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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
第八章

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静かな殺意

「あの、ゼロとひとつになったって、どういうことなんですか?」

「俺は、まぁゼロとひとつになる前の俺だが、元々、相手を自分の心の中に取り込める力を持っていたんだ。ゼロに敵わないことを感じた俺はゼロを取り込んでやろうと思った。だけど、俺の中に取り込まれても尚、ゼロはその強い自我で激しい抵抗を見せた。そんでまぁ、魂の中での戦いの末に、すべての魂はひとつになったんだ」

研究所の中に入るが、酷く破壊されている研究所の内部は、地下に下りるための階段すら見つけるのが難しい状態だった。

「魂のことや転生といったものについては、どこの国でもそれなりに研究はしてるんです。メガミの中では私がその分野を担ってたのでだいたいは分かります。じゃああなたはもう、先程研究所の前で見かけたあなたではないということですね?」

「まぁな、けど記憶が無くなった訳でも、完全に俺が消えた訳でもないし、俺は今まで通り俺として生きていく・・・よっと」

通路を塞いでいた木片を持ち上げると階段が見えたので、そのまま大きなタンスほどある木片を別の方へ押し倒した。

こりゃ、人間の力じゃねぇな、まるで常にトラを憑依してるみてぇだ。

「でも、その、総助は総助でしょ?」

「あぁ、まぁ生まれ変わったっつってもたいして変わったことはねぇよ」

「そっか」

こいつには難しい話だったかな。

かろうじて繋がっていた通路を抜けてカプセルのある部屋に着くと、すぐにイレブンはエストレージャのカプセルと繋がっているモニターの下へと向かっていった。

「お、おい、まだ俺何も言ってねぇけど」

「え、あのカプセルを開けるんですよね?」

周りを軽く見渡した後、何食わぬ顔でイレブンはそう言いながらエストレージャが入ったカプセルに指を差した。

「え、あぁ、そうだけど、何で分かったんだ?」

「だって、もう残ってるのはあれしかないし、多分そうかなって」

「そうか」

笑みを浮かべるように口元を緩ませたイレブンはすぐにこちらに背を向け、モニターの前まで歩み寄っていった。

ツイてるな、これだけ破壊した研究所でも、モニターは起動するみてぇだ。

パスワードを入力するウィンドウを出したイレブンが、どういうパスワードを入力するか何となく気になっていると、空欄には音声入力という言葉が入力された。

・・・は?何だそれ。

パスワードを入力したウィンドウが消えると、すぐさま代わりに空欄の無いパスワード入力のウィンドウが現れた。

「星々の失墜と再生」

そしてパスワード入力のウィンドウが消えた直後、後ろの方から何かが開くような機械音が聞こえた。

「あれか?二重の仕掛けにしてあったのか?」

「はい、私が考えたパスワードなんです」

自慢げに小さく笑みを浮かべたイレブンにふと小さな疑問が湧き立った。

「何で、こうもすんなりと俺達に協力したんだ?」

「・・・私、ずっと心のどこかでメガミの存在に疑問を持ってたんです。トゥエルブの管理を任された後も、日に日に研究員達への嫌悪感が強くなっていって、だから研究所が緊急事態だって聞いたとき、真っ先に思い浮かんだのがカプセルの中の人達のことだった。だからあなたが私をここに連れてきたとき、すぐにあなたのやりたいことが分かったし、ちょっと嬉しかったんです」

「そうか」

こいつは、トゥー達とはどことなく違うような雰囲気があるみてぇだ。

でもやっぱり、メガミはメガミ、だよな。

「わぁ、あなたが本物のエストレージャ?」

オージョの声にふと振り返ると、扉が開いたカプセルからはエストレージャが出て来ていて、状況を把握しようとわりと落ち着いた表情で周りを見渡していた。

「・・・ここは、確か、コテンの研究所」

「そうだよ、とりあえず、今は早くここから出ようよ」

エストレージャは上品さとたくましさを兼ね備えたような真っ直ぐな眼差しでオージョに顔を向けた後、すぐにこちらやイレブンへと目を向けていく。

「すぐにトゥエルブという忌ま忌ましい兵器をバルーラから呼び戻して」

「・・・えっと、うん、あなたがバルーラに帰れば、自然とそうなるよ」



3人と共に研究所を出たとき、闇に熔けかかった夕焼け空が視界いっぱいに広がったが、赤黒く焼けた空とは裏腹に、心はまるで雲ひとつ無い青空のように透き通った気分だった。

