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そして歯車は動き出す3

これまでのあらすじ

シンバンの臨時兵器として過ごしていた氷牙。その中でアルバート財閥が不穏な動きを見せていることを聞かされ、アサフィルの手前の偵察基地で待機することになった。

「どっちみち様子を見るしかないな。何かあったらまた報告してくれ」

「はい」

女性が司令室から出て行った後、しばらくアルバート財閥の軍隊が映し出されているモニターを眺めていたとき、まるでディスプレイかのように並べられていた兵器達がようやくゆっくりと列を崩し始めた。

再び女性が司令室に入って来ると、先程よりも慌てた足取りでスピーカーのようなものが付いた機械へと駆け寄っていった。

そしてすぐに回すタイプのスイッチを操作し始めると、スピーカーからはまるでラジオが流れ出す前触れかのようにノイズが流れ出した。

「・・・繰り返す。この電波はクラドア各国の軍事機関の通信機器に直接届けている。私、アルバート・ハンセンはこれより、クラドア大陸全土に及んで、軍事的武力を行使することを決定した」

部長が勢いよく立ち上がると同時に女性は小走りで司令室を去っていった。

「理由は幾度となく起こされる紛争、長きにわたり終えることなく続いている戦争、これらをすべて武力によって鎮圧、ならびに今後も新たな争いを起こさないようにするためである」

ゼンバラや部長が立ち尽くしたままラジオに聴き入っている中、少しずつ司令室に人が集まってきて、若干の息苦しさを感じるほどの緊迫感が空気にのしかかっていく。

「しかし皆はこう思うだろう。武力での弾圧は強い反発を生み、更なる武力での抵抗と共にやがて戦争が引き起こされるだろうと。しかし、今ここで断言しよう、貴国らの力では、更なる武力での抵抗など不可能だ。貴国らに残された選択肢はただひとつ、私に、その誇り高き刃を向けることだ。そしてもしその刃が無惨にも折れてしまったとき、同じように傷ついた隣国と手を取り合い、再び私に刃を向けるのだ。その瞬間、共通の敵を前にした貴国らには確固たる絆の芽が芽吹くことだろう。それが、それこそが私の真の目的であるということを皆の心に刻んでほしい。さぁ、立ち上がれ兵士達よ、そしてその誇り高き刃を天高く掲げるのだ」

ラジオから声とノイズが消えると、少しの間司令室は空気を押し潰すような緊迫感と共に沈黙に包まれていた。

なるほど、兵器コレクターは仮の姿という訳か。

「こ、これは・・・部長、これは・・・冗談では」

「冗談に聞こえたか?」

ふとゼンバラと目が合うと、すぐに慌てふためいた様子でこちらの方に駆け寄ってきた。

「氷牙君、君はすぐにアサフィルとの国境に向かうんだ。部長、すぐに本部に連絡を。私はオオエツ前線基地に連絡を取ります」

「分かった。お前らも各基地と連絡を取ってくれ」

確かに、戦争を無くす方法として、1度は誰もが想像するだろう。

だけど、そうそう上手く行かないのが世の常というものなんだろうな。



「あれか?まじかよ、すでに砦ぐらいのもんが建てられてんじゃないか」

「ここ一帯は無国籍地帯ですし、きっと前々からの準備は難しくなかったはずですわ?」

長い箱が止まり後ろの扉が開いたので外に出ると、そこは草木も生えていない広大な荒野だったが、遠くにはまるで守りを固めるかのように建てられている1つの砦が見えた。

「あそこに乗り込むんだね」

「いいえ、たった4人で砦をどうにか出来るほど、ホンゴウラは甘くないですわ?」

「え、じゃあどうするの?」

再び長い箱の操縦席に登ったアウローラが何やら機械を操作し始めると、長い箱の屋根から放射状に広がった円いものがゆっくりと飛び出し、更に長い箱の脇下に仕込まれていた長細いものもゆっくりと姿を現す。

そして長細いものが音を立てて飛び出すと、それは後ろから火と煙を吹き出しながら砦の方へと真っ直ぐ飛んでいった。

うわっ何だろあれ。

長細いものが砦に当たって爆発すると、少しして砦から数人が慌てるように姿を現した。

「デンテラ?居るなら出て来なさい」

まるで荒野中に響き渡るほど大きなアウローラの声が砦に向けて発せられると、更にまた数人が砦から姿を現した。

長い箱からアウローラが下りると、引き締まった表情の2人がゆっくりと歩き出したので、翼を解放して2人の後について砦の方へと歩き出した。

擬太陽エンジンを装着した大柄の男性を2人、自身の前に従えながら歩くオールバックの中年男性が立ち止まると、まるでその人を守るかのように大柄の男性がアウローラとホウゴの前に立ちはだかる。

