ウエスタン・ウィンド・アンド・アイスファング
「アカバネシキや」
短髪の男性は、警戒心とはまた違う何かで見定めるように小さく眉間にシワを寄せながらこちらを見ている。
「そんでこっちがミタハヤト」
「どうも」
ハヤトと呼ばれた男性は警戒心よりも冷静さが勝ったような雰囲気でそう言って、軽く会釈した。
「えぇ、あたしのことはミサって呼んでね、こっちは氷牙よ」
「氷牙だよ」
「何や、東京は苗字を言わんのが流行りなんやな。まぁそれはそれでカッコええけど」
初対面でも親しげに話すユイの態度にか、ミサは戸惑いを見せるような微笑みを浮かべた。
「そんなんじゃないわよ。あたしは単に海外に友人が居たりして、下の名前で自分を紹介するのが癖になってるだけなのよ」
「へぇそうなんやぁ、それって氷牙も?」
「いや、僕のは通り名みたいな感じかな」
「何じゃそれ、通り名て、何時代やねん」
小馬鹿にするような笑い声を漏らしたシキに、すぐにユイは呆れたような顔を向ける。
「ええやない、逆にカッコええよ。何か、変わった当て字とかあるの?」
「変わってるかどうかは分からないけど、漢字は氷に牙だよ」
「ちゅうことは氷の力っちゅう訳やんな。ふっ名前で悟られるなんてまだまだやな」
そう言ってニヤつき出したシキは再び顎を指でさすり始めた。
「そうかな」
「立ってるのもあれやし、座ろ?」
「えぇ」
皆と奥の方のテーブルを囲むと、シキの顔つきは若干の緊張感と気強さで少し引き締まったように見えた。
「そんで?ただ戦いに来た訳や無いんやろ?何となくそんな気ぃするわ」
「そうだね、ついでに組織的にも仲良く出来たらと思ってね」
「なるほどな・・・」
また少し表情に険しさが増したシキは呟きながら考え込むようにうつむき、そしてゆっくりと顎をさすりだす。
すでに他の組織と組んでるなら、組織的な繋がりを持つことにそれほど抵抗感が無いと思うけど。
「1つ聞いていい?」
「ええで、何や?」
「白くて大きな鉱石みたいなもの知ってるかな?」
「・・・知らんと言ったら?」
するとシキはまるで下手に出るのを拒むように片方の眉を上げ、強気な眼差しを見せてきた。
「戦いのついでに仲良くなれたら、その鉱石の使い方の情報も一緒に教えようかと思って」
「使い方?・・・その情報を俺らが知らんという確証はあるんか?」
言葉を選ぶように眉間にシワを寄せながら、シキはそう問いかけてきた。
「そう言われれば無いけど、知ってたならそれで良いかな、元はただ戦いたいだけだしね」
「何やそれ、ほんまにそれでええんか?」
シキが眉をすくめて少し驚くような表情になると、ユイも不思議がるような眼差しでこちらを見る。
「まぁでも知らないなら教えるよ、ついでに友好関係も結んでくれると良いけど」
「友好関係?何や、同盟を結びたいんか?」
「同盟っていうほどのものじゃなくて良いんだ。たまに情報交換が出来れば良いって感じで」
「つまり、あの鉱石の使い方を賭けて勝負をするために来たんやな?」
そう言って少し険しい顔のシキは腕を組んだ。
ん?・・・。
「そう、だね。それなら出来れば友好関係も賭けに入れて欲しいな」
「分かった、乗ったる」
「そうか良かった」
鉱石を賭けにしたいって言ったっけ?・・・。
「おいシキ、そんなよう考えんと・・・」
警戒心の混ざった冷静な表情でハヤトがゆっくりと口を開いてシキをなだめようとするが、シキはそんなハヤトを逆に抑えようと自信の伺える笑みを見せつける。
「ええやないか、勝てば情報、負ければ友好や、損は無いやろ?」
ん?・・・。
「何やそれ、おかしいやろ。友好関係の内容は情報交換や、つまり勝っても負けても情報は貰えるし、そもそも鉱石を賭けにして戦いたいなんて言ってないやないか」
ハヤトはアキみたいに冷静に物事を考えるタイプなのかな。
「ああ・・・確かに、そやな」
シキは人差し指で顎をさすりながら、考え込むように小さく唸り出す。
「はなっから、情報を渡すために来たの?」
口を開いたユイは若干の驚きの表情を浮かべながら、理解に苦しむように小さく首を傾げる。
「正確には友好関係を結びたくて来たんだ。情報を手土産にしてね」
