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ノット・イエット・ビジブル・ウェアー・アイ・アム

「お気遣いどうも。ひとつ聞かせて欲しいんですが、何故ここに?」

「私達第百には、警捜二十隊すべての出動状況が逐一報告されています。今回は疾風隊のハクラ・ディアゲートが絡んでいますので、我々も直ちに出動しました」

警捜二十隊すべての出動状況を把握か・・・。

「まさか、警捜二十隊すべての隊員の顔や名前も把握してるのか?」

「えぇ、隊員の情報や戦況を把握してないと、遊撃部隊としての本領を発揮出来ませんから」

確かに、それもそうか・・・。

数台の救急車が去っていく中、ふとその場に居る4人の第百番隊隊員の姿にある小さな疑問が湧いた。

「その魔導スーツは、警捜特殊機動隊、RiTIPのものと同じものか?」

「いえ、詳しくは言えませんが、RiTIPのものとは別仕様です」

「何だ?ライティップって」

「Riot Team of Investigation Police、通称RiTIP。要は警捜二十隊の人間を集めて作られた精鋭部隊だ。そいつらは凶悪なテロリストや組織などに対抗するために、特別に作られたスーツ型魔導器を着用してるんだよ」

「へぇー、何か凄そうだなそいつら。オイラより強いのかな」

それより、テリーゴの体力は底知れないな。

カイルよりダメージが少なかったからか?

顔色も姿勢も、今朝会ったときに戻ってる・・・。

「あそうだロザー、後でオイラにもサモンとか言うの教えてくれよ」

「・・・あぁ」

クラブハウスの扉に手を掛ける直前、ふとレグが緊張感の無い自信に満ちた眼差しを見せてくる。

「そういや、もう1人の仲間外れのコンスタン・バンデラはどうした?」

ていうかさっきもサラッと仲間外れとか言ったよな、こいつ。

「あいつは情報部出身だからな。こういうのよりかは情報収集の方が向いてんだよ」



物心ついた時から、違和感があった。

どこか、自分だけこの景色から浮いたような感覚・・・。

目の前に居るのが里親だと理解したのに時間はかからなかったが、それでも晴れない違和感を、目の前の景色に白々しい笑顔が映る度、胸の中でいつも問い続けていた。

私の居場所はどこにあるのか・・・。

いつものように母親に内緒と約束しながら、父親と裸で抱きしめ合い、小刻みに揺らされる度、この景色に埋もれてしまってもいいと思うときもあった。

だけど、それでも晴れない違和感は、いつも胸の中に問い掛け続けてくる。

私の居場所はここではないと・・・。



まだ営業していないクラブハウスは全く人気を感じさせないものの、充満する気配なき空気は逆に胸の底に緊張感を芽吹かせていった。

またこの情報も、デマなのか?・・・。

「じゃみんな、いつも通りのテンションで」

「おう」

緊迫感の無い言葉を投げ掛けたマリーに応えたレグ達は、とても慣れた足取りで各自自由にクラブハウス内を進み始める。

さっきは何故か待ち伏せを食らったが、肝心の屋内には誰も居ないのか?

外で俺達を殺すつもりだったから、中まで待ち伏せる必要はないということなのか。



「じゃあオイラ達も適当に見て回ろうか」

「そうだね」

何か久しぶりに戦ったら、急にお腹空いてきちゃったなぁ・・・。

見たこともない広さのレストランを見渡しながら、何となく進んでいくテリーゴについていく。

「カイルもサモンを覚えてみたらどうだ?きっともっと戦いが楽になるよ」

「そうだね。そういえば、さっきはそっちにもサモンが出たの?」

「あぁ、けどリマって人にリッショウを教えて貰ったから、この前よりかは楽に戦えたよ」

「えぇっ」

すごいなテリーゴ、さっきの戦いの中で、そんな気軽に頼めるなんて。

「すごいね、簡単だったの?」

「まぁそうだな、オイラは2回目で出来たよ」

テリーゴって、そういう才能があるんだな。

「良ければ、僕にも教えてくれない?」

「あぁもちろんさ」

そう応えるとテリーゴは何も考えていないように扉を開け、大小様々な木箱が沢山積んである部屋に入った。

「コツは体中に纏った力で、頭と両手を繋ぐような三角形をイメージするんだ。そしたらその三角形を背中にくっつけるようにイメージする。するとまるで全身が吊り上げられるような感覚になるから、そしたら完成だよ」

