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仲間を慈しむ鳳仙花のように

「まぁ俺自身はお前らに恨みは無ぇしな」

「・・・じゃあ、ゼロの代わりとして一緒に戦ってくれるの?」

戦争っつっても、さっきみたいに手加減してるなら部外者が手を出すほどのことじゃ・・・いや、半分関係者か。

「今日はもう敵は来ないんだろ?今はちょっと用があるから、気が向いたら明日また来るわ」



「衛星から見た限りでは、ティンレイド、オルベル、コテン、バルーラ、いづれの先進国もアルバート軍を迎撃出来なかった模様です」

小さく頷いた局長はくわえていたタバコを摘み、ゆっくりと煙を吐き出すと、何やら理解に苦しむような難しい表情を浮かべた。

「他は大体分かるが、グリフォンがあるオルベルにはどうやって攻め入ったんだ?」

「詳しくは分かりませんが、発射されたレールガンはアルバート軍の兵器から大きく外れた弾道を描いていたので、恐らくは対レールガン用に開発された特殊なデコイを使ったんだと思われます」

「そうか、どうやら言うだけのことはあるようだ」

妙に落ち着いた態度の局長が吐いたため息とタバコの煙に乗るように、静かな研究室の空気により深刻さが混ぜられていく。

「あと特編隊からの報告で、オルベルのサソリが改造されたものには、バルーラのホバリングブースターに擬太陽エンジンの動力を加えたものが使われているそうです。デカルト・ウーノが改造されたものについてはまだデータが取れていないようですが、分かってることはサソリ同様無人機だということです」

「つまり、特徴的だった低い機動力を改善されたサソリに手一杯で、デカルト・ウーノと交戦すら出来ていないということか?」

「そうですね。ですが、臨時兵器から識別不能機についての報告はありましたよ」

デスクに腰を当てながらタバコをくわえていた局長は素早くこちらに顔を向けると、すぐに口からタバコを離しながらこちらに体を向けた。

「お、どんな報告だ?」

「識別不能機は、スコーピオン・ドライバーという武器を装備したゼビス人だそうです」

「・・・そうか、ゼビスと繋がってるのは本当だったのか」

背後にゼビスがいるから、アルバートはクラドアの先進国を同時に相手に出来ると思ったのかな。

「それにしても、最近のことですよね?アルバートがゼビスと関わりを持ってると噂され始めたの。よりによって何でアルバートはゼビスと繋がりを持ったんですかね」

「さあな、何にしろ敵が強大であることには変わりない。奏仁、これまで中止させてきた開発途上の兵器をもう一度見直し、アルバートに対抗出来るような新兵器を作るんだ」

「はい」

アルバートは他国と協力しろって言ってるけど、まだ万策が尽きた訳じゃないし、シンバンにも他国にもプライドってものがある。

灰皿にタバコを擦りつけた局長は背筋を伸ばして軽く肩を回したりした後、こちらに振り向いたその表情からやる気を滲ませた。

「ここからが正念場だ。アルバートのやつに、シンバンの意地を見せつけてやろう」

「はいっ」



1人の軍人に連れられて隣接した2台のトレーラーの側面を繋げた、即席の会議室となっているものの中に上がり込むと、中央に置かれた鉄製のテーブルの傍には、テイマ少将と数人の軍人が立っていた。

「このままだと、本当にアルバートの描く通りに事が運びそうだな」

「もし仮に他国との共同戦線が叶っても、今のアルバート軍に太刀打ち出来るんでしょうか」

すごいな、トレーラーを繋げて部屋にするなんて。

どうやら、側面は内側に向けて上下に開くみたいだけど。

見た目は僕の世界でも見るような普通のトレーラーなのに。

「おう、来たか」

「あぁ・・・話って?」

「まぁ、サソリに関してはホンゴウラの奴らとデカルト・ウーノで何とかなってる。だからお前、明日になったら直接アサフィルに行ってアルバートの本拠地を叩いてくれ」

大丈夫かな、ゼビス人には全く敵わないのに僕が抜けちゃって。

「別に良いけど・・・」

「分かってるって、だが今のまま消耗戦を続けるより、少しくらいリスクを背負ってでもアルバートの本拠地を叩きゃ、少しは戦況も変わるだろう」

「・・・そうか」

今行ったら、複数のゼビス人を相手にすることになるか。

それはさすがに無理そうだ。



「何か久しぶりだね、こうやってみんなで朝ご飯食べるの」

「うん」

三国じゃ見ないパンがたくさんあるけど、どれも美味しそうだ。

クラスタシアの笑顔にふとスネークが居た頃を思い出してしまいながら、何やら甘い香りを漂わせる茶色い飲み物を入れたマグカップをテーブルに運び、3人と共にテーブルを囲む。

