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混沌を制す者

これまでのあらすじ

メガミの敵を討ち、そのままアルバート財閥の兵器を破壊していた総助。しかしその中で出会ったダコンの女に敵わないことを知った総助は、ダコンになるために女を連れるドッグという人物に半ば強制的についていくことになる。

そこは初めて来たにも拘わらず、疎らに立つ木々と清んだ空気が安らぎさえ感じさせる場所だったが、その草原に一軒だけ建つ、ただの山小屋を思わせるようなその建物を見たとき、怠さの中でふとその2人の素性が気になった。

こんな人気の無い場所に拠点か、もしかして、俺が思ってるほどこいつらの活動って規模が小さいもんなのか?

「まさか、これからここで寝泊まりしろってことか?」

「あぁ」

素っ気ない態度でそう応えながらドッグが玄関を開けていくと、ドッグに後について山小屋に入るダコンの女の背中が、怠さの中にふと小さな期待感を芽生えさせた。

まぁ、女が居るだけマシか・・・。

「なぁ、ダコンになった後なんだが、もう1回アルバートの所に行かせてくれないか?」

ドッグが嫌悪感の無い真っ直ぐな眼差しを向けてくる中、女はリラックスしたようにソファーに深く座る。

「まさか、カブトのことか?」

「・・・あぁ、あいつら、メガミ達のためにあのカブトムシを破壊してやりたいんだ」

落ち着き払ったその表情は変えないものの、ゆっくりと目を逸らしていったドッグはまるで考えを巡らすように黙り込む。

「オレ達は国々の兵器の概要を知る代わりに、アルバートとゼビスとの仲介役をしてっから、その関係を危うくするようなことは出来ないってことは理解してくれ、悪いがな」

仲介・・・。

「国々の兵器の概要を、アルバートから教えて貰う代わりにってことか?」

「あぁ」

その素直さが伺える言葉に、何となくドッグに嫌悪感や怒りを抱くことはなかった。

「・・・そうか」

まぁカブトムシ以外はやったしな、仕方ねぇがここは諦めるしかねぇか。

「あそうだドッグ、あっちとはもう連絡したの?」

気兼ねなく話すような口調でダコンの女が口を開くと、ドッグは小さく返事を返しながらリビングダイニングの奥にある部屋に向かっていった。

ふとダコンの女と2人きりになった状況に若干の気まずさを感じたとき、静かに立ち上がった女はこちらを横目に見ながら冷蔵庫の扉に手を掛けた。

「あんた、そんなにコテンの兵器に思い入れがあるの?」

そう言って女は缶を1つ取り出し、ダイニングテーブルを囲む椅子の1つに腰を掛けた。

「思い入れっつうか、無関係じゃねぇから」

「ふーん」

相槌を打ちながら女が缶を口に運ぶと、再び流れ出した沈黙の中でふとトゥーの姿を思い出した。

窓から入る木漏れ日が沈黙に穏やかさを飾り付ける中、戻ってきたドッグに目を向けると、ドッグの手には綺麗にひし形にカットされた、血のような色に染まった宝石が握られていた。

「それじゃ、今からダコンになって貰うから、ついて来い」

え・・・。

「あぁ」

ここでやるんじゃねぇのか。

ドッグが背中を見せたときに女が立ち上がったが、特に気にすることもなく女と共にドッグの下へと歩み寄る。

そしてドッグが小さな銀色の筒を取り出し、スライドして蓋が開かれると、筒から溢れた光はシャボン玉のように3人を包み込んだ。

しかしすげぇな、この道具・・・。

3人を包む光が消えると、そこはすでに山小屋ではなくなっていた。

まるでシンバンにあったワープ装置みてぇだ。

「やっほー、そっちの方が早かったんだね」

「うん」

ダコンの女が親しげに話し掛けながら見知らぬ女に歩み寄るのを横目に見ながら、ふと先程よりかは少し広めのダンスホールのような雰囲気を感じさせるその場に集まった、見知らぬ人達に目を向けていく。