やっと、本物のエストレージャを助けることが出来た・・・。

「じゃあ、すぐにでもバルーラに帰ろうよ」

「そういえば、貴女は、何なの?」

「話せば長くなるから、バルーラに帰りながらゆっくり説明するよ。ソウスケ、じゃあ、帰ろ?」

こちらに顔を向けたソウスケが、ふとどこか寂しそうな眼差しをしているのに気がついた。

「いや、俺はまだ用があるんだ。これ渡しとくから、先に行っててくれ」

ソウスケが肩にかけていたバッグをこちらに手渡すと、徐々に表情を引き締めていくソウスケの眼差しに、どことなく覚悟のようなものを感じた。



本物のエストレージャがバルーラに戻ればオージョの存在理由は無くなるのに、あいつ、何だか清々しい顔してたな。

「・・・それじゃあ、私はトゥー達のところに戻りますね」

・・・さてと、研究所を破壊した後はメガミ達、だよな。

「なぁ」



見覚えのある兵器の群れが見えた頃にはすでに日が落ちかけていて、あちこちに窪みがある、鉄屑の散らばった荒野に降り立ったときに、ちょうどサソリの群れの中に立つ武装したゼビス人の姿も確認出来た。

複数のサソリがこちらの存在に気がつくと同時に、ゼビス人もこちらに体を向ける。

負傷してるようには見えないどころか、疲労感さえ伺えない。

やっぱり、シンバンの軍じゃあのゼビス人には歯が立たないみたいだ。

「まーた、妙な奴が来たなぁ」

周りに破壊されたサソリは無い・・・敵はまだ無傷か・・・。

「お前まさか、ティンレイドからの援軍じゃないよなぁ?」

「僕はシンバンの兵器だよ」

怠そうに姿勢を崩しながら立っていたゼビス人は急に背筋を伸ばすと、その佇まいから一気にやる気が溢れ出したように感じた。

「おっしゃあっ出番が無くてちょうど暇してたんだよなぁ。お前らは待機してろ?」

こちらに体を向けてはいるがサソリの群れは動かず、ゼビス人は1人首や肩を回しながらこちらの方に歩み寄ってくる。

「その翼と鎧、見覚えがあるが、ホントにお前シンバンの兵器だよなぁ?」

「あぁ、何ならそこの軍人達に聞いてみたら?」

サソリの群れと睨み合う疲労しきった軍人達に目を向けたゼビス人だが、軽く首を傾げるように捻り出すとすぐにこちらに目線を戻してきた。

「命は取らないことになってるが、そっちは全力でやった方が良いかもなぁ」

確か、アルバートの目的は他国同士の協力だよな。

殺したら反撃も何も出来なくなるから、手加減してるって訳か。

「なるほど」



トゥー達の下に戻るが戦況にたいした変わりはなく、依然としてメガミ達とサソリの群れ、そして1体の変わった姿をした兵器が牽制し合っていた。

「トゥー、サソリの数は減らせた?」

「ダメ、オルベルのとは性能がケタ違いで、守るのがやっとなの」

何だ?こいつらでもあのサソリに勝てないのか。

数は・・・でかいのが3にサソリみてぇなのが6、後はあいつで、何だよ、たったの10体じゃねぇか。

「それより、何でこの人がここに?」

「何か、私達に話があるみたいなの」

「まぁ話は後で良い、それより、何であいつらはお前らに追い討ちをかけないんだ?」

トゥーがイレブンに黙って頷いて見せると、イレブンも黙って頷き返して他のメガミ達の下へ向かっていく。

「アルバートは、クラドア中の国々を結託させようとしてるの。しかも結託させた軍事力で再び自分に迎え撃って来いとも言った。だから多分、命ある兵士は後々のために殺さないでいるんだと思う」

命ある兵士?・・・兵器は兵器でも、こいつらは生物兵器。

こいつらも命ある兵士として見られてるから、手加減されてるのか。

「お前ら・・・何で核解放しないんだ?」

「・・・え、何で、それを」

「言っただろ?俺はゼロとひとつになったんだ。ゼロの記憶のすべてや思想も受け継いでる。だから、お前らトゥーからの完成形メガミの原動力がコテンで独自に改良されたルーベムーンだってことも知ってる」

