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ウラノスの口

「どうゆうこと?良ければ詳しく聞かせて?」

「うん。私達、次元を越えて異世界から来たの」

純粋に納得したような笑みを浮かべるナオだが、やはり予想通りに驚いた顔色を見せるトウキとハルマの方に気が逸れる。

「次元を越えてまで、あんたらは一体何をしようとしてんだ?」

ソウスケの顔を伺うと、こちらと目を合わせたソウスケはあからさまに警戒心を感じさせていた。

「まぁ簡単に言や、俺達の仲間にする人材を探して異世界を回るって感じだ」

「仲間・・・何のために?」

「ただの戦争だ、深い意味は無ぇよ」

「そうか、ならあんたらも軍人か」

頷いたソウスケを見たトウキの表情から警戒心が薄れたとき、ふとナオがテーブルの端に立て掛けてあるメニューをハルマに取らせた。

「とりあえず何か食べない?」

そう言って笑顔を見せてきたナオに頷き返すと、ナオは嬉しそうに開いたメニューに目を通し始めた。

「じゃあナオ、とりあえず食いながら何するか説明してくれよ」

緑色の麺を箸で持ち上げたトウキに返事をすると同時に、スプーンを支えにしてフォークで赤いソースが絡んだ麺を巻くナオを見ながら、何やら薄黄色に固まった薄い何かに包まれた、尻尾が付いた長細いものにかぶりつく。

んんっ・・・。

その瞬間に快感を覚えるほどの音と噛み応えが口の中に広がる。

すごいサクサクだ、しかもこの身も少し甘くて美味しい。

「じゃあまず私達のことを説明するね。私達はサランの国衛隊っていう組織の中の第14番隊、通称偵襲部隊に所属してるの。偵襲部隊は主に敵地に偵察に行ったりするのが任務なんだけど、国衛隊の中の裏切り者を捜したりするのも任務の内に入ってるの。それであなた達に手伝って欲しいことは、スパイのふりをして欲しいってことなの」

スパイの、ふり・・・。

演技?・・・。

「おいおい何だそりゃ」

口を挟みながらも食事の手を止めないソウスケに顔を向けたナオが、すぐにふと見せている真剣な表情を緩めたことで、何となく自分自身も緊張感が緩んだ気がした。

「ふりって、まさか、それで本当のスパイをあぶり出そうってのか?」

するとナオはまるでそれが答えかのように笑みを浮かべて見せる。

「大丈夫大丈夫。演技が下手でも、ちょっと探ってくれればいいだけだから」

何だそっか・・・。

「いやいや、最初から演技が下手とか決めつけられるのもアレだが、まぁいいか。そんで、具体的には何をするんだ?」



自然が作った石の階段が、まるで大きく開けられた口の奥に誘うように続いている風景に、何となく握り締める荷物に力が入った。

この洞窟に、ウラノスの眼が?

ちゃんと天井に小さな電球が付けられていってるけど、入口から見た限りじゃ奥が見えないな。

「そういえば、器にする物決まった?」

「いや、けどまぁ、出来そうなものは持った」

そういえば、堕混って世界龍の血晶の力でなるんだよな。

「堕混なら世界龍の血晶ってので、何とかなりそうだけど」

ロードの足が止まったので振り返ると、ロードはまるで呆れるように小さな笑い声を吹き出した。

「その手があったな、すっかり忘れていた」

え、何だそれ・・・。

「自分自身を器にか、なるほどな」

忘れてたって・・・。

洞窟の中ならではの冷たい空気には似合わない、1つでも相当な明るさを感じさせる電球を眺めながら、安っぽい音を鳴らす薄い鉄の階段を下りていく。

自然が作り出す、何とも言えない涼しさが妙に心地が良いな。

「ていうか出来そうなものって?」

何十メートルにも天井が伸びた広々とした場所に出ると、ふとロードがポケットから取り出した何やら白い球体をしたものを見せてきた。

「これには元々膨大なエネルギーが閉じ込められてる。そのエネルギーをすべて取り除けば、良い器になると思った」

「そうかぁ。それ何?」

「ルーベムーンというらしい。カイルとテリーゴが別の世界から持ってきた」

「へぇ」

ふと遠くに数人の人影が見えると、ロードに気が付いた、いかにも鉱夫を思わせるような服装と装備をした男性達がすぐに親しげに手を振った。

「おお、今日は大漁か」

「あぁ、人手があったからな、こっちはバクトだ。それでこの人がここの責任者のディセンさんだ」

鉱夫達に会釈すると、ライト付きヘルメットを被った、ディセンと呼ばれた1番ベテランの雰囲気を感じさせる男性は、特に警戒心も見せずに小さく頷き返した。

「じゃ、とりあえずメシにすっか」

適当に座り込み、耳障りにはならないが、小刻みな振動音を絶えず鳴らす、側面から三脚のような脚を伸ばした、ステンレス製と思われる幅広くとも膝下までしかない円柱をふと見つめる。

