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エネルゲイア×ディビエイト  作者: 加藤貴敏
第八章

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絶望へのカウントダウン3

「パソコンって・・・あれのこと?」

並べられたカプセルの反対側には、カプセルと同じ数の見慣れた液晶モニターが壁に掛けられた形で並べられている。

「そう、だな・・・」

テレビじゃないなら他にそれらしい物も無いしな・・・。

真っ暗なモニターの画面を指で触れてみると、モニターに明かりが点いて起動すると同時に、画面上に突如アルファベットの文章が目まぐるしく上から下へと流れ出した。

文章が流れていく画面が切り替わると、次に映し出されたのは複数の解読出来る単語と共に何かを解析しているような図だった。

「おお、出た」

えーと、カプセル内の温度と、こっちはモデルの脳の安定具合を示すグラフっぽいな。

「ねぇ総助、ここに解凍って書いてあるよ?」

「おう、そうだな・・・ん?」

オージョが解凍という単語に指をつけ、画面の右下に解凍を選択するかどうかのウィンドウが現れたとき、ふと1番上にある、何かの名前のような単語に目が留まった。

「おい、ちょっと待て、このパソコンと繋がってるカプセルに入ってる奴、エストレージャじゃねぇぞ」

「え?」

「ここだ、ワンって書いてある。そしてその上のモデルの名前は・・・ナタリだ」

「どういうこと?」

・・・つまりは、ここにあるカプセルには、それぞれのメガミのもとになった人間が入ってるってことか?・・・。

「多分、ここにあるカプセルに入ってんのは、皆メガミのもとになって凍らされた、エストレージャのような人間ってことだ」

「え、じゃあ、みんなも出してあげなきゃ」

するとオージョは並べられた真っ暗なモニターを次々と起動させ始めた。

「おい待てっ、俺達はエストレージャを助けるために来たんだろ?」

「でも、1人助けられるならみんなも助けられるでしょ?みんなも助けなきゃ可哀相だよ」

「でもなぁ、人数が増えりゃ逃げにくくなるだろ」

しかし自信を伺わせる笑みを浮かべながら、オージョはモニターを起動させていく手を止めない。

「大丈夫だよ、研究所はめちゃくちゃだし、逃げたって誰も分からないよ」

何となくオージョを責めるような気分になれずにいると、再び遠くから響いてくる、研究所が激しく破壊される轟音がカプセル保管室を揺らした。

「仕方ねぇな、手分けしてカプセル全部開けるぞ」

「うん」



追いかけてくるデカルト・ウーノに酷似した兵器に天魔蒼月を撃ち、ティンレイドへの国境を越えたとき、ふと遠くに橙色と黄色でデザインされた軍服のような服を着た人達が見えた。

何だろ、シンバンの軍人じゃないな。

こちらを見上げながら立ち止まったその人達は各々武器を携えているが、その大きさや形も特に変わったようなものではなく、かと言ってデカルト・ウーノのような兵器を従わせてる訳でもなかった。

「ハガサ少将、あれは、アルバートのオリジナルですかねぇ」

ベテランの雰囲気を醸し出している先頭に立つ3人の内の、唯一の若い女性が緊張感に圧されていないような口調で口を開くが、真ん中に立つハガサ少将と呼ばれた中年男性は、冷静に隙を伺うような冷ややかな表情を崩さない。

