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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
第九章

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そして歯車は動き出す5

「てか今あんた、命を救うとか言ったよな?でも俺は別に今、危機的状況じゃねぇ、ただ少し遅い朝メシ食いに来ただけだ」

「災厄に見舞われるのはお前じゃない。お前の近しい人物だ」

あ?俺の、近しい・・・って。

ハオンジュに顔を向けると同時に、ふと最初に頭に過ぎったのはエンジェラの姿だった。

いや、でも・・・。

「名前は判らない、顔立ちは・・・あどけなさと大人びた印象が混ざった、特徴的なほくろの」

「ナオっ」

そう口走ったハオンジュと顔を合わせると、すぐさま脳裏にスピアシールドのリーダーの姿が浮かび上がる。

まじか、まずいっ。

「落ち着け、それは今じゃない」

「・・・え」

すでに立ち上がっていたハオンジュが動きを止め、静かに椅子に座り、次第に緊張感が萎んでいくその空気の中でさえも、その男の表情からは微塵も焦りや緊迫感などは感じなかった。

「災厄が訪れるのは今じゃない。だが、近い内に必ず訪れる。その女から目を離すなよ?」

そう言ってコーヒーカップを口に運び、静かにカップをテーブルに戻したその男はまた静かに席を立ち始めた。

「じゃ俺はこれで」

ふと脳裏に浮かんだナオの姿に、トゥー達メガミの姿、そしてトゥーを失った後のメガミ達の寂しさに満ちた表情が重なった。

ナオが死んだら、きっとこいつは悲しむだろう。

「ちょっと待てよ。あんたも、その時にはまた手を貸してくれよ」

するとゆっくりと体をこちらに向けたその男は、まるで照れるように、その何食わぬ顔の口元を小さく緩ませた。

「縁があったらな」

縁、か・・・。

あの男は、一体何者なんだ?

きっと信悟や氷狼達の世界の奴じゃない、そんな気がする。

世界中を旅しているっつってたな、その世界ってのは、異世界っていう意味だったのか。

「さっきの人、名前は何て言うの?」

「・・・そういや、聞いたことなかったな」

「ふーん」

災厄、か・・・。

「なぁ、あいつの言ってたこと、どう思う?」

「ナオが、危険な目に遭うってこと?・・・私、ナオを守りたい」



もうすぐだ、もうすぐ。

教科書のあの革命家は、志半ばで倒れた。

けど、私には力がある。

何者も寄せつけない、あの方から貰った力が。

布切れを巻いた右手を優しく掴みながら、あの娘の姿と、あの娘と誓った想いを思い描く。

「ハクラ隊長」

声がした方に体を向けると、そこには溢れる汗を拭いながら歩み寄ってくる、コンスタンの姿があった。

「暑くないんですか?こんな活火山のマグマ溜まりの近くに居て」

「私は平気。むしろ、常に第二気を纏った状態を維持する訓練には適してる。それで、頼んだものは?」

「えぇ、問題無いですよ、無事にハイタケに届きましたよ」

バンデラは有能だ。

疾風隊の中で、1番情報収集能力に長けて尚且つ、物事を客観視出来る。

「じゃあ戻って良いよ。それから、明日アストラで計画を始めたら、カナエさんを帰すのも、宜しく」

「はい」



「あれ?帰ってきた、何で?」

何でって・・・。

「別にいいだろ、帰ったって」

ちょうど奥の部屋から出て来たドッグと目を合わせるが、ドッグは特に驚くことなくダイニングテーブルの椅子に腰掛けた。

「何か緊急事態でもあるのか?出来る限り、組んだチームのディビエイトとは行動を共にしていて貰いたいが」

まぁ、こいつの言いたいことも分からねぇこともねぇけど。

「緊急事態って訳じゃねぇよ。仲間候補の奴が入院してて、ハオンジュは朝まで一緒に居るみてぇだが、俺は病室で寝泊まりすんのは御免でな」

「そうか。それで、外部の力は手に入れたのか?」

「まぁな。ガウロエンジンっていうもんなんだが、そのエンジンを貰う代わりに、クーデターを阻止する仕事を請け負った。けど相手は大したことはねぇし、もしかしたら援軍も要らねぇかもな」



