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絶望へのカウントダウン2

地面を蹴って飛び出したゼビス人は、背中から光色の炎を噴き出しながら殴り掛かってきたので、振り上げられた拳を受け止めようと掌の上に紋章を出して構える。

そしてまるで脆いガラスが砕けるかのように勢いよく紋章の破片が飛び散ったあと、胸元に衝撃を受けて思わず兵器の残骸へと突撃していった。



「お前もそこに入れ」

「でも、私・・・」

あからさまに怠さを伺わせるような表情で、研究員の男性が顎でこちらの方を差して歩き出すのを促すと、オージョは落ち込んだように寂しげな表情を浮かべながらこの実験室に足を踏み入れた。

くそ・・・結局何も出来なかった。

何も、オージョにしてやれなかった。

同時に人が1人入れそうなカプセルが寝かせられた状態で部屋に持ち込まれると、オージョと見知らぬカプセルと共に実験室に閉じ込められた状況を見物するかのように、研究員達が少し離れた位置からこちらを眺め始めた。

「メガミ・ゼロ、解凍します」

「あぁ」

・・・メガミ?メガミは出払ってるんじゃなかったのか?

1人の研究員がパソコンのようなものを操作した直後、不透明な楕円形のカプセルから空気が噴き出し、研究室の緊張感が一気に実験室に伝染すると、それは同時に若干の恐怖感となって胸を締め付けた。

「総助」

「お前は下がってろ」

3匹を体に憑依させたときにカプセルの全面が音を立てて開き出すと、カプセルの中に入っていたのは全身が少しくすんだような白に染まった、光沢のないゴムのような質感の肌や髪がオージョによく似た、1体の人間の女性のような外見をした生物だった。

「おい、メガミは出払ってるんじゃないのか?」

「そのメガミは、トゥーからイレブンのメガミのプロトタイプだ、しかしすべてのメガミの性能を異常に上回り精神も不安定のため、凍結していた」

拳を握りしめ、全身に力を入れて構えるが、ゼロと呼ばれるメガミはまだ眠っているかのように動く気配が感じられず、依然としてカプセルの中で横たわっている。

「わぁ、私と同じだ」

「トゥーからって、ワンはどうしたんだ?」

研究員達からカプセルに目線を戻したとき、体を起こしてはっきりと目を見開いていたゼロと目が合った。

「そいつの暴走時に犠牲になった」

こうなったら、アレをやるしかねぇな・・・。

そしてゼロがゆっくりとカプセルから出て来ると、その佇まいから伝わる、何とも言えない静かな威圧感が妙に肌を刺していく。

「ゼロ、目の前の2人を焼き尽くせ」

研究員達に顔を向けたが、ゼロはその場に立ち尽くしたままガラスや天井、オージョに目を向けてから、再び研究員達に目線を戻す。

「今、いつ?」

「2020年だ。お前を凍結してから6年が経つ」

精神が不安定?全然そんな風には見えないが。

「あの子は?」

「トゥエルブを模して作られたと推測されるバルーラの生物兵器だ。機密の漏洩を防ぐために抹殺しなければならない」

「トゥエルブ?・・・あたしみたいな失敗を繰り返すかも知れないのに12体だなんて、まったく懲りない人達だね」

ふと沈黙が訪れると、研究員達は皆ゼロの顔色を伺うような緊張感を漂わせ始めた。

「いいから、さっさとやってくれ」

「あたしには、あの子を殺す理由が無い」

・・・まじか、このまま行けば何とかなるかも知れねぇ・・・。

残念がるようなため息が研究員達の方から聞こえたとき、緊張感が張り詰めた実験室に若干の期待感が芽生える。

「プロトタイプで調整が不十分とは言え、こうも自我が強いと困りますね」

「・・・あぁ」

まさか、自我が強いことを精神が不安定とか言っているのか?あいつら。

非道だ、こいつらだって普通に生きてるのに。

研究員ってのは皆ああなのか?