三角形・・・、吊り上げられるような感覚・・・。

「そっかぁ、ありがとう。僕もやってみる」

それなら僕にも出来そうかも。

「あぁ、あとカイルはルーベムーンも使わなきゃな・・・」

「うん」

ルーベムーンか、忘れてた。

アウローラさんが言ってた、なりたい姿を鮮明にイメージする、か。

「これかな・・・」

僕がなりたい姿・・・。

木箱が落ちる音に思わず我に返ると、木箱に隠れていた扉からこちらに振り向いたテリーゴは満足げにニヤついて見せた。

あ、扉だ・・・。

「その扉」

「あぁ、皆に言いに行こう」

だだっ広い飲食スペースに続く扉を開けたとき、ちょうど目の前に扉に手を伸ばしかけたマリーが居た。

「あ」

「マリーさん、ちょうど良かった。今テリーゴが扉を見つけたんです」

「え?扉?」

マリーを中に通すと、扉を確認したマリーは再び目を丸くしてテリーゴに顔を向ける。

「君って、とても勘が鋭いんだね」

「え?へへ、勘っちゃ勘だけど、ちゃんと気配を追って来たんだよ」

「えっ気配をって、どうやって?」

「まぁ、残り香みたいものを追った感じかな」

するとこちらからいつもの陽気な笑顔を見せるテリーゴに目線を変えていった後に、マリーは何やら嬉しがるように口元を緩ませる。

「あなた何者?」

「オイラ、忍さ」

「シノビって、忍者?・・・ふふ」

「おいおい、笑うことないだろぉ」

皆で木箱を退かし、扉の全貌が見えると、真っ先にレグがその埃っぽさのないくすんだ木の扉に手を伸ばす。

そしてゆっくりと扉を開けたレグは黙って扉の向こうを見つめると、何故かゆっくりと扉を閉めた。

「何してんの?何があったの?」

マリーがそう聞くと、レグはどこか真剣さの伺える眼差しをマリーに向けた。

「豪勢に地下に続く階段なんて作ってあるぜ?」

「そう、じゃあ、このクラブハウスはあくまで見せかけってこと?」

「多分な。じゃ」

「レグ」

強張った表情を見せるレグの言葉を優しく遮ったマリーとレグの間に、ふとした沈黙が訪れる。

「いつも通りのテンションで」

「・・・ふっ」

表情が綻んだレグにマリーが黙って頷くと、強張った表情が消えたレグは再びゆっくりと扉を開けた。



浮いた景色の中でも少しずつ色々なものが理解出来るようになり、父親との約束が憎しみと殺意に変わり、自分と同じ幼い人間達と共に黒板の前に集まる中で、少なからず安心感を覚えるようになっても、それでも晴れない違和感は未だ胸の中に問い掛け続ける。

私の居場所はまだ見えない・・・。

親しげで陰りのある笑顔を見せるその娘と共に帰り道を歩き、その娘の家の前で小さく手を振る。

自分の家の玄関前に立つ度、殺意が芽生える父親の姿が目に浮かぶ。

玄関を開ける度、相変わらず何も知らずに白々しく声を掛ける母親を疎ましく思う。

父親との約束を過去に押さえ込み、言葉も交わさなくなった父親には目もくれずに、ふと部屋の窓から見上げる星空に教科書で見た革命家に想いを馳せる。

私に居場所は必要なのか・・・。



しばらくするときれいに固められた白い壁と白い階段が終わったが、そこからは代わりにただ土が固まったような一本道が、小さな明かりに照らされながら果てなく続いていた。

「何だこりゃ、一体どこまで続いてんだ?」

「一本道だし、とりあえず行こうよ。こんな原始的な道じゃ、そうそう罠も無いでしょ」

やはりここにも、ハクラ隊長は居なかった。

まったく、本当にカレナ補佐官の情報源は信用出来るのか?

こんなにもデマを掴まされるなんて・・・。

いや、デマというより、情報部からの情報なのに待ち伏せされたことが気にかかる。

まさか、内通者?

薄暗い通路にようやく光が見え、外の空気を嗅ぎながら曇り空を見上げるが、そこは街中でもなく、ただハルトバニアを一望出来る名も無き林だった。

「おいおい、まったくどこだよ、ここ」

口を開きながら、レグは右腕に着けられた通信端末をなぞり始める。

「マリー、どうやらスクファに戻って来ちまったみたいだぜ?」

「そう。じゃあ、振り出しに戻る、だね」

何も、無かった、だと?

