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仲間を慈しむ鳳仙花のように2

「おいっ」

メガミ達の向こうに立つ喋る兵器がこちらに気がつくと、すぐにメガミ達もこちらに振り向く。

「貴様は、確か昨日も来ていたが、この者達の司令官か何かか?」

「いや違う。そんなことより、何故こいつらを殺したんだ?命ある兵士は殺さないんじゃねぇのか?」

「何度も言わせるな。昨日はあくまで諸君らの戦力を把握しに来ただけだ。そもそも我々はクラドアに変革をもたらすために来たんだ。変革には犠牲がつきもの。諸君らの意識を変え、より今がどんな状況に置かれてるかを認識させるため、まず諸君らの戦力を半分近く削らせてもらった」

犠牲、だと?・・・。

するとその兵器はまるで感情を持っているかのように重々しいため息をつくと、その佇まいからどことなく哀れみのようなものを感じさせた。

何だあいつ、人間みてぇに振る舞いやがって。

「本当は、昨日のうちにでも何かしらの協定に向けての動きが見られればこんなことにはならなかったが、世界がそんな単純なものなら、アルバートはそもそも兵器など作らなかっただろう。だからこその犠牲なのだ」

その瞬間、何故か滝のように溢れる怒りが体中を駆け巡ったのを感じた。

「犠牲って言葉で片付けやがって、その言葉でワンがどんなに苦しんでたか知ってんのかっあぁ?」

・・・くそ、ワンが頭から離れねぇ。

「ん?犠牲になった者達の中に親しい者でも居たのか?だがそれにしても解せないな。何の関係もない貴様が、何故そこまで怒りをあらわにするんだ?たかが生物兵器だろう」

「違うっこれは俺の怒りじゃねぇっ・・・ゼロの怒りだっ」

突如視界が青空のように済んだ色の光に覆われると、体が軽く感じるようになったと同時に、これまでにないほどの膨大な魔力が心身を満たしていった。

「な・・・んだと?貴様は何だっ男型のメガミなど聞いたことがないぞ」



「何で、ここに?」

「実は、ちょっと船に忘れ物しちゃって」

何故か背後に立っていたルーニーは何となく違和感を感じるようなそわそわとした笑みを浮かべる。

船に、忘れ物?今まで気がつかなかったのか?

