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見えない背中2

ふとすれ違っていく人達の中に居る、髪を染めて個性を主張する人に目が留まったとき、初めてあの人の顔を見たときのことを思い出した。

ふと建物の壁に貼ってある映画のポスターに描かれた、丘の上で寂しげに佇む龍を見たとき、龍の姿になったあの人の左胸を貫いたときのことを思い出した。

「おーい、どこ行くんだ?」

ソウスケの声で我に返ると、すぐにソウスケが体を向ける先に建ち構える、くすんだ灰色に染まった高いビルに目を奪われた。

「ここだぜ?」

「うん」

確かに私はあの人の心臓を貫いた。

だけど、あの人はまだ生きてる。

ドラゴンの言う通り、私の力が未熟だっただけ?

それとも、一瞬でもためらったから、無意識に急所を外してしまったの?

私は、心も力もまだ未熟なのか・・・。

吹き抜けになっている透明な天井や、幅の狭い高く伸びた大きな窓から入る日光が、まるで外に居るかのように照らしている展示場とやらを歩いていくと、やがてソウスケはある展示品の前で立ち止まった。

「あ」

これが、ガウロエンジン・・・。

「意外と小さいね」

「あぁ。だがまぁこれは初期モデルで、今はもうちょっとでかいって書いてあるぞ?」

もうちょっとでかい?

なら持って歩くのは大変なのかな?

「じゃあ、これ持っていこうよ」

するとソウスケは何故か驚くような顔で素早く辺りを伺うように周りを見渡す。

「人前でサラっと言うなってそういうこと。怪しまれんだろぉ」

怪しまれる?

「そういうものなの?」

何となくガウロエンジンの隣にある展示品に歩み寄りながら、また別の展示品を眺める人達に目を向けていく。

「いやそういうもんなのって・・・そういうもんだろぉ」

長い筒状のものの中に螺旋状のプロペラが入っているものみたいだけど、動く仕組みはガウロエンジンと似てるかも・・・。

「ねぇ、これも良いんじゃない?」

「あ?・・・ああ、サラン?って、隣の国のもんか。でもこれ、ガウロエンジンとは大分違う仕組みだし、勝手に動くもんでもないみてぇだぜ?」

何だ、全然違うのか。

「何だぁ」

「だが隣の、このサランとかいう国、どうやら車のエンジンの技術に関しては世界でトップクラスみてぇだな」

クルマって、さっき見た車輪が4つ付いたやつのことかな?

「ふーん」

「車のエンジンを取り込んだディビエイトってのも面白いかもな」

「じゃあ、これからディビエイトにする人を捜さないと」

何気なく返事をするソウスケに顔を向けたとき、ふとソウスケの近くで立ち止まった、ガウロエンジンを眺める人に目が留まる。

その瞬間、一気にヘイトの姿が脳裏に甦ると同時に、ヘイトがあの人の放つ光に包まれていく情景も甦った。

「ヘイト?」

その女性がこちらに顔を向けたとき、すぐに感じた違和感が何なのかを理解させられた。

「何だ知り合いか?」

「ううん。人違い」

「あんだよ」

そうだった、ヘイトは死んだんだった。

小さなプロペラの下に小さな発電機が付いたもの眺めながら、ふとあの人との戦いを振り返る。

もし今あの人に会ったら、私は、あの人を殺せるだろうか。

「なぁ、ディビエイトにするやつを捜すのって、どうやんだ?」

「え?・・・うーん、分かんない」

「じゃ、またドラゴンに聞くか、とりあえず出るぞ?」

「うん」

通り過ぎ様に再び幾つものエンジンを見ていったとき、ふと先程のヘイトに似た女性がこちらに方に近づいてきたのが見えた。

何となく顔を見れずにすれ違い、外に出て空に手を振るソウスケを見ながら、未だに胸の底に根付く寂しさとヘイトを重ねる。

姿を現したドラゴンに目を向けると、面倒臭そうな顔色を見せつけるドラゴンにさえも、ソウスケはその表情からまったく強気さと凛々しさの混ざった表情を崩さない。

「よぉ、ちょっと聞きてぇんだが、ディビエイトにする奴はどうやって捜すんだ?」

ドラゴンって、どんな生き物に乗って空を飛んでるのかな?