もしルーニーに会わなかったら、未来が変わらなかったら、ハルクとハオンジュと一緒に戦ってたのかな・・・。

そして決して平らではない足場に固定された円柱の上に置かれた、何の変哲もない大きめなフライパンの中に入れられていく切り刻まれた葉物野菜とフルーツ、魚を見つめていく。

2人共、今頃どうしてるんだろ。

ていうか火爪は普通におじさん達の国に行ったんだよな。

もしかして、僕みたいに予期せぬ事態に見舞われてたりして・・・。

澄み切った冷えた空気に満たされた洞窟の中でも、何故か若干の熱を帯び続ける円柱を眺めていたとき、ディセンの手によっておもむろにフライパンの蓋が取り上げられる。

するとその瞬間に大量の湯気が立ち上り、出汁が煮え立つ音が広がり、そして一瞬にして食欲がそそられる匂いがその場を優しく支配した。

思わず唾を飲んだときにディセンがステンレス製のお椀を差し出してきたので、それを受け取りながらお玉で掬われた出汁が、ロードの持つお椀に注がれる様を眺めていく。

うわぁ、美味しそう・・・。

続けて素早くとも丁寧にこちらのお椀にも具材と出汁を注いだディセンは、お玉をフライパンに戻すとゆっくりと腰を上げた。

「じゃ、食い終わったら奥に降りてこい」

「はい。あの、何から何まで、ありがとうございます」

「良いってことよ。ロードの坊主にはいつも世話になってるからな」

そう言って背中を向けて歩き出したディセンだが、何やらまたすぐに振り返ると、まるで念を押すように軽くフライパン辺りに指を差した。

「慌てなくていいからな、ゆっくりよく噛んで食えよ?」

「あ、はい」

お椀をゆっくりと口元に運び、ほんのりとフルーツの香りを漂わせる出汁を一口啜る。

うわぁ・・・すごい温まる・・・。

ちょうど良く脂の混ざった魚の出汁に、フルーツの甘み、そして火が通ってもシャキシャキさが失われない名も知らない野菜。

「そういえば、ロードに世話になってるって、どういうこと?」

「元々は俺の爺さんが鉱夫の責任者をやってた。爺さんが引退した今は父親が会社を継いでる」

なるほど・・・。

「っ・・・へぇ、じゃあ、次はロードが会社を継ぐの?」

「いや、会社は姉さんが継ぐ。俺は、堕混になってからは父親には会っていない」

「そうか」

フライパンの中がきれいになった頃、ふとフライパンを乗せたステンレス製の円柱が依然として小刻みに振動していることに気が付いた。

「これどうやって止めるの?」

フライパンを退かしたロードは慣れた手つきで円柱の脚を持ち、浮かせた円柱の真下に手を伸ばす。

そして何かを捻ったあと、円柱はまるでスイッチを切った掃除機のようにゆっくりと振動音を落としていった。

「それじゃあ早速ウラノスの眼の下に行こう」

「あぁ」

括り付けられた電球が続く方へと進むと、少し長い下り道を抜けた先には再び広い空間があったが、すぐにディセン達の向こうに見える、橙と黄緑の入り混じった神秘的な光に目を奪われた。

何だあれ・・・。

「もしかしてあれがウラノスの眼のエネルギーってやつ?」

「あぁ」

「おお来たか、じゃとりあえずマスク着けろ、一発かますぞ」

何だ?一発?

顔全体を覆うほどの、何やら口元辺りに小さな機械が付いた透明なマスクを渡されたので、ゴムを伸ばし、頭を潜らせてマスクを着ける。

ガスマスクなんてして、何するんだろ。

ふとエネルギーが洩れる壁から電線が伸びていることに気が付くと、すぐにある疑問が沸き立った。

その場に居る全員がマスクを着けたのを確認したディセンが、4本の電線を伸ばす小さなスイッチを持ち上げると、同時に行き止まりの壁から鉱夫達が離れ始める。

まさかここで?