「どうかな。念のため武器は持っておけ」

「僕はシンバンの兵器だから、多分君達の敵じゃないと思うよ?」

ハガサ少将と呼ばれたがたいの良い中年男性はシワを寄せた眉間を緩め、抜きかけた剣を鞘に納めると、他の軍人達も徐々に警戒心を解いていった。

「もしかしてティンレイドの人?」

「・・・あぁ、我らは国家魔導捜査機関の者だ。知っての通りアルバート軍の殲滅に赴いた。ここからは我らが引き継ぐから、お前は偵察基地で見物でもしていてくれ」

アルバートは国同士を協力させようとしてるけど、やっぱり自分の国は自分達だけで守りたいか。



1番奥にある最後のモニターを起動させた頃には、すでにオージョの手で半分近くのカプセルが扉を開けられていた。

順番通りに並んでんだから、恐らくこのモニターがエストレージャのカプセルと繋がってるはず。

モデルの人間の解析表が映し出されると、メガミの名前のトゥエルブという文字の上に、モデルの名前のエストレージャという文字が映し出された。

これだ・・・。

解凍の文字を触ると、出て来たのは選択を促すウィンドウではなく、パスワードを入力するための空欄だった。

・・・何だよ、くそ。

「何でこれだけパスワードが必要なんだよ」

「どうかしたの?」

こいつがパスワードを知ってる訳ないよな・・・。

「エストレージャのカプセルを開けるにはパスワードが必要なんだと。お前、知らないよな?」

妙に落ち着いた眼差しでモニターを見るオージョに、若干の期待感が胸の底に沸き立つ。

「パスワードって何?」

・・・そっからかよ。

「いやまぁ、要は合言葉っつうか・・・」

何かそれらしいもん無いか?

エストレージャの・・・誕生日?いやいや携帯の暗証番号じゃねぇんだし。

「さっきのあれは?カシギソウってやつ」

「あいつが言ってた言葉か」

恐らくは、仮死を擬装ってことだろうが。

打ってみるか。

パスワードを入力する空欄に触れると、すぐ上にキーボードのウィンドウが現れる。

使い方はこっちの世界とあんまり変わらねぇみてぇだな。

「・・・んだよ、違うじゃねぇか」

「なんだぁ」

ふと小さな足音が聞こえたので後ろを振り返ると、ナタリという女性が入ったカプセルから若い女性が出て来ていて、こちらと目が合うとその女性は怯えるように後ずさりした。

「・・・あ、起きた?」

オージョがその女性に歩み寄っていくと、その女性は更に怯えた表情で身を縮み上がらせた。

「待てって、その姿に怯えてるみてぇだぞ?」

「え、あ、そっか」

オージョがエストレージャの姿になり、再びその女性に歩み寄り始めたとき、爆音と激しい振動が保管室に響き渡る。

今のは近かったな。

するとその振動に反応してか、カプセルの中で眠っていた女性達が次々と起き上がり始めた。

「・・・あれ?ここは・・・」

口を開いた女性にオージョが歩み寄ると、2番目のカプセルから出て来た女性は特に怯えるような素振りは見せずに周りを見渡し始める。

「もしかしてここってまだエイシイル研究所?」

「え、うんそうだけど」

「・・・あなたは誰?研究員?」

「違うよ。それより、今はここから逃げようよ、早くしないと建物が壊れちゃうから」

こちらに顔を向けたり、別のカプセルから出て来た女性達を見渡すその女性の眼差しは、飲み込めない状況下でさえも若干の力強さを宿していた。

「分かった。とりあえず逃げた方が良いみたいね。じゃあ、早くあっちのカプセルも開けなきゃ」

その女性とオージョが共にこちらに顔を向けたと同時に、また遠くから衝撃音が小さく響いてくると、今にも氾濫しそうな川のように募っていく焦りの中で、何故か自分でも冷静さを感じることが出来た。

「いや、このカプセルだけロックがかかってんだ。お前は皆を連れて先に逃げてくれ、エストレージャは俺が何とかするから」

「え、でも・・・」

「早くしないとここがゼロに潰されるんだろ?俺なら平気だからよ」



「あれ、どうしたんですか?」

「ティンレイドの軍人が来て、後は任せてくれってさ」

驚くような表情は浮かべず、黙って小さく頷くとゼンバラはちょうど電話を切った部長の下へと向かった。

「魔捜が来たのは予想よりも少し早かったですね」

「あぁ、ティンレイドはティンレイドの軍人に任せればいい。それよりシンバンだ。無国籍地帯に向かったアルバート軍の規模はどれくらいだ?」

「巨大地上戦闘機3機と小型自律機動式戦闘機6機で編成された一個小隊、そして識別不能の戦闘機が1機です」

識別不能の戦闘機、まさかさっきのゼビス人とは別のゼビス人かな。

俊敏になったサソリは手強かったけど、それほど驚異的じゃなかった。

注意するのはあのゼビス人だな。

「僕もそっちに行った方が良いのかな?」

「・・・ん、そうだな。お前も無国籍地帯に向かってくれ、恐らく各前線基地から集められた特編隊が先行して向かってるはずだ」



ああは言ったものの、パスワードはどうやって手に入れれば・・・。

破壊された壁の穴から研究所を出ていくオージョ達を見送り、原形を留めないほどに破壊された研究所を見渡していたとき、同じく研究所から避難しようとしている研究員達が通路の角から現れた。

