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大きな箱と小さな希望

これまでのあらすじ

キングの正体がヒョウガの兄弟と知り驚くカイル。加えて先々に起こることを話すキングに疑問を持つ傍ら、アウローラと協力し合い、そしてテリーゴが入手したルーベムーンを取り込もうと修業に励んでいく。

車の窓から見える町並みが見慣れないものになり始めた頃、流れる景色の中で、ふと人と共に歩いているペガサスにそっくりな動物に目が留まる。

ここがティンレイドってところなのか。

「じゃあ、ただ見てるだけなの?」

「仕方ないだろ?あっちが動かなきゃこっちは動けないんだからな」



「ほら、早くしろ」

「うー・・・もうダメかも」

オージョが大木の幹に座り込んでしまったので、追いかけてくる迷彩服の奴らの方に体を向けながら、トラとゴリラを体に憑依させる。

くそ、こうもまたすぐに出くわすなんて、ほんと俺は運が悪いな。

鉄製の腕輪と手袋を着けた男性とライフルを持った人達に囲まれるが、迷彩服の奴らはこちらから距離を保ったまま動こうとはしない。

俺には敵わないことは当然分かってるか。

だがこの人数だ、俺がオージョから離れた隙を狙われないとも限らない。

仕方ねぇな。

ドラゴンを体に憑依させ、腰を据えながら両手に魔力を集める。

魔力を小さな球に圧縮したものを迷彩服の奴ら全員にぶつけた後、オージョを先程から目に入っていた海岸へと連れていった。

「わぁ、ちょうど喉渇いてたんだ、私」

「おいちょっと待て、海の水は飲めねぇよ?」

「えぇ?どうして?」

「そらぁ、しょっぱ過ぎるからなぁ」

優しい海風が吹く中、オージョに応えながらポケットからシーシーを取り出し、地図を起動させる。

「ねぇ喉渇いた」

「ああていうか、もうここアサフィルだぜ?とりあえず食料確保は町に入ってからだな」

「そっか」

シーシーから見える町並みは、高層ビルが建ち並ぶ一見発展している都市のようなものだったが、実際に町に入るとすぐに目に飛び込んだのはまるでホームレスを思わせる薄汚なさが目立つ服を着た人達だった。

何だ?海岸沿いはそんな発展してねぇんだな。



「やっぱりカイルもまだダメか」

・・・ほんとに・・・気合いだけで、うまくいくのかな?

「ふぅ・・・」

一旦地面に座ると、休んでいたテリーゴが代わりに立ち上がり、再び赤い宝石にルーベムーンを押し付け始めた。

翼が光を帯びたあたりでテリーゴはルーベムーンを赤い宝石から引き離し、その度に酷く疲労したかのように荒々しく息を吐く。

「・・・何か・・・はぁ、何かが足りないのか?」

「でも、クラスタシアは問題無いって」

「そうだよなぁ。何だって言うんだ?オイラ達に問題があるのかぁ?」

僕達に問題?

あらゆる力の源を吸収すると言われてるこの赤い宝石には問題は無いはず、だとしたら、僕達にこの膨大なエネルギーを抑え切る力が、ない?

「大丈夫だよ、きっと何度もやれば出来るって」

「けど、そろそろ約束の時間だよ」

「・・・そっか。じゃあ、とりあえず今はアウローラさんのところに行こう」



「待ってましたよ、テイマ少将。私は偵察基地情報部のゼンバラです」

「あぁ、こいつが臨時兵器の氷牙だ。見た目はこんなだが役には立つから、安心してくれ」

ゼンバラとの握手を終えたテイマ少将はすぐに軍用車へと乗り込み始める。

「現場は見ないで行かれるんですか?」

「あぁ、これから急ぎの用があるからな、報告は直接司令部にしてくれ」

「あ、はい」

テイマ少将がそそくさと軍用車を走らせて去っていくと、眉をすくめながらもゼンバラはすぐに偵察基地とやらの司令室へと向かい始める。

「部長、来ましたよ臨時兵器」

白髪が目立つ眼鏡をかけた中年男性がこちらに振り向くが、その部長は小さく頷きながらすぐにパソコンに目線を戻した。

しかしそんな部長を気にも留めることもなく、すでにゼンバラは壁に掛けるタイプのモニターがある方へと歩き出していた。

「今はこのモニターでアルバートの動きを見ているので、何か動きがあるまであなたもここで待機していて下さい」

「分かった」



「あなた方、ここに来るまでにはルーベムーンを使いこなしているとおっしゃってましたが」

「う、うん、それは・・・」

うつむいてから苦笑いを浮かべて目線を戻すと、アウローラは小さく目を細めながら冷たい眼差しを向けてきた。

「まだなんですのね」

「で、でも、コツも掴んできてるし、あと1歩なんだ」

ふと機械の唸るような音が近づいて来るのに気がつくと、こちらの方に走ってきた車輪の付いた大きな箱が目の前で止まり、そして横から開いた扉からはホウゴと呼ばれた男性が姿を現した。