病室の後方にあるソファーに仰向けになりながら、ふと名も知らない男性のすべてを見通したような横顔、そしてある言葉を思い出していた。

災厄って何だろう。

朝日が病室を明るくしているのに気が付き、体を起こすと、ベッドにはすでにナオの姿は無かった。

「ナオ?」

「こっち」

まだ頭と体に重たさが残る中、小さな洗面台の方を見ると、上半身を写すほど鏡の前には普通の服装に着替えていたナオが立っていた。

「うわ、すごい顔。だいぶ寝れてないみたいね」

「うん・・・」

何だか、すごい喉が渇いちゃった・・・。

自動販売機が缶を吐き出す音にまた少し目が醒める中、廊下を歩きながら窓から見えた澄んだ青空は、胸の底に突っ掛かる何かを少しだけ萎ませた。

どんな災厄が来たって、きっと大丈夫だよね。

「あ、ソウスケ」

「あぁ、じゃ、行くか。ああそれと、ひとつ教えてくれないか?」

そう言ってソウスケがナオに顔を向けると、ナオはこちらに顔を向けながら困ったような微笑みを浮かべる。

「私に?何を?」

「魔法だ。ジンキとかいうやつ」

ナオは目を丸くするものの、すぐにその表情はソウスケに期待感を寄せるようなものへと変わる。

ジンキって、スピアシールドの人達も言ってたような。

「良いけど、その前にまず第一を習得しないとね」

魔法か、戦うために必要なら、私も知ってた方が良いのかな?

ナオが操縦するクルマの中から流れる景色を眺めながら、ナオとソウスケの話を聞いていたとき、ふとクルマがゆっくりと止まったので前方の大きな窓に目を向けると、窓の向こうにはナオが操縦するクルマの前を、いくつものクルマが勢いよく通り過ぎていた。

「説明だけ聞くと、案外魔法ってものも簡単なんだな」

「うん。リッショウはホントに簡単だよ。軍人なら誰でも出来るから。でも第二からは現代の科学じゃまだ解明出来てない部分もあるから、ちょっと難しいんだよね。リッショウで形成した魔力を、完全に自分の気と同調させないといけないから。でもそのお陰で、人によっては個性という名の、属性みたいものがつくの」

個性?属性?

もし私がやったら、個性がつくのかな?

クルマから出ると、すぐにソウスケはどこかそわそわとした素振りを見せ始める。

「拠点に行く前に、ちょっと練習していいか?」

「うん」

真っ直ぐ立って目を閉じ、逆さにした拳を両脇を当てたソウスケを見てから少しの沈黙が流れたとき、突如ソウスケの体にまるで青空のように澄んだ色をした光が纏わり付いた。

「すごいよ、たった1回でそこまで出来るなんて」

するとその直後、ソウスケの背中から青い光が一瞬だけ吹き出すと、弱々しく立ち上っていたその青い光は隙間なく包み込むようにソウスケの全身を覆った。

「これで良いのか?」

「うん、そうそう。すごいよ、1回で完成させるなんて才能あるよ」

満足げに照れ笑いして、力を抜くようにため息をついたソウスケから青い光が蒸発するように消えていくのを見ていたとき、ふとソウスケが自信を見せつけるような顔を向けてくる。

「意外と簡単だぜ?」

「そうか、私もやっていい?」

「うん」

ナオが言ってた、背後に向けて全身が引き攣られるような感覚・・・。

目を閉じ、背後に向けて力を優しく放出しながら背筋を伸ばしてみる。

「おいおい、それじゃ後ろに向けて力を出してるだけだ。そうじゃなくて、全身に纏う力に排気口があって、その排気口が背中にあるような感じだ」

排気口?・・・。

あ、何となく翼の解放に似てるかも。

うわ、何だろ、体が軽くなった。

まるで背が伸びたみたいに景色が広い。

「何で?2人共、そんなすぐに出来ちゃうなんて。何かショック」

「まぁ、たまたまいつも同じような感覚で力を使ってたからな」

「そうなんだ」

この力、翼を解放するまでもないときに使うのも便利だし、龍形態のときに使えばもっと強くなれるし、便利だな。

「んで?ジンキはどうやんだ?」

するとナオはすぐに困ったような笑顔を浮かべ始める。

「実は、ジンキにはこれっていうコツは無いの。私達の間じゃ、リッショウの状態でもまるでリラックス出来るようになった頃に、自然とジンキへの道が開けるってことにしてるけど」

「じゃあ、とにかく使い慣らすってことか」

「うん。でもソウスケ達ならきっとすぐにジンキも出来るようになるよ」



残念だけど、天剣そのものは手に入らなかった。

ウラノスの眼、強大な力を手に入れて万全を期すつもりだったけど、あの方のお陰で代わりになる力は手に入った。

あの方は、一体何者なんだろうか。

何故私を・・・。

いや、それは今後分かることか、あの方も、使いの者のことも。

・・・さて、そろそろ行くか、ハシオリトへ。

「ハクラ隊長。今ハイタケから連絡があったんですが、サランの偵襲部隊の1人と、例の翼を持つ2人の人間が接触してきました」

「そうか」

翼を持つ人間・・・ミキの話によれば、1人はドラゴンに変身するとか。

遺伝子操作に関する技術に長けた、ヒィスタという島国の者なのか?