「まさか、たった4人でお越しになるとは。お嬢様なら何かとお顔が広いので、国の軍隊でも借りてくるかと思いました」

「デンテラ、あなたも所詮、財力の高さに目が眩むような人間だったという訳なのね。ただの兵器コレクターに一体どんな儲け話を聞かされたか、今ここで話して下さる?」

小さく首を傾げたデンテラは、何故か驚きの表情をうっすらと浮かべる。

「おやおや、その口ぶりですと、そこのNAPの方はラジオを聞いていないようですね」

「ラジオ?一体何のこと?」

「儲け話・・・そんな低劣なものに心が惹かれるほど、自分は落ちぶれてはおりませんよお嬢様。何故アルバート財閥と手を組んだかと聞かれますと・・・そうですね、世界平和のためですよ」

言葉に詰まったアウローラを、デンテラは蔑むような眼差しで見つめながら小さく口元を緩ませる。

「簡潔に言いますと、クラドアを1つにするんですよ。そもそも話し合いが出来ないから戦争が起こったんですから、戦争を手っ取り早く終わらせるには武力介入しかありません。それも、圧倒的な力で。だからアルバート財閥は長い年月をかけて兵器を集めたんです。そして今さっき、その集めた兵器で作った軍隊で、クラドア中に進軍を始めました」

「何だってぇっまじか・・・何だよそれ、結局はただ戦争を起こしただけじゃねぇかっ」

戦争を起こしたって、これからどこかの軍隊が押し寄せてくるってことかな。

「そんなことしたって何も変わらない。無駄に血が流れるだけだろ」

「これは、戦争ではありません、アルバート財閥は何もクラドアを支配しようしてる訳ではありません。狙いは各国の軍隊です。アルバート財閥は、自ら共通の敵という悪役に回って、各国のいざこざを各国の手でうやむやにするキッカケを与えてあげようとしているんですよ。守るための兵器を作るお嬢様なら、お分かり頂けると思いますが」

皆の視線がアウローラに向けられるが、アウローラは呆れるように小さなため息をついた後に強気な眼差しをデンテラに返した。

「アルバート財閥とかクラドアを1つにとか、そんな話をする前に、ホンゴウラグループはワタクシのものなんだから返して貰うわよ?それに戦うならワタクシは、シンバンを守るためにアルバート財閥と戦うわ?」

「・・・オルベルとの共同戦線という夢のような機会を与えることも、ゆくゆくのシンバンを守るためには必要だということがご理解頂けないなら・・・しばらくここで、這いつくばっていて貰います」

残念そうに小さく首を横に振りながらデンテラがアウローラに背中を向けて去っていくと、腕や脚にまで機械を着けた擬太陽エンジンを装着した大柄の男性達と、胸元だけを覆った擬太陽エンジンを装着した数人の男性は戦闘体勢を取るかのように構えていった。

さすがにこの人数相手じゃ、ルーベムーンを使わないと厳しいな。

「社長、ここはひとつ身を引いてくれませんか?俺達だって無意味に社長と戦いたくないんですよ。それに、ヒューマノイドが着けてるものは擬太陽エンジンの完成型です。いくら何でも敵いませんよ」

「あらサニダ、やってもないのに諦めるのはワタクシの性分には合わないってことくらい、分かってるわよね?」

「社長・・・怪我しても知りませんからね」



国境に向かって飛んでいるとき、何となく先程のラジオでの演説を思い出す。

もし本当に無益な破壊じゃなく、他国同士の軍隊の結束が目的だとしたら、今すぐにアルバートの軍隊を止めるべきなんだろうか。

もうちょっとくらい様子を見ても、良いんじゃないだろうか。

先程小耳に挟んだ民間の船とやらが接岸しているのが目に留まると、オルベルのサソリに酷似したものがその船に向かっているのにも気が付いた。

あれ?まさかあの船、アルバートの味方じゃないのかな?