何だ、こいつら。

俺ぐらいの歳に見える奴らは良いとして、中学生くらいの奴らも居るし、しかも人間じゃねぇ奴まで・・・。

「よぉ、見物に来てやったよ」

そんな時に立てた短髪と全体的に鋭さを感じさせる顔立ちが印象的な男性が、ドッグに話し掛ける。

「あ?何で?」

ドッグの態度からして2人の間に上下関係の無さが伺えると、その男性は妙に自信と気楽さを伺わせる態度でニヤついて見せる。

「何でって、まぁ、紹介がてらに?」

「ふーん、じゃ、とっとと始めるか」

そう言ってドッグがその男性から別の男性に目線を変えると、ドッグと目を合わした爽やかさと真面目さが混ざった雰囲気を醸し出すその男性は、黙って小さく頷いて見せた。

そういや、ダコンになったら元の世界にも帰れなくなるんだよな。

でも、それはこいつらも同じなんだよな。

「ほら」

そう言ってドッグがこちらに差し出した赤い宝石をとりあえず受け取る。

「てか、これって何なんだ?」

「これは世界樹と共に生きる世界龍の血の結晶だ。すべての世界を繋ぐ世界樹そのものでもある世界龍の血の結晶は、すべての世界のあらゆるエネルギーを吸収することが出来る」

・・・さっぱり分かんねぇ。

「・・・で?どうやってダコンになんだ?」

「この結晶を媒介にして、心に宿るそれが器であり鎧でもあるというこいつらの世界の力と、外部の力を強く結びつける。簡単に言や、こいつらの力という器に外部の力を入れ、結晶の特性で蓋をするってことだ。理解出来たか?」

・・・やっぱり分かんねぇ。

「・・・とりあえず、さっさとやってくれ」

何にしろ、今より強くなるってことだろ。

ドッグがこちらに体を向けたまま後ろに下がると同時に、真面目そうだがしっかりとした気迫も感じさせる男性が歩み寄ってくる。

「胸元に押し当てろ」

ドッグの声の後に結晶とやらを胸元につけ、男性がこちらの胸元に掌をかざすと、掌から白い光と黒い風が優しく吹き出し、瞬く間にこちらの手と胸元、そして結晶に降りかかった。

その直後、何かが体の奥底に流れ込むような感覚と共に、胸元に着けられた結晶が熱を帯びた。

「ぐぁっ・・・」

何だっ今のは。

痛みに思わず結晶を持つ手を放すが、すでにその手には何も握られておらず、胸元には依然として熱と痛みを纏っていた。

くっ・・・。

しかし再び胸元に手を掛けたときにはその痛みは消えていたが、代わりに胸の底に何かが滞留しているような感覚が残った。

うわまじかよ、結晶が、胸元に食い込みやがった。

しかも服がひし形に焼けて穴が空いてる、おいおい、肌に直に押し当てるってちゃんと言えよまったく。

「この場合の外部の力ってのはお前の力だ。それをこいつらの世界の力と合わせ、後の形態変化のときに使うお前の力の安定を測る・・・おい聞いてんのか」

「あ、あぁ・・・」

形態、変化・・・。

じゃあ、俺もあの女みてぇになんのか。

「さて・・・」

掌を下ろした男性が下がると同時に、ドッグがまるで観察対象を眺めるような態度を見せてくる。

「コツは噴水をイメージする要領だそうだ」

「は?何が?」

ふと辺りを見渡すと、すべての目線がこちらに向けられてるこの状況に若干の恥ずかしさを感じた。

「だから、ダコンの姿になるためのだ。そして体から力が湧き上がるのを感じたら、翼解放と言う。理解出来たか?」

「あ、あぁ」

仕方ねぇ。

とりあえず、ダコンの姿になってみっか。

えっと何だ?噴水をイメージだ?

・・・こう、か、おっ何だすげぇっ、何かが体を駆け上がるみてぇだ。

しかも同時に心にも内側から何かが突っ張るような感じもするな。

てか決めゼリフとか何か恥ずかしいよな。

ほんとに言わなきゃ変身出来ねぇのか?