それよりまずいな、あのサソリの群れとゼビス人を相手にしたら、ルーニーを庇いきれない。

「ちょっと離れて」

「うん」

何で気配もなく、ましてや足音も立てずにここまで・・・。

ふと初めてドラゴンに会ったときのことを思い出しながら、2重の円を描くように並べた10枚の紋章をサソリの群れとゼビス人に向ける。

「氷雨・蒼満月」



「ねぇキング、場所分かるの?」

「あぁ、何度か下見したから問題は無い」

キングの全身がほとばしる電気に覆われ、同時にその電気で形作られた鎧に包まれると、すぐにアテナに顔を向けながら手を差し出した。

「翼解放」

キングの手を取りながらアテナが口を開くと、直後に背中から生えた薄く黄色づいた翼と光がアテナの全身を覆う。

「うおっ」

テリーゴの声が虚しく空に響いていったところでアテナを覆う光が消え、翼が広げられると、アテナの体を包む鎧の胸元には血のように赤く色づいた宝石が埋め込まれていた。

え・・・。

「だ、だ・・・堕混なの?アテナさん」

気品のある微笑みで頷くアテナを見た後に何となくテリーゴに顔を向けると、テリーゴも同じように驚くような表情でこちらに顔を向けた。

「行くぞ2人共」

「あ、うん」

すぐにテリーゴと共に翼を解放すると、小さく頷いたキングはアテナと共に崖の縁へと歩き出した。

「遅れは取るな」



「お前ら下がってろ」

お互いに顔を見合わせながら、少し慌てる様子で下がっていくメガミ達に代わり、数機のサソリとロボットを従える喋る兵器の前に立つ。

「いいだろう、そういう秘密兵器や切り札を出し尽くしても、我々には太刀打ち出来ないということを分からせてやる」

魔力を集中させると地面から吹き出した優しい空色の光に視界が覆われ、同時にふと目に留まったサソリの足元に意識を向ける。

「はぁっ」

直後に1機のサソリが地面から勢いよく吹き出した空色の光に呑まれる。

「何だと?」

凄まじい爆発音の後に光が消えると、そのサソリはすでに原形を留めておらず、それに加えてそのサソリの残骸は黒煙を立ち上らせながら音を立てて燃え盛る炎に焼かれていた。

「サソリを、一瞬で・・・行けっ一気に包囲しろ」

5機のサソリが一斉に動き出し、ほんの少し宙に浮きながら素早く飛び掛かってきたときに、辺り一面に空色に瞬く光の霧を発生させる。

そして直後に空色の光と共に凄まじい熱と、強く押し潰すような重たい音圧が周囲に降り注いだ。

光と音が消えて視界が晴れると、5機のサソリはすでに押し潰されたような残骸と化して辺りに散らばっていた。

「まさか・・・これほどまでの兵器をまだ隠していたとは」

確かにゼロの力はすげぇ・・・。

だが、俺と融合しただけで、こんなにも力が増幅されるもんなのか?

そして喋る兵器とは距離を置きながら、まるで傍観するように立ち尽くしていた巨大なロボットが動き出すと、心を満たしている怒りに突き動かされるように腕が上がり、無意識に指先が1機のロボットへと向けられた。

ゼロの記憶が教えてくれる、この力の使い方を・・・。

指先に集まるように空色の光が瞬いた直後、指先から瞬間的に噴き出した集束された空色の光は、瞬く間にロボットの胸元を貫いていった。

喋る兵器がまるで驚くように素早く後ろに振り返ったとき、そのロボットは胸元から激しい爆音を轟かせながら勢いよく炎を噴き出した。



向かってきたゼビス人の腕を掴み、ゼビス人の腕から放たれた光色の炎の球に撃たれると同時に、近距離でゼビス人に蒼満月を撃ち込む。

激しい衝撃の中転がりながらもすぐに立ち上がり、同じく吹き飛ぶように転がっていったゼビス人に目を向けていたとき、遠くから何かの発射音が轟くと、目を向けた方からは1発のミサイルがこちらの方に向かって飛んで来ていた。

とっさに紋章を向けると、間一髪でミサイルを防げたので、爆風が消えないうちにもう数枚紋章を出し、爆風が消えた直後にミサイルを放ったサソリに向けて蒼満月を撃ち出していく。

「何か、手加減してるように見えるんだけど」

突如話しかけてきたルーニーに顔を向けると、ルーニーはこの状況下でも全く怯えたような表情を浮かべていなかった。

「離れててよ」

「それとも、君は戦うのが下手なのかな」

何だ、いきなり・・・。

確かに、ハルクやハオンジュのように元々兵士をやっていた訳じゃない。

「今、私ならあいつをただ見てないですぐに追い撃ちをかけるのに。もしかしてその鎧の丈夫さにかまけて戦いを楽しもうとか思ってる?」

「・・・そう、だけど」

戦争に動じないどころか、こんな間近で、しかも丸腰なのに戦い方を分析する余裕もあるのか。

「ふーん。じゃあ、私がササッと片付けてあげる」

「え?・・・え?」

何?どういう・・・。

するとルーニーはおもむろに首に掛けているペンダントを握りしめながら、こちらに手を伸ばした。

・・・何してるんだ?

「その手を離せっ」

突如聞き慣れたような声がしたので、ルーニーと共にその方に顔を向けると、そこには何やら黄緑色に縁取られた筋肉質の黒い鎧に全身を包んだ人と、1人の女性の堕混が立っていた。

誰だ?堕混は分かるけど、隣に居る人は何だ?

しかもその奇妙な格好の人はルーニーに殺気を向けていて、その直後にその人は全身に黄緑色の電気をほとばしらせながらルーニーに飛び掛かった。

ちょっ・・・。

その奇妙な人に手を出そうとした瞬間に胸元に強い衝撃を受けると、崩しそうになった体勢を踏ん張りながら目を向けた先には、女性の堕混がこちらに向けて鎧と同じような素材で出来た、銃身の長い薄く黄色づいた拳銃を構えていた。

