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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
第一章

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カレーとビーフシチュー

「貫通させるんでしょ?」

そう言って両手を大きく広げてシキを挑発してみる。

「うおぉぉ」

雄叫びを上げながらシキが突っ込んで来たが、刀の先端は鎧に突き刺さりもせず、甲高い衝突音と共にその勢いを完全に失った。

刀を掴み、シキに絶氷弾を撃つと、シキは氷弾よりも少し大きな氷の弾とその弾の爆風に勢いよく吹き飛ばされ、そしてシキの手を離れた刀は元の姿に戻っていった。

「くっ」

痛みを怒りに変えるように表情を歪ませながらシキはふらふらと立ち上がると、足に風を纏って再び走り出し始めた。

絶氷弾を直に受けてもまだ動けるなんて。

根性あるな。

刀を拾い上げると刀は再び変化し、シキは先程よりも低い雄叫びを上げながら飛び掛かってきた。

「絶氷槍」

より鋭く頑丈になった氷の槍を出し、それを思いっきり振り上げると刀は勢いよく宙に舞い上がった。

それと同時にブースターを吹き出しながら回転し、尻尾をシキの脇腹に叩きつけると、シキは再び勢いよく吹き飛ばされた。

シキは必死に起き上がろうとするが、力尽きそのまま仰向けになった。

「・・・ぐっ、はぁ、はぁ・・・降参や・・・」

「あぁ」

鎧を解いてシキに近づくと、医療班らしき人達がシキの下に走っていった。



まさかあんなのを隠してたなんて。

でも尻尾なんか生えてちょっとかわいいかも。

「氷牙、強いやん。まさかシキが負けるやなんて」

驚くような口調で口を開くユイに顔を向けるが、ユイのその表情は至って落ち着き払っていた。

「シキって覚醒してるのかしら?」

ユイはおもむろにこちらに振り向くとすぐに目線を落とし、テーブルに置かれた木製の浅いボウルに手を伸ばした。

「何や?覚醒て、さっきの氷牙みたいなもんのことゆうてんの?」

せんべいをかじりながら、ユイはまるで動揺すらせずにそう聞いてきた。

「え?んーそうね、多分」

シキが負けても案外リアクション薄いのね。

「そんなもんがあるんやね」

それより覚醒もしてないのに、関西で1番?

あの刀のせいかしら?

「あんな強いんやったら、氷牙が組織のリーダーやろ?」

「氷牙はリーダーじゃないわ」

「せやったらミサなん?」

「あたしでもないわ」

あら、やっと驚きの顔を見せたわ、ユイ。

「そうなんやぁ」

覚醒よりもリーダーが誰かについての方が興味があるのかしら。

モニターが壁の中にしまわれて少し時間が経つと、氷牙とシキが帰って来た。

「いやぁ、ええ汗かいたわぁ」

真っ先に自販機に向かい、お金も入れずに自販機に缶を吐き出させたシキを見ていた氷牙は、ただ呆然としていた。

「あれ?お金は?」

あら氷牙、あたしと同じこと言ってるわ。

「そんなもんいらんわ、氷牙も飲むか?」

「あぁ」

しかし特に驚くこともしなかった氷牙はシキに缶を渡されながら、シキと共に椅子に座った。

「じゃあ、あの刀のこと教えてよ」

「あれはな、刀ん中に鉱石を埋め込んでんねや。そんで力と共鳴させると、あんななるんやな」

「なるほど」

そんな使い方があったのね。

ていうか、大阪にもあの鉱石が埋まってたってことよね。

「それ以外に使い方は知ってるの?」

それでも何ひとつ表情を変えない氷牙を特に気にすることはなくシキは、氷牙の問いには小さく首を横に振った。

「ほんまに知らんねん。まぁ、強いて言うたら金に換えるくらいやな」

そう言うとシキは木製ボウルに盛られたせんべいに手をつけ始める。

確かにクリスタルのようにも見えるし、いくらかのお金には変えられるかも知れないわね。

「そうか、なら教えるよ」

「何でやねん、俺負けてんで?」

「シキ、さっき言うたやろ?勝っても負けても情報貰えんねん」

すぐさまユイは少し説教じみた口調でシキに突っ込みを入れる。

「せやった、せやった。ほんなら教えて貰おうか」

まるで開き直るような態度でユイから目を逸らしながら、シキはせんべいにかぶりつく。

シキったら、本当に分かってるのかしら?