「遅いですわ?ホウゴさん」

「そうか?それよりお前は民間人なんだから、その兵器は俺が使う。責任感は理解出来るが、お前を戦いの中に放り込む訳にはいかない」

厳粛さを纏った表情で言葉を投げ掛けるホウゴだが、アウローラはむしろ若干の嬉しさを感じたような笑みを浮かべた。

「お気持ちは嬉しいですわ?ですが、これはホウゴさんに扱える代物ではないんですの」

「何言ってんだ、確かに俺はデカルト・ウーノの操縦士じゃないが、そういう類のものは俺の方が慣れてるだろ」

「そうではなくて、これはワタクシの体の寸法に合わせて作ったものですので、ホウゴさんには着ることさえ出来ないという意味ですわ?」

ホウゴは戸惑うように言葉を詰まらせると、焦りのようなものが伺える苦笑いを浮かべながらゆっくりと頭を掻き始める。

「まじか、じゃあ、俺はどうすんだよ、丸腰でホンゴウラに乗り込むのか?」

「あら?この前使っていたものはどうなされたんですの?」

「ああ・・・」

すると空へと目を逸らしながら、ホウゴは更に焦りが見える険しいものへと表情を歪ませていく。

「実は、管理局には休暇っつって出て来たから、軍人として兵器を持ち出すことが出来ないんだ。いやぁ、困ったな」

あの青白いものを撃ち出すやつが使えないのは、やっぱりちょっと不利になっちゃうかも。

しかしそんなホウゴを見つめていたアウローラは、少しの沈黙の後に何やら小さく笑い声を吹き出した。

「・・・んふふ、ホウゴさんらしいですわね。そういえば、ちょうど使う人が居なくて余っていたものがありますの。よろしければお使いになります?」

「おお、まじか、さすがアウローラだ、早速見せてくれ」

人気の無い町外れに置かれた、先程の車輪が付いた箱よりも更に大きな長い箱の前で立ち止まったアウローラは、おもむろに長い箱の後ろの、どこか扉のようにも見えるところに手を伸ばした。

大きいなぁ、何だろこれ。

そして幾つものボタンを押した後、長い箱の後ろの扉は小さな機械音と共にゆっくりと開き出した。

うわぁ・・・。

「どうぞ」

ホウゴに続いて長い箱の中に入ると、そこはまるで部屋のように明かりに照らされていて、幾つもの線に繋がれた見慣れない複数の機械がテーブルや床に並べられていた。

「ホンゴウラが独立し始めたとき、ずっとここに居たのか?」

「いいえ、姿をくらませたと見せかけて、ホンゴウラの社員も知らない、ホンゴウラビルの秘密の地下室に居ましたわ。そこでずっとホンゴウラに対抗する武器を作ってましたの」