すると頷きながらも目線を落としたトゥーは、煮え切らないような表情で他のメガミ達に目を向ける。

「持久戦を考えて長い時間は出来ないけど、もうみんな2回以上やったよ。それでもあの通り」

持久戦か、多分自然と体力が回復する度に一瞬だけ核解放していく戦法か。



一見無駄に思えるような動きを間に挟みながら、ゼビス人は不意を突くような立ち回りを見せている。

ゼビス人が懐に飛び込んできたので紋章を出して構えると、紋章に軽く蹴りを入れたゼビス人は跳ね返り、そして宙返りしながら目の前に降り立つが、何故かそのままゼビス人の動きが止まった。

「あーめんどくせ」

・・・ん?

すぐさまゼビス人に殴り掛かるが、俊敏な動きで跳び上がったゼビス人にこめかみ辺りを強く蹴られて、思わず大きく体勢を崩されてしまう。

この隙を突かれて追い討ちをかけてくると思いきや、ゼビス人は何を思ったのか、こちらに向けて地面に落ちていた小さな石ころを軽く蹴り飛ばしてきた。

何だこの人。

ふざけてると思いきや急に真面目になったり、情緒不安定なのか?

「あのさ、お前、シンバンの兵器だなんて嘘だろ」

・・・まさかバレてたのかな。

「一応傭兵として雇われてるのは本当だけど」

「・・・あー?今通信が入ったんだよ。今のお前のような姿をした奴を見たら注意しろ、異次元から来た奴で、戦う意味なんて無いってなぁ」

「・・・そうか」



「ねぇ、お願い、一緒に戦ってよ。ゼロとひとつになったなら、ゼロの力を持ってるんでしょ?」

「俺がここに来た理由は、ゼロの目的を果たすためだ。ゼロは研究所を破壊した後にお前らメガミも殺そうとしてた。ゼロは研究員を憎んでたし、研究員に反抗しないお前らも疎ましかった」

驚くようなものから緊迫感を感じるものへと表情を変えたトゥーは、こちらの動きを伺うように睨みつけながらゆっくりと後ずさりし始めた。

「でもゼロも分かってるんだ。完成形メガミは自我を抑えられ、素直に命令に従うに作られたから、反抗する概念すらないってことくらい。だからこそゼロは、自分の自我の強さにどこか孤独を感じていたんだ。俺は、そのゼロの記憶も思想もすべて受け継いでる」

「じゃあ、あなたも、私達を・・・殺すの?」



「あれ?どうしたの?」

「もう日も落ちてきたしなぁ、そろそろ一旦戻るかな」

「え・・・」

いくら手加減してるとはいえ、夜になったら律儀に帰るなんて・・・。

アルバートは、本当に戦争を始めた訳じゃないのかな。



「メガミの諸君、明朝、我等は再びここに来る。その時までには、せいぜい今の戦況を変える策でも講じておくんだな」

何だ?あいつ、普通に喋るのか。

「とは言え、諸君らに残された道はひとつしかないだろうが」

その太い声で小さく高笑いを上げながら、サソリの群れの中に立つその兵器がゆっくりと背中を向けて去っていくと、その兵器の後につくようにサソリの群れと巨大なロボット達も同様にこの戦場を離れていく。

何故だ?これだけ戦力の差を見せながら、何もしないで撤退するなんて。

いくら兵士は殺さないっつっても、これじゃガキ扱いだ。

「そういや、ここにはお前らしか居ないみてぇだが、この国の軍隊は何やってんだ?」

まさかサボってんのか?

「・・・ゼロが事件を起こしてからは、人間がメガミの光分子熱線に巻き込まれないようにと、人間とメガミは一緒に出撃しないことになったの」

「・・・そうか」

他のメガミ達がトゥーの下に歩み寄ってくると、トゥーは更にこちらに向けている警戒心を強めるように表情を険しくして見せた。

「ゼロの意思を継ぐなら・・・容赦はしないよ?」

「けどなぁ、ゼロの気持ちが理解出来るってだけで、俺はゼロじゃねぇし、ここに来たは良いが正直迷ってんだ」

ここでこいつらを殺せば、ゼロは本当に孤独になっちまうだろうな。

派手ではないですが、総助の転生はやっぱり主人公だけあって重要なものになりますね。

ありがとうございました。

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