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日常の終わりは突然に

イングランド?

「その組織って、テイラーが居る組織?」

「ああ、俺は初めて行くから、それは知らない」

「そうか」

でも海外の組織となんてそうそう関わることないしな。

しかもイングランドって限定されてるし。

まぁユウジなら知ってるか。

ヒカルコとユウコ、そしてメイナと共に朝食卓を囲んでいるとき、ふと舞台から下りてくるシキが目に留まった。

あれ・・・シキだ、シキもこっちに来るようになったのか。

するとシキは親しげに手を挙げて見せながら、ノブとヒロヤの居るテーブルへと向かっていく。

「氷牙知ってる?この前から、タツヒロがアリサカの仲間になったの」

タツヒロ?・・・。

「えっ何でタツヒロ、アリサカのこと良く思ってなかったのに」

「何かね、最近になってよくアリサカの動画にタツヒロが一緒に映ってるの」

「へぇ」

「そういえばヒカルコちゃん、アリサカって逮捕されたんじゃなかったっけ」

お茶碗を持ちながらメイナがそう聞くと、ヒカルコは落ち着いた笑みの中に若干の自信を伺わせた。

「ニュースじゃやってないけど、すぐにアリサカの仲間が警察から奪還したんだよ」

「へぇ、でも何で知ってるの?」

「まぁタツヒロとはたまに連絡とってるから」

会議室に入るとそこにはいつものようにくつろぐマナミとミントが居た。

「ユウジは?」

「もうすぐ戻ってくるから、待ってたら?」

「あぁ」

何となく大人びたような雰囲気を感じるマナミと、旅番組が流れているテレビに何となく目を向けてから研究室に入る。

「そういえばアキって鉱石使ってるの?」

「うん、まあね、人の居場所が分かるだけじゃなくて、詳細な地形まで把握出来るようにしたよ」

「そうか」

ユウジも強くなったって言うし。

「もしかしてアキも戦場に?」

するとアキは常に冷静さを纏ういつものその表情で小さく頷いた。

攻撃型じゃなくても、アキみたいな力は戦場に必要か・・・。

しかしすぐにアキはその表情から、まるで安心感を伺わせるような微笑みを見せた。

「僕は体育は苦手だったけどさ、自衛隊の人に体の使い方とか色々教えて貰ったら、もう苦手意識は無くなったよ」

「じゃあ、拳銃とか持つの?」

「携帯はしないけど、使い方は学んだよ」

「へぇ、すごいじゃん」

呆れるような笑い声を漏らしながらマグカップを手に取ったときにアキは、ふと何かに気を取られるかのように反射的に会議室に顔を向ける。

「ユウジ帰ってきたよ」

そして少しの沈黙の後にそう言った直後に扉が開き、会議室にユウジが入ってくる。

「おお氷牙、シンゴが来たらすぐ行くからね」

「あぁ」

「そういえばユウジって、何でそんな急に強くなったの?」

コーヒーを注いだマグカップを口に運ぶ、そんな日常的な動きの中にも、ふと以前には感じなかったたくましさが伺えた。

「実はね、氷牙に持ってきて貰った異世界の鉱物をここの鉱石に混ぜてみたんだ」

混ぜたって・・・。

「溶かして?」

「うん」

ネオグリムの血晶と妖怪石を、鉱石にか。

「そしたらさ、すごいものが出来たんだ」

「どんなの?」

もしかしてあの見たこともない機械でやったのかな・・・。

「いや、もう無いよ、1個しか作らなかったし、それにそれは俺が使っちゃったから」

ふとユウジの表情に神妙さが伺えると、その雰囲気からどことなく不穏さを感じた。

「何か問題でもあったの?」

「んまぁ、その鉱石を使った直後に意識を失って、そのまま3日起きなかったみたいでさ」

3日も意識不明か、確かアイリも2つ目の鉱石を使ったときに倒れたって言ってたっけ。

「その時にマナミがずっと看ててくれてね」

「だから急に仲良くなってたのか」

するとアキは小さく笑い声を吹き出し、まるでユウジに何かを訴えるような眼差しを向けた。

「まぁ、それでマナミと付き合うようになったっていうか、まぁそれは別に良いんだけどね、そしたら、最終的には3回覚醒したくらいにまで強くなったんだ」

