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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
第八章

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フォー・フレンズ

隣に降り立ったドラゴンは小さく鼻息を吐いたが、その風はこちらから距離をとったゼロの髪でさえも激しくなびかせた。

「なぁ、何とかお前だけでも憑依出来ねぇのか?」

「無理ダロウ。今ココニ居ル主ハ魂ダケノ存在ダ。我等ハ主ノ肉体ノ糧ニナルコトシカ出来ナイ」

「そうか、仕方ねぇな」

「へぇ、その子はさっきの子達よりも知能が高いんだね」

こいつ、ドラゴンを前にしてもまだそんな余裕ぶってやがる。

「恐レルナ、主ヨ。我ガ押サエテイル間ニ奴ノ魂ヲ喰ラウノダ」

「あぁ」

喰らうっつってもなぁ・・・どうすれば・・・。

大きな翼を広げたドラゴンが飛び上がり、ゼロ目掛けて鋭い爪を携えた手を振り下ろすが、落ち着いた表情を一変させたゼロは自身の身長ほどあるドラゴンの手さえも立ったまま受け止めた。

まじかよ。

「行ケッ、主ッ」

胸の奥底にまで響くようなその声に突き動かされて走り出すと、ドラゴンを押さえるゼロは強く力むように表情を激しく歪ませ、こちらを睨みつける。

「うぅぅぅ」

とりあえずあれだ、さっきこいつがトラ達を吸収したときと同じような感じでやればいいだろ。

「りゃあぁっ」

ドラゴンの大きな翼が行く手を阻むと同時にその山のような巨体が目の前に勢いよく叩きつけられたが、体を突き動かした衝動はドラゴンへの信頼へと変わり、気がつけばそのままその巨体を駆け上がり始めていた。

ドラゴンの脇腹を踏み台にして飛び込むと同時に、下から溢れるように吹き出してきた光の粒子に視界が覆われると、その一瞬でドラゴンへの信頼は敵討ちのための怒りの衝動へと変わった。

そして天に昇る滝のような光の粒子の中を抜けた瞬間、そこにゼロが居た。

まるで夢から覚めたような感覚に陥ったと同時に瞼が勝手に開くと、目の前には見覚えのある景色が広がっていた。

「はぁ・・・はぁ」

まだ少し息が苦しいが、すぐに落ち着くだろう。

ふと崩れかけている研究所が目に入ったときに気配を感じ、その方に目を向けると、トゥー達が呆然とした表情でこちらを見ていたが、こちらと目が合うとすぐにトゥー達が歩み寄ってきた。

「ゼロは、どうなったの?」

「俺と、ひとつになったよ」

何だか、妙な気分だな。

引き締めた表情を少し緩めて安心したように頷くトゥーに、さっきまで抱いていた守りたいと思う感情は静かな殺意に変わっていた。

「どういうこと?いきなりゼロと大きな人型の生物が光に包まれたと思ったら、すぐに光は消えてあなたが1人で立ってた。あなたが、ゼロを消滅させたってこと?」

「いや、正確には、桐沢総助の魂も消滅したんだ。桐沢総助の力は相手の存在を取り込めることだが、それは桐沢総助の心の中に相手を取り込むという意味で、魂まで取り込む訳じゃない。だがゼロの介入によってバランスが崩れたのか、桐沢総助の魂も自身の心の中に引きずり込まれて、そのまま4つの魂と同化したんだ。3つの魂を吸収したゼロの魂を吸収した桐沢総助は、一見すべての魂を抑えたように思えるが、魂が別の魂と同化すること自体新しく生まれ変わることを意味するんだ。だから、桐沢総助も消滅したという方が正しい」

トゥー達がお互いに顔を見合わせていくと、ほとんどのメガミ達は理解に苦しむような表情で首を傾げている。

「トゥー、意味分かりました?」

「え、うん、私は分かったよ」

「そうですか、私は2割くらいしか理解出来ませんでした」

2割かよ。

「総助ぇ」

ふと駆け寄ってくるオージョを見たとき、再び崩れかけている研究所も視界に入り、またすぐにエストレージャのカプセルが脳裏に浮かび上がった。

「避難は済んだのか?」

「うん、でも家が分かるからってみんな帰ったよ」

「そうか、トゥー、お前らならエストレージャのカプセルを開けるパスワードを知ってるんだろ?」

トゥーは目が合ったまま固まったが、すぐに我に返ったように素早く瞬きすると他のメガミ達に目を向けていく。

「私達は知らない。知ってるのはイレブンだけ」

・・・ここには、居ないのか?