「ああいや、それはオレがやっとくから、あんたらはガウロエンジンを手に入れることだけ考えてくれ」

ソウスケだけ見えるなんて、ちょっとずるいかも。

「お、そうか?てか、ガウロエンジン、そこの展示場にあんだが、あれで良いなら持ってくけど?」

頼んだら私にも見せてくれるのかな。

「展示品?いやぁ出来んなら現役で動いてる方が良いんじゃねぇか?」

「じゃあ、使われてんのを奪うか、分かった」

ドラゴンの姿が消え、落ち着いた中にもどこか小さなやる気を湧かせるようなため息を吐くソウスケを見ていたとき、ふと後ろから声を掛けられる。

ん、あっヘイト。

「あ?」

「あなた達、ガウロエンジンに興味があるの?」

そう言いながら口角を上げるその女性の泣きぼくろに、改めてヘイトの姿が脳裏に浮かび上がる。

「あんたは?」

「私はナオ。サランで軍人をやってるの」

やっぱりヘイトじゃない、いや当然か。

「軍人?隣の国の軍人が何でここに」

警戒心を見せるソウスケだが、そんなソウスケにもナオと名乗った女性はまるでヘイトのように、自信が滲み出る誘うような目つきを見せる。

「大丈夫大丈夫。ちょっと盗み聞きしたけど、別に通報しようとかそんなんじゃないから」

「は?何だって?何盗み聞きしてんだよ」

「あ、ごめん。だけど違うの、ちょっとあなた達の力を借りたいと思って」

「あ?何だよ、いきなり」

ヘイトと過ごした日々の記憶を思い出しながら、ふと困ったように頭を掻くソウスケと目を合わせる。

「てかあんた何ニヤニヤしてんだよ」

「え?」

ヘイトも、無意識に正直なことを言っちゃう人だったな。

「力を借りたいって、どうして?」

「私今、グーテター阻止のための極秘任務で動い・・・あ、言っちゃいけなかったんだこれ。あの、とにかく外部の協力が必要なんです」

外部の協力?

「おいおい、外部ってそういう意味じゃないだろ、第一俺達が誰かすら分からねぇのに」

「うーん、何て言うか、こう、あなた達の話を聞いて、ピンと来たって言うか・・・」

ピンと来た、か。

そういえばヘイトも、何かあったら直感で動く人だった。

「何だそれ」

「ソウスケ、私は良いと思う、協力しても」

「あ?いやよく考えろよ。もしかしたら最初っから丸々嘘ついてるかも知れねぇだろ」

それは・・・。

「嘘じゃありません。軍の中の誰もが知らない、ほんとに外部の人間を使えば、例えどんなスパイでも対抗出来ないと思って」

困ったように笑うそのあどけなさはヘイトには無かったものの、面影がヘイトと重なるナオにはすでに少しの親近感と安心感を感じ始めていた。

「そりゃあ・・・まぁそうかも知れねぇけどなぁ」

「もし協力してくれたら、サランが使ってるガウロエンジンあげるよ?最新モデルの」

「え、まじか・・・」

ヘイトを思い出すと、何となくあの人も一緒に思い出しちゃう。



「ロードって、このスクファって国の出身なんだよね?」

「・・・あぁ」

そう応えるとロードは紙コップを持ち、ゆっくりとコーヒーを啜った。

ふとした沈黙の中で、ガラス越しに何となくスクーターに乗って街を行く人を目で追ってみる。

「じゃあ、他の兵器とか詳しい?」

そう聞いてハンバーガーにかぶりつくと、ロードも同じように開けた包み紙ごと持ったハンバーガーを口に運ぶ。

ふとした沈黙の中で、手を繋ぎ、楽しそうに会話しながら街を行くカップルに目を向けてみる。

「・・・まぁ少しは」

ふとした沈黙の中で、バンズに挟まれたパテの中にある、ビーンズに似た食感のものを噛み締めてみる。



熱したフライパンにお肉を乗せ、お肉が焼ける音、油の弾ける音を聞きながら、いつものように玄関脇のポストに挿し込まれた新聞紙を取り出す。

そして新聞紙をテーブルに置きながら、シンク脇に置いた小さなテレビに目を向ける。

「続いてのニュースです。20代から30代の女性だけを狙った連続殺傷事件の犯人と思われる、13歳の女性が今朝、4人の警捜官によって拘束されました。この事により、事件の起こっていたパタラでは安堵感が広がっています」