「ゼロ、そいつらはバルーラの工作員で、この国を失墜に追いやる存在だ。この国を守るためには十分殺す価値があると思うが」

「この国のことなんてどうでもいい。あたしは誰の命令にも従わない」

とりあえず、こいつに殺されることはなさそうだ。

「だが、どうせお前だってそこから出られないんだ。下手なマネはしない方が身のためだ」

「ふーん」

するとゼロは研究員達を見下すような笑みを浮かべるとおもむろにガラスの前まで歩み寄り、ゆっくりとガラスに掌をかざした。

「やめろ、無理だ」

思わず顔を背けてしまうほどの閃光の後、甲高い衝撃音と共に、台風のように吹き荒れる衝撃が実験室全体を激しく揺らした。

すげぇな、メガミってのはこんなに・・・。

尻もちをついていたオージョを起こしながら何気なくゼロに目を向けてみると、絶望すら感じていた壁一面のただの透明なガラスには、研究員達が見えなくなるほどの大きな亀裂が広がっていた。

・・・まじかよ。



腕に付けられた砲身から発射された光色の炎の球をかわすが、こちらが紋章を向けるよりも早くゼビス人はこちらの懐に拳を叩きつける。

強い・・・。

ゼビス人ってこんなに強かったのか。

じゃあスイーテ中尉はいつも手加減してるのかな。

いやそれとも、あの武器を着けてるからなのか。

「自己再生ってやつか、めんどくさいな」

「・・・翼解放」

小さく首を傾げたゼビス人は構えを解き、まるで驚いているかのような佇まいでこちらを見つめた。

「へぇ、お前も翼解放とやらが出来んのか」

・・・え?

「どういうこと?」

この世界の力じゃないのに、知ってるなんて。

「単純な話だ、そういう力を持った人間を、他に知ってるってだけだ」

まさか、行方不明になった堕混はこの人のところ、ゼビスに居たってことか。

やっと掴んだ、堕混の手掛かり・・・。

「一応聞いておくか。お前さぁ・・・スネークって奴知ってるか?」

・・・蛇・・・じゃないか、そういう名前の人だよな。

「知らないけど」

「じゃあ、いいや」

何だ?気になるな。

「ていうか、じゃあお前、ティンレイドの兵器じゃないのかよ。何だよ、お前を殺ったところで何の意味も無いのかよ」



「へぇ、言うほどのことはあるみたいだね。じゃあ・・・本気でやったら、どうなるのかな?」

「やめろっ」

再びまばゆい閃光が視界を覆うと、実験室全体を揺らす振動を感じなかった代わりに、何かが砕け散るような音と共に、何かが突き抜けていったときに吹く風のようなものを感じた。

くっまさか・・・。

巨大な穴の開いたガラスと、その前に立つゼロの後ろ姿をただ眺めることしか出来ずにいると、ゼロはゆっくりと研究室に足を踏み入れ、恐怖に縮み上がっている研究員達の下に歩み寄っていった。

「何をする気だ?まさか、今更反逆する気じゃないだろうな?お前だって、凍結されることに反対してなかったくせに」

「・・・久しぶりに空気吸ったりしたら、やっぱり生きていたくなった。でも安心して、あたし、1人で旅でもしながら生きていくから、もうここには戻って来ないよ」

研究員達が恐怖と緊迫感に支配されている中、ふとオージョが立ち上がったのに気がつくと、オージョはそのまま研究室へと歩き始めた。

・・・お、おい。

「だって、ここを全部焼き尽くせば、もう戻る必要もないでしょ?」

「な、何だって?」

「その後は、あの子達かな?メガミなんて、所詮ただの戦争の道具。だけどあの子達にも少なからず自我も感情もある。あの子達ほど、可哀相な生物はいないから、解き放ってあげなくちゃ」

戦争のために作られて可哀相だから殺すってか、めちゃくちゃだな。

ゼロが天井に手をかざすと、直後に薄く紫がかった光が瞬間的に天井に放たれ、建物全体を揺らすほどの衝撃と轟音が研究室に響き渡った。

研究員達の悲鳴と共に瓦礫や粉塵がゼロの周りに落ち、天井から入った日光で研究室が明るくなると、同時に外の匂いや生暖かい風も感じるようになった。

「ねぇ、待ってよ」

後ろから声をかけたオージョにゼロが体を向けると、その場の緊迫感がまるで殺気を向ける対象がオージョに切り替わったかのようなものになるが、オージョは特に恐れる様子もなくゼロと向き合っている。

「まだここ壊さないでよ。私のことを知ることが出来なくなっちゃう」

おい、近づいたら危ないんじゃねぇか?