3回覚醒か・・・氷王牙と同じくらいってことか。

「へぇ。じゃあ、第三覚醒?」

「そうだね」

シンゴはノブには敵わないって言ってたよな、ならノブも氷王牙くらいの力があるってことかな。

アキが顔を向けた直後に会議室への扉が開くと、そこにはシンゴが居たが、同時にシンゴの後ろに居る知らない女性にふと目が留まった。

「じゃあ行こうか」

「そういえば、誰か英語喋れるの?」

まぁ喋れなくても問題無いけど。

すると2人はすぐに揃ってその知らない女性に顔を向ける。

「そういえば紹介してなかったね、アサクラエミリーさん。この人が喋れるから大丈夫だよ」

ああ、ハーフか。

「よろしくね氷牙君」

「あぁ」

エミリーと握手しながら、ふとエミリーの顔立ちの深さを見てみる。

「じゃあイングランドの組織に繋げてよ」

「どうぞ」

3人の後に奥の扉を抜けると、そこは右手の壁一面のガラスから入る日光に照らされた、3つの丸いテーブルがふと記憶を思い出させる、開放感のある大きな部屋だった。

ああ、やっぱりテイラーの組織だ。

すぐに歩み寄ってきたテイラーと目が合うと、その親しさと色気のある笑顔にふと安心感を覚えた。

「ヒョーガ」

「あぁ」

軽く抱きしめてから両頬にキスをしたテイラーは、すぐに何かを待つようにこちらの手に目を向ける。

「あ、今日は翻訳機持ってないよ」

エミリーに顔を向けるとすぐにエミリーがテイラーに話しかけるが、小さく頷いたテイラーは特に残念がる表情も見せずに、そそくさとオーナーの下に向かうと、間もなくして以前使ったものと同じ形の翻訳機を持ってきた。

エミリー居るけど、まぁ良いか。

こちらに翻訳機を渡したテイラーはすぐにエミリーに体を向け、何やら挨拶を始めると、続いてシンゴとユウジとも挨拶を交わしていった。

そしてユウジ達とテーブルに向かい始めたとき、ふとシンゴが何やらからかうようなニヤつきを見せてくる。

「彼女か?」

「何でよ、違うよ」

テイラーが喋り出すとエミリーがそれをユウジに伝え、3人の間に絶えず会話が続いていたとき、何となくガラスの壁から街を見下ろしてみる。

前よりも傷が激しい建物が多く見られるけど、それと同じくらい補修のための足場が組まれた建物も見える。

何か、現代的な戦場って感じだな・・・。

声がした方に何となく目を向けると開かれたその扉の前にはジェイクが居て、皆もジェイクに顔を向けると、すぐにユウジが立ち上がりジェイクに歩み寄っていった。

へぇ、ユウジはジェイクとも知り合ってたか。

僕が異世界に居る間は代わりにユウジがテイラー達と関係を保ってたのかな。

エミリーを介してジェイクがシンゴと挨拶を交わすと、すぐにジェイクはこちらにも歩み寄り、手を差し出してきた。

何か、ジェイクもノブ達みたいに、内から滲み出る雰囲気みたいなものが変わってるな。

無言で頷くジェイクに微笑み返すと、ジェイクは何やら嬉しそうに喋った後にシンゴを連れて闘技場に向かった。

相変わらずだな、ジェイクは。

そういえばジェイクは強くなったのかな。

ふと親しげに笑顔を見せてくるテイラーと顔を見合わせると、テイラーはおもむろにイヤホンマイクに軽く指を当てた。

「あなたの笑顔を初めて見ました。何か身の回りで変わったことでもありましたか?」

「少し感情が豊かになっただけだよ」

小さく頷きながら笑顔を見せるテイラーの眼差しに、ふと今までには感じなかった安らぎのようなものが胸の底に優しく降りかかった気がした。

「テイラーの方は、何か変わったことはある?」

「ブリテンとアイルランドの間で、一部の超能力者が対立してますが、今1番問題なのは、北極に拠点を置く、自らを北極の王国と呼ぶ組織です」

北極の王国?

「テロリストの組織?」

「はい。北極の王国を仲間に引き入れようと、カナダとロシアの組織が動いているんですが、北極の王国は中立的な立場を崩そうとはせずに、勢力争いは徐々に激しくなってます」

北極に拠点か、寒さを防げる能力者でも居るのか?