「もう疲れは取れた?」

「あぁ、オイラ一晩寝れば風邪でもなんでも全部治っちゃうからさ」

わぁ、何だこれ、こんな甘い飲み物初めてだ。

「これ、何て言うの?」

「え、ココアだけど、カイル・・・」

何故か僕を見ながら笑みを浮かべる3人を見ていると、おもむろにロードがこちらの顔に向けて指を差し始めた。

「付いてるぞ、クリームが」

「え」

唇の上を指でなぞると指の先にはココアとやらの上に浮いていた白い泡が付いていて、そのクリームとやらを舐めてみると、ココアとはまた違った甘さが口の中に広がった。

やっぱり、今はもう、天界よりこの小屋の方が居心地が良いや。

少しして扉がノックされると一瞬驚きと沈黙が食卓を包んだが、すぐにある人物の姿が頭の中に浮かび上がった。

「キングかな」

「そうだな。仕方ないから中に入れてやろう」

扉を開けるとそこにはキングが立っていて、小屋に招き入れると当然のようにその女性もキングと共に中に上がり込んだ。

「そういえばその人って、誰なの?」

椅子に腰を掛けながらそう問いかけてみると、2人が顔を見合わせた後にキングは若干驚きの表情を見せた。

「紹介してなかったな。妻のアテナだ」

「どうもアテナです」

気品のある微笑みと共にアテナが軽く頭を下げると、3人は声も出さずにただお互いに顔を見合わせた後、まるで感心するように小さく頷き出した。

「へぇ」

「いやぁオイラてっきり旅の仲間だと思ってた」

意外過ぎて、驚くよりも感心しちゃった。

「まぁ・・・それはそうと、朝早く来なければならないほどの大事な話とは何だ?」

「あぁ、前に話しただろう、近いうちにある世界のアサフィルという国であることが起こると。実はそれが、今日なんだ。それで朝食が済んだら、すぐにでも出発して欲しいんだ」



「ふわぁ、やっと着いたぁ」

まさか人間の姿でドラゴンの魔力が使えるなんてな、これなら本当にゼロの力も使えるかも知れねぇ。

「ほらよ」

「ふぅ、よく寝た」

夜通し全速力で走ってやったのに、こいつは呑気に寝てたのか。

「ありがとう総助。その・・・もしかしてあなたも、コテンで作られた兵器なの?」

「いや、俺は人間だが、事情があってちょっと特殊な力を持ってるだけだ」

「そう」

依然として警戒心をあらわにした眼差しのエストレージャは小さく頷くと、特に挨拶もなくそのままゆっくりと背を向け、赤い屋根が目立つ城に向かって歩き出した。

しかしオージョはエストレージャについて行こうとせず、満面の笑みを浮かべながらエストレージャの背中に手を振った。

「お前は行かなくて良いのか?」

「私はもうエストレージャとは関係ないし、研究所に戻るよ。ヴリスに今までのこと話したら、私は私で新しい人生を始めるの」

新しい人生・・・。

「そうか」

それじゃ、俺も楠原のおっさんのところに帰るか。

けどもう金は必要無さそうだな。

金をおっさんにやったらあいつを捜すか。

「ねぇ総助、お願いがあるの」

「・・・あ?」

「コテンのメガミ達を手伝ってあげて?本当は私が手伝いたいけど、私じゃ役に立てないから」

心配そうな表情を浮かべるオージョに、ふとイレブンや、トゥーと一緒に居た悲しげな表情のメガミ達が重なった。

仕方ねぇな。

「分かったよ」



「何も跡形も無くすほどのものじゃなくていい。軍事基地としての機能が果たせなくなればそれで良いだろう。基地をある程度破壊したらすぐにここに戻ってゼビス人の相手をしてくれ、いいな?」

「分かった」

氷王牙を纏って無国籍地帯を飛び立ち、草木も生えていない渇き切った荒野を進んでいくと、ティンレイドの町並みが見えてきたと同時にまだ遠くではあるがアルバートの軍隊らしきものも捉えることが出来た。