そうだ、あいつなら空気も読まずに研究員に聞くはずだ。

「なぁっ」

緊張感と喪失感に満たされた雰囲気の中、こちらに振り向いた研究員達は皆、一様に気力の無さを伺わせる眼差しを向けてくる。

「頼むから、エストレージャのカプセルを開けるパスワードを教えてくれ」

ただ恐怖に怯えているからなのか、研究所の崩壊で犠牲になった人を哀れんでいるからなのか、中には啜り泣く女性研究員も居る状況下で、1人の男性研究員が少しだけこちらの方に歩み寄った。

「私達は知らない。そういう機密事項の管理はメガミに任せてる。人間なんかよりもよっぽど頑丈だからな。命が惜しくないのならメガミ達に聞いてみればいい」

メガミが知ってるのか、あいつだったら、もしかしたら同種のよしみで教えてくれるかも知れないが・・・。

「とは言え、今頃ゼロにやられてるかも知れないがな」

「何だって?」

そうだ、そういえばあいつ、ここを破壊したら次はメガミだっつってたな。

やべぇ、早く行かねぇと、パスワードが分からなくなる。



「体力的に平気なの?アウローラさん、休まずにアルバートって人の兵器と戦うなんて」

「ホンゴウラに出来ることはシンバンのサポートですわ?戦う訳ではないから問題無いですの」

アウローラと共に乗ってきた大きな長い箱と同じような箱が幾つも並び、シンバンの軍人達がアルバートの軍隊に立ち向かう準備を進めていく中、ホウゴは若干面倒臭がるような表情でシンバンの兵器を見つめていた。

「それより心配なのはホウゴさんですわ?・・・ホウゴさんっ」

「あ?あぁ、いやぁ、こりゃ休暇取った意味無いじゃねぇか」

「ホウゴさんは休んでも良いと思いますわ?ホンゴウラ奪還に尽力したんですもの。恐らくこの砦はアルバート軍のために作られたはず、アルバート軍に使われるのを未然に防げただけでも、十分な功績に値するのではなくて?」

ホウゴが照れるような笑みを見せながらアウローラに歩み寄ると、アウローラも上品さを纏った微笑みをホウゴに返す。

「だと良いけどな。それじゃ、そこまで言うならお前のトレーラーで休ませて貰うからな。もし仲間に責められたときは、もういっぺん今と同じこと言って貰うぜ?」

「えぇ、分かりましたわ?」

これからまたここで戦いが繰り広げられるのか。

でもホンゴウラは無事奪還出来たし、僕達は帰っても良さそうだな。

「テリーゴ、僕達は帰ろう」



妙に静かだな。

屋上に立って研究所を見渡すが、破壊された研究所はまるで竜巻でも通った後かのように静けさを纏っていた。

ゼロが目を覚ましたのは他のメガミがアサフィルに向かった後だから、ゼロはメガミがアサフィルに向かったことを知らないはず。

・・・どこ行った?

突如視界の隅の方で薄く紫がかった光が見えると、そこには研究所から少し離れた位置に立って研究所を見据える、薄く紫がかった光の柱に包まれたゼロが居た。

おいおい、ちょっと待てよ、見るからに力を溜めてんじゃねぇか。

すぐにゼロに向けて魔力を集めて作った球を投げ込むと、こちらに顔を向けたゼロは空色のオーラの球を避けようとすぐさまその場から離れた。

屋上から飛び降り、ゼロの下に駆け寄っていくが、ゼロは不機嫌そうな表情を浮かべながらこちらを見つめていた。

「次邪魔したら、あなたごと焼き尽くすから」

そう言うとゼロはすぐに研究所に目線を戻し、再び突き出した掌に意識を集中し始めた。

「悪ぃがちょっと待ってくれねぇか?研究所ぶっ壊すの」

こちらに体を向け、再び嫌悪感を伺わせる表情を向けてきたゼロに、ふと研究員よりも人間らしさを感じた。

「もう、何で?あたし、眠ってる間ずっと研究所で物扱いされた夢見てたの。だからこんな研究所、見るのも嫌なの」

総助にとっての絶望は何なのかってところも、ちょっとしたポイントですね。

ありがとうございました。

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