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ハルトバニアへ

これまでのあらすじ

ロザーの所属する隊の隊長が突如消息を絶った。そのハクラ隊長を捜す中、ロザーは恋人の母がハクラ隊長に誘拐されたことを知り、同時にカイル、テリーゴと出会う。そしてロザーはハクラ隊長がハルトバニア付近で目撃されたという情報を知る。

2人を連れて警捜署に戻り、警捜二番隊執務室に入ったとき、コンスタンを加えた二番隊の人達の間には親しさの満ちた笑い声に包まれていた。

「あ、ロザー」

真っ先にこちらに顔を向けたアキリ隊長に続き、他の皆もこちらに顔を向けると、テリーゴ達という知らない顔を前に、その場に一瞬だけ静寂が訪れる。

「まず紹介する。コンスタンは俺と同じ疾風隊の一員で、他は警捜二番隊、双弓の麗花ことアキリ隊長が率いる隊、双弓隊に所属している。それでこの人が双弓の麗花ことアキリ・ソウガミネ隊長だ」

「初めましてよろしくね」

アキリ隊長が笑顔を見せるとカイルはすぐに気を許すように笑顔を返し、テリーゴも変わらず陽気な佇まいのままで返事を返す。

「それとこっちから、タイガ、リンド、ワインド、この双子がリマとリラだ」



小さな湖を見渡し、少し離れた位置に立つロードに目を向ける。

そんな時にロードの持つ竿が強くしなり出すが、ロードはすぐさま慣れた手つきで竿を引き上げ、暴れだす水面の下から針と餌をくわえた大きな魚を釣り上げた。

「おおっでかいな」

満足げな表情を浮かべながら魚の口を持ち針を外したロードを見てから、再び目の前の水面に垂れ下がる、一本の釣り糸をただ眺めていく。



「じゃあそのウラノスの眼ってので、このハラスティア大陸の勢力をめちゃくちゃにしようってんだな?ハクラ隊長は」

「そうなるけどな」

それでもいつものように眉を上げながら、タイガは落ち着いた態度で小さく頷く。

古代兵器なんて、今更動く訳もないのに、いや、ハクラ隊長は本当にウラノスの眼に関して何かしらの情報を掴んだのか?

軍用車の荷台に揺らされながら流れる街を眺めていくと、やがて高層ビルの角を曲がった軍用車の進む先に、標高4000メートルほどの火山が見えてきた。

「うわぁ」

零れるような笑顔を浮かべるカイルを見ていたとき、ふとカイルの隣に座るテリーゴが、何やら睨みつけるような鋭い眼差しを後続車に向けたのに気が付いた。

「そうだ知ってるか?ロザー、ウラノスの眼に関する伝説」

「伝説?何だそりゃ」

その瞬間タイガよりも速く声を発した、カイルを呼ぶテリーゴに皆の目線が集まると、すぐに後続車を見つめるテリーゴの表情にただならない何かを感じた。

「カイル、何か来る」

何を言い出すんだ?急に・・・。

するとその直後、後続している乗用車の上に音を立てて何かが降り立つ。

あれはっ・・・。

「翼解放っ」

「タイガっ」

「あぁっ・・・あ?」

しかし立ち上がったタイガよりも速く、4枚の艶やかな細身の翼を生やしたテリーゴと、乗用車の上に乗る人型のサモンが同時に宙へと飛び出した。

そしてその一瞬の後に衝撃音が鳴り、拳を付き合う両者の間の空間が、まるで気迫がぶつかり合うかのように強く歪む。

両者が遠ざかっていくと同時に再び衝撃音が鳴ると、軍用車の頭上まで吹き飛ばされたテリーゴから、突如黒く澄んだ何かが矢のように飛び出した。

その黒く澄んだ何かがサモンの胸元に突き刺さると、それは黒く澄んだ小さな爆風を生み出し、サモンをゆっくりと地面に落としていった。

「何だあいつ」

軍用車の荷台に降り立ったテリーゴがそう呟くと、白い後続車は速度を落とし、他の車の群れに消えていった。

「まるで殺気の塊みたいだ。人間じゃないのか?」

「テリーゴお前、そんなこと分かるのか?」

こちらに振り向いたテリーゴの口元は隠れているものの、その眼差しにはふとした表情を見せるような穏やかさを纏っていた。

「オイラ、殺気とか気配とか、そういうのに敏感だからさ」

「そうなのか。確かにあれは、人間じゃない。人間の闘志を具現化する、サモンという中級魔法だ」

それより、あのサモンは一体誰の・・・。

見た限りは軍旗も描かれてない、一般の乗用車だったが。

「ロザー、見たか?」

「魔法・・・すごいな、そんなことも出来るのか。オイラも出来るかな?」

「まぁ、訓練を重ねれば、魔法なんて誰にだって出来るようになる。あの車、誰か乗ってたのか?」

「あぁ、助席に。それに人型のサモンだろ?」

身近で人型のサモンを使う奴って言ったら・・・。

「じゃあオイラにも教えてくれよ」

「あ・・・あぁ、後でな。じゃあやっぱり、あのサモンはキンドウの」

「あぁ」

まさか、ハクラ隊長の指示か?