「あなた、メガミじゃないみたいだけど何でここに?」

「ここに来れば、私のことが分かると思って」

実験室から出て、ゼロから距離感を保ちながらいつでもオージョを庇えるように身構える。

「どうして自分のことが知りたいの?」

「え・・・何となく、気になるから」



「・・・過去なんて、忘れちゃえば?誰がどういう理由であなたを作ったとしても、あなたはあなた。今をどう生きるかの方が大事でしょ。分からない過去なんて忘れて、これからのあなたを生きればいいよ」

これからの、自分?

あれ?この感じ・・・。

どこかで聞いたことあるような。

あ、そうだヴリス。

思い出した、ヴリスもそんなこと言ってた。

ゼロが研究員達の方に手をかざすと研究員達は一斉にその場から逃げ始めたが、掌から放たれた閃光は数名の研究員を巻き込みながら、入口とその周辺の物や壁を豪快に吹き飛ばしていった。

・・・あ、そうだ。

確か、バルーラの国王もそんなこと言ってた。

国王・・・そっか、エストレージャ。

そうだ、エストレージャを助けなきゃ。

ふと逃げてきた研究員が目に入ったので、すぐに駆け寄り研究員を捕まえるが、研究員は酷く怯えた表情でこちらの腕を振り払う。

「ねぇ、エストレージャはどこ?」

「は?」

「エストレージャはどこなの?」

「・・・れ、冷凍カプセル、保存室」



走り出したオージョを追いかけ、研究室を出た辺りでオージョの腕を掴む。

「ちょっと待てよ、場所分かるのか?」

「・・・あ」

オージョが大人しくなったのを確認して腕を放し、壁も通路も激しく破壊された場所を見渡してみる。

ていうか、ここ地下だよな、あのゼロのカプセルもすぐに出て来たし、多分近くにあるはずだ。

何かの視線を感じ、反射的に後ろを振り返ると、そこにはこちらを見つめながら立ち尽くすゼロの姿があった。

ひっ・・・。

「あっ」

オージョを庇おうとしたが、すでにオージョは腕の下をくぐってゼロの下へと歩き出していた。

「おいっ」

「ねぇ、冷凍カプセルってどこ?」

「え?確か、そっちの1番奥だったはず」

再び走り出したオージョを追いかけ始めたとき、何故かゼロは無表情でこちらの顔に目を向けていた。

まさか、攻撃して来ないよな?

通路の1番奥にある、1番よく見るようなサイズの鉄製の扉を抜けると、倉庫ほどの広さのその部屋には壁に沿うように幾つものカプセルが並べられていた。

まさか、まだゼロみてぇな奴がいるってか?

「なぁ、何でこんなとこに来たんだ?」

「ここに、エストレージャが居るの」

確か、バルーラの王女だよな。

「ほんとにそのエストレージャってやつは、まだ生きてんのか?」

「うん、コテンの軍人に撃たれたエストレージャは、本当のエストレージャじゃないの」

1つのカプセルに近づいたオージョはゆっくりとカプセルに手をかけるが、扉の開け方が分からないのか、そのまま黙ってカプセルを見回している。

「また何か思い出したのか?」

その瞬間に遠くから凄まじい衝撃音が轟いてきて、狭く区切られたこの部屋にも一気に緊張感が満たされていく。

「うん、さっきの研究員の人の話をもとに整理すると、コテンの軍人に撃たれて、今も国王の傍で眠ってるエストレージャは、実はトゥエルブで、私は、そのエストレージャの姿をしたトゥエルブをもとにして作られたってことになるの」

「・・・何だそれ、まじかよ。え、じゃあ、本物のエストレージャは、その中だってのか?」

力強く頷いたオージョは再びカプセルを触り始めるが、一向にそのカプセルは扉を開こうとはしない。

確か、トゥエルブが送り込まれたとか何とか言ってたな。

俺にはまだ状況が掴めねぇが、こいつにとっては何か収穫があったんだな。

「総助、開けてよ」

「ああ、そうだな、いや、無理にこじ開けて中に居るエストレージャが傷つくのはまずいしな」

確かさっき、ゼロのカプセルは実験室に入れられてから勝手に開いたんだ。

「遠隔操作出来るパソコンがあるはずだ」

「メガミ」

人間の脳波をコピーしたものを人工知能に組み込み、限りなく人間に近い知能を持つように造られた生物兵器。男のモデルが無いのは、女の方が脳波や精神状態が安定しやすかった為。


ありがとうございました。

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