「でもロシアとカナダの力に屈しないなんて、その組織の人達は強いのかな」

するとテイラーは知性のある笑顔で小さく頷いて見せる。

「問題はそこです。2つの勢力をも跳ね返す組織の力に、周辺国の組織は皆気に留めずにはいられません」

なるほど、新しく生まれたテロ組織の存在か。

きっとそういう類の話は1つじゃないだろうな。

「いやぁ良かったなユウジ、これでヨーロッパにも繋がりが出来たな」

「うん。繋がり自体は細いけど、このまま上手く行けば中国とロシアに対抗出来るようになるね」

ユウジがマナミの隣に座るとシンゴは真っ直ぐ舞台に出て行ったので、ホールの両端にあるテーブルに並べられたお菓子をつまんでから闘技場に入る。

そういえばアメリカの能力者に会ったことないな。

今度そっちにも連れてって貰おうかな。

んん、やっぱり光と闇の感覚が少しずつ変わっていってるのをちゃんと感じる。

ふぅ、このままやってったら、ほんとにもっと強くなれるような気がする。

ヒカルコの居るテーブルに向かい、ウェイトレスが料理を運び始めたときにベルを鳴らす。

「何?ステーキなんて珍しい」

「今日は修業頑張るからね」

ニヤつきながら頷くヒカルコを見てからお肉にナイフを入れ、一口大に切ったお肉を口に運ぶ。

この美味しさ、氷牙の力を持ってたときには感じなかった・・・。

「そうだ知ってる?ジンオウカイがまたネットで話題になってるの」

・・・神王会か、そういえば神王って言ってた高校生、どうしてるかな。

「それって、どういう噂?悪いの?」

「どうかな、確かに活動方針が変わったとか言われてたけど」

「そうか」

悪い噂を聞いたらまた乗り込むって言っちゃったけど、まだ出来そうにないしな。

「そういえばシンジ、自然に第三覚醒とかしてないの?」

「・・・いや」

薄暗い通路でなのか、静かに口を開いたシンジの横顔は真剣さに満ちているように見えた。

いやって、どっちだ?

「シンジって1番最初に第二覚醒したし、そういう才能とかあるんじゃないかな?」

「ははっ才能って、まぁしたことはしたけど」

え、したのか。

「実戦で1回使ったっきり使ってない」

闘技場に出たときの、シンジのどこか神妙さを帯びたその表情に、何となくシンジの気持ちが分かるような気がした。

「何で?」

「まぁ・・・護衛艦も傷つけ兼ねない、から?」

「そうか」

じゃあ、もっと右腕が巨大になるのかな?

胸元と両足に外殻を纏ったシンジを前にしてから翼を解放すると、腰を回しながらシンジは徐々に気迫のある笑みを浮かべていく。

「じゃあ、来いよ」

「あぁ」

全身に光と闇を纏ったとき、ふと手に纏う光と闇に今までにないほどの硬さを持っていることに気がついた。

軽いけど、まるで石みたいだ・・・。

その後に地面を蹴ったとき、思いの外勢いよく体が前に跳んだことにも気がついた。

おっと・・・。

しかし突き出した拳は受け止められ、直後にシンジの拳が腹に勢いよく叩き込まれる。

地面に足を着いたときに更にシンジがその場で拳を突き出すと、直後に見えない何かに胸元を強く押し付けられた。

う、ごけないっ。

「見た目から何かオーラも前より増してるからな、オレも少し本気出してやるよ」

「そうか」

なら僕も久しぶりに光と闇を球状にするかな。

「ふぅ、いやぁオレも良い汗かいたな。氷牙も段々強くなってるし、このまま行けば氷牙も第二覚醒出来るんじゃないか?」

「そうだね」

確かに自分でも強くなってるのは分かる。

だけど、大きな変化が感じられない。

こんなんで、いつ第二覚醒出来るのやら。

ホテルの部屋に戻り、羽織りを脱いでベルトを外しながらふと外を見下ろす。

明日はもっと頑張らないと。

ベッドに横たわると、しばらくして頭の中だけに意識があるような感覚に支配されたが、その直後にまるで地面に足が着いているような感覚を感じた。

目を開けてみると、そこは見覚えのある真っ白い空間だった。

ここは、まさか。

すぐに後ろを振り返ると、そこにはやはりネオグリムが居た。

その空間の至る所にある、まるで海底の下から湧き立つ空気のようなものを見渡しながらネオグリムの目の前に立つ。

「何か用?」

その瞬間、伏せていた胴長短足のネオグリムがゆっくりと立ち上がると、その佇まいから今にも呑み込まれそうな殺気を感じた。

総助も立場が変わるように、氷牙もこの章で立場が変わります。総助と比較して氷牙がどこまで変わるのかって感じですかね。

ありがとうございました。

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