「せやったら戦うことないやないの」
ユイはユウジみたいに明るい感じだけど、呑気さはなく冷静に話を聞くタイプか。
「戦いは趣味かな。この組織に関西で1番強い人がいるって聞いたから」
「そうなんやぁ、ただ友好関係を断られへんように情報を持って来て、あわよくばそれを賭けて戦いも出来たらって、まあそんな所やな?」
「そうだね」
この中じゃ、ユイがまとめ役みたいだな。
「ほんなら私はええよ、戦わんと仲良うしようよ」
するとユイは再び親しげな微笑みを浮かべ、空気に絡み付く緊張感を少しだけ解いた。
「そうかありがとう」
「どうゆうことや?」
「戦いとは別に友好関係を結ぶんや」
「アホか、賭けるもんが無うて戦えるかいな」
どうやらシキは正確に状況を理解するのがあまり得意じゃないらしいな。
「ほんなら鉱石の使い方だけ賭けたらええやん」
ユイがすぐに言い返すと、シキは一瞬だけ目を上に向けてから頷いた。
「ならそれでええわ」
「ハヤトもそれでええやんな?」
「ええよ」
どうやら話はまとまったみたいだな。
「ユイがリーダーなの?」
「んー、リーダーっちゅうリーダーは居いひんよ。言うたら私ら3人でリーダーみたいな感じやね」
「そうなのか」
まぁでもこの中に1番がいるってことかな。
「ほんなら早速始めようか?」
まるで戦うことしか考えてなかったかのように、再び真剣な顔つきになったシキはそう言って席を立ち始める。
「そうだね」
「せや、ルールはどないするんや?」
「怪我や気絶をしたら終わりって感じで、降参もありだよ」
「あぁ分かった。・・・ほんなら、武器は使ってもええんやな」
ふと自信の伺えるような頷きを見せたシキは、自販機の横に立て掛けてあった日本刀を手に取った。
「武器を使うのか」
それで1番強いということかな。
「ええやろ?」
「構わないよ。ここにも闘技場はあるの?」
「あぁ、あるで、こっちや」
「ミサは氷牙と付き合うとんの?」
シキと氷牙が扉の向こうに去って行くのを見ていたユイは、こちらに向き直るなり真顔で唐突にそう問いかけてきた。
「えっ?あ、あの、ううん付き合ってないわ?」
「ふーん・・・」
するとユイはまるでヒカルコのようにからかうようなニヤつきを見せる。
「そ、それより大変じゃない?3人で何百人もまとめるなんて」
「そない大変やないよ?まとめるんは、うちらを支持してくれてる人だけやしね」
微笑みを浮かべてはいるものの、ユイは平然とした口調でそう応える。
「あら、派閥があるの?」
人数が多いならおかしくはないけど、大変じゃないのかしら?
「確か3つあるんやったな?」
仮に300人だとしたら均等に分けても7、80人かしら。
「噂じゃ、ハギモトん所が更に2つに分かれるらしいで?内部分裂っちゅうやつやな」
ハヤトってとても落ち着いているのね。
「ほんまに?あ、せや、ミサ何か飲む?」
「えぇ」
「ミルクティーでええよね?」
「えぇ」
ユイは自販機の前に立つと財布を出すことも、ICカードを出すこともなくボタンを押すが、自販機はお金を確認するための待機時間もなくすぐに排出口から缶を吐き出した。
「あら、お金は?」
「いらんよ、そっちかて飲み物とか自由やろ?」
「そうね」
考えてみると何でタダなのかしら。
「はい、どうぞ」
ユイは3本の缶を置いて椅子に座る。
「ありがとう」
2人と話をしていたとき、自販機の上の壁が突然音を出して開き出すと、スライドしながら開いた壁の中からは闘技場と氷牙達を映すモニターが出て来た。
「オーナーはん、鐘、頼む」
「はい、じゃあ鳴らしますね」
こっちの闘技場は作りが全然違うな。
広さは変わらないけど、まるで柔道大会が開かれそうな部屋だ。
銅鑼を鳴らすような重たい金属音が響くとシキが刀を抜いたので、氷牙を纏って氷槍を出した。
「ほう・・・カッコええやん」
真剣そのものな眼差しで呟いたシキは、片手に鞘を持ったまま力強く地面を蹴って走り出した。
シキが刀を振り下ろして来たので氷槍で受け止めると、すぐさまシキが回転して逆手に持つ鞘を振ったとき、風を切ると言うよりかは逆に吹き出すような音を鳴らしながら、鞘から狭い範囲ではあるが強い風が吹き出した。