ということは、やっぱりハクラ隊長はハルトバニアに。

そんな時にテリーゴが再び鋭い眼差しを遠くに向けたまま固まると、先程の白い乗用車がスピードを上げながら再び姿を現す。

「リンドっスピード上げてくれっ」

くそっキンドウのやつ・・・。

荷台の隅に備え付けられている銃身パーツを取り出し、ベルトから拳銃タイプの魔導器を抜いたとき、突然の振動が軍用車を襲う。

「きゃあっ」

「くっそ」

何だ、一体誰が。

キンドウのサモンは、テリーゴが相手をしてるはず・・・。

「ロザーっただの第一法だって」

そう言ったタイガの目線の先に顔を向けると、すぐに白い乗用車の助席の窓から上半身を乗り出した、1人の男が確認出来た。

誰だ?疾風隊じゃない。

「タイガ、ちょっとそいつを頼む」

「おうっ」

すぐにタイガは空気の弾を飛ばす役の男に向けて、男と同じように掌を前に突き出す。

「第一掌っ空螺っ」

タイガの掌から小さく纏まった渦巻く空気の塊が飛び出すが、男は素早く車の中に身を隠してそれをやり過ごし、再びタイガに向けて掌を向ける。

「リマっ」

「第一掌、空殻」

座り込んだままそう言って男に掌を向けるリマを見ながら、銃身パーツを魔導器の銃身に取り付ける。

男の飛ばした空気の弾が、タイガの目の前で瞬間的に形を無くす様を見た後に、タイガは若干嫌悪感を見せつけるような表情をリマに向ける。

「何めんどくさそうにやってんだよ」

「だってビックリしてちょっと足捻っちゃったんだもん」

「何してんだよったく」

ライフルほどの長さになった魔導器の銃身を屈みながら荷台の枠に乗せたその時、乗用車の助席とは反対側の後部座席の窓から別の男が乗り出し、そしてその男の掌から飛び出した帯電する空気の弾が、魔導器のちょうど真下の荷台に直撃する。

くっそっ・・・。

「ロザーっ」

「何でもないよ、それよりリラ、あっちの男頼む」

「うん」

まずはタイヤを撃つか、いくら何でも、一般人かも知れない運転手は撃てないよな・・・。

揺れるけど仕方ない、ここからタイヤを。

「第二掌っ」

何っ第二掌だと?

「交炎っ」

後部座席の男の掌から出現した2つの火の玉が、まるで狙いを定めたミサイルのように軍用車に向かって飛び出す。

くそ間に合わないっ。

するとその直後、リラの前で立ちはだかったアキリ隊長の全身がまばゆい光に包まれる。

そして軽くあしらうように、アキリ隊長が2つの火の玉を手で叩き落とすと、地面に落ちた火の玉は爆音と共に数メートルほどの炎を立ち上らせた。

「アキリ隊長、本気出していいよな?」

タイガがそう聞くが、いつものようにまばゆい光を纏ったアキリ隊長は、まるで何も聞こえていないかのように肘を引き身構える。

「おいアキリっ」

「は、はいっ」

「ったく、ほんとすぐ周りが見えなくなるんだから。ちょっくら本気出していいかって聞いてんだ」

まばゆい光が消え、アキリ隊長がそわそわと周りを見渡し始めた直後に助席の男が空気の弾を飛ばすが、リマがそれを打ち消すと軍用車は大きなカーブに入った。

「うん、じゃあとりあえずタイガに任せる。良いよね?ロザー」

「あ、ああ。でも一般人だったらどうする?」

「いや、第二掌を使うんじゃテロリストか何かだろ?問題ねぇって」

・・・それもそうだが。

「よしっじゃあいっちょやるか」

再び真後ろに白い乗用車がつくと同時に、タイガは腰を落としながら両肘を引く。

「第一気っ立昇っ」

直後にタイガの全身がまばゆい光が纏うが、同時に再び後部座席の男の掌から2つの火の玉が出現し始める。

「第一界っ月光っ」

肘を引いたままの体勢のタイガの両手から光が放たれると、光は2つの火の玉を消し飛ばし、白い乗用車のヘッドライトと前輪を押し潰し、続けて両側の扉を弾き飛ばし、そして同時に失速する白い乗用車の両脇の地面を数メートルほど舞い上がらせた。

「やべっやり過ぎた」

速度をなくした白い乗用車が遠ざかる中、まばゆい光が消えたタイガの隣にテリーゴが降り立った。

「ふぅ、ふぅ、やったのか?」

「まあな」

こいつ、酷く疲れてはいるが、サモンと生身で戦って死なないとはな。

大したやつだ。

なら、このカイルも、テリーゴと同じくらい実力があるのか。

異次元から来たとは言え、一体こいつら何なんだ?