「・・・翼、解放」

その直後に青空のように清んだ色の熱を感じる光が視界を覆うと、同時に首から下を何かが張り付いたような感覚が襲った。

まじかよ、すげぇな、ほんとにダコンになっちまったよ。

「あぁ?おいドッグ、こりゃどういうことだ?」

ベタなセリフだが、ほんとに力がみなぎってくるって感じだな。

「オレだって分からねぇ、コテンの兵器だと思ってたけど、異世界から来たって言うし・・・おい」

「あ?」

ドッグは何故か腑に落ちないことがあるかのような表情をしていて、短髪の男性も気楽さのある表情に若干の戸惑いを見せていた。

「お前、ほんとに人間か?」

「いや、まぁ普通の人間じゃねぇよ。てかダコンって奴らは皆そういうもんだろ?」

てか鏡とかねぇかな。

「そういう意味じゃない、お前は今までのダコンと少し違うんだ。通常、翼を解放したら翼は2枚しか生えない。だがお前はその通り4枚の翼が生えてる」

4枚?・・・。

「いや、その女だって龍みてぇな姿になったら翼が4枚になるじゃねぇか」

「それはこいつがネオディビエイトだからだ、それにこいつだってただダコンの姿になるだけなら翼は4枚にはならない」

あ、確かに・・・。

って言われてもな。

「だからって、俺は何も知らねぇよ?」

ドッグが重々しいため息をついたとき、ふとダコンの女と目が合うと、女はこの状況にまるで関心を示さないかのような、気の抜けた表情をしていた。

あ、鏡あんじゃねぇか。

真面目そうな男性を通り過ぎ、全身を映す鏡の前に立ち自分の姿を眺める。

あ、意識してなかったのに、顔はメガミの姿になってら。

それにしても、全身真っ白だな、あの女みてぇに白黒の色使いはイケてると思ってたが。

「異世界から来たって、なら、元々の力が特殊なんじゃないのか?」

確かに翼が4枚だな、だがこの翼、羽毛も何もねぇ、まるでメガミの肌の質感そのものだな。

「特殊か・・・おい」

再びドッグが声を掛けてきたので、背中を映した鏡に目を向けながら何気なく返事を返す。

「お前、生物兵器じゃないなら何故その力を持ってるんだ?」

めんどくせぇなぁ。

「話すとわりと長いんだよなぁ」

「良いから、言えよ」

「元々、俺は生物を心の中に取り込む力を持ってたんだよ。それで、メガミに殺されそうになったから一か八かでそのメガミを心に取り込んだって訳だ」

お、我ながら上手くまとめられたな。

「・・・そうか、そういやお前、ダコンを知ってたよな?何故だ?」

お、すげぇ、はためかせなくても、翼に意識を向けるだけでも体が宙に浮きやがった。

「そらぁ、最初に行った世界でダコンに会ったんだ。まぁそん時はそいつらがダコンだって知らなかったけど、元の世界で知り合った奴がダコンみてぇな姿になってな、それで話をしてダコンって名前を聞いたってだけだ」

あ、そういや俺の世界にもダコンみてぇな姿をした奴が出たってネットに書いてあったな。

確か、横浜と、ロンドンだっけか?

「てか、ダコンって異世界中に侵略してんだろ?だったら目撃者くらい居るだろ」

「まぁそりゃそうだな」

短髪の男性がそう言って気の抜けた笑い声を小さく上げるが、ドッグは依然として疑惑と落ち着きが混ざったような表情を崩さない。

「それに俺の世界でも、2つの国でダコンの姿をした奴が出たって話があるし、そういう映像も世界中で見れっから、俺の世界じゃ目撃者なんて5万と居る」

ようやく小さく頷くドッグから、ふとダコンの女の隣に居る見知らぬ女に目を向けたとき、何となくネットや噂話で知った情報を頭の中に過ぎらせていく。

「お前のことは分かったが、そのダコンを知ってた知り合いのこと、もっと話してくれないか?」

氷狼か、確かあいつ、ジンオウカイっつう宗教団体を潰したって書いてあったが、そん時に変な龍に襲われたってのも書いてあったな。

「俺だってそこまで知らねぇよ。ただダコンを追って異世界を巡ってるってことくらいしか」

「ダコンを追うだと?そいつの名前は?」

氷狼じゃねぇか、あいつのほんとの名前は。

「確か、氷牙だ」

「えぇっ」

ダコンの女の隣に居る見知らぬ女と、真面目そうな男性が同時に声を上げると、短髪の男性もその表情に戸惑いを伺わせた。

「あんた、氷牙と知り合いなのか?」

髪型は今風だが真面目そうなその男性がそう声を掛けてきたので、ゆっくりと地面に降り立ち、男性に体を向ける。

「元々同じ世界に居るからなぁって、あんたは何であいつを知ってんだ?」

「あいつが俺の世界に来たときに、ちょうどラビット達も来て、ラビット達が俺達をダコンにしたときにあいつは俺の国の兵士として、俺達と戦った」

・・・そういや、反乱軍になった知り合いがどうとか言ってたな。

なるほど。

話は繋がったが。

「じゃあ、あんたが例の反乱軍に居た知り合いってやつか」

「・・・そうだな」

「あんたのために、あいつは異世界を巡り始めたのか・・・」

あれ、でももうあいつは・・・。

「そういや、あんたは何であいつのこと知ってたんだ?」

第九章です。九章からはディビエイト側の話が多くなります。大まかな区切りとしては、ここからが第三幕ってところです。

ありがとうございました。

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