あったのは逃げるための裏道だけか。

何も持たずに病室に入り、背もたれを起こしたベッドに座り込みながら外を眺めるタイガに歩み寄る。

「ようタイガ、調子はどうだ?」

「もうさすがにピンピンだ、3日も寝かされてたんだからな。んで、あれから何か掴めたか?」

「マーブルのアジトの裏道の先の林を、テリーゴ達が調べたらしいんだが、近くの閉鎖された発掘場で、使われた形跡のある洞窟を見つけたんだと」

タイガが真剣さの宿った眼差しをこちらに向けたときに、何となく医療機器を乗せた台車を押しながら部屋の前を通り過ぎるナースを見過ごす。

「その洞窟は、どこに繋がってんだよ」

「大きな山の地下通路とか言ってたから、恐らくはハルトバニアの外からは見つけられないような隠し通路ということだろうな」

「じゃあやっぱり、ハクラ隊長はハルトバニアか・・・」

マーブルのアジトの先に旧発掘場、そしてその旧発掘場はハルトバニアに繋がっていた、か。

カレナ補佐官の情報も間違ってなかったのか。

「ハクラ隊長のこともあるが、昨日起きたアストラでの紛争も気にかけなきゃならないだろ」

「・・・俺はそれでもハクラ隊長を追う。紛争なんて、RiTIPとか第百に任せりゃ問題無いさ」



「それでこれが通行証、首に掛けとけばそれでいい。じゃあ、後は適当にな」

「うん」

緊張するなぁ、それに私、眼鏡あんまり似合ってないや。

ソウスケの顔を伺うと、首に掛けた通行証とカメラを見つめるその顔色は、緊張感からかどこか神妙さを纏っていた。

「俺達は良いが、あんたらは何するんだ?」

「オレらはサモンっていう、闘志を具現化する魔法を使う。まぁあんたらが怪しまれないように、わざと怪しまれるようなことをするって感じだな」

闘志を、具現化?

どういうことだろう。

「そんなことして、大丈夫なの?」

「ああいや、実際にオレらがそこに居る訳じゃないから、平気なんだよ」

ますます分かんなくなっちゃった。

「この世界の奴らは、皆そのサモンとか魔法とかを使えるのか?」

「まぁ軍の兵器の大体が魔法関係だからな」

魔法、か、もしかして、あの人がやってたことみたいな感じなのかな。

「ナオも魔法が使えるの?」

ナオが笑顔で小さく頷くのを見ると、何となく魔法というものに憧れに近い感情を抱いた。

クルマというものが音を立てて行き交う、教えて貰った大きな道路を進んでいると、しばらくしてまるで高層ホテルを思わせる、緩やかに描かれた大きな曲線が印象的な建物が見えてくる。

「あれかな、軍の本部って」

「みたいだな」

門の前に立つ制服を来た中年男性に、トウキに貰った通行証を見せ、まるで招き入れるように自動的に開いた透明なガラスの扉を抜けてふと建物内を見渡す。

基地って感じはあまりしないけど。

普通にちょっとしたホテルのエントランスのようにも見える・・・。

自分達と同じような服装に、道具を持った人達に何となく混ざり、皆が揃って入っていく部屋に入ると、そこはいかにも記者会見が開かれる広い空間に繋がっていた。

「おいおい、俺達は別に取材に来た訳じゃねんだし、ここはいいんじゃねぇか?」

「うん、皆が入っていくから、ついて来ちゃった」

呆れるような笑みを浮かべたソウスケから、ふと立て付けられた大きなカメラに目を向けたとき、カメラを構える人の頭上を飛ぶ小さな虫に目が留まる。

「おい行くぞ?」

「うん、ねぇ、あれ、トウキかな」

「あ?」

足を止めたソウスケと共に小さな虫を目で追っていると、小さな虫はゆっくりと記者会見場から出ていったので、エントランスに戻り、角にある勝手に開く透明な扉を抜け、階段を上がる。

ああ、見失っちゃった。

あれ、何で2階なんかに来たんだっけ。

「ソウスケ、これから何すればいいかな」

「とりあえず、あいつらに貰ったリストに書いてある奴を調べりゃいいんだから・・・誰かに話を聞くか・・・」

ハオンジュが追いかけた小さな虫、トウキだという確証はありません。笑

ありがとうございました。

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