「あそうだロザー、さっきの話の続きなんだが」

さっきの続き?

何話してたっけ。

「あぁ」

「どうやらウラノスの眼の創造主の、末裔ってのがいるらしい」

「ふーん」

末裔ねぇ・・・そいつなら、ウラノスの眼の動かし方でも知ってるってのか?

「おいおい、もうちょっとリアクション取れよぉ」



2メートルほどの小さな木に実る、無意識に唾を飲ませるほど赤々と熟した楕円に伸びた果実に、ゆっくりと手を伸ばす。

どうやって取るんだろ。

力を入れたら潰れそうなほど柔らかいけど。

隣に歩み寄ったロードの、慣れた手つきで果実を摘み取る様を見ながら、小さいペットボトルほどの太さと長さを持つ、アスミと呼ばれる果実を摘み取る。

へたを取り、上からそのままかぶりつくと、ブルーベリーのような柔らかい噛み応えを感じさせるそれは、苺ほどの糖度の中にほんのりと梅のような酸味を感じさせた。

うん、美味しい、これ。

甘さと酸っぱさが、すごくちょうど良い。

「あとはあれも取るか」

そう言ってロードが歩き出した先に目線を向けると、ロードの身長ほどあるサボテンが視界に入ると同時に、その植物の頭に実る、ブドウのように小さな果実が集まった形をした、黄色い果実が目に留まった。



クルマという乗り物の中から流れる景色を眺めていると、ふと先程とは建物の造りや色合いが少しだけ変わっていることに気が付いた。

「ナオ、もうサランってとこに入ったの?」

「うん」

そう応えるとナオは両手で握った円形の取っ手を左に回す。

こんな乗り物を扱えるなんて、すごいなナオは。

しばらくして停まったクルマから出たとき、真っ先に今にも雨を降らしそうな雲行きの空が視界に広がった。

雨降りそうだけど・・・大丈夫かな。

「どこか行くの?」

「ちょっと待ってね」

あどけなさの感じる笑顔でそう応えるとナオはポケットに手を入れ、どこか見覚えのある長方形をしたものを取り出した。

「もしもし?・・・うん、じゃあ今から行くね」

通信機をしまいながら再び笑顔を見せたナオについていくと、しばらくして何やらレストランのような外見の建物に連れられる。

そして店員の男性に案内された6人掛けのテーブルには、ナオと同じ世代と思われる2人の男性が居た。

「えっとこっちがトウキで、こっちがハルマ」

小さく頷いた金色に染められた短髪が印象的なトウキに頷き返し、椅子に腰掛けながら縛った黒髪とピアスが印象的なハルマに目を向ける。

2人もナオと同じ軍人なのかな。

緊張と警戒心に満ちた顔色の2人の間にナオが座ると同時に、目の前に水の入ったコップが置かれたので、とりあえずコップを手に取り、一口だけ水を飲む。

何かこっちまで緊張してきちゃう。

「んで、あんたらは?」

「俺はソウスケでこっちはハオンジュだ」

どことなく慣れたような口ぶりでソウスケが口を開くと、3人はすぐに興味を示すような眼差しをこちらに向けた。

「あんたもしかして、西の人間か?」

え?西って。

「ううん」

そう応えるとトウキは一瞬だけ眉をすくめた。

「そうか。まず、あんたらは何者だ?ここの人間なんだろ?」

「私達・・・実はこの世界の住人じゃないの」

するとふと目を細めながら目線を上に向けたハルマも、トウキに続いてナオを見るが、ナオはただ目を見開いただけだった。

アキリ・ソウガミネ(26)

警捜二番隊、通称、双弓そうきゅう隊隊長。弓魔法を得意とすることから、双弓の麗花と呼ばれている。隊長に抜擢されて二年目。隊長としては若い為、双弓隊の隊員からは相変わらず後輩扱いされているが、本人はその方が気楽なことを分かっており、その事で特に怒ったりはしない。軍人として自覚を持つ為と言い、周りから特に何か言われてる訳ではないが、常にショートヘアを保っている。


ありがとうございました。

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