「あぁ、今分かってるのは、鉱石を使うと今持ってる力とは別に、新しい力が手に入るんだ」

「はぁ?ほんまかいな」

シキは思わずテーブルにせんべいを落とし、またすぐに慌てて拾い始めると、そんなシキをユイは呆れるような目で一瞥する。

「夢みたいやね」

「あとね、強制的に覚醒することも出来るのよ?」

「それはほんまにほんまか?」

すると黙って話を聞いていたハヤトが急に口を開いた。

・・・ちょっとびっくりしちゃったわ。

「あぁ確か7人が実験して全員成功してるよ」

ハヤトに顔を向けながら氷牙は表情を変えずにすぐに応える。

「使うって、どう使うんや?」

シキがそう言うと氷牙は答えを委ねるようにこちらに顔を向けた。

そういえば氷牙は詳しくは知らないんだっけ。

「あのままじゃ大きすぎるから、親指くらいの大きさに砕いて、手に持って祈るのよ」

「祈る?何や、えらい簡単やな。ほんまにそれでええの?」

すると先程まであっけらかんとした表情をしていたシキは、急にその眼差しに真面目さを宿しながら聞き返してきた。

「そうよ。強制覚醒はそれで良いけど、新しい力を望むなら今の力との相性を考えなきゃダメみたいなのよ」

「相性か・・・」

小さく頷くシキは真剣な表情を浮かべながら人差し指で顎をさすり始める。

やっぱりちゃんと話聞いてたんじゃないのよ。

「風で1つ挙げるとするなら、炎とか」

氷牙がそう言うとシキはひらめいたような表情で氷牙に顔を向ける。

「なるほどな」

「鉱石を使えば、僕達はまだ強くなれる。今は関西で1番でも安心は出来ないって訳だね」

「そうか・・・それはほんまに貴重な情報やな」

缶ジュースを飲み表情を落ち着かせたシキはそう言って神妙な面持ちを浮かべる。

「そんな貴重な情報くれたんやから、うちらもお返しせんとね。何でも言うて?」

するとユイが笑顔でそう言いながら目を輝かせるようにこちらを見た。

えっと・・・。

「そうだね、僕が知りたいのは怪しい動きをしてる組織の情報とか」

氷牙ったら、勢力争いを心配してるのかしら。

「怪しい?」

氷牙に顔を向けながらユイは小さく眉をすくめる。

「例えばやたらと勢力を拡大させようとしてる組織とか、急成長した組織とか、戦争しようとしてる組織とか」

まさか、強い人と戦いたいだけなのかしら。

「んー、今んとこはそんな物騒な情報は聞いてへんけど」

少し考えたユイは悩むように首を傾げながらそう応えるが、それでも終始氷牙はまったく顔色を変えようとはせず、ただ小さく頷く。

「もし分かったら組織にメールしてくれたらいいから。その代わりこっちも新しい情報を掴んだら伝えるよ」

「了解や」

ユイが笑顔で応えると氷牙がこちらに顔を向けた。

「ミサは他に言うことある?」

情報交換だけじゃやっぱりちょっと寂しいわね。

せっかく友好関係結んだんだし。

「そうね、出来れば情報だけじゃなくて、いざという時の援軍的なこともお互いにした方がいいんじゃないかしら?」

「そやね、せっかく仲良うなったんやし、助け合わんとね。2人共、ええやんな?」

「俺はええで」

「俺も賛成や」

なんとか話がまとまったわね。

「決まりや、改めてよろしくね」

「えぇ」



「お帰りなさい。どうでした?」

組織に戻るとおじさんは椅子を回し、体をこちらに向けて出迎えた。

「問題なく進んだよ」

「良かったですね」

「あぁ」

会議室に入ると同時に、ちょうどこちらに顔を向けていたアキと真っ先に目が合った。

「どうだった?」

「問題なく話が決まったよ」

椅子に座りながらそう応えると、アキは落ち着いた表情ではいるが安心したように小さく頷いた。

「そうか、1度くらいは挨拶しないとね、ユウジ」

「そうだね」

「ユウジの方はどうだったの?」

「こっちも、さっきメールで軽い同盟を結ぶって返事したよ。これで一気に2つと繋がったね」

「そうか、じゃあ組織とのやり取りは、ミサ頼んだよ?」

こちらに振り向いたミサはすぐに微笑みを見せてきたが、その表情はどことなく何かを企んでいるような不敵さを思わせた。

「分かったわ。その代わり何かあったらあたしの指示に従うのよ?使者なんだから」

「分かったよ」

「じゃあミサさん、大阪の組織はどんな所か、軽くでいいから報告して?」

ユウジの言葉にミサがその方に顔を向けたとき、おもむろに立ち上がった。