なるほど風の力だな。
吹き飛ばされると同時にシキに向けて氷弾を撃つ。
「おわっ冷たっ」
バランスを崩す程度で後ずさりしたシキは驚きの表情を浮かべたが、その表情はすぐに負けん気を思わせるような引き締まったものに変わった。
1番強いと言うくらいだから、覚醒してからが本番だろうな。
「まだまだや」
突如シキの両足に風が纏わりつくように吹き出すと、走り出したシキの跳躍力が格段に上がったのが簡単に見てとれた。
刀を氷槍で受け止めると、鞘を逆手から持ち替えて突き刺してきたので、紋章で受け止めるとシキは間髪入れずに今度は刀を突き出してきた。
氷槍を解いて紋章で受け止めたが、シキは風を纏った足で蹴り飛ばしてきて、こちらが少し後ずさりした隙を突いてシキはすぐさま刀を振り下ろした。
くっ一瞬でも風圧が強くて動けない・・・。
しかし刀は高い衝突音と共に肩で止まった。
「何や、えらい硬いやないか」
「まぁね」
するとほんの小さく笑みを浮かべたシキから、どことなく嬉しさが伺えた。
すぐさま両手から同時に氷弾を撃つと、シキは刀と鞘で同時に2つの氷の弾を切りつけながら大きく後ろに跳んで距離をとるが、直後にシキは鞘を捨て両手で持った刀を前に突き出した。
何だ?
「行くで」
シキが気合いを入れるように強く刀を握りしめたとき、突如シキの手から刀身にかけて纏わりつくような風が吹き上がった。
すると柄が外側にかけて少し曲がる共に刀身は更に反り返り、しかも反り返った刀身の根元からはまるで枝分かれするように刀身が下に向かって生え、そしてその生えた刀身は柄を守るように下に伸びていった。
武器と力との融合ってやつか。
シキがその場で刀を振り下ろすと、細くまとまったより強い風が襲ってきたので、ブースターを使い避けたがそれと同時にシキが跳び込んでくる。
氷槍を出し待ち構え、振り下ろされた刀を氷槍で受け止めようとしたが、氷槍はそのまま斜めに呆気なく切り裂かれた。
おっと。
とっさに氷弾を撃ちながら後ろへ飛びシキから距離を取る。
氷槍を切るなんてすごいな。
「どうや」
刀を構え直しながら、シキは力強い眼差しのまま嬉しそうにニヤついた。
「その刀のこと後で教えてよ」
「俺に勝ったらな」
見た感じ刀が変わっただけみたいだし、刀は強くても体はどうかな。
シキは刀を振り風を生み出しながら飛び出して来て、上に飛んでそれを避けると、シキも後を追うように跳び上がり再び刀を振り上げたので、ブースターの出力を上げながら思いっきり紋章を刀に叩きつけた。
「ぐあっ」
地面に落ちたシキに向かって、すぐさま紋章を重ねた氷弾を撃ち出す。
「くそっ」
しかしシキは間一髪で氷の弾をかわすと、こちらが地面に降りたと同時に飛び出し、胴を貫くように刀を振り出してきた。
とっさに刀を紋章で受け止め、ブースターで反動を相殺しながら真正面から紋章を重ねた氷弾を構える。
しかし氷弾を撃つと同時にシキが素早く回転しながらそれを避け、背中に回り込んできた。
振り返ると同時に左の腹から右肩までを切りつけられたのに気がついたときには、すでに吹き出した強風に舞う氷の鎧の破片の中に居た。
氷牙に傷をつけるとは。
しかも浅くない。
「・・・血ぃ出ぇへんのかいな。手応えはあったんやで?」
瞬きもせずに獲物を見るような眼差しのシキはゆっくりと刀を下ろしながら背筋を伸ばす。
「出る前に凍りつくんだよ」
「そうかい」
シキは覚醒してないのかな。
だとすると刀の変化が覚醒代わりなのかな。
それじゃあ、ちょっと次のを出してみるか。
「次は貫通させるで」
そう言ってシキは腰を落とし、踏ん張るように足に力を入れる。
絶氷牙、氷結!
内側から鎧の密度を上げると共に、外側の古い鎧を空気中に溶かすように小さく弾き飛ばした。
「うおっ何やそれ・・・脱皮か?」
走り出したシキは驚くように足を止めながら、ふと殺気や気迫のない素の表情を見せる。
赤羽根 四季(アカバネ シキ)(21)
大学生。
ユイやハヤトも同じ大学生だということで意気投合し、派閥が出来た後も共に行動している。
剣道初段。
ありがとうございました。