「イレブンはどこだ?」

「まだアサフィルとの国境近くでアルバート軍と交戦してる。私達は緊急の帰還命令を受けてきただけだから」

まずはエストレージャを助けるのが先、だよな。

「じゃあすぐにイレブンに会わせてくれ」



宿舎の部屋に戻って廊下に出たとき、ふと階段を上がってきたクレラと目が合うと、驚くような表情を浮かべたクレラは何故か若干の焦りを感じてしまうほどの大声を上げた。

相変わらず声が大きいな、クレラは。

「カイルさん、えっと、どうしたんですか?」

「ちょっと、皆どうしてるかなって思って。クレラは任務の帰り?」

「はい。カイルさんが急に居なくなってみんな心配してましたよ?」

落ち着きを取り戻したクレラは穏やかな笑みを見せるが、その笑顔は心の底に浸る寂しさのようなものを逆に引き立たせたような気がした。

「そっか」

司令室に入ってみるとすぐに奥のテーブルの傍に立つアルマーナ大尉が目に入ると同時に、アルマーナ大尉と共にテーブルを囲む人達が皆こちらの方に目を向けてきた。

皆の下へ向かうと皆は少しだけざわつき出したが、アルマーナ大尉だけはどこか安心するような眼差しを見せていた。

「カイル、今帰って来たの?」

「はい、気がついたら何日か経ってたので、気になってちょっと帰って来ました」

「おいおい、行くのは良いが誰かしらには前もって言っておけよ、急に戦力が欠けると士気も不安定になるだろ」

ホルス大尉から出る穏やかさの中にも威厳が伝わるような雰囲気に、他の皆やアルマーナ大尉の表情にもその厳粛さが伝染していく。

「そうですよね、すいません」

「ん?珍しいな、お前が悩んでるような顔してるの、何かあったのか?」

心の内を言い当てられて一瞬頭が真っ白になると、すぐに恥ずかしさが頬や耳を熱くしていることに気がついた。

「大丈夫ですよ、何にも無いです」

「隠すなって、悪いがお前の事情はミレイユから聞いた。それにこのことは他の奴らや天王様にも伝わってることだ、だからもうこそこそする必要はないんだよ」

「えっ・・・そうなんですか?」

アルマーナ大尉に目を向けると、アルマーナ大尉はすぐに恥ずかしがるような笑みを浮かべた。

「ごめんね、その、このままだと、カイルが居づらくなっちゃうんじゃないかと思ったの。だから、カイルが帰ってきてもいつも通りの雰囲気のままにしていたいと思って、つい」

確かに、隠し事をしたままいつも通り過ごすのはちょっと大変だったな。

「僕なら平気ですよ、何かこっちこそすいません、気を遣わせてしまったみたいで・・・実は、今の自分に、無力感を感じてまして、仲間のためにどういう自分であるべきか悩んでるんです」



トゥー達に連れられてコテンの街中を進んでいると、こちらの方に向かって逃げてくる人達が徐々に多くなっていく情景に、トゥー達やオージョの表情も次第に引き締まっていくのが見てとれる。

「お前は、来なくても良かったんじゃないか?」

「え・・・だって、1人で待ってるの嫌だし」

確かこいつはメガミのような力は持ってないんだったよな。

何体かの動かなくなっている上半身だけのロボットが付いた戦車が見えてきた頃には、その街の一角はすでに爆音や衝撃音の鳴り止まない戦場になっていて、同時にサソリのような兵器の群れと対峙するメガミ達を確認出来た。

「イレブンっ」

1人のメガミが振り返り、こちらの方に駆け寄るときに敵軍に背を向けたが、ふとサソリのような兵器の群れや1体だけ変わった姿をした人型の兵器が、無防備なイレブンの背中を追いかける素振りを見せなかったのが気にかかった。