・・・もしそうなら、いやでも、アルバートは無益な破壊はしないはず。

しかし数機のサソリに酷似したものによって、民間の船は周りを取り囲まれてしまった。

けど、本人もそう言った訳でもないしな。

とりあえず近くまで飛んでいってサソリに酷似したものの様子を伺っていると、間もなくして民間の船の中から1人の若い女性が姿を現した。

見たところ軍人には見えないしな、やっぱり、ただの民間人みたいだ。

だがやはりサソリに酷似したものは民間人の様子を伺うだけで、特に威圧的な行動を取るような素振りは見られなかった。

若干の緊張感を纏った沈黙が流れていたとき、ゆっくりと岸に降りた若い女性はふとこちらの方に顔を向けると、すぐにこちらの方に歩き出した。

誰だろう・・・僕を見て動き出したように見えたけど。

「もしかして、君が氷牙?」

見た目は高校生くらいのその女性はサソリに酷似したものの群れを、まるで怖がる素振りも見せずこちらの目の前で立ち止まる。

「え・・・」

誰だ?この人、何で僕のこと知ってるんだ?

「見た感じ、周りで氷牙っぽいのは君だけみたいだし、君が氷牙でしょ?」

「え、あぁ・・・」

するとその女性を追いかけるように、サソリに酷似したもの達もゆっくりとこちらの方に近づいてきた。

「とりあえず危ないから・・・アサフィルから離れた方が良いよ」

「ふーん、でもあれくらいなら多分平気だけど」

この人、普通の民間人じゃないのか?

そういえばゼビスから来たんだよな。

もしかしたらこの人もスイーテ中尉みたいになるのかな?

「じゃあ行こうよ」

「え?」

「私、ここに来るの初めてだし、そう言うなら安全なとこまで連れてってよ」

「・・・そうか」



「ねぇ、何あれ」

後ろを振り返ると、木々の多い町並みの向こうから

、何やら人型のロボットとサソリ型のロボットが列を成してこちらの方に行進して来るのが見えた。

何だありゃ・・・何かの軍隊か?

「こっちに来てるよ?」

「いや、多分あれだ、あいつらも、コテンに行くんだ」

くそ、アサフィルもコテンと戦争してたか、これじゃコテンに入れねぇ。

・・・いや、戦火の中に紛れるっつう手もある。

・・・賭けに出るか。

「なぁ、人間の姿で行きゃ逆に怪しまれないかも知れない」

「そっか、分かった」



アウローラが掌から光線を放っていくが、大柄の男性は軽い身のこなしでそれをかわし、すぐさま衝撃波で反撃していく。

地面が弾け飛んでいく中を、ホウゴは鍔から光を帯びた剣を出しながらもう1人の大柄の男性に向かっていと、大柄の男性はホウゴに向けて衝撃波を飛ばすが、衝撃波は鍔が光を帯びると同時に剣身の中程辺りから発生した透明な膜に阻まれ、完全にその勢いを殺されてしまう。

あの衝撃波を、無力化するなんて・・・。

「そうだテリーゴ、僕が時間を稼ぐから、その間にルーベムーンを取り込んでよ」

「おお、分かった」

近づいてきた男性達に向かって衝撃性を限界まで高めた音波を飛ばすが、1人の男性が吹き飛んだことに見向きもせず、別の男性がすぐさま空気を激しく揺らす衝撃波を飛ばしてくる。

音波を飛ばしながら翼を盾にするが、全身を激しく打ち付けてくる衝撃に耐え切れずそのまま勢いよく地面を転がる。

ふぅ、負けられない、テリーゴが新たな力を手に入れるまで、何度だって立ち上がってやる。

再び放たれた衝撃波を体で受け、起き上がるときにふとテリーゴに目を向けてみると、疲労したような表情のテリーゴは膝を落としながらルーベムーンを握りしめていた。

「何でダメなんだ?一体何が足りないんだ?」

こちらを見ていた男性達は驚きながらも呆れたような表情を浮かべると、止めを刺そうとする様子もなく皆アウローラの方へと体を向けていった。

まずい、このままじゃ・・・。

「社長、いくらその装甲でも、俺達が一斉に衝撃波を放てばひとたまりもないでしょう」

強気な眼差しを見せているアウローラが更に小さく笑みを浮かべると、その表情は余裕が伺えるほどのものになった。

アルバート財閥という歯車はやがて何を回すのか。ってところですかね。

ありがとうございました。

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