「えぇ分かったわ」

「じゃ僕はこれで」

「うん」

ユウジの返事と同時に不安げにこちらに振り向くミサとふと目が合ったが、コップを持ちすぐにホールに戻り、ホットミルクを注ぎ直した。

「あ、氷牙、もしかして会議に参加してたの?」

椅子に座るとすぐに声をかけてきながらユウコが近くの椅子に座った。

「まぁ成り行きでね」

「シンジが氷牙と戦いたがってたよ」

「そうか」

ユウコが指を差したモニターを見ると、シンジが3人とバトルロイヤルをしているみたいなので、何となく観てみる。

あんなでもシンジが1番良い動きをしているみたいだな。

ただ力があっても、使い方を知らなきゃ意味が無いからな。

そういう点でシンジは修業してるのかな?

「今朝ね、シンジと学校行ってる時に変な人に襲われたの」

モニターを見ながらユウコが世間話でもするようにそんな話をし始めた。

その顔からすると怪我は無かったみたいだけど。

「変な人?」

「うん、ああ言うのを辻斬りって言うのかな」

江戸時代じゃないんだから。

「刀でも持ってたの?」

「そうそう。後ろから声かけられて、振り向くと突然切り掛かってきたの」

じゃあ、辻斬りか。

「シンジがやっつけたの?」

「そうなの。私達が能力者だって知らなかったみたい」

「そうか」

こんな世の中じゃ、有り得ないことじゃなくなった訳か。

「シンジが居て良かったね」

「そうだよね。ちょっと借りが出来たみたい」

何となくホールに人気が増したのを感じるようになった頃、舞台を下り、こちらの方に向かってくるミサが目に入った。

「そろそろディナーの時間だわ」

「そうだね」

料理が運ばれたので2人と共に席を立つと、テーブルに戻ると同時にシンジがユウコの隣に座った。

「氷牙、後で闘技場付き合えよ」

「あぁ」

自信の滲み出る眼差しが何となく板についてきたように見えたシンジはそう言うと、すぐに料理を取りに席を立つ。

「氷牙の切り札ってかわいいのね」

シンジが視界から居なくなると同時に、ミサが唐突にそう言いながら笑顔で顔を寄せてきた。

「かわいい?」

「尻尾なんて生やしちゃって」

シキとの戦いをモニターで見てたんだな。

「そうか」

「えっ何?氷牙、尻尾が生えるの?」

話を聞いていたユウコがどうやら食いついたみたいだな。

「まぁね」

するとユウコは期待感をあらわにするように更に目を輝かせる。

「えー、見せてよ?」

「じゃあシンジが僕を追い詰めたらね」

「出来るかなぁ?・・・無理かもなぁ」

そう応えると、シンジの居る方に目も向けずにユウコは徐々に諦めるように声色を変えていった。

「おい、ミナミ、勝手に決めんなって」

そう言いながらシンジが料理を持って席に戻ってくると、ユウコはすぐにシンジの持って来た料理に釘付けになる。

「・・・何それ?」

「カレーとビーフシチューの合いがけだよ」

どっちがどっちだか分からないな。

「おいしそう・・・」

案外ユウコはこういうのが好きみたいだ。

「あら、意外とイケるかも知れないわね」

スプーンを手に取るとシンジはカレーと白米とビーフシチューをスプーンで混ぜ合わせ始める。

「シンジってカレーを混ぜて食べるのね」

そんなシンジの手つきをミサは少し物珍しそうな眼差しで見ていた。

「あぁ、普通でしょ?」

シンジは何食わぬ顔で応えるとそれをスプーンで掬い口に運ぶ。

「あたしは崩さないで食べるわ」

「ふーん」

返事をしながらもシンジはミサに構わず黙々とそれを食べている。

「私もやってみようかな・・・おいしい?」

ユウコも同じくそんなミサを気にせずに、ニヤつきながらそれとシンジに目を向けている。

「あぁ、うまいよ」

バイキング特有の食べ方だな。

そういえば、バイキングのメニューってランダムなのかな。

「氷牙、妖精にあったんですって?」

「あぁ、でもこの前で2回目だよ」

「あらそうなのね、マナミが言ってたわ。集計の時にいたんですってね」

「そうだよ。ヒカルコがカズマと知り合いだから、ヒカルコに言えば会えるんじゃないかな」

僕もどちらかと言えば、カレーは混ぜないで食べる方です。笑

ありがとうございました

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