「トゥー、ゼロと研究所は?」

「研究所は半分くらい破壊されたけど、ゼロはこの人と、ひとつになったの」

「それって、どういう・・・」

「話は後にして、今はとりあえずこの人達と研究所に戻って」

こちらとオージョに目を向けたイレブンは戸惑うような表情を見せながらも、黙って頷いて見せた。



「それじゃあここに名前を書いて。鍵を返すのは滞在期間が過ぎた後で良いからね」

カウンターに出された書類に名前を書き終え、鍵を貰ったルーニーの表情にどことなく安堵感が伺えた。

「じゃあ、僕はもう行くから」

「今日はもうやめた方が良いんじゃない?いくら何でも夜通し戦争し続けるのは無理だよ。敵だって休むためにそろそろ撤退の準備に入るでしょ」

適当に話してるような雰囲気はないけど、かと言って戦争に詳しそうにはもっと見えないな。

「そうかな。でもそれなら確認のために尚更行かなきゃいけないから、やっぱり行くよ」

「ふーん、じゃあ、私は部屋でゆっくりしてようっと」

外に出ると真っ先に目に映った空の色は、今まさに薄れていく水色の空を、墨が紙に滲むが如く赤く浸食し始めようとしているところだった。

・・・まだ、日は落ちそうにないな。

確か無国籍地帯とか言ってたけど、どっちだろ。



「お前も色々と深刻みたいだな。何だかんだ言っても、戦いでの悩みってのは戦いでしか解決出来ないもんだ。焦るなとは言わないが、あんまり思い詰めるなよ」

「はい」

そっか、こうやってただ悩むより、実際に仲間と共に戦ってるときの方が何か掴めるかも知れない。

コップを口に運びかけて手を止めたホルス大尉は、ふとこちらに何となく真剣さが伺える眼差しを向けてきた。

「お前、新種のイビルの話、知ってるか?」

「え、知らないです」

新種?イビルの?

「新死神界からの情報じゃ、ある種類のエニグマの特性を同じように持っていたり、体の一部がエニグマ化したようなイビルが目撃されたんだと」

クラスタシアが解析したイビルの細胞のこと、大尉達には言ってなかったか。

「そうですか、実は、そういった新種のイビルの発生原因には、ちょっと心当たりがあるんです」

「ん?」

どこか理解に苦しむようにホルス大尉が表情を曇らせたとき、話を聞いていたのか、アルマーナ大尉が少し慌てた様子でこちらの方に歩み寄ってきた。

「そういえばカイル、イビルについて研究してたんだよね?イビルについて何か分かったの?」

「はい。僕が採取したイビルの細胞を仲間が調べたんですけど、イビルの細胞には取り込んだものを蓄積したり、吸収したりすることが出来る特性があることが分かったんです。イビルはエニグマを食べるから、イビルがエニグマの特性を持ったり、エニグマのように体を変化させたのもそのせいだと思います」

「なるほどなぁ。そういや、天魔王が海を見つける前、何かから逃げるように移動するエニグマの群れを見たって言ってたが、そのことからもしかしたらイビルが来た方には俺達や死神以外の者が住んでる国があるかも知れないという見解を出して、近々また調査に行くことになるらしい」

僕達と死神以外の者か・・・もし別の国が見つかったらまた・・・いや、そんなに遠い国ならお互いに戦争する気は起きないか。

「でも良いんですかね、無意味な領土拡大は三国の伝統に背くことなのに」

センビシードのジュースを一口飲み、コップをテーブルに置いたホルス大尉の表情は、いつもの気さくさが溢れる穏やかなものに戻っていた。

「まぁ、天魔王は子供の頃から下界に関する本をよく読んでたらしくて、下界の人間の持つ欲望に少なからず興味を持ってることでも有名だからな」

「ところでホルスさん、今日は珍しくセンビシードなんだね」

「まぁな、俺だってたまにはほろ苦い大人の味を嗜むんだよ。そんでまぁ、その調査隊ってのが大規模なものになるらしいから、お前も志願したらどうだ?死神界が分かれてから最近任務も少ないし、仕事でもすりゃ少しは気も紛れるだろ?」

大規模な調査隊ってことは、長期的な調査になるのかな?

「でも僕、明日あっちの世界に行く用があって、そのまましばらくあっちに居ようかと思ってるんです」

2人は真剣な表情をこちらに向けるが、アルマーナ大尉はすぐに見守るような優しいものへとその眼差しを緩めていった。

クレラ・ウェイラ(20)

階級は少尉。びっくりしたときの声の大きさは常に皆を少し焦らせる。新兵の時からエニグマにあまり怖れることがなく、エニグマを傷付けずに気絶させるという妙技を持つ。


ありがとうございました。

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