起こして出てったアリサカって人、昨日YouTubeに出たの知ってる?」

「いや、僕、パソコン使わないから」

「おっマジか、珍しいじゃん。まぁそれよりさ、そのアリサカって人が例のあいつとやり合ってたんだ」

例のあいつ・・・。

カズマは案外こういうことの方が興味あるのかな。

「え、誰?」

「今、ネットの中でちょっと有名なテロリストがいるんだ。そいつの名は分からないんだけど、ネットじゃデストロイ屋って呼ばれてて、壊して欲しいものを掲示板に書くと、そいつが実際に破壊するんだ」

デストロイ屋って、ダジャレなのか?

いや、それより何だかんだ言ってもアリサカ達はやっぱりテロ鎮圧してるんだな。

「それじゃ私も学校にでも行こうかな」

カズマ達が部屋に向かうとヒカルコも席を立ち、椅子の下に置いた学生カバンを肩にかける。

「あら、いってらっしゃい」

「ミサは?」

「今日は午後からなの」

「そっか」

ミサが笑顔で応えると、制服姿のヒカルコは若干照れ臭そうに軽く微笑み返してから廊下に向かって歩き出す。

そんな時にふとこちらの方に向かってくるノブと目が合うが、その表情はどこか穏やかじゃなさそうな雰囲気を感じさせていた。

好奇心と無表情、その2つがこれからの氷牙の運命に影響を与えるきっかけになる、ってところですかね。

ありがとうございました。

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