「そうだったのか」

アウローラがテーブルの上に置いてある機械を操作すると、壁側に立てられてる縦に長い箱が音を立てて開き出した。

扉が開いた長い箱の中には何やら剣の柄と鍔だけしかないようなものが置いてあったが、アウローラはおもむろにそれを手に取るとすぐにホウゴに差し出した。

「何だこれ」

「人手も時間もありませんでしたので、他国から取り寄せていた動力装置やカデルのウィッシュ共和国の技術を参考にして簡単に作った、その名もシールドセイバーですわ」

ホウゴは柄を持ちながら、シールドセイバーとやらを見定めるような真剣な眼差しで見回す。

「大きさも普通だし、特に変わったようなものは付いてないが」

「剣ですので、軽くするためにあまり派手な飾りはありませんわ?その代わり、1つだけ擬太陽エンジンに対抗するものがありますの。それが名前の通りのシールド展開ですわ」

「ほう、だが剣なんて、まるで剣士の俺のために作られたようなもんだな」

アウローラは黙って上品な微笑みをホウゴに向けてからテーブルの方へと歩き出していく。

「・・・え、まさか、そうなのか?」

「さぁ行きますわよ?ホンゴウラが完全にアルバート財閥のものになる前に奪還しなければ、アルバート財閥の軍事力は更に肥大してしまいますもの」



「ねぇ、あそこに水があるよ」

「え、おお」

・・・噴水か、もしかしたら飲めるかも知れねぇ。

公園のような場所にある噴水に向かうと、同じように噴水に近づいた寂れきった服装の子供が、ペットボトルのような容器で噴水の水を汲み始めた。

てことは、飲んでも問題は無いってことだよな。

噴水の枠に座り込み、水を汲んだペットボトルと袋から出したカロリーメイトをオージョに手渡す。

「国境沿いに行きゃ、そんなに時間も掛からないだろう」

「んー、総助、翼が生えるなら飛べば良いのに」

・・・あ、確かに。

「いやぁ、だがなぁ、あんま、人前で使うとややこしくなるからなぁ」

水を飲みながら、オージョは公園の周りや公園の外へと目を向けていく。

「でも、人なんて全然居ないよ?」

「ここは公園だからな、町を歩けばバルーラみてぇにわんさかだ」

「ふーん」

小汚い服装の男女が2人、公園に入ってくるのが見えると、その男女もこちらの方を驚くような表情で見ながら近くのベンチに座った。

そろそろカロリーメイトも残り少なくなってきたからな、このままのんびりしていくのも限界があるか。

「ねぇ、あの女の人って、エストレージャって人じゃない?」

確かに空でも飛んでった方が何かと早く済むよな・・・ん?

「そんな訳ないだろ、バルーラの王女は1年以上前に死んだって聞いたぞ?」

人気もなく静かな公園だからなのか、小声で話しているにも拘わらず男女の話し声がはっきりと聞こえてくる。

「それにそれがコテンとの戦争を招いたキッカケなんだから、こんなとこには居ないだろ、ただ似てるだけだよ」

死んだ?王女が?

しかも1年も前に。

「そっか、そうだよね」

もし本物の王女が死んだなら、影武者のこいつは存在する理由があるんだろうか。

「なぁお前、バルーラの王女が死んだときのことは思い出せてないのか?」

するとこちらに顔を向けたオージョの表情に、どこか寂しげなものを感じた。

「多分、エストレージャはまだ生きてると思う」

「え?何でだ?」

「思い出したときに見えたエストレージャは、鉄格子の向こうから私を睨みつけてたから」

「そうか」

鉄格子?・・・。

ダメだ、全然ヒントが無ぇ。

まぁどっちみちコテンに行きゃ分かるか。

人気の無い茂みの中で3匹を体に憑依させ、オージョを背中に乗せる。

「落ちるなよ?」

「うん」

ゆっくりと走り出し、風を受けるように翼を広げて強く地面を蹴る。



沈黙に支配された司令室で、度々険しい表情で太い唸り声を上げる部長が徐々に気になり出してしまったので、ゆっくりと部長の背後に回り込み、眉間にシワを寄せながら部長が見つめるパソコンの画面にそっと目を向けてみた。

・・・チェス?

「遊んでるの?」

目の前にアルバートって人の軍隊があるっていうのに。

「遊びじゃない、立派な賭けチェスだ」

「・・・そうか」

ふと司令室の扉が開くと、入ってきた女性は何やら慌てた様子で部長に歩み寄っていくが、部長は甲高いハイヒールの足音などまるで気にする様子もなくパソコンの画面に釘付けになっている。

「部長・・・ゼビス方面の海域からアルバート財閥の所有海域に向かう、1隻の識別不能の船が確認されました」

「・・・え?識別不能って、ゼビスの船じゃないのか?」

「恐らくはそうだと思いますが、国籍が分かるようなものが確認出来ないので、民間人が所有しているものだと思います」

パソコンの画面に体を向けながら女性の話を聞いていたものの、女性の醸し出す緊張感に部長はようやくパソコンの画面から目を逸らして女性に体を向ける。

「武器密輸のための貿易船や、アルバート財閥への援軍としてゼビスの軍隊が来るなら分かるが、民間の船がアルバートに何の用だ?」

「さすがにそれは分かりませんよ。ですけど、武器を運ぶなら貿易船じゃなくても出来るんじゃないですか?」

「カモフラージュせずに武器を密輸しようとする奴なんて居ないだろ」

部長が小さく唸り声を漏らしてから黙り込むと、女性も疲労感を漂わせる表情で黙り込んでいく。

アルバートって人、ゼビスから買った兵器もあそこに並べるつもりかな?

車輪が付いた箱と、それよりも大きな長い箱ですよ。カイルにはそう見えるんです。笑

ありがとうございました。

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