ティンレイドと戦うグループが来たってことは、そろそろ無国籍地帯に行くグループも無国籍地帯に着いてる頃かな。



さっきは2人を守るためにあえてコテンを回り込んだが、俺1人ならわざわざコテンとバルーラの国境を回り込む必要はねぇな、そのまま突っ切るか。

魔力を纏って飛び上がり、颯爽とバルーラの町を抜けてコテンとの国境付近に近づくと、眼下には恐らく両国のものと思われる軍隊が牽制し合うように睨み合っている情景が広がっていた。

こっちはこっちの戦争ってのがあんのか。

いや、あれか?ゼロが研究所を破壊したからこんなに緊迫した状況になったのか?

こちらを見上げ始めた両国の軍隊には構わずコテンに入り、アサフィル方面に進路を取ると、すぐに緊迫感の感じるような空気が風に乗るように流れてきたのが分かった。

何だ?何か、変だ。

町に降り立ってから更に進んでみると、人気の無さに加えて倒壊しない程度に衝撃を受けたような建物が幾つも見えてきて、昨日にも増して緊張感が町を支配していた。

ここまでいったら、手加減してるなんて言えねぇんじゃねぇか?

ふと物影に置かれた薄汚れた白い何かが見えたので何となく近寄ってみると、それはまるで戦意を喪失したようにうずくまっている1体のメガミだった。

「お前・・・」

顔を上げたそのメガミの目からは涙は出ていなかったものの、その表情はまるで泣いているようだった。

「スリーか。何してんだこんなとこで」

「・・・もう無理、このままじゃみんな殺されちゃう」

誰に・・・ってかアルバートの軍隊にか?

「いや、アルバートって奴は命ある兵士は殺さないんだろ?」

するとスリーはゆっくりと首を横に振った。

「・・・もう、4人も殺された。私達じゃアルバートには敵わない。だからもう無理、もう無理もう無理・・・」

泣いている・・・啜り泣く声も涙も出ないのに、人間じゃないから当然だが、こいつ、泣いてる。

それにしても何で、いきなり本気を出し始めたんだ?アルバートは。

再びうずくまって動かなくなったスリーを後にして急いでトゥー達の下に向かう中、脳裏には何故かワンの姿が焼き付いていた。

胸騒ぎを掻き立てる爆音に導かれるように町並みを抜けて広い敷地に出ると、目の前に1体の倒れているメガミが姿を現すと同時に、遠くには喋る兵器やサソリの群れと対峙する5体のメガミが居た。

何となく倒れているメガミを起こすと、全身に酷く焦げたような跡を残しているそれは、すでに息絶えていたトゥーだった。

・・・くそっ。

静かにトゥーを寝かせ、喋る兵器の下に歩み寄る。



ティンレイドを通り過ぎる頃、ふとアサフィルの領土内に立つ数体の変形したようなデカルト・ウーノらしきものに目を奪われ、思わずブースターの噴射を弱めてその場に留まった。

何だあれ・・・まるで固定砲台みたいに立ち尽くしてる。

何となく嫌な予感が頭を過ぎると同時に、その数体のデカルト・ウーノが一斉にくっついた両腕をこちらに向けてくると、その突き出されたままの形で固まった両腕の先端から、いきなりほとばしるような光を纏った何かが発射された。

何っ・・・これはっ。

瞬く間に連続的な衝撃を受けたのですぐそのデカルト・ウーノから離れるが、射撃を止めたデカルト・ウーノはまるでこちらの動きを伺うようにその場に留まったまま動かない。

まさか、今のは、レールガン・・・。

近づかなきゃ撃たないなんて、威力は小さいけどまるでグリフォンだな。

すると間もなくして騒ぎを聞きつけたように、デカルト・ウーノの向こうからサソリの群れと1人の武装したゼビス人が姿を現す。

アルバート仕様のデカルト・ウーノは変形して固定砲台になるのか。

皆に伝えに行った方が良いかな?

・・・いや、ここはまずあいつらと本拠地を叩くのが先だな。

距離を取って氷雨でさっさと済ませちゃおう。

「ねぇ」

ん?・・・えっ。

サブタイトルは1つだけしか入れられないので、悩みどころですが、ここはやっぱり総助メインですね。

ありがとうございました。

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