くっ・・・。

そんな時にルーニーの居た方から強い風が吹き荒れると、直後に奇妙な人が女性の堕混の方に吹き飛んでいった。

「君達、何なの?」

ルーニーが怒ったように2人に問いかけるが、2人は応えようとはせず、すぐに女性の堕混がルーニーに銃口を向けた。

おっと。

とっさに紋章をルーニーの前に突き出し、薄い黄色の光の銃弾を防ぎながら2人の前に立ちはだかる。

「今すぐそこから離れろ、氷牙っ」

なっ・・・何で僕の名を・・・。

その瞬間に更に2人の堕混が勢いよく女性の堕混の近くの地面に降り立った。

「いやぁ、早過ぎるよキング、オイラでも見失うなんて」

あれ?あの人、確かミレイユの部下の・・・。

「キング、まさかあの大きな奴が、捜してる人?」

「いや違う、そいつの・・・」

その瞬間に一瞬意識が飛ぶと、すぐに体中の力が抜けたような感覚が走った。

・・・何、だ・・・。

地面に膝が落ちたとき、全身の鎧が砕け散るような感覚が走ると同時に、自分の体が人間のものになったのが分かった。



あれはっ・・・ヒョウガさんっ。

青白い体が勢いよく空気に溶け、その中からヒョウガが姿を現すと、そのまま地面に倒れたヒョウガの背後には小さくニヤついた表情の1人の女性が立っていた。

誰だ、あの人?

「ヒョウガが庇うことは予想外だった。だがまだ間に合う、覚悟して貰うぞルーニー」

キングに顔を向けたルーニーと呼ばれたその女性は、状況が掴めていないような困惑した表情でキングに顔を向ける。

「だから、君達は何なの?」

「悪いが詳しくは話せない。ただひとつ言えることは、私達はお前を殺すために来た」

えっ・・・と、もしかして、あの人がキングの捜してた人、しかも殺すためだなんて。

どう見たってただの女の子なのに。

まさか、悪い奴はキングの方?・・・。

いやでも・・・。

「殺す?私を?」

しかし真顔でキングを見つめたルーニーはすぐに表情を緩ませると、どことなく悪意を宿したような眼差しで高笑いした。

何だ、この人・・・。



「貴様、覚悟、しろよ?アルバートの力は、こんなものじゃ、ない」

重たい足取りでこちらに歩み寄る喋る兵器の足元に意識を集中させると、ゆっくりと腕を持ち上げた喋る兵器が腕に着けられた銃口をこちらに向けたとき、喋る兵器は天に向かって勢いよく噴き出す空色の光に呑まれていった。

至る所が酷く破壊された喋る兵器がようやく動かなくなったので、離れた位置で戦いを見ていたメガミ達の下に歩み寄ると、メガミ達も安心したような表情を浮かべながらこちらの下に駆け寄ってきた。

「敵は討ってやった」

「うん」

「だが、恐らく新しい奴らがまたここにやって来るかもな」

あいつ、死に際に妙なこと言ってたしな。

「じゃあ、また一緒に戦おうよ、今度は私達も協力する」

イレブンの言葉にメガミ達が頷くと、皆も次第に疲労感の伝わる表情の中の眼差しに、再び力強さを宿していく。

「いや、まぁ乗りかかった船だしな、俺はこのままアサフィルに行ってあいつらの本拠地を軽く捻り潰して来る」

「じゃ、じゃあ私達も」

「いや、お前らじゃあいつらには敵わないだろ?それに1人の方が気兼ねなく全力を出せる。だから待ってろ」

イレブンは眉をすくめて寂しそうな表情を見せながらも、すぐに大きく首を縦に振った。

「じゃあ、あっちでうずくまってたスリーにもそう伝えといてくれ」



「おいっ」

ルーニーに呼びかけるような声が聞こえたのでその方に目を向けてみると、ルーニーが顔を向けた先には何やら光色の炎を纏ったように見える1体の兵器が立っていた。

「てめぇらは何なんだ?あ?せっかくの遊び相手を奪って置いて俺の存在を忘れるとは、覚悟出来てんだろうなぁ?」

その兵器がルーニーに向かって飛び出すが、ルーニーが腕を強く振り払うと同時にほとばしるような銀色の光が激しく巻き上がると、銀色の光に襲われた兵器は全身から弾けるような音を立てながら軽く吹き飛ばされていった。

「ちょっと黙ってて」

そしてすぐさまルーニーが兵器に掌をかざすと、掌から放たれた銀色の光は竜巻のように細く渦巻きながら瞬く間に兵器を貫いた。

「うぐっ」

銀色の光を纏う激しい風圧に兵器は更に吹き飛んで地面を転がると、倒れ伏したまま起き上がることはなくなった。

どうやら、みんなアサフィルに集まってしまうようですね。それもまた、誰かさんにとっては序章となるもの、ってことでしょうかね。

ありがとうございました。

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