大丈夫かな?この距離で、音とか粉塵とか。

「発破っ」

その直後にまるで洞窟を外から揺らすような振動に襲われるが、すぐに何かに押さえ付けられるような、潰れた爆音に違和感を覚えた。

な、何だありゃ、粉塵が、吹き込んで来ない。

まるで透明な壁があそこにあるみたいに。

一体どうなって・・・。

ていうか、ガスマスク意味無いじゃん・・・。

霧のように細かい粉塵の壁が出来上がっている中、鉱夫の1人が何やら大きな白い箱を粉塵の壁の目の前に運び込むと、同時に別の鉱夫が粉塵の壁の端に屈み込む。

言葉は無くともまるで手順を理解しきったかのように、若い鉱夫が白い箱を起動させるとすぐに中年の鉱夫は何かを操作し、粉塵の壁の形を崩した。

あ、粉塵が、こっちに・・・あれ?

しかし束縛の解かれた粉塵は勢いよく下降し始めると、小さく唸りを上げる白い箱に向かって強く吹き込んでいった。

お尻の方から小さな石ころを排出しながら、白い箱が粉塵を吸い込んでいくが、景色が晴れるとそこに湧き出ていた光は崩れた岩石によって完全に塞がれていた。

あれを、これから全部取り除かなきゃいけないのか・・・。

「じゃ、ぼちぼち始めるか、お前らも手伝え」

「あ、はい」

唸りを上げながら岩石を砕く、何かのエンジンそのもののような外見の機械が、白い箱と同じようにお尻から排出する細かい砂利を集め、刺々しいタイヤが着けられた大きな三輪の台車に乗せていく。

そしてロードと共に昼食を取った広い空間に戻り、適当な場所に細かい砂利を捨てる。

すごいなこの台車、あんなに砂利を積んでも、まるで電動アシスト自転車みたいに軽く進める。

「これ、いつまでやるのかな?」

「あれだけの岩なら、全部砕くのに1日もあれば問題ないらしい。けどエネルギーが湧き出るポイントはもうちょっと深いから、あと2、3回はやるだろう」

「そうなのか」

いつものようにフライパンの中で煮え立つスープをロードと囲んでいると、どことなく頼りにしてるような眼差しを見せるようになったディセンが歩み寄ってくる。

「最近スクファの郊外で紛争が起こったらしいからな。作業が終わって外に出る頃には街にも何かが起こってるかも知れねぇ、お前らも気をつけとけよ?」

紛争か・・・。

小さなものなら気にすることもなさそうだけど。



エンジンの唸る音だけがかろうじて沈黙を寄せつけずにいる中、ふと軍用車に揺らされながらハクラ隊長の背中を思い出す。

その背中は常に殺気を纏っていたが、その他人を寄せつけない佇まいにどこか物悲しさを感じるときもあった。

「まさかサクアが関わっていたなんてな」

タイガが静かに口を開くと、沈黙が訪れる前にふとリマとタイガが顔を見合わせた。

誰に言ったんだよ。

「でっかい独り言」

「ひと・・・ま、まぁな。だがハルトバニアにきな臭い場所なんて無かったよな?デマか?」

「さぁー、もしかしたらそうかもね、デマを掴まされることなんて珍しくないし」

軍用車の速度が落ちたのに気が付いたので、何気なく荷台から顔を出すと、目の前には国境上に構えられた関所があった。

「それでロザー、カレナ補佐官は他に何か詳しいこと言ってた?」

「いや、マーブルの奴と疾風隊の奴が接触してたって情報以外は何も」

「マーブルって?」

頷くリラを見てからすぐに声を掛けてきたカイルに顔を向けながら、ふと視界に流れていくサクアの町並みを確認する。

「サクアに、マーブルっていう、主に国外に向けて活動する無法組織があってな、もしハクラ隊長がマーブルと繋がってるなら、何か規模のでかい企みでもあるんじゃないかと疑わなきゃならなくなるってことになる」

「へぇ。その企みってどんな?」

「いや、そこまでは分からない」

ウラノスの眼と、マーブルに何か関係があるのか?・・・。

フライパンを温めてた調理器具、あの中にもガウロエンジンが入ってます。


ありがとうございました。

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