13歳・・・学校にまで違法改造したモデル魔導器が出回ってるのか。

おっと肉が焦げちゃう。

新聞に目を通しながら一口大に切ったお肉を食べ、そして魔導器を点検してから宿舎を出る。

さてと、カイル達と会うまでに何か情報が掴めればいいけど。

警捜一番隊の執務室のデスクにバッグを置いたとき、入口から声がしたのでふと後ろを振り返る。

「よっ」

「あぁ」

「昨日はどうだった?彼女の爺さんと」

そう言ってコンスタンはからかうようにニヤつき出し、反対側の壁沿いに列べられたデスクの1つにバッグを置く。

後で情報部にも顔を出してみるか。

「それがさ」

「何だ?説得しきれなかったのか?おいおいそれで良いのかよ」

「いや違うんだよ。実はハクラ隊長に従う奴らがさ、お爺さんの娘さん、つまりリコッタのお母さんを誘拐してさ。それで疾風隊の一員なら何とかしろって話だったんだ」

「何だそれ、何で誘拐なんて」

そう言いながらコンスタンは脱いだコートをハンガーに掛ける。

「リコッタのお母さんは、ウラノスの眼を調べてるらしくてさ。だからハクラ隊長は、ウラノスの眼のことを知ろうとしてるってことになる」

「ウラノスの眼・・・今で言う、重力砲の原形だよな?雲隠れして古代兵器を調べて、まったくオレらの隊長は何やってんだ?」

「さぁね、さっさと見つけだして本人に聞こう」

追い詰めたとして、ハクラ隊長が素直に話すとは思えないけど。

「そうだ、それと昨日、お爺さんと一緒に、ウラノスの眼を探してるって言う奴らが居たんだ。後で会うからな」

「おお?そうか、物好きも居たもんだな。あ、おっすカレナ補佐官」

コンスタンの目線の先に目を向け、ちょうど扉を閉めたカレナ補佐官に会釈をする。

「えぇ、2人共ちょっといいかしら?」

何だ?何かあったのか?

抱える書類をデスクに置いたカレナ補佐官に歩み寄ると、コンスタンはカレナ補佐官の近くのデスクに軽く寄り掛かる。

「昨日、パタラの情報部から通達が回ったの。ハクラ隊長ならびに、数人の疾風隊と思われる人達の姿をハルトバニアの麓付近で確認したとね」

「まじすかっ何で山なんかに隊長達が」

「そんなこと知らないわよ。それであなた達には、疾風隊として二番隊と一緒に、ハクラ隊長達の捜索と拘束の任務について貰うことになったから」

とうとう上層部は、ハクラ隊長を・・・。

「まぁ、オレ達たった2人だけじゃどうしようもないしな」

「あぁ。あそうだ、これから、恋人のお爺さんに紹介された人達と会うから、その人達も一緒にハルトバニアに向かっても良いですよね?」

すると状況が読めないことを分かりやすく悟らせるようにカレナ補佐官は目を細め、その表情を硬くして見せる。

「ですよねって、てか誰だよお爺さんに紹介された人って、一般人でしょ?無理に決まってるじゃない」

「あはっあのー実は、恋人のお爺さん、元軍人で、昔は軍師と称されたすごい人なんですよね」

「ぅえっそうなの?そのお爺さんて・・・」

「イグナス・サンドバーグです」

目を見開いたカレナ補佐官はすぐにその表情に心当たりを感じさせるが、何やらまたすぐにその眼差しに鋭さを甦えらせる。

「でも、そのお爺さんの知り合いは、軍人じゃないんじゃないの?」

「ん、まぁ、そうなんですけど、でもその人達もウラノスの眼を探してるようで」

「その人達もって、まさか、ハクラ隊長も?」

「はい、どうやらそのようです。ハクラ隊長、実はウラノスの眼の調べてるっていうお爺さんの娘さんを誘拐してるんで」

すると深刻な表情で小さく頷いたカレナ補佐官は、再びデスクに置いた書類を抱え始める。

「ならこっちでも少しウラノスの眼について調べてみるわね」

オレンジ色のタイルが規則的に列べられた道路を渡り、パン屋の角を曲がった先にある、リコッタの家の前で待つ2人の姿を確認する。

次元を越えた、か。

一体どんな技術でそんなこと・・・。

「おっ」

そして緊張感の無い態度で手を挙げて見せたテリーゴに頷き返し、2人の下に歩み寄った。

「今さっき、ハクラ隊長の居場所に関する手がかりが掴めたから、これから俺の仲間も連れてそこに向かう、良いな?」

「オーケー」

コンスタン・バンデラ(28)

警捜一番隊、通称、疾風はやて隊所属。ロザーとは同期。情報部出身でコネもあり、情報を集めることが得意で隊の中では情報収集担当としての暗黙の取り決めがある。

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