けどミキの力と、マーブル所有の改造兵器があれば、問題は無いだろう。

「私達も行こう」

「はい。あと、アストラでも戦闘を開始したようですよ」

「相手は、第百だけ?」

「今はそうですが、すぐにRiTIPも来るんじゃないですかね」

RiTIPは問題無い。

けど第百の戦力は把握し切れてないから、少しだけ不安要素がある。

「そう。無駄に戦力は削れない。今はアストラに向かおう」

「分かりました」

激しく風を巻き起こしながら、今にも飛び立とうと待機する軍用機に乗り、遠くなるハルトバニアを見下ろしながらふとサクラバリスタのことを思い出す。

サクラバリスタも、翼を持つ人間と行動を共にしていたが・・・。

もしサクラバリスタもアストラに来るなら、気をつけた方がいいか。

相手の戦力が把握出来ないことほど、戦争の中で怖いことはない。

こっちが済んだら、ミキの所にも行ってみるか。

「見えました、ハクラ隊長」

扉の無い方から見下ろしてみると、その見通しの良い平野には今正に弾丸のような火を噴いたマーブル所有の改造戦車が見え、そして火炎弾が飛んでいく方には自ら火の玉を作り出し、それを戦車に飛ばす魔導スーツを着る人間達が居た。

「先行する」

「はい」

軍用機から飛び降り様に地面に向けて掌をかざす。

「空螺」

地面に打ち付けられ、吹き上がるような風を生み出す空螺の中に飛び込み、ちょうど改造戦車の真横に降り立った瞬間、気が付いたときにはすでに2つの火の玉が目の前に迫っていた。

片手で軽く火の玉を払った直後、見慣れない魔導スーツを着る第百の1人と思われる者が素早くこちらに目掛けて走り込んでくる。

「第一界、震牙」

目の前の地面に牙を立てるように、一筋の重圧がのしかかると、直後にその重圧は立て続けに放射状にその手を伸びていく。

轟音と共に立ち上る土埃が遠くなる中、第百の者は一瞬にして土埃に呑まれるが、吹き込んだ風に景色が晴れるとその姿は依然としてそこに留まっていて、若干腰を丸くして屈んでいるものの、第百の者のその眼差しは獲物を定めるが如く殺気に満ちていた。

「ハクラ・ディアゲート。お前が戦争を起こそうとしてることは分かってる。お前なんかに、力のバランスが保たれ、長年平和を維持し続けてるこの大陸は渡さない」

何も、分かっていないんだな、第百ですら。

けど、こんな第百でもスクファにとっては貴重な戦力。

「話には聞いてたが、ホントに喋らないんだな、お前。まぁ、喋り過ぎるのも確かにアレだが」

時間は掛けられない、けど、無駄には殺せない。

「ハクラ隊長、ここは俺達が」

第百の者の動きに注意しながら後退りすると、目の前にゆっくりとサーベル状の長刀を持つ3人の人間が立ち、闘志を湧かせるようにゆっくりと背筋を伸ばす第百の者と対峙する。

「剣の魔導器か。良いぜ?3人いっぺんに相手してやるよ」

すると取り出したダガーを素早く長剣へと変化させた第百の者の足元から、突如として風が優しく吹き上がり始めた。

まさか。

「雷光天貫、その名を大地に轟かせろ・・・」

剣の魔導器に魔力を纏わせ、剣身の長さ、鋭さを強化する剣魔法、そしてあれは、その最上級。

「エクスカリバー」

さすがスクファの秘密兵器、第百番隊。

「エクスカリバー」

最上級剣魔法。雷光天貫らいこうてんかん、その名を大地に轟かせろ、という言葉を言うことでイメージを瞬時に固まらせ、発動出来るようになっている。それは他の魔法でも同じことだが、上級者に至っては呪文や言葉を省いても発動出来る。


ありがとうございました。

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